データ持ち出し(Exfiltration)を初心者でも分かりやすく解説

あなたの会社で今、信頼していた従業員が機密データをこっそり持ち出しているかもしれません。データ持ち出し(Exfiltration)は、組織内部の人間や不適切なデータ管理により、機密情報が外部へ流出する横断テクニック(広く使われる攻撃手口)です。統計では、情報漏洩事案の約55%が内部不正やデータ管理不備に起因しています。特に転職・退職に伴うデータ持ち出しが急増しており、リモートワークの普及により監視が困難になっています。一度データが持ち出されると、競争優位性の喪失、顧客情報の流出、法的責任、組織内の信頼関係の崩壊など、取り返しのつかない被害が発生します。この記事では、内部不正によるデータ持ち出しの最新動向、深刻な被害の実態、そしてアクセス制御や退職者管理などのセキュリティ対策を、専門知識をもとに分かりやすく解説します。

データ持ち出し(Exfiltration)とは?

データ持ち出し(Exfiltration)とは、組織内部の人間や不適切なデータ管理により、機密情報や重要なデータが意図的または非意図的に外部へ流出するサイバー攻撃の手法です。この横断テクニック(広く使われる攻撃手口)は、外部からのサイバー攻撃だけでなく、むしろ内部不正(インサイダー脅威)やデータ管理不備によって発生するケースが多く、企業秘密、顧客情報、知的財産、財務データなどが持ち出されます。

データ持ち出しは「データ流出」「情報窃取」「データ漏洩」とも呼ばれますが、特に重要なのは内部の人間による意図的な持ち出しです。従業員、退職予定者、契約社員、協力会社のスタッフなど、正規のアクセス権を持つ人物が、私的な利益、転職先への手土産、不満や報復、金銭目的などの理由でデータを持ち出します。また、セキュリティ対策の不備により、アクセス制限が適切でない、持ち出しが監視されていない、USBメモリやクラウドサービスが自由に使えるといった管理上の問題も、データ持ち出しを容易にしています。

この攻撃手法の特徴は、正規のアクセス権を悪用するため技術的な検知が非常に困難である点です。従業員は業務上当然アクセスできるデータを扱うため、通常の業務との区別がつきにくく、持ち出しが発覚するのは退職後や情報が悪用された後になることが多いです。近年では、リモートワークの普及により自宅から会社のデータにアクセスする機会が増え、データ持ち出しのリスクがさらに高まっています。

データ持ち出しは、製造業、IT企業、金融機関、医療機関など、あらゆる業種で発生しており、企業にとって深刻なセキュリティ対策の課題となっています。

データ持ち出し(Exfiltration)を簡単に言うと?

データ持ち出しを日常生活に例えると、「会社で働いている従業員が、会社の重要な書類をこっそりコピーして持ち帰る」行為に似ています。

想像してみてください。あなたの会社に、長年働いてきた優秀な従業員がいます。この従業員は、重要な顧客リストや製品の設計図にアクセスする権限を持っています。ある日、この従業員が転職を決意し、競合他社に移ることになりました。

退職の数週間前から、この従業員は少しずつ会社の重要な情報をコピーし始めます。顧客リストをスマートフォンで撮影したり、設計図を個人のメールアドレスに送信したり、USBメモリにファイルをコピーしたりします。これらはすべて、この従業員が日常的に行っている業務の範囲内なので、周囲は何も不審に思いません。

そして退職当日、この従業員は「お世話になりました」と挨拶をして会社を去ります。会社の人事部はアカウントを停止し、社員証を回収しますが、既に重要なデータは持ち出された後です。数ヶ月後、あなたの会社の顧客に競合他社から営業電話がかかり始めます。新製品を発表しようとしたら、競合他社が酷似した製品を先に発表していました。その時初めて、データが持ち出されていたことに気づくのです。

これは悪意のある例ですが、意図的でない場合もあります。ある従業員が自宅で仕事をするために、会社のファイルを個人のクラウドストレージにアップロードします。本人は仕事の効率化のためと思っていますが、そのクラウドサービスのセキュリティが脆弱だったり、アカウントが侵害されたりすると、会社の機密情報が外部に流出してしまいます。

あるいは、退職する従業員が「自分が作った資料だから」と思って、ポートフォリオとして持ち帰るケースもあります。本人に悪意はなくても、その資料には会社の機密情報や顧客情報が含まれているかもしれません。

デジタルの世界では、こうしたデータ持ち出しが非常に簡単にできてしまいます。大量のファイルを数秒でUSBメモリにコピーしたり、数クリックで個人のメールアドレスに送信したり、スマートフォンで画面を撮影したりできます。しかも、紙の書類と違って「なくなった」ことに気づきにくいのです。元のデータはそのまま会社に残っているため、コピーされたことに誰も気づかないまま時間が経ってしまいます。

最も怖いのは、信頼していた従業員による持ち出しです。上司や同僚は「あの人がそんなことをするはずがない」と思うため、疑うことなく重要な情報へのアクセスを許してしまいます。そして、被害に気づいた時には、すでに情報は競合他社や第三者の手に渡っているのです。

データ持ち出し(Exfiltration)の現状

データ持ち出しによる情報漏洩は、2024年から2025年にかけて深刻化していますが、その多くが内部不正やデータ管理不備に起因しています。情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、内部不正による情報漏洩が引き続き上位にランクインしており、企業にとって外部からのサイバー攻撃と同等かそれ以上の脅威となっています。

特に注目すべき最近の傾向として、以下のような手法やパターンが増加しています。

転職・退職に伴うデータ持ち出しの急増が2024年に顕著になっています。労働市場の流動化により転職が一般化する中、退職予定の従業員が競合他社への「手土産」として会社の機密情報を持ち出すケースが増加しています。IPAの調査によると、退職者による情報持ち出しは、発覚した内部不正の約40%を占めています。特に、営業担当者が顧客リストを持ち出す、エンジニアが設計図やソースコードを持ち出す、研究者が実験データを持ち出すといったケースが多く報告されています。

