むき出しのサービス/スキャン露出とは?
むき出しのサービス/スキャン露出とは、インターネットに接続されたパソコンやサーバー、ネットワーク機器などが、外部から誰でもアクセスできる状態で放置されているセキュリティ対策の不備を指します。ネット・Wi-Fiの危険の中でも特に見落とされがちな脅威であり、本来は社内や限られた人だけが使うべきシステムやサービスが、インターネット上に「むき出し」の状態で公開されてしまい、サイバー攻撃の標的として攻撃者に発見されるリスクが高まります。
この状態は、サイバー攻撃の準備段階である「スキャン」によって簡単に発見されます。攻撃者は専用のツールを使って、インターネット上の無数の機器を自動的に調査し、セキュリティの弱い箇所を探し出します。このような調査活動をポートスキャンや脆弱性スキャンと呼びます。
別の呼び方として、「インターネット露出」「外部公開サービス」「攻撃対象領域(Attack Surface)の拡大」などとも表現されます。技術者の間では「exposed services」「internet-facing assets」という用語も使われます。
むき出しのサービス/スキャン露出を簡単に言うと?
あなたの家に例えてみましょう。通常、家には玄関があり、鍵をかけて家族だけが出入りできるようにしています。しかし、むき出しのサービス状態というのは、家のあちこちに窓や扉が開きっぱなしになっていて、しかもそれが大通りに面している状態です。
さらに悪いことに、泥棒たちは毎日のように街中を歩き回り、「どの家の窓が開いているか」「どの扉に鍵がかかっていないか」をリストアップしています。これがスキャン活動です。泥棒は一軒ずつ調べる必要はありません。自動運転の車を使って、街全体を巡回し、開いている窓を片っ端から記録していくようなものです。
あなたの家(パソコンやサーバー)の窓が開いていることに気づいていなければ、いつか泥棒(攻撃者)が侵入してくる可能性が高まります。窓が開いているだけでは実際の被害はありませんが、泥棒に「ここは入りやすい」と目をつけられてしまうのです。
むき出しのサービス/スキャン露出の現状
2024年から2025年にかけて、インターネット上の露出サービスによるセキュリティリスクは深刻化しています。2024年には記録的な40,009件の新規脆弱性(CVE)が公開され、これは2023年と比較して39%もの増加となりました。さらに2025年には1日平均131件のペースでCVEが公開されており、このままのペースでは年間47,000件を超える見込みです。
特に注目すべきは、インターネット上で誰でもアクセスできる状態になっている機器の多さです。セキュリティ企業Censysの2024年調査によると、世界中で145,000以上の産業制御システム(ICS)サービスがインターネットに露出していることが確認されました。これらの中には、水道設備、電力システム、製造ラインなど、社会インフラに関わる重要な機器も含まれています。
医療分野では状況がさらに深刻です。2024年の調査で、5,100台のDICOMサーバー(医療画像を保存・共有するシステム)がインターネットに露出していることが判明しました。これらの医療機器のうち、適切な認証が設定されているのはわずか1%で、残りの99%は誰でもアクセスできる状態でした。つまり、患者の個人情報やX線画像、CT画像などが外部から閲覧できる状況にあったのです。
近年編み出された新しい手法として、「自動スキャンサービスの悪用」が挙げられます。ShodanやCensysといったインターネット検索エンジンは、本来セキュリティ研究者が自社システムの弱点を発見するために開発されたツールです。しかし、攻撃者もこれらのサービスを悪用し、露出したデバイスを簡単に見つけ出せるようになりました。Shodanは約1,237のポートを定期的にスキャンしており、新しく公開されたサービスを平均5分以内に発見できるとされています。
Mandiantの2024年インシデント対応報告書によれば、企業への侵入手法として脆弱性悪用が33%を占め、最も多い手口となっています。これらの脆弱性の多くは、インターネットに露出したサービスを通じて悪用されました。特にVPN装置やリモートデスクトップ接続(RDP)など、外部からアクセスできる仕組みが標的となるケースが目立っています。
日本国内においても、情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威2025」の組織向けランキングでは、「システムの脆弱性を突いた攻撃」が3位にランクインしており、露出したサービスへの攻撃が継続的な脅威となっていることが示されています。
むき出しのサービス/スキャン露出で発生する被害は?
