EDR/MDRソリューション導入ガイド

EDR(Endpoint Detection and Response)は、もはやオプションではなく、現代のセキュリティ対策における必須要件となりました。従来のEPPでは検知できない高度な標的型攻撃、ファイルレスマルウェア、Living off the Land攻撃、[内部不正](/security/insider-physical/insider-threat/)などに対し、EDRは継続的な監視と迅速な対応を実現します。しかし、EDRの真価を発揮するには、適切な製品選定、計画的な導入プロセス、効果的な運用体制が不可欠です。特に、専門人材の不足に悩む組織にとって、MDR(Managed Detection and Response)サービスは、外部の専門知識を活用して高度な脅威対応を実現する有力な選択肢です。本記事では、EDR/MDRの本質的な価値理解から、製品選定の具体的基準、段階的な導入プロセス、効果的な運用体制の構築方法、そして継続的な改善のためのKPI設定まで、成功への道筋を実践的に解説します。

EDRの本質的価値|検知と対応の革新

EDRが解決する課題

エンドポイント保護プラットフォーム(EPP)は、マルウェアの侵入を予防することに重点を置いていますが、現代の高度な攻撃はEPPだけでは防ぎきれません。EDRは、EPPが防げなかった脅威を検知し、対応するための「次の防衛線」として機能します。エンドポイントセキュリティの全体像と合わせて理解することで、包括的な防御戦略を構築できます。

可視性の欠如を解消
従来のEPPでは、「マルウェアをブロックした」という結果のみが記録され、攻撃の詳細な経緯が見えませんでした。EDRは、プロセスの実行、ネットワーク通信、ファイル操作、レジストリ変更、ユーザー活動など、エンドポイント上のすべてのアクティビティを継続的に記録します。この豊富なテレメトリーデータにより、攻撃の初期侵入点から最終目的まで、攻撃の全体像(アタックストーリー)を再構築できます。フォレンジック対応や根本原因分析に必要な証拠を、事後的に収集する必要がなく、リアルタイムで記録されています。詳細は[フォレンジック調査の実施](/security/devices/malware-infection/column/incident/forensics/)で解説しています。
遅い検知と対応を劇的に改善
IBMのコストレポートによると、侵害から検知までの平均滞留期間(Mean Time To Detect:MTTD)は約200日とされています。攻撃者はこの期間中に、ネットワーク内を自由に移動し、権限を昇格させ、機密データを窃取します。EDRは、リアルタイム検知、自動対応機能、遡及的調査(過去のデータから潜在的な侵害を発見)により、MTTDを1日以下、さらには数時間以内に短縮できます。早期検知は被害の最小化に直結し、ランサムウェア攻撃では、検知が1時間遅れるごとに被害額が数百万円増加するという調査もあります。[初動対応](/security/devices/malware-infection/column/incident/initial-response/)の速度が組織の被害規模を決定します。
高度な攻撃への対抗能力
ファイルレスマルウェア、Living off the Land攻撃、多段階の[APT攻撃](/security/devices/malware-infection/column/threats/apt-groups/)など、シグネチャベースの検知を回避する攻撃が主流になっています。EDRは、振る舞いベースの分析、機械学習による異常検知、脅威ハンティング機能により、これらの高度な攻撃を検知できます。例えば、PowerShellが通常とは異なるパラメータで実行された、メモリ内でのみ動作するプロセスが検知された、[認証情報の窃取](/security/cross-techniques/credential-dumping/)が試みられたなど、攻撃の兆候(Indicators of Attack:IOA)を捉えます。従来型のアンチウイルスでは見逃されていた攻撃の多くが、EDRにより可視化され、対応可能になります。

EDRの中核機能

EDRが提供する機能は多岐にわたりますが、中核となる機能は以下の3つです。これらが統合されることで、エンドポイントセキュリティの新しいパラダイムが実現されます。

継続的記録と監視

EDRエージェントは、エンドポイント上で24時間365日稼働し、あらゆる活動を記録します。記録される主なデータには以下があります:

プロセスアクティビティ

  • プロセスの作成、実行、終了
  • 親子関係(どのプロセスがどのプロセスを起動したか)
  • コマンドラインパラメータ
  • プロセスが読み込んだDLL(ダイナミックリンクライブラリ)
  • メモリ内の動作(インジェクション、プロセスハロウイング)

ネットワークアクティビティ

  • すべてのネットワーク接続(送信先IP、ポート、プロトコル)
  • DNSクエリ
  • データ転送量
  • 暗号化通信の特性

ファイルシステム操作

  • ファイルの作成、変更、削除、移動
  • ファイルハッシュ(変更の検知)
  • 実行ファイルのデジタル署名
  • 自動起動場所への追加

レジストリ操作(Windows):

  • レジストリキーの追加、変更、削除
  • 永続化メカニズムの検知
  • システム設定の変更

これらのデータはローカルにキャッシュされた後、クラウドまたはオンプレミスのデータストアに送信されます。保存期間は製品や契約により異なりますが、通常30日〜90日、規制要件によっては1年以上保存されます。

高度な脅威検知

収集されたテレメトリーデータは、複数の検知エンジンで分析されます:

シグネチャベース検知
既知のマルウェアのハッシュ、C2サーバーのIPアドレス、悪意のあるドメインなど、Indicators of Compromise(IOC:侵害指標)に基づく検知。脅威インテリジェンスと連携し、最新のIOCを活用します。

振る舞いベース検知
プロセスの振る舞いパターンを分析し、異常を検知。例:

  • 通常のアプリケーションが突然ネットワークスキャンを開始
  • Officeアプリケーションが子プロセスとしてPowerShellを起動
  • 正規のシステムツールが異常な頻度で実行される

機械学習/AI検知
大量のデータから正常なベースラインを学習し、逸脱を検知。未知の脅威(ゼロデイ攻撃)にも対応可能。精度は継続的に向上し、誤検知率を低下させます。

MITRE ATT&CKマッピング
検知されたアクティビティを、MITRE ATT&CKフレームワークのTTPs(Tactics, Techniques, and Procedures)にマッピング。攻撃者がキルチェーンのどの段階にいるかを可視化し、次のステップを予測できます。

調査と対応機能

脅威が検知された際、EDRは以下の機能を提供します:

タイムライン分析
攻撃の時系列を可視化。「いつ、どのファイルがダウンロードされ、どのプロセスが実行され、どこに通信したか」を一目で把握できます。

ピボット調査
一つのアラートから関連する他のアクティビティに「ピボット」(視点を移動)して調査を拡大。例:

  • この悪意のあるファイルは他の端末にも存在するか?
  • このC2サーバーに通信した他の端末は?
  • このユーザーの他の活動は?