リモートワークの普及による管理の困難化も深刻な問題です。在宅勤務が一般化した結果、従業員が自宅から会社のデータにアクセスする機会が増え、データ持ち出しのリスクが大幅に高まっています。自宅では上司や同僚の目がないため、データをUSBメモリにコピーしたり、個人のクラウドストレージにアップロードしたりすることが容易です。2024年の調査では、リモートワーク環境下でのデータ持ち出し事案が前年比で約50%増加しています。

私物デバイスとクラウドサービスの無秩序な利用も大きな問題です。多くの企業では、従業員が業務効率化のために個人のスマートフォン、タブレット、USBメモリ、個人契約のクラウドサービスを使用しています。これらのデバイスやサービスは企業の管理下になく、データがどこに保存されているか、誰がアクセスできるのかを把握することが困難です。こうした「シャドーIT」を通じたデータ持ち出しや意図しない流出が増加しています。

不満を持つ従業員による報復的な情報持ち出しも無視できません。人事評価への不満、給与への不満、解雇通告への怒りなどから、従業員が意図的に会社に損害を与えるために情報を持ち出すケースがあります。このような場合、従業員は最大限のダメージを与えることを目的とするため、可能な限り多くの機密情報を持ち出し、競合他社に売却したり、インターネット上に公開したりします。

アクセス権限管理の不備による意図しない流出も深刻です。多くの企業では、従業員に必要以上のアクセス権限が付与されていたり、退職後もアカウントが有効なままになっていたりします。また、プロジェクト終了後もアクセス権が削除されず、本来アクセスすべきでない情報に引き続きアクセスできる状態が放置されています。こうした管理不備により、意図的でなくても情報が持ち出されたり、悪用されたりするリスクが高まっています。

協力会社や派遣社員によるデータ持ち出しも増加しています。企業は業務の一部を外部に委託することが多く、協力会社のスタッフや派遣社員も社内システムにアクセスします。しかし、これらの外部人材に対するセキュリティ教育や監視は正社員に比べて不十分なことが多く、契約終了時のアクセス権削除も徹底されていません。結果として、元協力会社スタッフが過去にアクセスできたデータを持ち出して悪用する事例が報告されています。

警察庁の統計によると、2024年上半期に報告された情報漏洩事案のうち、約55%が内部の人間による持ち出しまたは管理不備に起因しています。被害額も高額化しており、顧客情報の流出による損害賠償、取引先からの信頼喪失による受注減少、株価の下落などを含めると、一件あたり数千万円から数億円に達するケースも報告されています。

また、内部不正によるデータ持ち出しは発覚までに時間がかかることが特徴です。多くの場合、情報が実際に悪用されたり、第三者から指摘を受けたりして初めて発覚するため、平均で6ヶ月から1年以上経過してから被害に気づくケースが大半です。その間に情報はさらに拡散し、被害が拡大してしまいます。

データ持ち出し(Exfiltration)で発生する被害は?

内部不正やデータ管理不備によるデータ持ち出しの被害は、外部からのサイバー攻撃以上に深刻な影響を及ぼすことがあります。なぜなら、内部の人間は正規のアクセス権を持ち、どこに重要な情報があるかを熟知しており、組織の脆弱性も把握しているため、最も価値あるデータを効率的に持ち出すことができるからです。

特に重要なのは、信頼していた従業員による裏切りという心理的ダメージと、「内部管理ができていなかった」という企業責任が問われる点です。データが一度持ち出されると、その後の拡散や悪用を完全に防ぐことはほぼ不可能であり、被害は長期間にわたって継続します。

データ持ち出し(Exfiltration)で発生する直接的被害

競争優位性の完全喪失

従業員が競合他社に転職する際に顧客リスト、製品設計図、製造ノウハウ、研究データ、価格戦略などを持ち出すと、長年かけて構築してきた競争優位性が一瞬で失われます。2024年の事例では、大手製造業の元技術者が次世代製品の設計図とサプライヤー情報を持ち出して転職先の競合企業に渡し、その企業が類似製品を半年早く市場投入することに成功しました。元の企業は数年分の研究開発投資が無駄になり、予定していた市場シェアの獲得に失敗しました。

営業担当者が持ち出す顧客リストは特に深刻です。顧客の連絡先だけでなく、購買履歴、予算規模、決裁者情報、課題やニーズなどの詳細情報が含まれているため、転職先の企業はこれらの顧客に効率的にアプローチできます。元の企業は長年かけて築いた顧客関係を一気に失うことになります。

研究機関や製薬会社では、研究者が実験データや臨床試験結果を持ち出すケースがあります。これらのデータは何年もかけて蓄積された貴重な資産であり、競合他社がこれを入手すれば、同様の研究を大幅に短縮できます。特許出願前のデータが流出した場合、特許権を取得できなくなる可能性もあります。

顧客・個人情報の大規模流出と法的責任

従業員が顧客の個人情報を持ち出し、それが第三者に渡ったり悪用されたりした場合、企業は個人情報保護法に基づく重大な法的責任を負います。2024年には、ある企業の元従業員が数十万件の顧客情報をUSBメモリにコピーして持ち出し、名簿業者に売却した事例が発覚しました。企業は全顧客への通知、監督官庁への報告、記者会見の実施を余儀なくされ、対応コストだけで数億円に達しました。

個人情報保護委員会からの行政指導や命令を受けると、企業の社会的信用は大きく損なわれます。重大な違反の場合、法人に対して最大1億円の罰金が科される可能性があります。また、情報が流出した個人からの集団訴訟も増加しており、一人あたり数万円から数十万円の損害賠償を求められるケースもあります。