むき出しのサービス/スキャン露出そのものは、直接的な被害をもたらすわけではありません。しかし、攻撃者がスキャンによって弱点を発見した後、実際の攻撃に移行することで深刻な被害が発生します。露出したサービスは攻撃者にとって「侵入口」となり、そこから企業ネットワーク全体に被害が拡大する可能性があります。
被害は大きく分けて、直接的な被害と二次的な被害の2つに分類できます。
むき出しのサービス/スキャン露出で発生する直接的被害
データ漏洩と機密情報の窃取
露出したサービスを通じて攻撃者がシステムに侵入すると、保存されているデータを盗み出される被害が発生します。2024年の医療機器露出事例では、適切な認証がない状態で5,100台のDICOMサーバーがインターネットに公開されており、患者の個人情報や医療画像が外部から閲覧可能な状態でした。医療画像には患者の氏名、生年月日、診断内容などの機微情報が含まれており、これらが流出すれば患者のプライバシーが侵害されるだけでなく、医療機関の信頼も失墜します。
企業においては、顧客情報、財務データ、研究開発資料、契約書など、事業の根幹に関わる情報が狙われます。特に金融サービス業では、平均449,855件の機密ファイルが過剰に公開されており、そのうち36,004件がすべての社員からアクセス可能な状態になっていると報告されています。
システムの完全停止とランサムウェア感染
露出したサービスを入り口として侵入した攻撃者は、ランサムウェアを展開し、システム全体を暗号化してしまいます。2025年のランサムウェア被害分析では、年間で3,800件以上の組織が被害を公表し、推定で3億8,000万ドル以上の身代金が支払われたと見られています。
2017年のWannaCryランサムウェア攻撃では、445番ポート(ファイル共有に使用)が開いたままのコンピュータが標的となり、世界中で30万台以上のシステムが感染しました。日本でも電機メーカー、自動車メーカー、鉄道会社など広範囲で被害が報告され、一部の工場は操業停止に追い込まれました。この攻撃で推定40億ドル(約4,400億円)の経済損失が発生したとされています。
産業制御システムの乗っ取りと物理的被害
露出した産業制御システム(ICS)やSCADAシステムが攻撃されると、工場の製造ライン、電力供給、水道設備などが操作不能になる危険があります。2024年のCensys調査では、145,000以上のICSサービスがインターネットに露出しており、その38%が北米、35%がヨーロッパ、22%がアジアに分布していました。
これらのシステムが攻撃されれば、製造装置の誤動作による製品不良、設備の物理的破壊、さらには従業員の安全に関わる事故まで引き起こす可能性があります。実際に2024年には、攻撃者がIoTデバイスの既知の脆弱性をスキャンで発見し、ボットネットを構築してDDoS攻撃に悪用した事例が報告されています。
むき出しのサービス/スキャン露出で発生する二次的被害
取引先や顧客への被害拡大
露出したサービスから侵入を許した企業のシステムは、取引先や顧客への攻撃の踏み台として悪用されます。攻撃者は侵入した企業の信頼関係を利用し、取引先のシステムにもアクセスを試みます。これをサプライチェーン攻撃と呼び、2022年には前年比600%増加したと報告されています。
一社の露出が、業界全体のセキュリティを脅かす結果となります。特に中小企業が大企業のサプライチェーンに組み込まれている場合、中小企業の脆弱な露出サービスが大企業への侵入口として悪用される事例が増えています。
法的責任と信頼の喪失
個人情報や機密情報の漏洩は、法的責任を伴います。日本では個人情報保護法により、重大な漏洩事案では最大1億円の罰金が科される可能性があります。また、ヨーロッパのGDPR違反では、さらに厳しい制裁金が課されます。
それ以上に深刻なのは、顧客や取引先からの信頼喪失です。セキュリティ管理が不十分だったことが明らかになれば、既存顧客の離反、新規契約の減少、株価の下落など、長期的なビジネスへの影響が避けられません。金融サービス業では、データ侵害の検知と封じ込めに平均233日かかるとされており、その間に被害は拡大し続けます。
競合他社への情報流出
露出したサービスを通じて企業の研究開発データ、製品設計図、営業戦略などが窃取されると、競争上の優位性が失われます。特に国家が支援する攻撃グループ(APT)は、先進技術を持つ企業を標的としており、知的財産を組織的に窃取しています。
2024年のセキュリティ報告では、製造業がサイバー攻撃の最大の標的となっており、全体の20%を占めました。産業スパイ活動により、数年かけて開発した技術が一晩で流出するリスクがあります。日本企業も例外ではなく、「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」が情報セキュリティ10大脅威2025で初めてランクインするなど、国際的な緊張関係がサイバー空間にも影響を及ぼしています。
