インシデント対応計画を初心者でも分かりやすく解説

サイバー攻撃を受けた時、あなたの組織は冷静に対応できますか?インシデント対応計画は、情報漏洩やランサムウェア攻撃などの緊急事態に、組織が迅速かつ適切に対応するための行動マニュアルです。ルールと備え(GRC)の要となるこの計画がないと、パニック状態での判断ミスや対応の遅れにより、軽微な事故が組織を脅かす大災害に発展してしまいます。本記事では、なぜ事前の計画が必要なのか、計画不備がもたらす致命的な被害、そして実効性のある対応体制を構築するための実践的な方法について、専門知識がなくても理解できるように解説します。「その時」に備える重要性を学びましょう。

インシデント対応計画とは?

インシデント対応計画とは、サイバー攻撃、情報漏洩、システム障害などのセキュリティインシデントが発生した際に、組織が迅速かつ適切に対応するための行動手順書です。ルールと備え(GRC)の中核となる要素で、「誰が」「いつ」「何を」「どのような順序で」行うかを事前に定めておくことで、混乱を防ぎ被害を最小限に抑えます。初動対応、調査・分析、復旧、再発防止までの一連の流れを文書化し、定期的な訓練で実効性を確保します。計画がないまたは不適切な場合、パニック状態での判断ミスや対応の遅れにより、被害が拡大し続ける危険があります。

インシデント対応計画を簡単に言うと?

火事が起きた時の避難訓練と消火活動の手順書のようなものです。火事(サイバー攻撃)が起きてから「誰が119番に電話する?」「消火器はどこ?」「お客様をどう避難させる?」と考えていては手遅れです。事前に「Aさんが通報、Bさんが初期消火、Cさんが避難誘導」と役割を決め、定期的に訓練しておくことで、実際の火事でも冷静に行動できます。インシデント対応計画も同じで、「ランサムウェアに感染したら」「顧客データが漏洩したら」という場面ごとに、連絡先、対応手順、判断基準を決めておきます。消防署への連絡先を壁に貼っておくように、緊急連絡網やマニュアルをすぐに取り出せる場所に準備しておく。「備えあれば憂いなし」を実現する、組織の防災マニュアルなのです。

インシデント対応計画がない/不適切で発生する被害は?

インシデント対応計画の不備により、初動の遅れによる被害拡大、証拠の消失、法的責任の増大などが発生します。ルールと備え(GRC)を怠ることで、本来なら軽微で済んだインシデントが、組織の存続を脅かす重大事故に発展します。特に、ランサムウェア攻撃や大規模情報漏洩では、最初の1時間の対応が被害規模を大きく左右します。

インシデント対応計画の不備で発生する直接的被害

被害の連鎖的拡大

初動対応が遅れ、1台の感染が全社システムに広がり、数時間で復旧不可能な状態になって事業が完全停止する

証拠の消失と原因究明の失敗

パニックになった担当者が感染PCを再起動したり初期化したりして、攻撃の証拠が消え、原因究明と再発防止ができなくなる

不適切な情報公開による混乱

統一された対応方針がなく、部署ごとに異なる説明をして顧客や取引先が混乱し、信頼を完全に失う

インシデント対応計画の不備で発生する間接的被害

法的責任と賠償額の増大

72時間以内の報告義務を果たせず、個人情報保護委員会から過怠金を科され、被害者への賠償額も対応の遅れを理由に増額される

復旧コストの爆発的増加

場当たり的な対応により、本来不要だった全システムの入れ替えや、高額な緊急対応費用が発生し、予算の数十倍のコストがかかる

人材流出と組織崩壊

責任の所在が不明確で現場に過度な負担がかかり、キーパーソンが退職して、技術的な対応能力を完全に失う

インシデント対応計画の対策方法

インシデント対応計画の策定には、体制構築、手順書作成、定期的な訓練実施が基本となります。ルールと備え(GRC)を強化するために、インシデント対応チーム(CSIRT)の設置、段階別対応フローの策定、外部専門家との連携体制構築が重要です。また、インシデントの分類と優先度設定、コミュニケーション計画の策定、定期的な計画見直しにより、実効性のある対応体制を維持できます。

インシデント対応計画の対策を簡単に言うと?

学校の避難訓練を会社版にカスタマイズすることに例えると、まず「火災」「地震」「不審者」のように、「ランサムウェア」「情報漏洩」「DDoS攻撃」などインシデントの種類ごとに対応を決めます。班長(インシデント対応責任者)を決め、各自の役割(通報係、記録係、広報係)を明確にします。緊急連絡先(警察、セキュリティ会社、弁護士)を一覧にして、すぐ手に取れる場所に置きます。そして最も重要なのが定期的な訓練。「今ランサムウェアに感染しました」という想定で、実際に動いてみることで、計画の穴や改善点が見つかります。また、訓練後は必ず振り返りを行い、「もっと早く連絡すべきだった」「この手順は現実的でない」などの気づきを計画に反映します。「いざという時」は必ず来るという前提で、日頃から準備することが大切なのです。

インシデント対応計画に関連した要素

ルールと備え(GRC)において、インシデント対応計画と密接に関連する3つの要素を解説します。

事業継続計画(BCP)/災害復旧(DR)

インシデント対応計画はBCP/DRと密接に連携します。インシデント対応が「火消し」なら、BCP/DRは「事業の継続と復旧」を担います。両者が連携することで、攻撃を受けても事業を止めない、または早期に復旧する体制が実現されます。

セキュリティポリシー/リスク管理

インシデント対応計画は、セキュリティポリシーの実行部分です。ポリシーで定めた「あるべき姿」から逸脱した時(インシデント発生時)に、どう対応するかを具体化したものが対応計画です。リスク評価の結果に基づいて、対応の優先順位を決定します。

脆弱性管理・パッチ運用

インシデント対応の過程で発見された脆弱性は、脆弱性管理プロセスにフィードバックされます。また、緊急パッチの適用判断や手順も、インシデント対応計画の一部として定めておく必要があります。

インシデント対応計画のよくある質問

必要です。むしろ小規模企業ほど、一度のインシデントで致命的な打撃を受けます。規模に応じたシンプルな計画でも、ないよりははるかに効果的です。最低限、連絡先リストと初動対応手順は用意しましょう。

最低でも年1回、できれば半年に1回の訓練を推奨します。新入社員が入った時や、システムに大きな変更があった時も追加で実施することが重要です。机上訓練でも効果はあります。

セキュリティベンダーのインシデント対応サービスを利用できますが、完全に丸投げは危険です。最低限、社内の連絡体制と初動対応は自社で準備し、専門的な調査や復旧を外部に依頼する形が理想的です。

詳細すぎると実際の場面で使いにくくなります。フローチャートとチェックリスト形式で、1ページで初動対応が分かるサマリーと、詳細手順書の2階層構成が実用的です。

IT部門だけでなく、総務、法務、広報、経営層を含めた横断的なチームが理想です。技術対応だけでなく、法的対応や対外発表も重要なため、多様な専門性が必要です。

計画は「考え方の軸」です。想定外でも、基本的な対応の流れ(検知→分析→封じ込め→根絶→復旧→振り返り)は同じです。計画があることで、想定外でも冷静な判断ができます。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。