AIとディープフェイクの進化がもたらす法務リスクと対策

date_range 2024/06/20
GUARDIAN Marketing BLOG
紀井 斎
AIとディープフェイクの進化がもたらす法務リスクと対策

ディープフェイクの悪用:企業イメージの毀損、詐欺、サイバー攻撃

ディープフェイクの悪用:企業イメージの毀損、詐欺、サイバー攻撃

ディープフェイク技術は、近年著しい進化を遂げ、あたかも本物のような映像や音声を作成することが可能になりました。しかし、その技術は悪意を持って悪用される可能性も秘めており、企業にとって深刻な脅威となりつつあります。


本稿では、ディープフェイクが企業に与える3つの悪影響について具体例を交えて解説します。


1. 企業ロゴや役員の顔を使った偽情報の拡散
ディープフェイク技術を用いて、企業のロゴや役員の顔に差し替えられた偽情報が拡散されるケースが急増しています。例えば、企業のロゴを悪用した偽のニュースサイトを作成し、虚偽の情報を掲載したり、役員の顔を合成したディープフェイク動画で不祥事のデマを流したりするといった悪質な行為が考えられます。


このような偽情報は、ソーシャルメディアなどで拡散されやすく、企業の信用を大きく損なう可能性があります。場合によっては、株価下落や顧客離れといった経済的な損失にも繋がる恐れがあります。


具体例:

  • 2019年、とある企業のCEOになりすました人物が、社員に対して虚偽の指示を送り、金銭を騙し取る事件が発生しました。この事件では、ディープフェイク動画を用いてCEOの声を偽造し、巧妙に社員を欺いていました。
  • 2020年には、大手企業のロゴを悪用した偽のECサイトが作成され、消費者に偽商品を販売する詐欺事件が発生しました。この事件では、企業ロゴの画像を巧みに加工し、本物のECサイトと見分けがつかないようにしていました。


2. 虚偽の取引や金銭の詐取
ディープフェイク技術を用いて、企業関係者になりすまし、虚偽の取引や金銭の詐取を行う詐欺も横行しています。例えば、役員になりすまして取引先に架空の請求書を送信したり、顧客になりすまして商品を注文し、代金を支払わないといった手口が考えられます。


このような詐欺は、企業に多額の損害を与えるだけでなく、関係者との信頼関係を損なう可能性もあります。


具体例:

  • 2021年、とある企業の経理担当になりすました人物が、取引先に架空の請求書を送信し、数百万円を騙し取る事件が発生しました。この事件では、経理担当の声を録音した音声と、役員の顔写真を合成した動画を用いて、巧妙に取引先を欺いていました。
  • 2022年には、大手企業の顧客になりすました人物が、オンラインショップで商品を注文し、代金を支払わないという手口で詐欺を行う事件が発生しました。この事件では、顧客の氏名や住所などの個人情報を不正に入手し、本物の顧客になりすましていました。


3. 悪意のあるコードを仕込んだ動画による攻撃
ディープフェイク動画の中には、悪意のあるコードが仕込まれているものもあり、サイバー攻撃に悪用される可能性も指摘されています。例えば、ディープフェイク動画を閲覧しただけでマルウェアに感染したり、フィッシングサイトに誘導されたりする恐れがあります。


このようなサイバー攻撃は、企業のシステムに侵入し、情報漏洩やシステム障害を引き起こす可能性があります。


具体例:

  • 2020年、とある企業の役員になりすました人物が、社員に偽の動画を送信し、マルウェアに感染させる事件が発生しました。この事件では、役員の顔と声を合成した動画を作成し、動画内にマルウェアを仕込んでいました。
  • 2021年には、偽のニュースサイトに埋め込まれたディープフェイク動画を通じて、フィッシングサイトに誘導する攻撃が発生しました。この事件では、本物のニュースサイトと見分けがつかないように巧妙に作成された偽のニュースサイトと、その中に埋め込まれたディープフェイク動画を用いて、利用者を騙していました。