むき出しのサービス/スキャン露出の対策方法
むき出しのサービス/スキャン露出への対策は、ネット・Wi-Fiの危険に対するセキュリティ対策の基本となる「発見」「保護」「監視」の3段階で実施することが重要です。まず自社のどのサービスが外部に露出しているかを把握し、不要な露出を削減し、継続的に監視する仕組みを整えます。
外部から見える自社サービスの把握
最初のステップは、自社のネットワークがインターネットからどう見えているかを確認することです。これを「攻撃対象領域の可視化」と呼びます。
社内のIT担当者や、セキュリティ専門企業に依頼して、定期的に外部スキャンを実施します。Shodanなどのインターネット検索エンジンで自社のIPアドレス範囲を検索し、どのようなサービスが公開されているか確認する方法もあります。予想外のサーバーやデバイスが見つかることも珍しくありません。
クラウドサービスを利用している場合は、特に注意が必要です。設定ミスにより、本来は社内専用のデータベースやストレージが外部公開されてしまうケースが多発しています。定期的に設定を見直し、公開範囲が適切かチェックする必要があります。
不要なサービスの停止と最小権限の原則
露出しているサービスの一覧を作成したら、それぞれが本当に外部公開する必要があるか精査します。「使っていないが動いている」サーバーや、「テスト用に立ち上げて忘れていた」システムは、即座に停止またはインターネットから切り離します。
必要なサービスについても、アクセスできる範囲を最小限に絞ります。たとえば、特定の取引先だけがアクセスすべきシステムであれば、そのIPアドレスからのみ接続を許可する設定(IPアドレス制限)を行います。
VPNやリモートデスクトップなど、外部からの接続を受け付けるサービスには、多要素認証(MFA)を必須とします。パスワードだけでなく、スマートフォンアプリでの認証や物理トークンを組み合わせることで、万が一パスワードが漏洩しても不正アクセスを防げます。
脆弱性管理とパッチ適用の徹底
インターネットに公開するサービスは、常に最新の状態に保つ必要があります。2024年には1日平均131件の新しい脆弱性が発見されており、古いソフトウェアを使い続けることは非常に危険です。
特に注意すべきは、CISA(米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)が公開する「既知の悪用された脆弱性(KEV)カタログ」です。2024年末時点で1,238件の脆弱性が登録されており、このうち185件が2024年に追加されました。KEVに掲載される脆弱性は実際の攻撃で悪用されているため、最優先で対応する必要があります。
しかし、日本企業のパッチ適用は遅れがちです。ある調査では、日本の組織がパッチを適用するまでに平均36.4日かかるとされています。一方、攻撃者は脆弱性が公開されてから数時間から数日で攻撃を開始します。この時間差が被害を生む原因となっています。
自動パッチ適用の仕組みを導入し、緊急度の高い脆弱性については数日以内に対応できる体制を整えることが推奨されます。
ネットワーク境界の防御強化
ファイアウォールやIDS/IPS(侵入検知・防止システム)を導入し、不審なスキャン活動を検知します。ポートスキャンは短時間に大量の接続試行が発生するため、適切に設定されたIDS/IPSであれば検出できます。
ネットワークを分割(セグメンテーション)することで、万が一侵入を許した場合でも被害の拡大を防ぎます。たとえば、外部公開しているWebサーバーと、顧客データベースを同じネットワークに配置しないようにします。
また、ゼロトラストセキュリティの考え方を採用し、「ネットワークの内側であっても信頼しない」という前提で、すべてのアクセスに認証と認可を求める仕組みを導入します。
継続的な監視とインシデント対応計画
攻撃対象領域は常に変化します。新しいシステムの導入、クラウドサービスの追加、開発環境の構築など、さまざまな場面で意図せず新たな露出が生まれます。
定期的に外部スキャンを実施し、新たに露出したサービスがないか確認します。クラウド環境では、設定変更を自動的に検知し、不適切な公開設定があればアラートを発するツールの導入が有効です。
また、実際に侵入を許した場合に備えて、インシデント対応計画を策定しておきます。誰がどのように対応するか、データのバックアップはどこにあるか、外部専門家への連絡方法などを事前に決めておくことで、被害を最小限に抑えられます。
2024年のランサムウェア被害では、バックアップが適切に管理されていた組織は迅速に復旧できた一方、バックアップがなかった組織は身代金の支払いを余儀なくされたケースが多く報告されています。
むき出しのサービス/スキャン露出の対策を簡単に言うと?