自動対応アクション

  • ネットワーク隔離:感染端末をネットワークから切り離し
  • プロセス停止:悪意のあるプロセスを強制終了
  • ファイル隔離/削除:マルウェアを無害化
  • ロールバック:ランサムウェアにより暗号化されたファイルを復元(一部製品)

リモート対応
感染端末に物理的にアクセスせず、管理コンソールから遠隔で対応。リモートワーク環境でも迅速な対応が可能です。

導入効果:数値で見る価値

EDRの導入効果を、具体的な数値で示します:

MTTD(Mean Time To Detect)の短縮

環境 平均検知時間 改善率
EDRなし(従来型AV+手動監視) 200日(業界平均) -
EDR導入初期(手動対応) 7日 96.5%短縮
EDR成熟期(自動化+チューニング) 24時間 99.5%短縮
EDR+MDR 1時間以内 99.98%短縮

表1:EDR導入によるMTTD短縮効果

MTTR(Mean Time To Respond)の短縮

検知から完全な封じ込めまでの時間も劇的に改善されます:

  • 従来の手動対応:3日〜2週間(調査、承認、実施)
  • EDR自動対応:数分〜数時間
  • EDR+SOAR統合:秒単位での自動封じ込め

詳細はSIEM/SOAR統合による自動化セキュリティ運用で解説しています。

被害範囲の限定

ランサムウェア攻撃を例に、EDRの効果を示します:

EDRなしの場合

  • 初期感染から全社展開まで:平均72時間
  • 感染端末数:平均500-1,000台(中規模組織)
  • ダウンタイム:5-10日
  • 身代金要求額:平均5,000万円〜2億円

EDRありの場合

  • 初期感染から封じ込めまで:1-4時間
  • 感染端末数:1-10台(初期感染のみ)
  • ダウンタイム:数時間〜1日
  • 身代金支払いなし(バックアップからの復旧が可能)

被害額の差は数億円に達することも珍しくありません。EDRへの投資(年間数百万〜数千万円)は、単一のランサムウェア攻撃を防ぐだけでも十分にROIが正当化されます。


MDRサービスの価値|専門性の外部活用

MDRとは:24/365の専門家チーム

MDR(Managed Detection and Response)は、EDR技術を基盤として、専門のセキュリティアナリストによる監視、分析、対応サービスを提供するマネージドサービスです。「技術を買う」のではなく、「専門性と運用を買う」という発想です。

24時間365日の監視サービス
専門のSOCアナリストが、組織のエンドポイントを常時監視します。深夜や週末に発生する攻撃も見逃しません。自社でSOCを構築する場合、3交代制で最低9名のアナリストが必要ですが、MDRサービスなら月額費用のみで実現できます。初期投資は最小限で、中小企業でもエンタープライズ級の防御体制を構築可能です。コストは、自社SOC構築の1/5〜1/10程度に抑えられます。[CSIRT/SOC構築](/security/devices/malware-infection/column/organization/csirt-soc/)と比較検討する価値があります。
プロアクティブな脅威ハンティング
受動的にアラートを待つだけでなく、潜在的な脅威を能動的に探索します。IOC/IOAベースの調査、仮説主導型のハンティング(「特定のAPTグループの手法が使われていないか?」)、異常パターンの探索を定期的に実施します。多くのMDRプロバイダーは、週次または月次で脅威ハンティングレポートを提供します。受動的防御から能動的防御へのシフトにより、攻撃者がネットワーク内に長期潜伏することを防ぎます。平均滞留期間を200日から30日以下に短縮できた事例も多数報告されています。
包括的なインシデント対応支援
脅威の検知だけでなく、封じ込め、根絶、復旧まで支援します。フォレンジック調査、マルウェア解析、侵害範囲の特定、復旧計画の策定なども提供されます(サービスレベルによる)。組織内に専門知識がなくても、インシデント発生時に即座に専門家の支援を受けられます。特に、高度なランサムウェア攻撃やAPT攻撃では、専門家の知見が被害の拡大防止に決定的な差を生みます。法的対応や公表が必要な場合のアドバイスも含まれる場合があります。