医療機関で患者の診療記録が持ち出された場合、医療法や個人情報保護法に加えて、守秘義務違反として刑事責任も問われる可能性があります。患者の病歴、治療内容、処方薬などの情報は極めてセンシティブであり、これが流出すると患者個人の尊厳を著しく侵害します。

金融機関では、顧客の資産情報、取引履歴、信用情報などが持ち出されると、詐欺や恐喝のターゲットリストとして悪用されます。富裕層の情報は特に価値が高く、闇市場で高額で取引されます。

財務情報・内部情報の流出による株価への影響

上場企業の場合、未公表の財務情報、M&A計画、人事異動、業績予測などの内部情報が持ち出されて流出すると、インサイダー取引に悪用されたり、株価に直接的な影響を与えたりします。2024年には、ある企業の経理担当者が四半期決算の数字を発表前に知人に漏らし、その知人が株取引で利益を得たことが発覚し、両者が金融商品取引法違反で逮捕されました。

M&A交渉中の情報が流出すると、交渉が決裂したり、第三者に買収の機会を奪われたりします。買収価格や条件などの機密情報が競合他社に知られると、企業は大きな損失を被ります。

重要な経営判断に関する情報が事前に流出すると、競合他社に先手を打たれたり、株主や取引先からの信頼を失ったりします。「情報管理ができていない企業」というレッテルが貼られると、ビジネスパートナーとして敬遠され、新規取引の獲得が困難になります。

データ持ち出し(Exfiltration)で発生する間接的被害

組織内の信頼関係の崩壊

内部不正によるデータ持ち出しが発覚すると、組織内の信頼関係が根底から揺らぎます。従業員同士が疑心暗鬼になり、「誰が情報を持ち出したのか」「他にも持ち出している人がいるのではないか」という不信感が蔓延します。上司は部下を信頼できなくなり、チーム間の情報共有も躊躇されるようになります。

経営層は「管理責任」を問われ、責任の所在を巡って内部対立が発生することもあります。情報セキュリティ部門とIT部門、人事部門の間で責任の押し付け合いが起こり、組織が分断されます。優秀な従業員が「こんな会社にいられない」と感じて退職してしまうこともあり、人材流出が加速します。

特に深刻なのは、長年信頼していた従業員による裏切りです。「まさかあの人が」という衝撃は大きく、経営陣や同僚の精神的ダメージは計り知れません。組織文化そのものが否定されたような感覚に陥り、企業理念や価値観の見直しを迫られることもあります。

採用活動と人材確保への悪影響

内部不正による情報漏洩が報道されると、「情報管理がずさんな会社」「従業員を監視する会社」というネガティブなイメージが定着します。就職活動中の学生や転職希望者は、そのような企業を避ける傾向にあります。特に優秀な人材ほど、企業の評判を重視するため、採用活動が困難になります。

また、情報漏洩後にセキュリティ対策を強化すると、従業員の行動が厳しく監視されるようになり、「監視社会のような職場」として敬遠されることもあります。USBメモリの使用禁止、メール監視、持ち物検査などの対策は必要ですが、行き過ぎると職場環境が悪化し、人材流出を招きます。

既存の従業員も、厳しい監視体制に不満を感じ、士気が低下します。「信頼されていない」と感じた従業員は、創造性や主体性を失い、最低限の業務しか行わなくなります。結果として、組織全体の生産性が低下し、競争力が損なわれます。

取引先や顧客からの信頼喪失

データ持ち出し事件が公になると、取引先や顧客は「自社の情報も漏洩するのではないか」と懸念します。特に、BtoB企業の場合、セキュリティ審査で不合格となり、大口取引を失うことがあります。金融機関、官公庁、大手企業などは厳格なセキュリティ基準を設けており、内部不正による情報漏洩の履歴がある企業との取引を避けます。

既存の取引先からも、「情報管理体制の報告書提出」「セキュリティ監査の受け入れ」「損害賠償条項の追加」などを要求され、取引条件が大幅に悪化します。契約を打ち切られるケースもあり、売上が急減します。

顧客の個人情報が流出した場合、顧客は二度とその企業のサービスを利用しなくなります。オンラインサービスであればアカウントを削除し、小売業であれば来店しなくなります。SNSやレビューサイトで批判が拡散され、風評被害が長期間継続します。新規顧客の獲得も困難になり、ビジネスの継続そのものが危ぶまれます。

対応コストと事業への長期的影響

内部不正が発覚すると、フォレンジック調査、弁護士への相談、警察への被害届提出、監督官庁への報告、被害者への通知、記者会見の実施、再発防止策の策定と実施など、膨大なコストが発生します。2024年の調査では、大規模な内部不正事案の対応に平均で1年以上、総コストは数億円に達すると報告されています。

犯人である従業員に対する懲戒解雇、損害賠償請求、刑事告訴などの法的手続きも必要です。裁判は長期化することが多く、弁護士費用も高額になります。たとえ勝訴しても、元従業員に支払い能力がなければ賠償金を回収できません。

セキュリティ対策の全面的な見直しも必要です。アクセス制御システムの導入、監視カメラの設置、DLPソリューションの導入、従業員教育の強化など、数千万円から数億円の投資が必要になります。中小企業の場合、この負担に耐えられず、事業を縮小したり、廃業したりするケースもあります。

株主からの訴訟リスクもあります。上場企業の場合、情報漏洩により株価が下落すると、株主から「適切な管理を怠った」として取締役の責任を問われることがあります。株主代表訴訟が提起されれば、経営陣は個人として巨額の賠償責任を負う可能性があります。

最も深刻なのは、企業ブランドの毀損が長期間継続することです。一度「情報管理ができない会社」というレッテルを貼られると、その回復には何年もかかります。同業他社との競争で常に不利な立場に立たされ、市場シェアを徐々に失っていきます。