家のセキュリティに例えると、対策は以下のようになります。
まず、家の周りを歩いて、どの窓やドアが開いているか、鍵がかかっているかを確認します(外部スキャンによる現状把握)。開いている窓があれば閉めて、使っていない出入り口は塞ぎます(不要サービスの停止)。
必要な出入り口には、頑丈な鍵とセキュリティシステムを設置します(多要素認証と暗号化)。古くなった鍵は定期的に交換します(パッチ適用)。
家の周りには防犯カメラとセンサーを設置し、不審者が近づいたらすぐに分かるようにします(IDS/IPSによる監視)。もし誰かが侵入しようとしても、家の中を部屋ごとに仕切っておけば(ネットワーク分割)、被害を最小限に抑えられます。
そして、万が一泥棒に入られた場合に備えて、貴重品のコピーを安全な場所に保管しておきます(バックアップ)。また、誰に連絡するか、どう対応するかを家族で決めておきます(インシデント対応計画)。
この一連の対策を、一度やって終わりではなく、定期的に繰り返すことが大切です。新しい家族が増えたり、部屋を増築したりすれば、セキュリティも見直す必要があるからです(継続的な監視)。
むき出しのサービス/スキャン露出に関連した攻撃手法
むき出しのサービス/スキャン露出は、それ自体が直接的なサイバー攻撃ではありませんが、ネット・Wi-Fiの危険における他の攻撃手法の前段階や侵入経路として悪用されます。ここでは、露出したサービスと密接に関連する3つの攻撃手法について解説します。
DDoS攻撃との関連
DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)は、大量のアクセスを標的のサーバーやネットワークに集中させ、正常なサービスを停止させる攻撃です。むき出しのサービスとDDoS攻撃は、2つの側面で関連しています。
第一に、露出したサービスはDDoS攻撃の直接的な標的となります。攻撃者はスキャンによって露出したWebサーバーやAPIを発見し、そこに大量のリクエストを送りつけます。2024年12月には、日本国内の複数企業に対して過去最大規模のDDoS攻撃が発生し、ネットワーク帯域消費型とシステム資源消費型を組み合わせた高度な手法が用いられました。
第二に、露出したIoTデバイスや脆弱なサーバーは、ボットネットの一部として悪用されます。2024年11月には、「Matrix」と名乗る攻撃者がIoTデバイスの既知の脆弱性をスキャンで発見し、Miraiマルウェアを展開してボットネットを構築しました。感染したデバイスはDDoS攻撃の実行部隊として利用され、中国や日本が主な標的となりました。
むき出しのサービスを削減することは、自社がDDoS攻撃の標的になるリスクを減らすだけでなく、知らないうちに他者への攻撃に加担してしまうことを防ぐためにも重要です。
サプライチェーン攻撃との関連
サプライチェーン攻撃は、標的企業に直接攻撃するのではなく、その取引先や委託先など、セキュリティが相対的に弱い組織を経由して侵入する手法です。むき出しのサービスは、サプライチェーン攻撃の重要な侵入口となります。
大企業は一般的にセキュリティ対策が充実していますが、中小企業や協力会社では予算や人材の制約から対策が不十分なケースがあります。攻撃者はスキャンによってサプライチェーン内の脆弱な組織を探し出し、そこから侵入して大企業のネットワークに到達しようとします。
実際に2024年の報告では、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃が「情報セキュリティ10大脅威2025」で2位にランクインしており、継続的な脅威として認識されています。特に製造業では、複雑なサプライチェーンが攻撃者に悪用されやすく、2022年には前年比600%という急増が報告されました。
むき出しのサービスによって一社が侵害されると、その影響は取引先全体に波及します。たとえば、ある中小企業の露出したVPN装置から攻撃者が侵入し、そこから大企業への接続情報を窃取して本命の標的に到達するというシナリオが現実的に起こっています。
サプライチェーン全体のセキュリティを確保するためには、自社の露出サービスを管理するだけでなく、取引先にも同様の管理を求める必要があります。契約時にセキュリティ基準を明確にし、定期的な監査を実施することが推奨されます。
中間者攻撃(MITM)/セッションハイジャックとの関連
中間者攻撃(Man-in-the-Middle攻撃)は、通信の途中に攻撃者が割り込み、データの盗聴や改ざんを行う手法です。むき出しのサービスは、中間者攻撃を実行するための拠点として悪用されます。
攻撃者はスキャンによって暗号化が不十分な通信サービスや、古いプロトコルを使用しているサーバーを発見します。たとえば、HTTPSではなくHTTPで通信しているWebサイト、古いバージョンのSSL/TLSを使用しているサーバーなどが標的となります。
露出したルーターやVPN装置が侵害されると、そこを経由するすべての通信が傍受される危険があります。攻撃者は正規のユーザーとサーバーの間に入り込み、パスワードやセッションIDを窃取します。これをセッションハイジャックと呼び、窃取したセッションIDを使って正規ユーザーになりすまします。
特に公共のWi-Fiや、セキュリティが不十分なネットワーク環境では、むき出しのサービスを介した中間者攻撃のリスクが高まります。企業の従業員がリモートワークで脆弱なネットワークから社内システムにアクセスする際、露出した社内サービスが攻撃の足がかりとなる可能性があります。
対策としては、すべての通信を暗号化し、古い暗号化方式は使用しないことが基本です。また、ゼロトラストネットワークの考え方を採用し、たとえVPN経由であっても継続的に認証を求める仕組みを導入することで、セッションハイジャックのリスクを軽減できます。
むき出しのサービス/スキャン露出のよくある質問
Q1: 自社のサービスがインターネットに露出しているか、どうやって確認できますか?