MDRサービスモデルの種類

MDRサービスには、提供範囲と顧客の関与度合いに応じて、複数のモデルがあります。組織の成熟度、リソース、予算に応じて選択します。

フルマネージドMDR

特徴

  • すべての監視、分析、対応をMDRプロバイダーが実施
  • 顧客への報告は月次レポートと重大インシデント時のみ
  • 顧客の運用負荷は最小限

適している組織

  • セキュリティ専門人材がいない中小企業
  • IT部門が他の業務で手一杯
  • 最小限のリソースで高度な防御を実現したい

コスト目安

  • 100端末:月額50-100万円
  • 500端末:月額150-300万円
  • 1,000端末:月額250-500万円

コマネージドMDR

特徴

  • 監視と初期分析はMDRプロバイダー、詳細調査と対応判断は顧客と協働
  • 重要なアラートは即座に顧客に通知
  • 顧客側にもある程度のスキルが必要

適している組織

  • 社内にセキュリティエンジニアが数名いる中堅企業
  • EDRの経験はあるが、24/365対応は困難
  • 専門知識を学びながら、徐々に内製化を目指す

コスト目安

  • フルマネージドより10-20%安価
  • カスタマイズやエスカレーション頻度により変動

監視特化型MDR

特徴

  • 監視とアラート通知のみ提供
  • 対応は顧客側で実施
  • 最もコスト効率が高い

適している組織

  • 社内にSOCチームがあるが、24/365体制は困難
  • EDRツールは導入済みで、運用ノウハウもある
  • 夜間・休日のみ外部監視を利用したい

コスト目安

  • フルマネージドの1/3〜1/2程度

MDRプロバイダー選定のポイント

MDRサービスは提供内容が標準化されておらず、プロバイダーにより大きな差があります。以下のポイントを評価します。

SLA(Service Level Agreement)の内容
Critical(最重要)アラートへの初動対応時間(目標:15分以内)、High(重要)アラートへの対応時間(目標:1時間以内)、月次レポート提供、アップタイム保証(通常99.9%以上)などを確認します。SLAが曖昧なプロバイダーは避けるべきです。ペナルティ条項(SLA未達時の返金等)があるかも確認します。エスカレーション経路と対応体制(日本語対応の有無、タイムゾーン)も重要です。海外プロバイダーの場合、日本時間での対応品質を確認しましょう。
対応範囲とサービス内容
どこまでが標準サービスで、何がオプションか明確にします。脅威ハンティングの頻度(週次?月次?)、フォレンジック対応は含まれるか、マルウェア解析は可能か、復旧支援はどこまでか、などを確認します。インシデント時のオンサイト対応が可能か、追加費用はいくらか、なども重要です。年間のインシデント対応回数に上限があるプロバイダーもあるため注意が必要です。カスタム検知ルールの作成や、業界特化型の脅威インテリジェンス提供があるかも確認します。
アナリストの専門性レベル
MDRの品質は、アナリストの質に直結します。アナリストの保有資格(CISSP、GIAC、OSCP等)、平均経験年数、顧客あたりの担当アナリスト数(専任か兼任か)を確認します。一部のプロバイダーは、顧客ごとに専任のアナリストチームを割り当てます。これにより、組織の環境や業務を深く理解したカスタマイズされたサービスが受けられます。脅威インテリジェンスチームを持ち、最新の攻撃手法を研究しているか、過去の対応事例や成功事例の開示も参考になります。
項目 フルマネージド コマネージド 監視特化
監視(24/365)
アラート分析
脅威ハンティング ○(週次) ○(月次) ×
初動対応 △(協働) ×
フォレンジック △(有償) ×
復旧支援 ×
月次レポート
顧客の運用負荷 最小
コスト
推奨組織規模 中小企業 中堅企業 大企業

表2:MDRサービスモデル比較


製品選定|要件定義と評価

機能要件:何ができる必要があるか

EDR製品の選定では、自組織の要件を明確にすることが第一歩です。すべての機能を持つ製品はなく、また必要ない機能のために過剰な投資をする必要もありません。

検知能力
MITRE ATT&CKフレームワークのカバレッジを確認します。主要なTTPsをどの程度検知できるか、公開されている評価結果を参照します。機械学習/AIの活用度合い、振る舞い分析の精度、脅威インテリジェンスとの統合度を評価します。最新脅威への対応速度も重要です。ゼロデイ攻撃の公表から、検知ルールが展開されるまでの時間(理想は数時間以内)を確認します。誤検知率も極めて重要で、5%以下を目標とします。10%を超えると運用負荷が急増し、アラート疲労により真の脅威を見逃すリスクが高まります。POC(Proof of Concept)で実環境での検知精度を必ず検証してください。
調査機能の使いやすさ
アナリストが日々使う調査機能の品質が、運用効率を大きく左右します。タイムライン表示の直感性、ピボット分析の容易さ、検索クエリの柔軟性を評価します。脅威インテリジェンスが自動的に統合され、コンテキスト情報が豊富に提供されるか確認します。UIの直感性は重要で、複雑なUIは習熟に時間がかかり、緊急時の対応を遅らせます。高速検索機能(数億のイベントから数秒で検索)、可視化機能(グラフ、ヒートマップ等)、カスタムダッシュボード作成も評価対象です。多くのベンダーはデモ環境を提供するため、実際に操作して使用感を確認することを強く推奨します。
対応機能の充実度
検知後の対応アクションの種類と柔軟性を確認します。自動隔離(ネットワークから切断)、プロセス停止、ファイル削除/隔離、ロールバック(ファイル復元)などの基本機能に加え、カスタムスクリプトの実行、リモートシェル、ライブレスポンス機能があるかも重要です。API経由での自動化対応(SOARとの統合)が可能か、どのような対応アクションをAPIで実行できるかを確認します。対応の粒度も評価します。組織全体、グループ、個別端末のいずれのレベルで対応できるか。誤対応のリスクを減らすため、対応前の確認ステップや、ロールバック機能があることが望ましいです。

非機能要件:どう動く必要があるか

機能だけでなく、非機能要件も製品選定の重要な基準です。特に大規模組織では、スケーラビリティとパフォーマンスが決定的に重要になります。

スケーラビリティ

端末数への対応

  • 現在の端末数だけでなく、3-5年後の予想も考慮
  • 数千台、数万台規模でもパフォーマンスが劣化しないか
  • ライセンス体系(端末数による段階的課金が一般的)

データ量への対応

  • 1日あたりのテレメトリーデータ生成量(端末あたり数MB〜数百MB)
  • データ保存期間と容量(クラウドストレージコスト)
  • 検索パフォーマンス(数億イベントから数秒で結果を返せるか)

グローバル展開

  • 複数国・地域での展開が可能か
  • データ主権の問題(EU GDPR、中国のデータローカライゼーション等)
  • 地域ごとの管理コンソール分離が可能か

パフォーマンス影響

EDRエージェントのリソース消費は、ユーザー体験に直結します:

目標値

  • CPU使用率:平常時2-5%、スキャン時でも10%未満
  • メモリ使用量:200-500MB
  • ディスクI/O:バックグラウンド動作による影響最小限
  • ネットワーク帯域:1端末あたり10-50MB/日

製品により大きな差があり、特にレガシーな製品は重い傾向があります。POCで実環境のパフォーマンス影響を測定することが必須です。

可用性と信頼性

エージェントの可用性

  • エージェント障害時の自動復旧機能
  • オフライン時のデータ保持(再接続時に同期)
  • アップデート失敗時のロールバック

管理コンソールの可用性

  • クラウド型の場合、SLA(通常99.9%以上)
  • オンプレミス型の場合、冗長化構成
  • 災害時の事業継続性

主要EDR製品の比較

市場には多数のEDR製品がありますが、ここでは主要4製品を比較します。エンドポイントセキュリティ全体での位置づけも参照してください。

CrowdStrike Falcon Insight

強み

  • クラウドネイティブアーキテクチャで非常に軽量
  • 脅威インテリジェンスが業界トップクラス
  • 直感的なUIと強力な調査機能
  • MDRサービス(Falcon Complete)も提供

