ディープフェイク詐欺とは？
ディープフェイク詐欺とは、AI技術を使って本物そっくりの偽動画や偽音声を作成し、それを使って金銭を騙し取ったり、信用を失墜させたりする詐欺手法です。詐欺・なりすまし（人の心理を狙う）の中でも最新かつ最も巧妙な脅威の一つで、有名人や経営者、家族の顔や声を完璧に模倣して、ビデオ通話での本人確認さえも突破してしまいます。技術の進化により、数枚の写真と短い音声サンプルがあれば、誰でも簡単にディープフェイクを作成できる時代になり、「見たものを信じる」という人間の基本的な認識を根底から覆す恐ろしい詐欺です。
ディープフェイク詐欺を簡単に言うと？
そっくりさんの詐欺師が、整形手術と声帯手術で完全に別人になりすますようなものです。ただし、実際に整形するのではなく、AIが動画の中だけで「デジタル整形」をします。例えば、社長の顔と声を完璧にコピーして「緊急で送金してくれ」とビデオ通話で指示したり、有名人が「この投資は確実に儲かる」と推薦する偽動画を作ったりします。昔の「写真を合成する」レベルではなく、表情、声のトーン、話し方のクセまで完璧に再現するため、家族でさえ騙されてしまいます。「この目で見た」「この耳で聞いた」ということが、もはや真実の証明にならない恐ろしい時代になったのです。
ディープフェイク詐欺で発生する被害は？
ディープフェイク詐欺により、巨額の金銭被害、個人や企業の信用失墜、社会的混乱などが発生します。詐欺・なりすまし（人の心理を狙う）手法として、従来の詐欺よりも説得力が格段に高く、被害額も桁違いに大きくなっています。特に、リアルタイムのビデオ通話でもディープフェイクが使われるようになり、本人確認の概念そのものが崩壊しつつあります。香港の企業では、ディープフェイクによる詐欺で約35億円の被害が発生した事例もあります。
ディープフェイク詐欺で発生する直接的被害
- 巨額の不正送金被害
CEOの偽ビデオ通話で「極秘のM&A案件」として数十億円の送金を指示され、財務担当者が本物と信じて送金してしまう
- 投資詐欺の拡大
著名投資家や芸能人のディープフェイク動画で投資を勧誘され、多くの人が信じて資金を投じ、数億円規模の被害が発生する
- 恐喝・脅迫被害
実在しない不倫や犯罪行為の偽動画を作成され、「公開されたくなければ金を払え」と脅迫される
ディープフェイク詐欺で発生する間接的被害
- 個人の名誉と人生の破壊
政治家や経営者の偽スキャンダル動画が拡散され、選挙での落選や辞任に追い込まれ、真実だと証明することが困難になる
- 企業の株価暴落
CEOの偽の不適切発言動画が流出し、株価が暴落して時価総額が数千億円減少し、企業価値が回復不能なダメージを受ける
- 社会的信頼の崩壊
何が本物で何が偽物か分からなくなり、正当な情報さえ疑われるようになって、社会全体のコミュニケーションが機能不全に陥る
日本で発生している企業の被害事例
- 製造業A社（埼玉県・2024年3月）
被害額：8,500万円
手口：中国の取引先企業のCEOを装ったディープフェイク動画で「新規工場建設の前払金」を要求
経緯：普段から取引のある相手の顔と声だったため、財務担当者が信じて送金。時差を理由に「夜間の緊急対応」を求められ、上司への確認を省略してしまった
- IT企業B社（東京都・2024年6月）
被害額：3,200万円
手口：自社の社長のディープフェイク音声で「極秘のM&A案件」として送金指示
経緯：在宅勤務中の経理部長にTeamsでビデオ通話。背景も社長室に見え、話し方の癖も完璧に再現されていた。「他言厳禁」と念押しされ、誰にも相談せず実行
- 商社C社（大阪府・2024年8月）
被害額：企業イメージ失墜による株価20％下落
手口：営業部長のディープフェイク動画で「賄賂を受け取った」と偽の告白動画を作成しSNSで拡散
経緯：退職した元従業員の恨みによる犯行。本物と証明するまで2週間を要し、その間に取引停止が相次いだ
日本で発生している個人の被害事例
- 高齢者Dさん（千葉県・70代女性・2024年4月）
被害額：450万円
手口：息子の顔と声のディープフェイクで「会社の金を使い込んだ」と泣きながら懇願
経緯：LINEビデオ通話で息子から連絡。顔は確実に息子で、幼少期のエピソードも話したため信用。「上司にバレる前に返済したい」と懇願され、老後資金を送金
- 会社員Eさん（神奈川県・40代男性・2024年5月）
被害額：1,200万円
手口：マッチングアプリで知り合った女性がディープフェイクでビデオ通話を重ね、投資話を持ちかける
経緯：3ヶ月間毎日ビデオ通話で会話。「一緒に将来を考えたい」と結婚をほのめかされ、「二人の将来の資金のため」と暗号資産投資に誘導された