まとめ
ディープフェイク技術は、企業にとって様々な恩恵をもたらす可能性を秘めていますが、同時に悪用されるリスクも存在します。企業は、これらのリスクを認識し、適切な対策を講じることが重要です。
具体的には、以下のような対策が挙げられます。
社員への教育:ディープフェイクに関する知識を社員に提供し、偽情報の拡散や詐欺被害を防ぐための意識啓蒙を行う。
情報セキュリティ対策の強化:不正アクセスや情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策を強化する。
ディープフェイク検知ツールの導入:ディープフェイク動画を自動的に検出する。

AI技術の悪用:個人情報の漏洩、差別、偏見

AI技術の悪用:個人情報の漏洩、差別、偏見

近年、AI技術は目覚ましい発展を遂げ、様々な分野で活用されています。しかし、その一方で、悪意を持ってAI技術を悪用するケースも増えています。
本稿では、AI技術の悪用によって起こりうる3つの問題について具体例を交えて解説します。


1. AIによる個人データの不正収集や分析
AI技術は、大量のデータを分析することで、個人に関する様々な情報を推測することができます。しかし、その技術が悪用されると、個人情報の不正収集や分析につながる可能性があります。
例えば、AIを搭載した顔認識システムを用いて、個人の行動を監視したり、購買履歴や嗜好などを分析して広告配信に利用したりといった行為が考えられます。


このような行為は、個人のプライバシーを侵害し、監視社会につながる恐れがあります。


具体例:

  • 2019年、中国の政府系企業が開発したAIシステムが、街中の監視カメラから撮影された映像を分析し、個人の行動を監視していることが判明しました。このシステムは、顔認識技術を用いて個人の身元を特定し、行動履歴を追跡することが可能でした。
  • 2020年には、大手IT企業が開発したAI広告配信システムが、個人の購買履歴や閲覧履歴などを分析し、個人の興味に合わせた広告を配信していることが判明しました。このシステムは、AI技術を用いて個人の嗜好を分析し、より効果的な広告配信を実現していました。



2. AIによる差別的な判断や偏見に基づく意思決定
AIシステムは、学習データに含まれる偏見を反映してしまう可能性があります。例えば、過去の人事データに基づいてAIシステムを学習した場合、人種や性別、年齢などの偏見がシステムに反映され、差別的な判断をしてしまう可能性があります。


このようなAIシステムが意思決定に関わる場合、差別や偏見に基づく不当な扱いを受ける人が出てくる可能性があります。


具体例:

  • 2018年、米国のある保険会社が、AIシステムを用いて保険料を算定していたところ、人種や性別によって保険料に差があることが判明しました。このシステムは、過去の保険金請求データに基づいて学習されており、過去に人種や性別によって保険金請求額に差があったため、その偏見がシステムに反映されてしまっていました。
  • 2020年には、米国のある採用企業が、AIシステムを用いて応募者の履歴書を審査していたところ、人種や性別によって採用率に差があることが判明しました。このシステムは、過去の採用データに基づいて学習されており、過去に人種や性別によって採用率に差があったため、その偏見がシステムに反映されてしまっていました。


3. AIによる自動化されたサイバー攻撃
AI技術は、サイバー攻撃を自動化するために悪用される可能性があります。例えば、AIを用いてマルウェアを自動生成したり、フィッシング攻撃を自動化したりといった行為が考えられます。


このようなAIによる自動化されたサイバー攻撃は、従来のサイバー攻撃よりも高度化しており、防御が困難になる可能性があります。


具体例:

  • 2019年、AIを用いて自動生成されたマルウェアが拡散される事件が発生しました。このマルウェアは、AI技術を用いて人間の行動パターンを分析し、個々のユーザーに合わせた巧妙な攻撃を仕掛けていました。
  • 2020年には、AIを用いて自動化されたフィッシング攻撃が行われる事件が発生しました。この攻撃では、AI技術を用いてターゲットとなる個人のメールアドレスや氏名などを自動的に収集し、個々のユーザーに合わせた偽のメールを送信していました。


まとめ
AI技術は、社会に多くの恩恵をもたらす可能性を秘めていますが、同時に悪用されるリスクも存在します。AI技術の倫理的な利用と、悪用防止に向けた対策を講じることが重要です。


