内部不正(インサイダー脅威)を初心者でも分かりやすく解説

最も信頼していた従業員が、実は企業秘密を盗んでいた──それが内部不正(インサイダー脅威)です。外部からのサイバー攻撃と異なり、正規のアクセス権限を持つ従業員、派遣社員、退職者などが、その立場を悪用して情報窃取、システム破壊、データ漏洩などを行います。金銭目的、会社への不満、転職先での利用、外部からの脅迫など動機は様々ですが、正規の権限での操作のため検知が極めて困難です。新日鉄住金(現日本製鉄)の技術情報漏洩事件では約1,000億円相当の損害が発生し、アメリカの保険会社では解雇された従業員が約2万3,000台のサーバーを削除しました。内部不正・現場のリスク(人と物理)として、ファイアウォールやセキュリティソフトでは防げず、技術対策だけでなく人事管理や組織文化まで含めた多面的なアプローチが必要です。この記事では、内部不正(インサイダー脅威)の動機と手口、被害事例、そしてアクセス制御や行動監視などの包括的なセキュリティ対策まで、初心者にも分かりやすく解説します。

内部不正(インサイダー脅威)とは?

内部不正(インサイダー脅威)とは、企業や組織の内部にいる従業員、派遣社員、契約社員、退職者、業務委託先などが、正規のアクセス権限を悪用して、情報の窃取、破壊、漏洩、システムの妨害などを行うことです。内部不正・現場のリスク(人と物理)の中でも、最も深刻で検知が困難な脅威です。
外部からのサイバー攻撃と異なり、内部不正(インサイダー脅威)を行う人物は既に組織内に正規のアカウントとアクセス権限を持っています。ファイアウォールを突破する必要もなく、セキュリティソフトに検知される心配もなく、正規の業務として重要な情報やシステムにアクセスできます。このため、外部攻撃に比べて検知が極めて困難です。
内部不正(インサイダー脅威)の動機は様々です。金銭目的で企業秘密を競合他社に売る、会社への不満や恨みから報復として情報を破壊する、転職先で有利になるよう顧客リストや技術情報を持ち出す、外部の犯罪組織から脅迫されて協力する、イデオロギーや信念から組織に反する行動をとる、などがあります。
内部不正(インサイダー脅威)は、悪意のある意図的な行為だけでなく、セキュリティ意識の低さから無自覚に情報を漏らしてしまう「不注意型」も含まれます。例えば、業務を効率化するために個人のクラウドストレージに会社のファイルをアップロードする、退職後も元同僚から頼まれて社内情報を教えてしまう、といったケースです。
内部不正・現場のリスク(人と物理)として、技術的な対策だけでは防ぎきれず、人事管理、組織文化、従業員の満足度など、人間的な要素が深く関わる複雑な問題です。

内部不正(インサイダー脅威)を簡単に言うと?

銀行で働く行員が、金庫の鍵を持っているという立場を悪用して、顧客の預金を盗む状況に似ています。外部の強盗であれば警備システムや防犯カメラで検知できますが、正規の権限を持つ行員が「通常業務」を装って不正を働けば、発覚するまでに長期間かかります。
デジタルの世界では、正規の社員IDとパスワードを持つ従業員が、アクセス権限を悪用して顧客情報をコピーしたり、企業秘密を競合他社に売ったり、システムを破壊したりします。「信頼されている内部の人間」が脅威であるため、従来のセキュリティ対策では防ぎにくいのが特徴です。内部不正・現場のリスク(人と物理)として、人間の心理や動機が関わる最も対処が難しい脅威の一つです。

内部不正(インサイダー脅威)で発生する被害は?