データ持ち出し(Exfiltration)の対策方法

内部不正やデータ管理不備によるデータ持ち出しへのセキュリティ対策は、技術的な制御、組織的な管理、そして人間的な信頼関係の構築という三つの側面から総合的に取り組む必要があります。この横断テクニック(広く使われる攻撃手口)に対抗するには、「従業員を信頼する」と「適切に監視する」のバランスを取ることが重要です。

重要なのは、「内部不正を完全に防ぐことは困難」という前提に立ちつつも、持ち出しを困難にし、万が一発生しても早期に検知し、被害を最小限に抑える多層防御の考え方です。また、従業員が不満を抱えにくい組織環境を作ることで、そもそも内部不正を起こす動機を減らすことも重要です。

アクセス制御と最小権限の原則の徹底

内部不正を防ぐ最も基本的な対策は、すべての従業員に「業務上必要な最小限の権限のみ」を付与することです。「念のため」「将来使うかもしれないから」という理由で広範な権限を与えることは避けてください。例えば、営業担当者には顧客リストへのアクセスは必要ですが、製品設計図へのアクセスは不要です。開発者にはソースコードへのアクセスは必要ですが、財務データへのアクセスは不要です。

職務分離(Segregation of Duties)の原則も重要です。一人の従業員が、データの作成、承認、実行のすべてを行えるようにしてはいけません。例えば、顧客データの閲覧と外部への送信を同一人物が行えないようにします。これにより、内部不正を実行するためには複数の人間の共謀が必要となり、ハードルが上がります。

アクセス権限は定期的に見直してください。プロジェクトが終了したら関連データへのアクセス権を削除する、人事異動があったら旧部署のデータへのアクセスを削除する、といった運用を徹底します。特に、退職が決まった従業員については、退職日の数週間前から重要データへのアクセスを段階的に制限していくことを検討してください。

ロールベースアクセス制御(RBAC)システムを導入し、役職や職務に応じて自動的に適切な権限が付与されるようにします。人事システムと連携させれば、異動や退職と同時にアクセス権が自動的に変更されるため、管理の手間が減り、権限の削除忘れも防げます。

USBメモリと外部デバイスの厳格な管理

USBメモリや外付けハードディスク、スマートフォンなどの外部デバイスは、データ持ち出しの最も一般的な手段です。これらのデバイスの使用を技術的に制限してください。デバイス制御ソフトウェアを導入し、許可されていないUSBメモリが接続されても、自動的にブロックされるようにします。

業務上どうしても外部デバイスが必要な場合は、事前申請と承認プロセスを設けてください。使用するデバイスのシリアル番号を登録し、そのデバイスのみが使用できるようにします。使用履歴はログに記録し、定期的に監査します。承認されたUSBメモリには暗号化を義務付け、万が一紛失しても内容が読み取れないようにします。

スマートフォンによる画面撮影も重要な持ち出し経路です。機密情報を扱う場所では、スマートフォンの持ち込みを禁止するか、カメラにシールを貼る、専用ケースに入れるなどの物理的な対策を講じてください。また、画面の透かし機能を使って、撮影された画面に従業員IDと日時が自動的に記録されるようにすることも抑止力になります。

プリンターやコピー機の使用も監視してください。重要文書の印刷やコピーを行う際には、認証を要求し、誰が何を印刷したかをログに記録します。大量の印刷やコピーがあった場合は、管理者に警告が届くようにします。

個人メールとクラウドサービスの制限

従業員が業務用データを個人のメールアドレスに送信したり、個人契約のクラウドストレージ(Dropbox、Google Drive、OneDriveなど)にアップロードしたりすることは、データ持ち出しの大きなリスクです。メールゲートウェイを設置し、個人メールアドレスへの添付ファイル送信をブロックしてください。

会社支給のパソコンからは、業務用クラウドサービスのみにアクセスできるようにし、個人用クラウドサービスへのアクセスをファイアウォールでブロックします。ただし、完全にブロックすると業務効率が低下する場合もあるため、DLP(Data Loss Prevention)ソリューションを導入し、機密データが含まれるファイルのみをブロックする方法も検討してください。

ウェブメールサービス(Gmail、Yahoo!メールなど)へのアクセスも制限を検討してください。業務用パソコンからはウェブメール自体にアクセスできないようにするか、添付ファイルのアップロードのみをブロックします。

スマートフォンからのデータ送信も監視が必要です。会社支給のスマートフォンには MDM(Mobile Device Management)ソフトウェアを導入し、業務用アプリと個人用アプリを分離します。業務用データは個人用アプリからはアクセスできないようにし、コピー&ペーストも制限します。

退職者・退職予定者の特別な管理

統計的に、データ持ち出しは退職前の数週間から数ヶ月の間に実行されることが多いため、退職者・退職予定者に対する特別な管理が必要です。退職の意思表示があった時点で、その従業員のアクセス権限を見直してください。業務上必要な最小限のアクセスのみに制限し、機密性の高いデータへのアクセスは削除します。

退職予定者のログを重点的に監視してください。大量のファイルダウンロード、印刷、メール送信、USBメモリへのコピーなどがないか、毎日チェックします。異常が検知されたら、直ちに上司と人事部門に報告し、必要に応じて面談を行います。

退職日当日は、朝一番でシステムアカウントを無効化し、VPN接続やリモートアクセスもすべて遮断します。会社支給のパソコン、スマートフォン、USBメモリ、社員証、鍵などをすべて回収し、私物が残っていないか確認します。退職後もメールアカウントに転送設定が残っていないか、共有ドライブへのアクセス権が残っていないかを確認してください。

競合他社への転職が判明している場合は、さらに厳格な対応が必要です。退職日の数週間前から重要な会議への出席を制限したり、機密プロジェクトから外したりすることも検討してください。ただし、これらの対応は従業員の権利や労働法に抵触しないよう、法務部門と相談しながら慎重に進める必要があります。