弱み

  • 比較的高価
  • オンプレミス展開が不可
  • 高度な機能を使いこなすにはトレーニングが必要

適している組織

  • クラウド中心の環境
  • 高度な脅威ハンティングを重視
  • 予算に余裕がある大企業

Microsoft Defender for Endpoint

強み

  • Windows環境との深い統合
  • Microsoft 365 E5に含まれるため追加コスト不要の場合も
  • 他のMicrosoft製品(Defender for Cloud、Sentinel等)とシームレスに統合
  • 継続的な機能強化

弱み

  • macOS、Linux対応はWindowsほど成熟していない
  • Microsoft エコシステム外との統合は限定的
  • UIが複雑で習熟に時間がかかる

適している組織

  • Microsoft環境中心
  • 既にMicrosoft 365 E5ライセンス保有
  • コスト効率を重視する中小〜中堅企業

SentinelOne Singularity

強み

  • AI/ML技術で自律的な対応が強力
  • ロールバック機能によるランサムウェア対策
  • 比較的導入が容易
  • オンプレミス、クラウド両対応

弱み

  • エンタープライズでの実績がやや少ない
  • カスタマーサポートの評価がまちまち
  • 大規模環境での実績は競合に劣る

適している組織

  • ランサムウェア対策を最優先
  • 最新AI技術を採用したい
  • 中堅企業

VMware Carbon Black Cloud

強み

  • エンドポイントとワークロード(サーバー、クラウド)の統合保護
  • 長い歴史と豊富な実績
  • オンプレミス、クラウド、ハイブリッド対応
  • セキュリティとIT運用の統合

弱み

  • UIがやや複雑
  • 一部の機能は複数製品の組み合わせが必要
  • VMware買収後の製品戦略が不透明

適している組織

  • VMware環境を多用
  • オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境
  • ワークロード保護も必要
機能/製品 CrowdStrike Falcon MS Defender for Endpoint SentinelOne Carbon Black
検知率 優秀(97%+) 優秀(96%+) 優秀(96%+) 良好(95%+)
誤検知率 非常に低い 低い 低い 中程度
パフォーマンス 優秀(軽量) 良好 良好 中程度
調査UI 優秀 良好(複雑) 優秀 中程度(複雑)
自動対応 優秀 良好 優秀(AI) 良好
脅威ハンティング 優秀 良好 良好 良好
Windows対応 優秀 優秀 優秀 優秀
macOS対応 優秀 良好 優秀 良好
Linux対応 優秀 良好 優秀 良好
クラウド統合 優秀 優秀(Azure) 良好 良好
MDRサービス あり(Falcon Complete) パートナー経由 あり あり
価格帯 低〜中(E5含む) 中〜高
導入難易度 中〜高 低〜中 中〜高

表3:主要EDR製品比較


導入プロセス|成功への道筋

事前準備:土台を固める

EDRの導入は、単なる製品のインストールではありません。組織的な準備と、明確な目標設定が成功の鍵です。

環境調査
まず、保護すべきエンドポイント環境を詳細に調査します。OS種別とバージョン(Windows 10/11、macOS、Linux各ディストリビューション)、端末台数(デスクトップ、ノートPC、サーバー、仮想マシン別)、ネットワーク構成(拠点数、VPN、クラウド接続)を把握します。既存のセキュリティツール(アンチウイルス、ファイアウォール、DLP等)との競合可能性を確認します。同時に複数のエンドポイント保護製品が動作すると、リソース競合や誤動作のリスクがあります。EDR製品の前提条件(最小ハードウェアスペック、ネットワーク要件、必要なポート開放)を検証します。特に、クラウドベースEDRの場合、インターネット接続が必須です。閉域網のみの端末には、オンプレミス型またはハイブリッド構成が必要になります。
要件定義と目標設定
EDR導入の目的を明確にします。「何を」保護するか(重要サーバー、全端末、特定部門のみ)、「何から」守るか(ランサムウェア、APT、内部不正)、「どのレベル」まで対応するか(検知のみ、自動対応まで、フォレンジックまで)を定義します。具体的なユースケースを列挙します。例:ランサムウェア攻撃を1時間以内に封じ込める、内部不正による機密データ持ち出しを検知する、コンプライアンス要件(GDPR、PCI DSS)を満たすなど。成功基準を測定可能な形で設定します(MTTD
製品選定とPOC
RFP(Request for Proposal:提案依頼書)を作成し、3-5社のベンダーに提案を依頼します。機能要件、非機能要件、予算範囲、導入スケジュール、サポート要件を明記します。提案内容を評価し、2-3製品に絞り込みます。評価基準を事前に設定し(機能50%、価格30%、サポート20%など)、客観的に評価します。POC(Proof of Concept:概念実証)を実施します。期間は2-4週間が一般的です。実環境に近いテスト環境で、実際のユースケースを検証します。検知精度(既知のマルウェアサンプル、MITRE ATT&CK評価ツール等で検証)、パフォーマンス影響、操作性、既存ツールとの競合、サポート品質を評価します。POC結果を基に最終決定し、契約を締結します。

展開フェーズ:段階的なロールアウト

一度に全端末に展開するのではなく、段階的にロールアウトすることで、リスクを最小化します。マルウェア感染対策の一環として、慎重に進めます。

パイロット導入(2-4週間)

対象

  • IT部門、セキュリティチームの端末(50-100台程度)
  • 各OS種別を含める
  • テクニカルユーザーで、問題発生時にフィードバックが得られる

目的

  • 実環境でのパフォーマンス影響の測定
  • 業務アプリケーションとの互換性確認
  • 初期ポリシー設定のチューニング
  • 運用手順の策定
  • ヘルプデスクトレーニングの実施

成功基準

  • 重大なパフォーマンス問題なし
  • 業務アプリケーションの動作に問題なし
  • ユーザーからの苦情 < 5%
  • IT部門が独立して運用可能

段階的展開(3-6ヶ月)

組織を複数のグループ(Wave)に分割し、2-4週間ごとに展開します。

Wave 1(10-20%)

  • テクニカルユーザー、IT関連部門
  • 問題発生時の影響が限定的
  • 早期フィードバックを得る

Wave 2-4(各20-30%)

  • 一般ユーザー、各事業部門
  • 部門ごと、拠点ごと、または機能ごとに分割
  • 前のWaveでの問題を解決してから次へ

最終Wave(残り全て)