内部不正(インサイダー脅威)による被害は、正規のアクセス権限を持つ者による攻撃のため、重要な情報やシステムに直接到達でき、被害が深刻になりやすい特徴があります。内部不正・現場のリスク(人と物理)として、外部攻撃よりも検知が遅れ、被害が長期間にわたって継続することが多くあります。

内部不正(インサイダー脅威)で発生する直接的被害

機密情報の大量窃取と競合他社への流出

内部不正(インサイダー脅威)を行う人物は、業務上の権限で顧客リスト、研究開発データ、製造ノウハウ、財務情報、戦略計画などの機密情報にアクセスできます。これらを大量にコピーして持ち出し、競合他社に売却したり、転職先で利用したりします。2012年に新日鉄住金(現日本製鉄)の元社員が韓国企業に技術情報を漏洩した事件では、約1,000億円相当の損害が発生したとされています。正規のアクセスであるため、ログを見ても「通常業務」と区別がつかず、発覚するまでに数ヶ月から数年かかることもあります。

システムの破壊とデータの削除

不満を持った従業員や退職が決まった従業員が、報復として重要なシステムを破壊したり、データベースを削除したりする内部不正(インサイダー脅威)もあります。2021年にアメリカの保険会社では、解雇された従業員が管理者権限を悪用して約2万3,000台のサーバーを削除しました。ITシステム管理者など、強力な権限を持つ立場の人物による内部不正(インサイダー脅威)は、企業の業務を完全に停止させる破壊力があります。

知的財産の窃取と競争力の喪失

研究開発部門、設計部門、技術部門の従業員による内部不正(インサイダー脅威)では、特許情報、設計図、ソースコード、実験データなどの知的財産が狙われます。数年かけて開発した技術が一瞬で競合他社の手に渡り、市場での優位性を失います。特に半導体、バイオテクノロジー、製薬、先端材料などの分野では、知的財産の価値が極めて高く、その窃取は企業の存続に関わります。外国の諜報機関が自国企業のために内部者を取り込むケースもあります。

内部不正(インサイダー脅威)で発生する間接的被害

顧客と取引先からの信頼喪失

内部不正(インサイダー脅威)により顧客情報が流出したり、取引先の機密情報が漏れたりすると、「社内管理ができていない企業」として信頼を完全に失います。顧客は離れ、取引先は契約を解除し、新規案件の受注も困難になります。特にB2B取引では、「内部統制が機能していない企業とは取引できない」と判断され、ビジネスに深刻な影響が出ます。上場企業の場合、内部統制の不備として金融商品取引法上の問題も生じます。

法的責任と巨額の賠償

内部不正(インサイダー脅威)により個人情報が流出した場合、個人情報保護法違反として行政処分や罰金が科されます。さらに、被害を受けた個人や企業から損害賠償を請求され、総額が数億円に達することもあります。知的財産が窃取された場合は、不正競争防止法違反として刑事告訴され、民事訴訟でも巨額の賠償が求められます。裁判の過程で企業の管理体制の不備が明らかになり、さらなる信用失墜につながります。

従業員の士気低下と組織文化の悪化

内部不正(インサイダー脅威)が発覚すると、従業員の間に疑心暗鬼が広がります。「誰が犯人なのか」「自分も疑われているのではないか」という不安が職場に蔓延し、チームワークが崩壊します。再発防止のために厳格な監視体制が導入されると、従業員は「会社に信頼されていない」と感じて士気が低下します。優秀な人材が「監視が厳しすぎる」と感じて退職し、採用活動でも「内部不正が起きた会社」というネガティブなイメージがついて応募者が減少します。