ログ監視と行動分析の実施

すべての従業員の行動をログとして記録し、定期的に分析してください。ファイルアクセスログ、メール送信ログ、プリンターログ、ネットワークアクセスログ、USBデバイス接続ログなど、可能な限り詳細に記録します。これらのログは改ざんされないよう、別のシステムに集約して保管します。

UEBA(User and Entity Behavior Analytics)ツールの導入を検討してください。これは、各従業員の通常の行動パターンを機械学習で学習し、異常な行動を自動的に検知するシステムです。例えば、普段アクセスしないファイルに大量にアクセスしている、勤務時間外にログインしている、通常より多くのデータをダウンロードしている、といった異常を検知すると、管理者に警告します。

特に以下のような行動は、データ持ち出しの前兆である可能性が高いため、重点的に監視してください:

  • 深夜や休日の長時間ログイン
  • 自分の担当業務外のファイルへの大量アクセス
  • 大量のファイルダウンロードや印刷
  • 個人メールアドレスへの頻繁な送信
  • USBメモリへの大量コピー
  • クラウドストレージへの大量アップロード
  • アクセス権限の変更を試みる行為

これらの異常を検知したら、まず上司や人事部門と情報共有し、本人に確認します。業務上の正当な理由があれば問題ありませんが、説明が不自然であったり、不満を抱えている従業員であったりする場合は、より厳重な監視を継続します。

従業員教育と組織文化の構築

技術的対策だけでは内部不正を完全に防ぐことはできません。従業員一人ひとりが「データ持ち出しは犯罪である」という認識を持つことが重要です。定期的なセキュリティ研修を実施し、データ持ち出しの法的リスク(懲戒解雇、損害賠償請求、刑事告訴など)を明確に伝えてください。

特に、退職時の注意事項として、「業務で作成した資料も会社の所有物であり、持ち出しは禁止」「ポートフォリオとして使いたい場合は事前に許可を得る」「競合他社に転職する場合は秘密保持契約を遵守する」といった点を明確に説明してください。退職時には、秘密保持に関する誓約書を改めて提出させることも有効です。

しかし、監視や処罰だけでは十分ではありません。従業員が不満を抱えにくい組織環境を作ることが、内部不正の予防には最も効果的です。公正な人事評価、適切な報酬、風通しの良いコミュニケーション、キャリアパスの明確化などにより、従業員の満足度を高めます。

「情報セキュリティは全員の責任」という文化を醸成してください。データ持ち出しは「一部の悪意ある人間だけの問題」ではなく、「誰もが誘惑に駆られる可能性がある」という前提に立ち、互いに監視し合うのではなく、互いに守り合う文化を作ります。

また、内部通報制度を整備し、同僚や上司の不審な行動を匿名で報告できるようにしてください。ただし、誤った通報や悪意のある通報を防ぐため、通報者の保護と同時に、通報内容の慎重な調査が必要です。

インシデント対応計画と定期的な見直し

データ持ち出しが疑われる場合の初動対応を明確にしておいてください。誰に報告するか、どのような調査を行うか、警察に通報する基準は何か、弁護士に相談するタイミングはいつか、といった手順を文書化し、関係部門に周知します。

年に一度は、データ持ち出しを想定した訓練を実施してください。「退職予定の従業員が大量のファイルをダウンロードしている」という想定で、どのように対応するかをシミュレーションします。IT部門、人事部門、法務部門、経営陣が連携して対応する練習をすることで、実際の事案が発生した際に迅速に動けます。

データ分類を定期的に見直し、どの情報が最も重要で厳重に保護すべきかを明確にします。すべてのデータを同じように守ろうとすると、コストが膨大になり、効果も薄れます。最重要データに集中して対策を講じることで、効率的に内部不正を防ぐことができます。

アクセス権限も定期的に監査してください。誰がどのデータにアクセスできるのか、それは本当に業務上必要なのか、不要な権限が残っていないか、といった点をチェックします。特に、退職者のアカウントが削除されているか、長期休職者のアカウントが停止されているかなど、基本的な管理ができているかを確認します。

データ持ち出し(Exfiltration)の対策を簡単に言うと?

内部不正によるデータ持ち出しの対策を日常生活に例えると、「会社の機密書類室を適切に管理する」ことに似ています。

会社に機密書類室があると想像してみてください。そこには、顧客リスト、設計図、財務報告書など、会社にとって極めて重要な書類が保管されています。

入室制限と記録:まず、機密書類室には誰でも入れるわけではありません。入室には社員証が必要で、誰がいつ入室したかが自動的に記録されます。これは「アクセス制御とログ記録」に相当します。

必要な人だけにアクセス許可:営業部の人は顧客リストにアクセスできますが、設計図にはアクセスできません。開発部の人はその逆です。これは「最小権限の原則」に相当します。全員が全部の書類を見られるようにすると、持ち出しのリスクが高まります。

持ち出し制限と監視:書類室から書類を持ち出す場合は、申請書を提出し、上司の承認が必要です。コピーを取る場合も記録されます。大量にコピーしようとすると、警備員に通知が行きます。これは「DLPとログ監視」に相当します。

退職予定者への特別な注意:来月退職することが分かっている従業員が、突然大量の書類をコピーし始めたら、警備員は不審に思うはずです。退職予定者については、特に注意深く監視します。これは「退職者管理」に相当します。

私物の管理:書類室には、大きなバッグやカメラ付きスマートフォンの持ち込みを禁止します。書類を密かに持ち出したり、撮影したりするのを防ぐためです。これは「USBメモリとデバイス制限」に相当します。

信頼と監視のバランス:しかし、あまりに厳しく監視しすぎると、従業員は「信頼されていない」と感じ、士気が下がります。そのため、監視だけでなく、従業員が満足できる職場環境を作ることも重要です。公正な評価、適切な報酬、良好なコミュニケーションがあれば、そもそも不正をしようと思う人が減ります。これは「組織文化の構築」に相当します。