自社のサービスがインターネットからどう見えているかを確認する方法はいくつかあります。最も基本的な方法は、社内のIT部門や外部のセキュリティ専門家に依頼して、ポートスキャンや脆弱性診断を実施してもらうことです。
また、自分で簡易的に確認したい場合は、Shodanなどのインターネット検索エンジンで自社のIPアドレスやドメイン名を検索してみる方法があります。ただし、これらのサービスは常に最新情報とは限らず、また検索結果が公開されることでかえって攻撃者に発見されやすくなるリスクもあります。
より専門的な確認には、ペネトレーションテスト(侵入テスト)やレッドチーム演習を実施し、実際に攻撃者の視点から自社ネットワークの弱点を洗い出す方法が効果的です。クラウドサービスを利用している場合は、各クラウドプロバイダーが提供するセキュリティ診断ツールやダッシュボードを活用し、設定ミスによる露出がないか定期的にチェックすることが推奨されます。
重要なのは、一度確認して終わりではなく、システムの変更や追加があるたびに再確認することです。新しいサーバーを立ち上げたり、クラウドサービスを導入したりする際には、その都度露出状態を確認する習慣をつけることが大切です。
Q2: スキャンされていることを検知したら、すぐに危険な状態なのでしょうか?
スキャン活動そのものは、必ずしも即座に危険な状態を意味するわけではありません。インターネットに接続している限り、日常的に様々な自動スキャンを受けることは避けられません。セキュリティ研究機関や企業が、インターネット全体の安全性を調査する目的で実施している正当なスキャンも多く存在します。
しかし、スキャンは攻撃の前兆である可能性が高いことも事実です。攻撃者は標的を選定する際、まずスキャンによって脆弱性のある箇所を探します。短時間に特定のポートへ集中的にアクセスが試みられる、同じIPアドレスから繰り返しスキャンが行われるといった兆候は、攻撃の準備段階である可能性があります。
スキャンを検知した場合の対応としては、まずスキャンの発信元を確認します。既知のセキュリティ研究機関からのスキャンであれば、過度に心配する必要はありません。一方、不審な発信元や、特定のポートに対する執拗なスキャンが確認された場合は、そのポートで動作しているサービスに脆弱性がないか点検し、必要に応じてファイアウォールルールを強化します。
また、スキャンをきっかけとして、露出しているサービス全体の見直しを行うことが推奨されます。スキャンされたということは、そのサービスが外部から見える状態にあることを意味するため、本当に公開する必要があるか、セキュリティ設定は適切かを再確認する良い機会となります。
Q3: 中小企業でもスキャン露出の対策は必要ですか? 大企業だけが狙われるのではないでしょうか?