内部不正(インサイダー脅威)の対策方法

内部不正(インサイダー脅威)の対策は、技術的な対策だけでなく、人事管理、組織文化、心理的アプローチなど、多面的な取り組みが必要です。完全に防ぐことは困難ですが、リスクを減らし、早期に検知する仕組みを整えることは可能です。
基本的な技術対策として、アクセス制御の厳格化が重要です。最小権限の原則を徹底し、各従業員には業務に必要な最小限の権限のみを付与します。特権アカウント(管理者権限)は特に厳格に管理し、使用する際は複数人の承認を必要とする、すべての操作を記録する、定期的に棚卸しをするなどの対策を講じます。
ログ監視と異常検知も不可欠です。誰がいつどのファイルにアクセスしたか、どのような操作を行ったか、大量のデータをダウンロードしていないか、通常と異なる時間帯にアクセスしていないか、などを継続的に監視します。UEBA(User and Entity Behavior Analytics)などのツールを使って、通常の行動パターンから逸脱した異常を自動検知します。
データ損失防止(DLP)ツールの導入により、機密情報が外部に送信されたり、USBメモリにコピーされたりするのを防ぎます。重要な文書には暗号化や透かし(誰がアクセスしたか分かる印)を入れ、流出した場合でも出所が特定できるようにします。
人事管理面では、採用時のバックグラウンドチェック、定期的な人事評価、従業員の不満や問題の早期発見、適切な待遇と職場環境の整備などが重要です。特に退職が決まった従業員、降格や異動で不満を持つ従業員、金銭的問題を抱えている従業員などは、内部不正(インサイダー脅威)のリスクが高まるため、注意深く対応します。
組織文化として、セキュリティ意識の醸成、オープンなコミュニケーション、公正な評価制度、内部通報制度の整備などを進めます。従業員が不満や問題を適切に相談できる環境を作ることで、報復的な内部不正(インサイダー脅威)を減らせます。
退職時のプロセスも重要です。退職者のアカウントは即座に無効化し、支給していた機器やカード類をすべて回収し、競業避止義務や秘密保持契約を再確認します。円満退職を心がけ、不満を残さないようにすることも、内部不正(インサイダー脅威)の予防につながります。

内部不正(インサイダー脅威)の対策を簡単に言うと?

銀行が行員による不正を防ぐための対策に似ています。まず、各行員には必要最小限の権限のみを与え、金庫室には複数人でしか入れないようにします(最小権限の原則)。すべての取引を記録し、異常なパターン(大量の現金引き出し、不自然な時間帯の操作など)を自動検知します(ログ監視と異常検知)。
さらに、現金を外部に持ち出せないよう、出入口でチェックします(データ損失防止)。従業員の満足度調査を定期的に実施し、不満や問題を早期に発見して対処します(人事管理)。「困ったことがあれば相談できる」という風通しの良い職場文化を作り(組織文化)、退職する行員とは円満に別れて、恨みを残さないようにします(退職管理)。内部不正・現場のリスク(人と物理)への対策は、技術と人間心理の両面からのアプローチが不可欠です。

内部不正(インサイダー脅威)に関連した攻撃手法

内部不正(インサイダー脅威)は、内部不正・現場のリスク(人と物理)の中でも最も基本的かつ深刻な脅威であり、他の物理的攻撃手法と組み合わせて実行されることがあります。

覗き見/端末盗難/USBドロップは、内部不正(インサイダー脅威)を実行する具体的な手段として使われます。内部不正(インサイダー脅威)の動機を持つ従業員が、同僚のパソコン画面を覗き見してパスワードを盗んだり、会社のノートパソコンやUSBメモリを盗んで機密情報を持ち出したり、情報を入れたUSBメモリを会社外に持ち出したりします。内部不正(インサイダー脅威)は「誰が」「なぜ」という動機の問題であり、覗き見/端末盗難/USBドロップは「どうやって」という手段の問題です。両者は密接に関連しており、内部不正(インサイダー脅威)を防ぐには、覗き見/端末盗難/USBドロップなどの具体的な情報持ち出し手段を制限することも重要です。どちらも内部不正・現場のリスク(人と物理)として、物理的なセキュリティ対策と人的管理の両方が必要です。
なりすまし入室(テールゲーティング)は、内部不正(インサイダー脅威)を行う従業員が外部の共犯者を招き入れる手段として悪用されることがあります。内部不正(インサイダー脅威)を計画している従業員が、自分のアクセス権限だけでは不十分な場合、外部の技術者や犯罪組織のメンバーをなりすまし入室(テールゲーティング)で社内に侵入させ、より高度な攻撃や大量のデータ窃取を実行させます。また、退職した元従業員が恨みや金銭目的で、なりすまし入室(テールゲーティング)により不正に社内に侵入し、かつての権限を悪用しようとするケースもあります。内部不正(インサイダー脅威)と物理的侵入が組み合わさることで、被害が拡大します。両者とも内部不正・現場のリスク(人と物理)として、入退室管理と従業員の行動監視が対策の鍵となります。
悪意あるUSB(BadUSB等)は、内部不正(インサイダー脅威)を行う従業員がマルウェアを社内システムに持ち込む手段として使われます。外部の攻撃者から報酬を約束された従業員が、悪意あるUSB(BadUSB等)を会社のパソコンに挿入してマルウェアを感染させたり、バックドアを設置したりします。セキュリティが厳格でネットワーク経由の侵入が困難な組織では、内部協力者が悪意あるUSB(BadUSB等)を物理的に持ち込むことが、外部攻撃者にとって最も効果的な侵入経路となります。内部不正(インサイダー脅威)の動機と悪意あるUSB(BadUSB等)の手段が組み合わさることで、強固なネットワークセキュリティも突破されます。どちらも内部不正・現場のリスク(人と物理)として、USBポートの使用制限と従業員の誠実性確保が重要です。