定期的なチェック:月に一度、誰がどの書類にアクセスしたかを監査します。不要になった権限が残っていないか、退職者のIDカードが回収されているか、といった点を確認します。これは「定期的な権限見直し」に相当します。

事前の教育:新入社員研修で、「会社の書類を無断で持ち出すことは犯罪であり、懲戒解雇や損害賠償請求の対象になる」と明確に伝えます。これは「従業員教育」に相当します。

退職時の手続き:退職日には、IDカード、会社支給のパソコン、USBメモリなどをすべて回収し、書類室へのアクセスも即座に停止します。これは「退職時のアカウント無効化」に相当します。

デジタルの世界でも、まったく同じ考え方で、重要なデータを守る必要があります。技術的な制御(アクセス制限、デバイス管理、ログ監視)と、組織的な管理(権限の定期見直し、退職者管理)、そして人間的な信頼関係(従業員満足度の向上、教育)を組み合わせることで、内部不正によるデータ持ち出しを防ぐことができるのです。

データ持ち出し(Exfiltration)に関連した攻撃手法

データ持ち出しは、他のセキュリティリスクや攻撃手法と密接に関連しています。特に内部不正・データ管理不備の文脈では、組織内部の脆弱性や管理の甘さが複合的にデータ持ち出しのリスクを高めます。ここでは、データ持ち出しと密接に関連する横断テクニック(広く使われる攻撃手口)や内部リスクについて解説します。

内部不正(インサイダー脅威)との関係

内部不正(インサイダー脅威)は、データ持ち出しの最も直接的な原因です。内部不正とは、組織内部の人間(従業員、契約社員、協力会社のスタッフなど)が、意図的に組織に損害を与えたり、私的な利益を得たりする行為を指します。データ持ち出しは、内部不正の最も一般的な形態の一つです。

内部不正の動機は様々です。金銭目的の場合、従業員は競合他社や第三者に情報を売却することで利益を得ようとします。顧客リストや設計図などの機密情報は、闇市場で高額で取引されます。また、転職する際に「手土産」として持ち出し、転職先での自分の価値を高めようとする従業員もいます。

不満や報復が動機の場合もあります。人事評価に不満を持つ従業員、解雇を通告された従業員、パワハラを受けた従業員などが、会社に損害を与えるために意図的にデータを持ち出し、競合他社に渡したり、インターネット上に公開したりします。

さらに深刻なのは、「悪意のない内部不正」です。従業員が「自分が作った資料だから持ち帰っても問題ない」「自宅で仕事をするために必要」と考えて、無断でデータを持ち出すケースです。本人に悪意はなくても、そのデータが流出したり、悪用されたりするリスクがあります。

内部不正とデータ持ち出しの関係を理解することは、対策を考える上で非常に重要です。技術的な制御だけでなく、従業員の満足度を高め、不満を解消し、セキュリティ意識を向上させることで、内部不正の動機そのものを減らすことができます。

シャドーIT・無許可SaaSとの関係

シャドーIT・無許可SaaSは、従業員が企業の承認を得ずに個人契約のクラウドサービスやアプリケーションを業務で使用することを指します。これが、意図しないデータ持ち出しの大きな原因となっています。

例えば、従業員が自宅で仕事をするために、会社の資料を個人のDropboxやGoogle Driveにアップロードするケースがあります。本人は業務効率化のためと考えていますが、これらのサービスは企業の管理下になく、セキュリティ設定が適切でない場合、第三者がアクセスできる状態になっている可能性があります。

また、従業員が個人のメールアドレスに業務ファイルを送信して自宅で作業することもあります。しかし、個人のメールアカウントがハッキングされたり、誤って他人に転送したりすると、機密情報が流出します。

無許可のコミュニケーションツール(Slack、Teams、LINE WORKSなど)を使用して、社内の機密情報をやり取りすることも問題です。これらのツールは便利ですが、企業のIT部門が管理していないため、データがどこに保存されているのか、誰がアクセスできるのか、退職後もアクセスが残っていないかなどを把握できません。

ファイル転送サービス(WeTransfer、ギガファイル便など)も、データ持ち出しの経路になります。従業員が大容量ファイルを送信するために利用しますが、これらのサービスは送信先を間違えたり、ダウンロードリンクが漏洩したりするリスクがあります。

シャドーITによるデータ持ち出しを防ぐには、まず従業員がどのようなサービスを使用しているかを可視化する必要があります。CASB(Cloud Access Security Broker)ツールを導入し、企業ネットワークから接続されているクラウドサービスを監視します。そして、承認されたサービスのリストを作成し、それ以外のサービスへのアクセスを制限します。

ただし、単に禁止するだけでは、従業員は別の方法を見つけようとします。業務上本当に必要なツールやサービスがあれば、企業側が承認し、安全に使用できる環境を提供することが重要です。

サプライチェーン攻撃との関係

サプライチェーン攻撃は、標的企業に直接侵入するのではなく、セキュリティの脆弱な取引先企業や協力会社を経由して攻撃する手法です。データ持ち出しとサプライチェーン攻撃の関係は、二つの側面があります。

第一に、協力会社や派遣社員によるデータ持ち出しです。多くの企業は、業務の一部を外部に委託しており、協力会社のスタッフや派遣社員も社内システムにアクセスします。しかし、これらの外部人材に対するセキュリティ教育や監視は、正社員に比べて不十分なことが多いです。また、契約終了時のアクセス権削除も徹底されていません。

協力会社のスタッフは、複数の企業のプロジェクトに関わることが多く、情報の境界が曖昧になりがちです。A社のプロジェクトで得た知識を、B社のプロジェクトで応用することが当然と考えてしまい、機密情報を持ち出してしまうケースがあります。