具体的には、以下のような対策が挙げられます。

  • AI開発における倫理指針の策定: AI開発における倫理指針を策定し、開発者が倫理的な観点からAI技術を開発するよう促す。
  • AIシステムの透明性の確保: AIシステムの動作原理を透明化し、どのようなデータに基づいて判断しているのかを説明できるようにする。
  • AIシステムに対する監査制度の導入: AIシステムが差別や偏見に基づいた判断をしていないか、定期的に監査を行う制度を導入する。
  • AI技術に関する教育の普及: AI技術に関する教育を普及し、AI技術の倫理的な利用と、悪用防止に関する知識を広く共有

IT企業の法務担当者が取るべき対策

IT企業の法務担当者が取るべき対策

近年、IT技術の進化に伴い、ディープフェイク技術やAI技術の悪用が懸念されています。これらの技術は、企業に多様なリスクをもたらす可能性があり、法務担当者はこれらのリスクを認識し、適切な対策を講じる必要があります。


本稿では、IT企業の法務担当者が取るべき4つの対策について解説します。


1. ディープフェイク検知・対策ツールの導入
ディープフェイク技術は、あたかも本物のような映像や音声を作成することが可能であり、企業のロゴや役員の顔を使った偽情報の拡散や、虚偽の取引や詐欺などの悪用が急増しています。
法務担当者は、このようなディープフェイクによる被害を防ぐために、ディープフェイク検知・ディープフェイク対策ツールを導入することを検討すべきです。これらのツールは、ディープフェイク動画やディープフェイク音声の特徴を分析し、本物と偽物を見分けることができます。


2. AI倫理ガイドラインの策定
AI技術は、差別や偏見に基づく判断をしてしまう可能性があります。AIシステムが差別や偏見に基づいて意思決定を行うことは、法律違反や企業イメージの毀損につながる可能性があり、法務担当者はこのようなリスクを回避するために、AI倫理ガイドラインを策定する必要があります。
AI倫理ガイドラインは、AI開発における倫理的な観点を明確にし、開発者が倫理的な観点からAI技術を開発するよう促すためのものです。


ガイドライン策定のポイント:

  • 開発における透明性:AIシステムの動作原理を透明化し、どのようなデータに基づいて判断しているのかを説明できるようにする。
  • 説明責任:AIシステムによる判断に対して、説明責任を負える仕組みを構築する。
  • 公平性と非差別性:AIシステムが差別や偏見に基づいた判断をしていないか、定期的に検証を行う。


3. セキュリティ対策の強化
IT企業は、顧客情報や企業情報などの機密情報を取り扱っているため、サイバー攻撃のリスクが常に存在します。ディープフェイク技術やAI技術は、サイバー攻撃を自動化するために悪用される可能性があり、法務担当者はこのようなリスクを回避するために、セキュリティ対策を強化する必要があります。


具体的な対策:

  • 情報セキュリティ対策の強化:不正アクセスや情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策を強化する。
  • マルウェア対策:マルウェア感染を防ぐためのセキュリティ対策を強化する。
  • フィッシング対策:フィッシング詐欺被害を防ぐためのセキュリティ対策を強化する。


4. 法律コンサルタントへの相談
IT技術の悪用は、様々な法的問題を引き起こす可能性があります。法務担当者は、このような法的問題に対応するために、法律コンサルタントに相談することを検討すべきです。
法律コンサルタントは、法的な観点からアドバイスを提供し、必要に応じて法的措置を取るためのサポートを行うことができます。
相談内容例:

  • ディープフェイクによる被害を受けた場合の対応
  • AIシステムによる差別や偏見に基づく判断を受けた場合の対応
  • サイバー攻撃を受けた場合の対応


まとめ
IT技術の進化に伴い、法務担当者が対応すべきディープフェイク動画をはじめとするリスクはますます複雑化しています。本稿で紹介した4つの対策は、これらのリスクを軽減するための有効な手段となります。
法務担当者は、これらの対策を参考に、自社の状況に合ったセキュリティ対策を講じることで、企業の法的なリスクを管理していくことが重要です。

未来を見据えた法務戦略

未来を見据えた法務戦略

近年、AI技術やディープフェイク技術などの技術革新が著しいスピードで進んでいます。これらの技術は、社会に大きな恩恵をもたらす一方で、新たな法的課題も生み出しています。
法務担当者は、これらの技術革新を理解し、将来起こり得る法的問題を予測した上で、適切な法務戦略を策定することが重要です。