中小企業こそ、スキャン露出への対策が重要です。攻撃者は必ずしも大企業だけを標的にするわけではなく、むしろセキュリティ対策が手薄な中小企業を狙うケースが増えています。
攻撃者の視点では、大企業は高い価値がある一方でセキュリティ対策も充実しているため、侵入が困難です。それに対して中小企業は、限られた予算や人員のためにセキュリティ対策が不十分であることが多く、「侵入しやすい標的」として認識されます。実際に、サプライチェーン攻撃では、中小企業を踏み台として大企業に侵入するケースが急増しており、2022年には前年比600%の増加が報告されました。
また、中小企業であっても、顧客情報や取引データなど、攻撃者にとって価値のある情報を保有しています。ランサムウェア攻撃では、企業規模に関わらず身代金が要求され、2024年の被害分析では、小規模な組織も多数含まれていました。
中小企業が特に注意すべきは、クラウドサービスの設定ミスによる露出です。手軽に導入できるクラウドサービスは中小企業にとって便利ですが、適切な設定知識がないまま使用すると、意図せずデータを公開してしまうリスクがあります。2024年には、設定ミスによって27億件ものIoTデバイスのレコードが露出した事例が報告されました。
中小企業でも実施できる基本的な対策としては、不要なサービスを停止する、初期パスワードを変更する、多要素認証を導入する、定期的にソフトウェアを更新するといった比較的コストの低い対策から始めることができます。また、経済産業省やIPAが公開している中小企業向けのセキュリティガイドラインを参考にすることも有効です。
Q4: ポートを閉じればスキャンされなくなりますか? 完全に見えなくすることは可能ですか?
不要なポートを閉じることは重要なセキュリティ対策ですが、それだけで完全にスキャンされなくなるわけではありません。インターネットに接続している限り、IPアドレス自体は外部から確認可能であり、攻撃者はすべてのポートに対してスキャンを試みることができます。
ポートを閉じる(または適切にファイアウォールで保護する)ことの意義は、「応答を返さない」ことにあります。スキャンツールがポートに接続を試みても、閉じられたポートは応答しないため、攻撃者にとって有益な情報が得られません。一方、開いているポートは何らかの応答を返すため、そこで動作しているサービスの種類やバージョンが判明し、既知の脆弱性を悪用される可能性が高まります。
完全に「見えなくする」ためには、そもそもインターネットに直接接続しないという選択肢があります。たとえば、VPN経由でのみアクセス可能な構成にする、プライベートネットワークを使用するといった方法です。しかし、これらの方法は利便性を犠牲にするため、業務要件とのバランスが重要になります。
また、ステルス技術やポートノッキングといった高度な手法もありますが、これらは専門知識が必要であり、万能ではありません。攻撃者も技術的に進化しており、隠蔽されたサービスを発見する手法も開発されています。
現実的な対策としては、「完全に見えなくする」ことを目指すのではなく、「露出を最小限に抑え、露出しているサービスを適切に保護する」という考え方が推奨されます。必要なサービスだけを公開し、それらには強固な認証、暗号化、最新のパッチ適用を施すことで、たとえスキャンされても侵入を許さない状態を維持することが重要です。
Q5: スキャンツール(ShodanやCensysなど)を自社のセキュリティ対策に活用できますか?
はい、ShodanやCensysといったインターネットスキャンツールは、適切に使用すれば自社のセキュリティ対策に非常に有効です。これらのツールは、攻撃者と同じ視点から自社のネットワークを確認できるため、意図しない露出や設定ミスを発見する手段として活用されています。
自社のIPアドレス範囲やドメインをこれらのツールで検索することで、社内で把握していなかったサーバーやデバイスが外部から見えていることが判明するケースがあります。これは「シャドーIT」と呼ばれる、IT部門の管理外で運用されているシステムの発見にもつながります。
また、これらのツールは過去のスキャン結果も保持しているため、いつ頃から特定のサービスが露出していたか、設定変更の前後で露出状態がどう変化したかを確認することもできます。セキュリティ監査やコンプライアンス対応の際に、客観的な証拠資料として活用できます。
ただし、利用にあたっては注意点があります。まず、これらのツールで自社の情報を検索すること自体は問題ありませんが、他社のシステムに対してスキャンを実行することは、不正アクセス禁止法に抵触する可能性があります。また、検索結果が公開されることで、かえって攻撃者に情報を提供してしまうリスクもあります。
企業として本格的にスキャンツールを活用する場合は、Censysの有料版やShodanのモニタリングサービスを契約し、自社の資産が新たに露出した際にアラートを受け取る仕組みを構築することが推奨されます。これにより、意図しない露出を迅速に検知し、対処することが可能になります。
さらに、定期的な脆弱性診断サービスやペネトレーションテストを専門企業に依頼することで、より包括的なセキュリティ評価を受けることができます。これらの専門サービスは、スキャンツールでは発見できない複雑な脆弱性も検出し、具体的な改善策を提案してくれます。
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