第二に、自社からのデータ持ち出しが、サプライチェーン全体への攻撃の入口になることです。例えば、自社の従業員が取引先企業のアクセス情報を持ち出し、それを悪用して取引先のシステムに侵入する、あるいは第三者に売却することで、サプライチェーン攻撃の起点となります。

自社と取引先の間でやり取りされる情報(発注書、納品書、技術仕様書、連絡先リストなど)が持ち出されると、その情報を使って取引先へのなりすまし攻撃やフィッシング攻撃が可能になります。これにより、サプライチェーン全体にセキュリティインシデントが拡大します。

サプライチェーンのセキュリティを強化するには、自社だけでなく、取引先企業のセキュリティレベルも把握する必要があります。契約時にセキュリティ要件を明示し、定期的な監査を実施します。また、協力会社のスタッフに対しても、正社員と同等のセキュリティ教育を実施し、アクセス権限を適切に管理します。

特に重要なのは、契約終了時の手続きです。プロジェクトが終了したら、速やかにアカウントを無効化し、支給したデバイスを回収し、秘密保持契約の遵守を再確認します。協力会社との契約書には、データの取り扱い、持ち出し禁止、違反時の損害賠償などを明記し、法的な抑止力を持たせることも重要です。

データ持ち出し(Exfiltration)のよくある質問

従業員によるデータ持ち出しに気づくにはどうすればいいですか?
従業員によるデータ持ち出しには、いくつかの特徴的な兆候があります。まず、異常な行動パターンに注目してください。普段アクセスしないファイルに大量にアクセスしている、深夜や休日に長時間ログインしている、自分の担当業務外のデータをダウンロードしている、大量の印刷やUSBメモリへのコピーを行っているなどが警戒すべきサインです。特に退職予定の従業員や、不満を抱えている従業員にこのような行動が見られた場合は要注意です。ログ監視システムやUEBA(User and Entity Behavior Analytics)ツールを導入し、各従業員の通常の行動パターンを学習させることで、異常な行動を自動的に検知できます。ただし、すべての異常が不正とは限らないため、検知した場合はまず上司や人事部門と情報共有し、本人に確認することが重要です。業務上の正当な理由があるかもしれませんが、説明が不自然であったり、口裏合わせをしようとしたりする場合は、より厳重な監視を継続してください。
すでにデータが持ち出された疑いがある場合、何をすべきですか?
データ持ち出しが疑われる場合、証拠を保全しながら慎重に対応する必要があります。まず、疑いのある従業員のアカウントを無効化する前に、現在の状態を保存してください。アカウントを停止すると、証拠が失われる可能性があります。IT部門と連携し、その従業員のログをすべて取得し、どのファイルにアクセスしたか、どこに送信したか、USBメモリに何をコピーしたかを調査します。並行して、人事部門と法務部門に報告し、対応方針を協議してください。本人への事情聴取を行う場合は、弁護士の立会いのもとで実施することをお勧めします。持ち出しが確認された場合は、懲戒処分、損害賠償請求、刑事告訴などを検討します。ただし、労働法に抵触しないよう、手続きは慎重に進めてください。また、持ち出されたデータに顧客の個人情報が含まれていた場合は、個人情報保護法に基づく報告義務が発生する可能性があります。監督官庁への報告、影響を受ける個人への通知、記者会見の実施などが必要になる場合もあるため、早期に専門家に相談してください。
従業員を信頼しつつ、データ持ち出しを防ぐにはどうバランスを取ればいいですか?
従業員への信頼と適切な監視のバランスは、内部不正対策の最も難しい課題です。鍵となるのは、「透明性」と「公平性」です。まず、どのような監視を行っているかを従業員に明示してください。「ログは記録されています」「USBメモリの使用は申請が必要です」といったルールを就業規則に明記し、入社時や定期的な研修で説明します。隠れて監視するのではなく、オープンに管理していることを伝えることで、従業員は「適切に管理されている」と感じ、不正の抑止にもなります。次に、すべての従業員に同じルールを適用してください。特定の人だけを厳しく監視すると、不信感や差別意識を生みます。役職に関係なく、社長であっても同じアクセス制限やログ記録の対象とすることで、公平性が保たれます。また、監視だけでなく、従業員が満足できる職場環境を作ることが重要です。公正な評価、適切な報酬、良好なコミュニケーション、キャリアパスの明確化などにより、従業員の満足度を高めます。不満を抱えていなければ、そもそも不正をしようと思う人が減ります。さらに、「なぜこのルールが必要なのか」を説明することも大切です。単に「禁止」と言うのではなく、「顧客情報を守るため」「会社の競争力を維持するため」といった理由を伝えることで、従業員の理解と協力が得られます。
退職者によるデータ持ち出しを防ぐ具体的な方法は?
退職者によるデータ持ち出しは最も一般的な内部不正の形態であり、特別な対策が必要です。まず、退職の意思表示があった時点で対応を開始してください。その従業員がアクセスできるデータを確認し、機密性の高いデータへのアクセスを段階的に制限します。ただし、業務に必要なデータへのアクセスまで制限すると、引き継ぎに支障をきたすため、バランスが重要です。次に、その従業員のログを重点的に監視してください。ファイルのダウンロード、印刷、メール送信、USBメモリへのコピーなど、すべての行動を記録し、毎日確認します。異常が検知されたら、直ちに上司と人事部門に報告してください。退職日当日は、朝一番でシステムアカウントを無効化し、VPN接続やリモートアクセスもすべて遮断します。会社支給のパソコン、スマートフォン、USBメモリ、社員証などをすべて回収し、私物が残っていないか確認します。退職面談では、秘密保持義務について改めて説明し、誓約書を提出してもらいます。競合他社への転職が判明している場合は、さらに厳格な対応を検討してください。ただし、これらの対応は従業員の権利や労働法に抵触しないよう、法務部門と相談しながら慎重に進める必要があります。退職後も、元従業員がアクセスできる共有フォルダやメーリングリストが残っていないか、定期的に確認してください。