  • 残りの全端末
  • リモートワーク端末、外出の多い営業部門など

各Wave での実施事項

  • エンドユーザーへの事前通知(1週間前)
  • 変更内容の説明、期待される動作、サポート窓口の案内
  • エージェントのインストール(GPO、MDM、手動)
  • インストール状況の監視(成功率、失敗の原因分析)
  • ユーザーからのフィードバック収集
  • パフォーマンス、誤検知の監視
  • 問題への迅速な対応

全面展開後の安定化(1-2ヶ月)

実施事項

  • 全端末のエージェント稼働状況確認
  • 未インストール端末の追跡と対応
  • ポリシーの最終チューニング
  • 運用プロセスの確立
  • 定常運用への移行
フェーズ 期間 対象端末 主な活動 リスク
計画・準備 1-2ヶ月 - 要件定義、RFP、ベンダー選定
POC 2-4週 10-50台 機能検証、パフォーマンステスト
パイロット 2-4週 50-100台 IT部門展開、初期チューニング
Wave 1 2-4週 10-20% テクニカルユーザー展開
Wave 2-4 各2-4週 各20-30% 一般ユーザー段階展開
最終Wave 2-4週 残り全て 全端末展開完了 中〜高
安定化 1-2ヶ月 全て チューニング、定常運用移行

表4:EDR導入フェーズとタイムライン

設定最適化:効果を最大化

EDRを導入しただけでは、その潜在能力の半分も発揮できません。組織に合わせた設定とチューニングが不可欠です。

ポリシー設定

ベースラインの設定

  • ベンダー推奨設定から開始
  • 業界標準(CIS Benchmarks等)を参照
  • リスクレベルに応じた設定(重要サーバーは厳格、一般端末は標準)

グループポリシーの作成

  • 部門別(IT、営業、製造等)
  • OS別(Windows、macOS、Linux)
  • 役割別(管理者、一般ユーザー、外部協力者)

除外設定の適切な実装

  • 業務アプリケーションのホワイトリスト
  • 開発環境の除外(必要最小限)
  • パフォーマンス影響が大きいパスの除外
  • 定期的な見直し(四半期ごと)

検知ルールの調整

初期段階(導入後1-3ヶ月)

  • 誤検知の特定と除外
  • 環境特有の正常動作の学習
  • アラート疲労の防止

成熟段階(3ヶ月以降)

  • カスタム検知ルールの作成
  • 組織固有の脅威に対応
  • 検知精度の継続的な向上

高度な活用

  • MITRE ATT&CKベースの検知
  • 脅威インテリジェンス統合
  • 業界固有の攻撃パターン対応

自動化設定

レベル1:通知のみ

  • 低リスクアラートは記録のみ
  • 中リスクは担当者に通知
  • 高リスクは即座にエスカレーション

レベル2:一部自動対応

  • 既知のマルウェアは自動隔離
  • 疑わしいプロセスは自動停止
  • Critical アラートのみ人間が判断

レベル3:完全自動化

  • ほとんどの対応を自動化
  • 人間は高度な判断と事後分析のみ
  • SOAR統合による自動ワークフロー

自動化レベルは、組織の成熟度に応じて段階的に引き上げます。初期は慎重に、経験を積むにつれて自動化を拡大するのが安全です。


運用体制|効果的な活用

組織体制の選択肢

EDRの運用には、継続的なモニタリングとインシデント対応が必要です。組織の規模、予算、専門性に応じて、適切な体制を選択します。CSIRT/SOC構築も参照してください。

専任SOCチーム(大企業向け)
3,000端末以上の大企業では、専任のSOC(Security Operations Center)チームを構築するのが一般的です。SOCアナリスト3-5名以上で、L1(初期トリアージ)、L2(詳細調査)、L3(高度な分析・フォレンジック)の3階層構造を構築します。24時間365日体制の場合、シフト制で最低9名(3交代×3名)が必要です。専門スキルの育成投資も必要で、GIAC、CISSP、CEH等の認定資格取得を推奨します。年間運用費は人件費だけで5,000万〜1億円、ツール・インフラコスト含め総額1-3億円規模になります。メリットは、組織固有の環境を深く理解したカスタマイズされた防御、迅速な意思決定、機密情報の社内保持です。デメリットは、高コスト、人材確保・育成の困難さ、最新の脅威情報へのアクセス限定です。
兼任体制+MDR補完(中堅企業向け)
500-3,000端末の中堅企業で最も現実的なアプローチです。IT部門内で2-3名がセキュリティ業務を兼任し、日中の重要アラート対応を担当します。夜間・休日および高度なインシデント対応はMDRサービスに委託します。コスト効率を重視し、限られたリソースで効果的な防御を実現します。年間運用費は、MDR費用が1,500-3,000万円、社内人件費(兼任)が1,000-2,000万円で、総額2,500-5,000万円程度です。専任SOCの半分以下のコストで、24/365の監視を実現できます。メリットは、コストバランス、専門知識の外部活用、社内にもセキュリティ知見が蓄積することです。デメリットは、兼任者の負荷増大、対応の一部遅延(MDRへのエスカレーション時間)、ベンダー依存です。
完全外部委託(中小企業向け)
500端末未満の中小企業では、フルマネージドMDRへの完全委託が最適です。社内のセキュリティ専門人材は不要で、月次レポートの確認と重大インシデント時の意思決定のみを担当します。内部リソースをコアビジネスに集中でき、即座にエンタープライズ級の防御を実現できます。月額費用は50-200万円(端末数により変動)、年間600-2,400万円です。自社SOC構築の1/5〜1/10のコストです。メリットは、最小の内部リソース、即座の専門性確保、予測可能なコスト(月額固定)、最新の脅威情報へのアクセスです。デメリットは、ベンダーへの完全依存、カスタマイズの限界、社内にセキュリティ知見が蓄積しにくいことです。ただし、コマネージドMDRに移行することで、徐々に内製化を進めることも可能です。
体制モデル 対象規模 年間コスト 社内人員 外部依存 24/365対応 専門性
専任SOC 3,000端末以上 1-3億円 5-15名 可能 高(育成必要)
兼任+MDR 500-3,000端末 2,500-5,000万円 2-3名兼任 可能 中〜高
完全委託MDR 500端末未満 600-2,400万円 0-1名 可能 高(外部)
監視特化MDR 1,000端末以上 1,000-3,000万円 3-5名 可能(監視のみ)