- 主婦Fさん（福岡県・50代女性・2024年7月）
被害額：320万円
手口：有名女性起業家のディープフェイク動画で「限定20名の投資セミナー」を宣伝
経緯：Instagramで見つけた投資セミナーの広告動画。憧れの起業家が「私も最初はこの方法で資産を増やした」と体験談を語り、信用して申し込み
ディープフェイク詐欺の対策方法
ディープフェイク詐欺への対策は、多段階での本人確認、ディープフェイク検出技術の活用、組織的な確認プロセスの確立が基本となります。詐欺・なりすまし（人の心理を狙う）手法への対策として、ビデオ通話だけでの重要決定を避ける、事前に決めた合言葉や質問での確認、異常な要求への警戒が重要です。また、AIによる検出ツールの導入、メディアリテラシーの向上、緊急時の連絡体制の整備により、被害を未然に防ぐことができます。
なお、具体的な対処方法についてもご確認下さい。
ディープフェイク詐欺の対策を簡単に言うと？
本物の宝石と偽物を見分ける鑑定に例えると、まず一つの検査（ビデオ通話）だけで判断せず、複数の方法（電話、メール、対面）で確認します。家族や会社では「秘密の質問」（初デートの場所など、AIが知らない情報）を決めておき、怪しい時はそれを聞きます。また、専門の鑑定士（ディープフェイク検出AI）に調べてもらい、偽物の特徴（不自然な瞬き、影の違い）を見つけてもらいます。さらに、「今すぐ100万円送って」というような急な要求は、たとえ本物に見えても一度立ち止まり、必ず複数の人に相談します。「技術は進歩しても、詐欺の手口は同じ」という意識を持ち、冷静に対処することが大切です。
詐欺グループの個人情報入手方法
詐欺グループが標的の個人情報を入手する手口は、驚くほど身近なところから始まっています。ディープフェイク詐欺を成功させるには、標的の詳細な個人情報が不可欠であり、詐欺グループは合法・違法を問わず、あらゆる手段で情報を収集しています。
SNSからの情報収集の実態
- 公開プロフィールからの収集内容
Facebook：本名、生年月日、出身校、勤務先、家族構成、趣味
Instagram：顔写真、行動パターン、よく行く場所、交友関係
LinkedIn：詳細な職歴、役職、業務内容、同僚情報
Twitter（X）：思想信条、関心事、リアルタイムの居場所- 詐欺グループの具体的な収集方法
1.標的の名前で全SNSを横断検索し、アカウントを特定
2.過去10年分の投稿を全てダウンロード保存
3.顔写真を最低50枚以上、動画を10本以上収集
4.音声付き動画から声のサンプルを抽出
5.投稿時間から生活パターンを分析
6.タグ付けされた投稿から交友関係マップを作成
7.「いいね」した投稿から性格や好みを分析
データ漏洩・ハッキングによる入手
- 狙われやすい漏洩元
ECサイト：氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報、購買履歴
医療機関：保険証番号、病歴、家族構成、緊急連絡先
教育機関：成績、在籍情報、保護者情報、写真- ダークウェブでの情報売買の実態
1,日本人の個人情報は1件あたり5,000円～50,000円で取引
2.役職者や資産家の情報は10倍以上の高値
3.顔写真付きの運転免許証データは特に高額
4.企業の従業員名簿は一括で数百万円で売買
合法的な情報源からの収集
- 誰でもアクセスできる情報源
会社HP：役員の顔写真、経歴、メッセージ動画
プレスリリース：事業内容、取引先、決算情報
講演会動画：YouTube、Vimeoに公開された登壇動画
論文・記事：専門分野、思考パターン、文体
不動産登記：自宅住所、資産状況
法人登記：会社役員の住所、設立時期- 詐欺グループの下調べ手順
1.Googleで氏名と会社名で検索し、出てくる情報を全て保存
2.画像検索で顔写真を収集し、ディープフェイク作成の素材に
3.YouTubeで講演動画を探し、音声を抽出
4.会社の決算報告書から財務状況を把握
5.採用サイトから組織構造と社員の顔ぶれを確認
6.ニュースサイトから最近の動向を把握
なりすまし電話での情報収集
- 詐欺グループの電話手口
市役所職員を装い「還付金の確認」で家族構成を聞き出す
銀行員を装い「口座の不正使用の確認」で残高を確認
携帯会社を装い「プラン見直し」で連絡先一覧を入手
同窓会事務局を装い「名簿作成」で現況を聞き出す
アンケート調査を装い「謝礼付き」で詳細な個人情報を収集
振り込め詐欺からディープフェイク詐欺への進化
従来の振り込め詐欺との決定的な違い