内部不正(インサイダー脅威)のよくある質問

IPAの調査によると、情報セキュリティインシデントの約3割が内部要因によるものです。金額ベースで見ると、外部攻撃よりも内部不正による被害額の方が大きいという調査結果もあります。ただし、企業が公表を避ける傾向があるため、実際の発生件数はさらに多い可能性があります。

統計的には、ITシステム管理者など強力な権限を持つ人物、退職が決まった従業員、降格や異動で不満を持つ従業員、金銭的問題を抱えている従業員などがリスクが高いとされています。ただし、誰でも状況次第で内部不正を起こす可能性があり、特定の「タイプ」に限定することは危険です。

業務目的の範囲内で、かつ従業員に事前に通知している場合は、一般的に適法とされています。ただし、プライバシーへの配慮が必要で、私的な通信の監視、許可なく個人所有デバイスを監視、トイレや休憩室の監視などは問題になります。就業規則に明記し、従業員の理解を得ることが重要です。

「疑う」というより、「誰でも間違いを犯す可能性がある」という前提で、適切なチェック体制を整えることが重要です。特定の個人への過度な疑いは職場環境を悪化させますが、「この人は信頼できるから監視不要」という例外を作ることも危険です。すべての人に同じルールを適用するのが公平です。

人間の心理や行動が関わるため、完全に防ぐことは困難です。しかし、適切な技術的対策(アクセス制御、ログ監視、データ損失防止)、人事管理(公正な評価、不満の早期発見)、組織文化(オープンなコミュニケーション、内部通報制度)を組み合わせることで、リスクを大幅に減らし、早期に検知できます。

退職が決まった時点でアクセス権限を最小限に制限し、退職日にすべてのアカウントを即座に無効化します。支給していた機器やカード類をすべて回収し、秘密保持契約を再確認します。円満退職を心がけ、不満を残さないようにすることも重要です。退職後も一定期間、元従業員によるアクセス試行を監視します。

はい、効果的です。不正行為を目撃した従業員が匿名で通報できる仕組みがあれば、早期発見につながります。ただし、通報者が報復を恐れずに利用できるよう、匿名性の保証、通報者保護の明文化、通報内容の適切な調査と対応が必要です。形だけの制度では機能しません。

異常なアクセスパターン(深夜や休日の作業、業務に関係ないファイルへのアクセス、大量のダウンロード)、行動の変化(急に裕福になる、態度が変わる、会社への不満を口にする)、退職や異動の予兆などに注意します。ただし、これらが必ずしも内部不正を意味するわけではなく、慎重な判断が必要です。

はい、むしろ中小企業の方がリスクが高い面があります。アクセス制御が緩い、ログ監視をしていない、少人数で相互監視が難しい、一人の従業員が多くの権限を持つなど、脆弱性が多いためです。規模に応じた対策(最小権限の原則、重要操作のログ記録、定期的な権限見直しなど)を実施すべきです。

はい、UEBA(User and Entity Behavior Analytics)などのAI技術は、通常の行動パターンを学習し、異常を検知する点で有効です。ただし、AIが「異常」と判断したすべてが内部不正とは限らず、人間による最終判断が必要です。また、AIによる監視が過剰になると、従業員のプライバシーや士気に悪影響を与える可能性もあります。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。