表5:運用体制オプションの比較

プロセス設計:明確な手順

効果的なEDR運用には、明確なプロセスと手順が不可欠です。アラートが発生したときに「誰が、何を、いつまでに」行うかを事前に定義します。

アラート対応フロー

ステップ1:トリアージ(15分以内)

  1. アラート受信(自動通知:メール、Slack、Teams等)
  2. 重要度の確認(Critical、High、Medium、Low)
  3. 初期情報の収集(影響端末、ユーザー、時刻、アクティビティ)
  4. 真陽性/誤検知の初期判断

ステップ2:初期調査(1時間以内)

  1. 詳細なコンテキスト情報の確認
  2. 関連するアラートの検索
  3. 脅威インテリジェンスとの照合
  4. 影響範囲の評価(他の端末、データ、システム)

ステップ3:封じ込め判断(2時間以内)

  1. インシデントか誤検知かの確定
  2. 封じ込めの必要性判断
  3. 承認取得(必要に応じて)
  4. 封じ込めアクションの実行

ステップ4:対応実行

  1. ネットワーク隔離、プロセス停止、ファイル隔離
  2. 影響を受けた他の端末の特定と対応
  3. マルウェアサンプルの収集(必要に応じて)
  4. ログ・証跡の保全

ステップ5:事後処理

  1. インシデントレポート作成
  2. 根本原因分析
  3. 再発防止策の実装
  4. 検知ルールの更新

エスカレーション基準

明確なエスカレーション基準を設定し、適切なレベルの人員が迅速に対応できるようにします。

Level 1(L1アナリスト)→ Level 2(L2アナリスト)

  • 条件:1時間以内に真陽性/誤検知を判断できない
  • 条件:複数の端末に影響
  • 条件:既知のパターンに該当しない

Level 2 → Level 3(シニアアナリスト/エンジニア)

  • 条件:高度なフォレンジックが必要
  • 条件:マルウェア解析が必要
  • 条件:カスタム対応スクリプトが必要

Level 3 → インシデント対応チーム

  • 条件:ランサムウェア、大規模データ侵害
  • 条件:重要システムへの影響
  • 条件:メディア対応が必要になる可能性

インシデント対応チーム → 経営層

  • 条件:事業継続に重大な影響
  • 条件:法的報告義務が発生
  • 条件:公表が必要
  • 条件:身代金要求への対応判断

報告体制

日次レポート

  • アラート総数、重要度別内訳
  • 対応済み/対応中のインシデント
  • 新たに検知された脅威

週次レポート

  • 週間サマリー
  • トレンド分析(アラート増減、攻撃パターン)
  • 誤検知率と対策

月次レポート

  • KPIダッシュボード(MTTD、MTTR、検知精度)
  • インシデントの詳細分析
  • 改善アクションの進捗
  • 次月の計画

臨時報告

  • 重大インシデント発生時は即座に経営層に報告
  • 報告フォーマットを事前に準備
  • 影響範囲、対応状況、今後の予定を簡潔に

スキル開発:人材育成

EDRの効果的な運用には、専門スキルが必要です。計画的なトレーニングと認定資格の取得を推進します。

必要なスキルセット

L1アナリスト(初級)

  • エンドポイント基礎知識(OS、ネットワーク、プロセス)
  • EDR製品の基本操作
  • アラートトリアージ
  • 基本的なインシデント対応

L2アナリスト(中級)

  • マルウェアの基礎知識
  • ログ分析、フォレンジックの基礎
  • 脅威インテリジェンスの活用
  • 脅威ハンティングの基礎

L3アナリスト/エンジニア(上級)

  • 高度なマルウェア解析
  • フォレンジック調査
  • カスタムスクリプト作成
  • MITRE ATT&CKフレームワークの深い理解

推奨トレーニングと資格

基礎レベル

  • CompTIA Security+
  • ベンダー提供のEDR製品トレーニング
  • オンライン学習(Cybrary、Coursera等)

中級レベル

  • GIAC Security Essentials (GSEC)
  • Certified Ethical Hacker (CEH)
  • ベンダーアドバンストレーニング

上級レベル

  • GIAC Certified Incident Handler (GCIH)
  • GIAC Certified Forensic Analyst (GCFA)
  • Offensive Security Certified Professional (OSCP)
  • SANS各種コース

継続的な学習

  • 脅威レポートの定期購読
  • セキュリティカンファレンスへの参加
  • CTF(Capture The Flag)への参加
  • 社内勉強会の開催

効果測定と改善|KPIとPDCA

重要KPI:何を測定するか

EDRの効果を定量的に測定し、継続的に改善するためには、適切なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の設定が不可欠です。

MTTD(Mean Time To Detect:平均検知時間)
脅威がネットワークに侵入してから検知されるまでの平均時間です。業界平均は約24時間とされていますが、目標は1時間以内に設定します。ランサムウェアのように急速に拡散する脅威に対しては、数分〜数十分以内の検知が理想です。改善施策として、検知ルールの最適化(誤検知を減らし、真の脅威に集中)、自動化の推進(人間の判断待ち時間を削減)、脅威インテリジェンスの活用(最新のIOC/IOAによる検知)があります。MTTDが長い場合、攻撃者に多くの時間を与えることになり、横展開、権限昇格、データ窃取のリスクが高まります。月次でトレンドを追跡し、改善を確認します。
MTTR(Mean Time To Respond:平均対応時間)
脅威を検知してから完全に封じ込め、根絶するまでの平均時間です。目標は4時間以内に設定します。Critical な脅威(ランサムウェア等)は1時間以内が望ましいです。改善施策として、プレイブック(対応手順書)の整備、自動対応機能の活用、チーム間の連携強化があります。MTTRが長い場合、被害が拡大し、ダウンタイムが長期化し、復旧コストが増大します。対応時間をフェーズ別に分解(検知→トリアージ→調査→封じ込め→根絶→復旧)し、ボトルネックを特定することも有効です。自動化により、数時間〜数日かかっていた対応を数分〜数十分に短縮できます。
検知精度(真陽性率と誤検知率)
検知の正確性を測る指標です。真陽性率(実際の脅威を正しく検知した割合)と誤検知率(誤って脅威と判定した割合)の両方を追跡します。目標は、真陽性率95%以上、誤検知率5%以下です。誤検知率が高いと、アラート疲労が発生し、重要なアラートを見逃すリスクが高まります。10%を超えると運用負荷が急増します。改善施策として、継続的なチューニング(除外設定の追加、検知ルールの調整)、機械学習モデルの再トレーニング、環境の正常ベースライン学習があります。初期段階では誤検知率が高い(10-20%)こともありますが、数ヶ月のチューニングで5%以下に下げることが可能です。業界ベンチマークと比較し、自組織の位置を把握することも重要です。