振り込め詐欺（オレオレ詐欺）は20年以上日本で被害を出し続けてきましたが、ディープフェイク詐欺はその究極進化形と言えます。ディープフェイク詐欺は、振り込め詐欺で培われた「日本人の心理を突く」ノウハウに、最新のAI技術を組み合わせた、より巧妙で防御困難な脅威となっています。
- 従来の振り込め詐欺の限界
声だけでは「息子の声と違う」と見破られることがあった
「風邪をひいて声が変」という苦しい言い訳が必要だった
電話だけでは信用されず、成功率は10％程度に留まっていた
高齢者が「一度会って話そう」と言うと詐欺が成立しなかった- ディープフェイク詐欺で突破された防御壁
本物の息子の顔がビデオ通話に映るため、疑う余地がない
声も本人そのもので、話し方の癖まで完璧に再現される
「顔を見て安心した」という心理により、成功率が飛躍的に向上
LINEやZoomなど、高齢者も使い慣れたツールで接触してくる
振り込め詐欺グループの技術進化
- 第一世代（2000年代）：電話だけの詐欺
手口：電話で「オレオレ、事故を起こした」と金銭を要求
対策：合言葉の設定、本人に確認
被害額：年間約250億円（ピーク時）- 第二世代（2010年代）：劇場型詐欺
手口：警察官、弁護士、示談相手など複数人が登場する演出
対策：警察への確認、家族会議
被害額：年間約350億円（手口の巧妙化）- 第三世代（2020年代）：ディープフェイク詐欺
手口：AIで本人の顔と声を完全再現したビデオ通話
対策：従来の対策がほぼ無効化、新たな対策が必要
被害額：急速に拡大中（1件あたりの被害額も増加）
なぜ振り込め詐欺被害者が狙われるのか
- 日本特有の被害者心理
1.家族の恥を隠したい文化 - 「息子が失敗した」ことを他人に相談できない
2.迷惑をかけたくない意識 - 「自分で何とかしなければ」と一人で解決しようとする
3.権威への従順さ - 警察や弁護士を名乗られると信じてしまう
4.デジタルリテラシーの格差 - ビデオ通話ができる＝本物だと思い込む- 詐欺グループのデータベース活用
過去20年間の振り込め詐欺被害者リストが闇市場で流通
一度被害に遭った人は「騙されやすい」としてリスト化
被害者の家族構成、資産状況まで詳細に記録
このデータベースを基にディープフェイク詐欺のターゲットを選定
ディープフェイク詐欺に関連した攻撃手法
詐欺・なりすまし（人の心理を狙う）において、ディープフェイク詐欺と密接に関連する3つの攻撃手法を解説します。
- ビジネスメール詐欺（BEC）
ディープフェイク詐欺とBECが組み合わさると、より説得力のある詐欺になります。メールで指示を受けた後、ディープフェイクのビデオ通話で「本人確認」されると、疑う余地がなくなってしまいます。両者の組み合わせは、企業にとって最も危険な脅威の一つです。
- ソーシャルエンジニアリング
ディープフェイク作成の素材収集にソーシャルエンジニアリングが使われます。SNSから写真や動画を収集し、音声は電話での会話を録音して、それらを基にリアルなディープフェイクを作成します。個人情報の公開が、ディープフェイク詐欺の材料になってしまいます。
- ロマンス詐欺
ディープフェイク技術により、ロマンス詐欺がより巧妙になっています。実在の人物の顔を使った偽のビデオ通話で信頼を得て、長期間かけて感情的な関係を築いた後、金銭を要求します。被害者は「実際に顔を見て話した」という確信から、詐欺だと気づきにくくなります。
ディープフェイク詐欺のよくある質問
残念ながら、アプリやオンラインツールで簡単に作成できるようになっています。ただし、高品質なものは専門知識が必要です。しかし、品質が低くても、急いでいる時や感情的な時は騙される可能性があります。
はい、最新技術ではリアルタイムでのディープフェイクも可能です。ただし、まだ完璧ではなく、通信の遅延、不自然な表情、背景の違和感などで見破れる場合があります。
瞬きの頻度、口の動きと音声のずれ、顔の輪郭の不自然さ、光の当たり方の矛盾などをチェックします。また、予期しない質問をしたり、特定の動作を求めたりすることも有効です。
高額送金には複数承認を必須とし、ビデオ通話だけでなく複数の確認手段を併用します。また、ディープフェイク検出ツールの導入、従業員教育の実施が重要です。
完全に防ぐことは困難ですが、SNSでの顔写真の公開を控える、プライバシー設定を厳格にする、不必要な動画撮影を避けることでリスクを減らせます。
すぐに警察に通報し、動画の削除要請を各プラットフォームに行います。また、関係者に偽物であることを周知し、必要に応じて法的措置を検討します。証拠の保全も忘れずに行ってください。
更新履歴
- 初稿公開