リモートワーク環境でのデータ持ち出しリスクにどう対応すればいいですか?
リモートワーク環境では、従業員が自宅から会社のデータにアクセスするため、データ持ち出しのリスクが大幅に高まります。まず、VPNとゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)を導入し、すべてのリモートアクセスを暗号化し、認証を強化してください。多要素認証は必須です。次に、会社支給のパソコンのみから業務システムにアクセスできるようにし、私物のパソコンからのアクセスは制限します。会社支給のパソコンには、DLPソフトウェアとデバイス制御ソフトウェアをインストールし、USBメモリへのコピーや個人メールへの送信をブロックします。また、画面共有や画面録画を監視することも検討してください。ただし、プライバシーとのバランスを考慮し、業務時間内のみ監視するなどのルールを設けます。リモートワーク中の従業員に対しては、定期的なセキュリティ研修を実施し、自宅での情報管理の重要性を理解してもらいます。例えば、家族に画面を見られないようにする、印刷した書類を放置しない、オンライン会議の背景に機密情報が映らないように注意する、といった基本的な対策を教育します。さらに、クラウドベースのセキュリティソリューションを活用してください。クラウドアクセスセキュリティブローカー(CASB)を導入すれば、従業員がどこからアクセスしていても、クラウドサービスへのデータアップロードを監視し、制限できます。
協力会社や派遣社員によるデータ持ち出しを防ぐには?
協力会社のスタッフや派遣社員に対しては、正社員とは異なる管理が必要です。まず、契約時に明確なセキュリティ要件を設定してください。アクセスできるデータの範囲、持ち出し禁止事項、違反時の罰則などを契約書に明記します。秘密保持契約(NDA)は必須です。次に、アクセス権限を最小限に制限してください。協力会社のスタッフには、担当業務に直接必要なデータのみにアクセスできるようにし、それ以外のデータは見えないようにします。プロジェクト期間中も、定期的にアクセス権限を見直し、不要になった権限は即座に削除します。協力会社のスタッフに対しても、正社員と同等のセキュリティ研修を実施してください。自社のセキュリティポリシー、データの取り扱い方法、禁止事項などを明確に説明します。契約終了時の手続きも重要です。プロジェクトが終了したら、速やかにアカウントを無効化し、支給したデバイスやIDカードを回収し、秘密保持契約の遵守を再確認します。可能であれば、退出時面談を実施し、データを持ち出していないことを確認してください。また、協力会社自体のセキュリティレベルも確認してください。協力会社がずさんな情報管理をしていると、そこから自社の情報が漏洩する可能性があります。契約前にセキュリティ監査を実施したり、定期的に報告書を提出してもらったりすることで、協力会社のセキュリティレベルを把握し、必要に応じて改善を要求してください。
USBメモリや私物スマートフォンからのデータ持ち出しをどう防ぐ?
USBメモリや私物スマートフォンは、データ持ち出しの最も簡単な手段であり、厳格な管理が必要です。まず、会社のパソコンでは、許可されていないUSBメモリが接続されても自動的にブロックされるよう、デバイス制御ソフトウェアを導入してください。業務上どうしてもUSBメモリが必要な場合は、事前申請と承認プロセスを設け、使用するデバイスのシリアル番号を登録します。承認されたUSBメモリには暗号化を義務付け、万が一紛失しても内容が読み取れないようにします。使用履歴はログに記録し、定期的に監査します。私物スマートフォンについては、BYOD(Bring Your Own Device)ポリシーを策定してください。業務用アプリと個人用アプリを分離するMDM(Mobile Device Management)ソリューションを導入し、業務用データは個人用アプリからアクセスできないようにします。また、カメラによる画面撮影も重要なリスクです。機密情報を扱う場所では、スマートフォンの持ち込みを禁止するか、カメラにシールを貼る、専用ケースに入れるなどの物理的な対策を講じてください。透かし機能を使って、画面に従業員IDと日時を表示することで、撮影された場合でも誰が撮影したかを特定できます。プリンターやコピー機の管理も忘れないでください。重要文書の印刷やコピーには認証を要求し、誰が何を印刷したかをログに記録します。大量の印刷があった場合は、管理者に警告が届くようにします。
データ持ち出しを完全に防ぐことは可能ですか?
残念ながら、内部不正によるデータ持ち出しを100%防ぐことは現実的には不可能です。従業員は正規のアクセス権を持ち、業務上当然データにアクセスできるため、技術的に完全に防ぐことは非常に困難です。また、決意した従業員は、監視の目をかいくぐってデータを持ち出す方法を見つけます。例えば、画面を撮影する、手書きでメモする、記憶して帰宅後に再現するなど、技術的な制御では防げない方法もあります。しかし、「100%防げないから対策は無意味」ということではありません。適切なセキュリティ対策により、持ち出しを困難にし、リスクを大幅に下げ、たとえ持ち出されても早期に検知し、被害を最小限に抑えることができます。重要なのは、「完璧な防御」ではなく「多層防御」の考え方です。技術的制御(アクセス制限、デバイス管理、ログ監視)、組織的管理(権限の定期見直し、退職者管理)、そして人間的信頼関係(従業員満足度の向上、教育)を組み合わせることで、内部不正を起こそうとする動機を減らし、実行を困難にし、早期に検知できます。また、「リスクをゼロにする」のではなく、「許容できるレベルまで下げる」という考え方も重要です。自社にとって最も重要なデータは何か、どのレベルの対策が必要かを見極め、コストと効果のバランスを取りながら対策を進めてください。完全な防御は不可能でも、「持ち出しがバレるリスクが高い」「持ち出しても暗号化されていて使えない」「持ち出しても法的に厳しく追及される」という環境を作ることで、ほとんどの従業員は不正を思いとどまります。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。