補助KPI:詳細な測定

主要KPIに加え、以下の補助KPIも追跡します:

運用効率

  • 1人あたりの処理アラート数/日
  • 自動対応率(全対応のうち自動化された割合)
  • エスカレーション率(L1からL2、L2からL3への)

カバレッジ

  • エージェント稼働率(全端末のうち正常稼働している割合、目標99%以上)
  • オフライン端末数と期間
  • ポリシー適用率

脅威状況

  • 検知された脅威の種類別内訳
  • 攻撃の起点(メール、Web、USB等)
  • 最も標的にされた部門/システム

ビジネスインパクト

  • インシデントによるダウンタイム
  • 推定被害額(阻止した攻撃の潜在的被害)
  • コンプライアンス違反の有無
KPI 目標値 測定頻度 改善施策
MTTD 1時間以内 週次 検知ルール最適化、脅威インテリジェンス活用
MTTR 4時間以内 週次 プレイブック整備、自動対応、チーム訓練
真陽性率 95%以上 月次 検知精度向上、機械学習チューニング
誤検知率 5%以下 週次 継続的チューニング、除外設定最適化
エージェント稼働率 99%以上 日次 オフライン端末の追跡、自動復旧設定
自動対応率 70%以上 月次 自動化範囲の拡大、SOAR統合
アラート対応時間 90%を15分以内 週次 トリアージプロセス改善、優先度設定

表6:EDR運用KPIダッシュボード

継続的改善:PDCAサイクル

EDRの運用は、一度設定して終わりではありません。継続的な改善サイクル(PDCA)が不可欠です。

月次レビュー

実施事項

  • 全KPIの確認とトレンド分析
  • 目標未達項目の原因分析
  • 誤検知パターンの特定と対策
  • 新たな脅威への対応状況確認
  • チームパフォーマンスの評価

参加者

  • セキュリティチームリーダー
  • SOCマネージャー(いる場合)
  • IT部門代表
  • 必要に応じてMDRプロバイダー

成果物

  • 月次レポート
  • 改善アクションリスト
  • 次月の重点項目

インシデント事後分析(Post-Incident Review)

重大なインシデント発生後は、必ず詳細な事後分析を実施します:

分析項目

  • 何が起きたか(タイムライン)
  • なぜ起きたか(根本原因)
  • 何がうまくいったか
  • 何が改善できるか
  • 学んだ教訓

改善アクション

  • 検知ルールの追加/修正
  • 対応プレイブックの更新
  • ポリシー設定の変更
  • トレーニングの実施
  • 技術的な脆弱性の修正

事後分析は、非難ではなく学習の場とすることが重要です。失敗を責めるのではなく、組織全体のレジリエンス向上につなげます。

プロセス改善

四半期ごとに、運用プロセス全体を見直します:

見直し対象

  • アラート対応フロー(無駄な手順、ボトルネック)
  • エスカレーション基準(適切か、遅延はないか)
  • 自動化の機会(人間が行っている反復作業)
  • ツール統合(EDRと他ツールの連携改善)
  • ドキュメント更新(手順書、プレイブック)

改善手法

  • チームブレインストーミング
  • 他組織のベストプラクティス調査
  • ベンダーの最新機能活用
  • 業界カンファレンスからの学び

まとめ

EDRは、現代のサイバーセキュリティにおいて不可欠なツールです。従来のEPPでは防ぎきれない高度な攻撃に対し、継続的な監視、迅速な検知、効果的な対応を実現します。しかし、EDRの真価を発揮するには、適切な製品選定、計画的な導入、効果的な運用体制が不可欠です。

本記事で解説した以下のポイントを押さえることで、EDR導入を成功させることができます:

  1. 明確な目的と要件定義:何を守るか、どのレベルまで対応するかを明確に
  2. 慎重な製品選定:POCで実環境での検証を必ず実施
  3. 段階的な導入:パイロットから始め、問題を早期発見・解決
  4. 組織に合った運用体制:自社SOC、MDR活用、ハイブリッドから選択
  5. 継続的な改善:KPI測定、月次レビュー、PDCAサイクルの実践

特に、専門人材の確保が困難な組織では、MDRサービスの活用が現実的な選択肢です。外部の専門知識を活用しながら、徐々に社内の能力を高めていくアプローチが有効です。

EDRは単なるツールではなく、組織のセキュリティ態勢を変革する契機です。適切に導入・運用することで、サイバーリスクを大幅に低減し、ビジネスの継続性を確保できます。


よくある質問(FAQ)