本稿では、未来を見据えた法務戦略の3つの柱について解説します。


1. 技術革新と法的責任のバランス
技術革新は、企業に新たなビジネスチャンスをもたらしますが、同時に新たな法的責任を生み出す可能性もあります。法務担当者は、技術革新に伴う法的リスクを認識し、適切な対策を講じる必要があります。


具体的には、以下のような対策が挙げられます。

  • 新技術に関する法規制の調査: 新技術に関する法規制を調査し、自社の事業にどのような影響があるのかを把握する。
  • コンプライアン体制の強化: 新技術に関するコンプライアン体制を強化し、法令違反のリスクを低減する。
  • リスク管理体制の構築: 新技術に関するリスク管理体制を構築し、リスクを早期に発見し、対応できるようにする。


2. 倫理的なAI技術の開発と利用
AI技術は、社会に大きな利益をもたらす一方で、倫理的な問題も生み出す可能性があります。法務担当者は、AI技術が倫理的に開発・利用されるように、企業の倫理規範やガイドラインを策定する必要があります。


倫理規範・ガイドライン策定のポイント:

  • 説明責任: AIシステムによる判断に対して、説明責任を負える仕組みを構築する。
  • 公平性と非差別性: AIシステムが差別や偏見に基づいた判断をしていないか、定期的に検証を行う。
  • 透明性: AIシステムの動作原理を透明化し、どのようなデータに基づいて判断しているのかを説明できるようにする。


3. 国際的な連携による規制強化
技術革新は国境を越えて進み、法的問題は国際的な課題となっています。法務担当者は、国際的な連携による規制強化を推進し、法的な枠組みを整備する必要があります。


国際的な連携の具体例:

  • 国際的な法規制の策定: 技術革新に関する国際的な法規制を策定し、各国が共通のルールに基づいて規制を行う。
  • 国際的な情報共有: 技術革新に関する情報を国際的に共有し、各国が協力して法的な課題に対応できるようにする。
  • 国際的な人材育成: 技術革新に関する法的な知識を持つ人材を育成し、国際的な連携を強化する。


まとめ
技術革新は、企業に大きなチャンスと同時に、新たな法的課題も生み出します。法務担当者は、これらの課題を理解し、未来を見据えた法務戦略を策定することで、企業の持続的な成長と発展を支えることが重要です。
本稿で紹介した3つの柱は、未来を見据えた法務戦略を策定するための重要な指針となります。法務担当者は、これらの指針を参考に、自社の状況に合った法務戦略を策定していくことが重要です。

人物

法務担当として、ディープフェイクやAI技術の悪用は、企業にとって非常に深刻な問題だと感じています。これらの技術は、企業イメージの毀損、詐欺、サイバー攻撃、個人情報の漏洩、差別、偏見など、様々なリスクをもたらす可能性があります。


法務担当者は、ディープフェイク動画のリスクを認識し、適切なセキュリティ対策を講じることで、企業の法的なリスクを管理し、持続的な成長と発展を支えることが重要です。


具体的には、以下の点に留意する必要があります。

  • 最新技術に関する情報収集: ディープフェイクやAI技術に関する最新技術に関する情報収集を行い、常に最新のディープフェイク動画のリスクを把握する。
  • 社内教育の強化: 社員に対してディープフェイクやAI技術に関する教育を行い、ディープフェイク動画のリスクに対する意識を高める。
  • 社内体制の整備: ディープフェイクやAI技術に関する社内体制を整備し、迅速かつ効果的なセキュリティ対応ができるようにする。
  • 外部専門家との連携: 必要に応じて、ディープフェイクやAI技術に関する外部専門家と連携し、専門的なアドバイスを受ける。

法務担当者は、これらの対策を講じることで、企業の法的なリスクを軽減し、安全かつ安心なビジネス環境を構築することができるでしょう。
最後に、法務担当者は、常に新しい技術や法規制に目を向け、必要に応じて法務戦略をアップデートしていくことが重要です。


法務担当者として、企業の安全と発展のために、ディープフェイク動画をはじめとしたセキュリティ課題に積極的に取り組んでいきたいと思います。