Q: EDRとSOCツール(SIEM等)の違いは何ですか?
A: EDRはエンドポイント特化、SIEM等のSOCツールは組織全体のセキュリティイベント統合を目的としています。EDRの特徴:エンドポイント上のプロセス、ファイル、ネットワーク活動の詳細な記録と分析、エージェントベースで端末に直接インストール、即座の対応アクション(隔離、プロセス停止等)が可能、エンドポイントの「顕微鏡」のような詳細な可視性。SIEMの特徴:ネットワーク、サーバー、アプリケーション、クラウド等、あらゆるソースからのログ集約と相関分析、組織全体の「鳥瞰図」のような包括的可視性、コンプライアンスレポート作成、長期的なログ保存。理想は両者の連携です。EDRで検知されたエンドポイントの異常を、SIEMで他のイベント(ネットワークログ、認証ログ等)と相関分析することで、攻撃の全体像を把握できます。[SIEM/SOAR統合](/security/devices/malware-infection/column/solutions/siem-soar/)も参照してください。
Q: MDRサービスの費用対効果は本当に高いのですか?
A: 多くの場合、特に中小〜中堅企業では、自社SOC構築よりMDRの方が費用対効果が高いです。自社SOC構築のコスト:初期投資1億円以上(ツール、インフラ、トレーニング)、年間運用費5,000万〜1億円(人件費が主)、人材確保が非常に困難(セキュリティ人材不足は深刻)、最新の脅威情報へのアクセスが限定的。MDRのコスト:初期費用は最小限(既存EDRを活用する場合はさらに低い)、月額50-500万円(端末数による、年間600-6,000万円)、即座に専門性を確保、24/365監視を実現、最新の脅威インテリジェンスを活用。費用対効果の分岐点:一般的に、1,000端末以下ならMDRが有利、5,000端末を超えると自社SOCも検討価値あり、ただし人材確保できる前提。ROI計算では、阻止できた攻撃の潜在的被害額も考慮すべきです。ランサムウェア攻撃1回の被害(数千万〜数億円)を防げば、数年分のMDR費用を回収できます。
Q: EDR導入で業務へのパフォーマンス影響はありますか?
A: 適切に導入・設定すれば、パフォーマンス影響は最小限に抑えられます。典型的なリソース使用量:CPU使用率2-5%(平常時)、メモリ200-500MB、ネットワーク帯域10-50MB/日/端末。これは現代のPC(CPU:Core i5以上、メモリ8GB以上)では体感できないレベルです。注意点:①初回フルスキャン時は負荷が高い(週末や夜間に実施)、②古いPC(5年以上前、メモリ4GB未満)では影響が出る可能性、③除外設定で業務アプリケーション(データベース、開発ツール等)との競合を回避、④段階的展開で問題を早期発見。事前のPOCで、実環境でのパフォーマンス影響を正確に評価することが重要です。ベンチマークテスト(業務アプリケーションの起動時間、ファイルコピー速度等)を実施し、許容範囲内か確認します。クラウドベースの軽量EDRを選択することで、影響をさらに最小化できます。
Q: 脅威ハンティングは本当に必要ですか?受動的な検知だけではダメですか?
A: 高度な攻撃から組織を守るには、脅威ハンティングが必須です。受動的検知(アラート待ち)の限界:①シグネチャ回避された攻撃は検知できない、②正規ツールを悪用するLiving off the Land攻撃は検知困難、③長期潜伏型のAPT攻撃は発見されない(平均200日)、④既知のパターンにしか対応できない。脅威ハンティングの価値:①未検知の脅威を能動的に発見、②平均滞留期間を200日→30日以下に短縮、③攻撃の兆候(IOA)を早期に発見し、被害を未然に防ぐ、④組織のセキュリティ態勢を継続的に検証。実施頻度の推奨:最低月1回(全体的なハンティング)、重要システムは週次、継続的なハンティング(常に仮説を持って調査)。MDRサービスを活用すれば、専門知識なしでも高度な脅威ハンティングを実施できます。多くのMDRプロバイダーは、月次で脅威ハンティングレポートを提供し、発見された潜在的脅威と対策を報告します。
Q: EDRで内部不正も検知できますか?
A: はい、EDRは内部不正の検知にも有効ですが、限界もあります。EDRが検知できる内部不正:①大量の機密ファイルのダウンロードや外部転送、②通常アクセスしないシステムへの不正ログイン、③認証情報の窃取や権限昇格の試み、④業務時間外の異常なアクティビティ、⑤外部ストレージ(USB等)への大量コピー。検知方法:振る舞いベースラインからの逸脱、UEBA(User and Entity Behavior Analytics)との連携、異常なデータアクセスパターン。限界と補完策:EDRだけでは不十分な場合もあり、DLP(Data Loss Prevention)との組み合わせで情報持ち出しを防止、アクセス制御の強化(最小権限の原則)、従業員教育とポリシー整備、定期的な権限レビューが必要です。また、内部不正の多くは意図的ではなく、過失や誤操作によるものです。教育と技術的対策の両面からアプローチすることが重要です。詳細は[内部不正対策](/security/insider-physical/insider-threat/)も参照してください。
Q: クラウド環境(AWS、Azure等)のワークロードもEDRで保護できますか?
A: はい、多くのEDR製品はクラウドワークロード(仮想マシン、コンテナ)もサポートしています。対応状況:主要EDRベンダー(CrowdStrike、Microsoft、SentinelOne等)は、クラウド環境向けのエージェントを提供。仮想マシン(EC2、Azure VM等)には通常のエージェントをインストール。コンテナ(Docker、Kubernetes)には専用の軽量エージェントを使用。サーバーレス(Lambda、Azure Functions)は一部製品のみ対応。注意点:①クラウド特有の脅威(設定ミス、APIキー漏洩等)は、CSPM(Cloud Security Posture Management)やCWPP(Cloud Workload Protection Platform)との併用が推奨、②自動スケーリング環境では、エージェントの自動展開設定が必要、③コンテナは短命なため、イメージ段階でのセキュリティスキャンも重要。統合アプローチとして、エンドポイント、サーバー、クラウドワークロードを統一プラットフォームで管理できる製品(XDR)が増えています。

必須内部リンク一覧

本記事内で使用した主要な内部リンク:

  1. マルウェア感染:包括的な対策ガイド(ピラーページ)
  2. マルウェア感染対策の技術ソリューション総合ガイド(カテゴリトップ)
  3. エンドポイントセキュリティ最新動向と実装戦略
  4. SIEM/SOAR統合による自動化セキュリティ運用
  5. フォレンジック調査の実施
  6. CSIRT/SOC構築・運用ガイド
  7. 認証情報の窃取(上位階層)
  8. APT(標的型攻撃)グループの手法と対策
  9. 脅威インテリジェンス活用による先回り防御
  10. インシデント初動対応ガイド

【重要なお知らせ】

  • 本記事は、2024-2025年時点の情報に基づく一般的な技術解説および導入ガイドです
  • EDR/MDRの選定や導入は、組織の具体的な要件、環境、予算、リスクプロファイルに基づいて行ってください
  • 製品の機能や性能は継続的に進化しています。最新の情報は各ベンダーの公式ドキュメントでご確認ください
  • 本記事で言及した製品名、ベンダー名、価格は執筆時点の情報であり、特定製品の推奨や保証を意味するものではありません
  • 重大なセキュリティインシデントが発生した場合は、速やかに専門家、ベンダー、または法執行機関に相談してください
  • EDR/MDRは強力なツールですが、「完璧」や「絶対安全」を保証するものではありません。多層防御とインシデント対応の一部として位置づけてください

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。