SNS乗っ取りの現状
SNSアカウントの乗っ取りは、もはや「他人事」ではありません。2025年現在、月間12,000件もの被害が報告され、前年比65%増という急激な増加を見せています。
2025年の被害統計
国内のSNS不正アクセス被害は深刻化の一途をたどっています。
サービス別被害状況
最も被害が多いのはLINEで月間4,800件(全体の40%)、次いでInstagram 3,600件(30%)、X(旧Twitter)2,400件(20%)となっています。Facebook 720件(6%)、TikTok 480件(4%)と続きます。
被害者の年齢層
20代が35%と最も多く、次いで30代が25%、40代が15%、10代が15%、50代以上が10%という分布です。デジタルネイティブ世代ほど被害に遭いやすい傾向があります。
被害の内容
なりすまし投稿が45%と最多で、詐欺メッセージ送信が30%、アカウント売買が15%、その他が10%です。平均被害額は82,000円、最大被害額は投資詐欺による520万円に上ります。
乗っ取りの手口と動機
攻撃者の目的
攻撃者の70%は金銭目的です。乗っ取ったアカウントから友人にビジネスメール詐欺(BEC)のような詐欺メッセージを送信したり、アカウント自体を闇市場で売買したり、仮想通貨投資を装った投資詐欺に利用します。
20%は嫌がらせ目的で、誹謗中傷の投稿、プライベート情報の暴露、人間関係の破壊を狙います。元恋人や職場のトラブルが背景にあるケースが多く見られます。
残りの10%はその他の目的で、フォロワー数を水増しして転売したり、アフィリエイト広告で収益を得たり、政治的なプロパガンダに利用したりします。
Instagramの乗っ取り対策
最新の手口
偽認証バッジ詐欺
Instagramで急増している手口が「認証バッジ詐欺」です。
攻撃の流れは巧妙です。まず「あなたのアカウントが認証対象に選ばれました」というDMが届きます。公式アカウントを装い、青い認証バッジ取得のチャンスを演出します。
次に偽のフォームへ誘導し、「確認のため」としてユーザー名とパスワードの入力を求めます。さらに「セキュリティ強化のため」と称して二段階認証コードまで要求し、すべての情報を入手した時点でアカウントを完全に乗っ取ります。
見分け方のポイント
- 公式マークは「@verified」のみが本物(@instagram_verifyなどは偽物)
- URLは必ず「instagram.com」で始まる(lnstagram.comなど紛らわしいものに注意)
- 日本語の文法がおかしい箇所がないか確認
- 「24時間以内」など緊急性を煽る文言は詐欺の可能性大
フィッシングDMの特徴
最近のフィッシングDMは非常に巧妙化しています。「著作権侵害の申し立てがありました」「アカウントが停止される可能性があります」といった不安を煽るメッセージや、「期間限定で1万円プレゼント」「有名人からの特別なメッセージ」といった興味を引く内容で、偽サイトへ誘導します。
二段階認証の設定
Instagramの二段階認証は、不正アクセス防止の最重要対策です。
設定手順(詳細)
ステップ1:設定画面へのアクセス
プロフィール画面を開き、右上の三本線メニュー(≡)をタップします。
ステップ2:セキュリティ設定を選択
「設定とプライバシー」→「アカウントセンター」→「パスワードとセキュリティ」の順に進みます。
ステップ3:二段階認証を有効化
「二段階認証」をタップし、設定したいアカウントを選択します。
ステップ4:認証方法の選択
- 認証アプリ(推奨):Google AuthenticatorやMicrosoft Authenticatorなど
- WhatsApp:Meta社のメッセージアプリ経由
- SMS(非推奨):SIMスワップ攻撃のリスクあり
ステップ5:バックアップコードの保存
8桁のコードが5個表示されます。スクリーンショットを撮り、安全な場所に保管してください。スマートフォンを紛失した際の唯一の復旧手段となります。
認証アプリの選び方
| アプリ名 | 特徴 | 評価 | 価格 |
|---|---|---|---|
| Google Authenticator | シンプルで使いやすい | ★★★★☆ | 無料 |
| Microsoft Authenticator | クラウドバックアップ対応 | ★★★★★ | 無料 |
| Authy | 複数デバイス同期可能 | ★★★★★ | 無料 |
| 1Password | パスワード管理と統合 | ★★★★★ | 月額$2.99〜 |
プライバシー設定の最適化
Instagramのプライバシー設定を適切に行うことで、情報漏洩リスクを大幅に削減できます。
アカウントの非公開化
プロフィールを非公開にすることで、承認したフォロワーのみが投稿を閲覧できます。有名人でない限り、非公開設定を強く推奨します。
ストーリーズの設定
- フォロワー以外には非表示
- 返信はフォロワーのみ許可
- アーカイブへの自動保存を有効化
アクティビティステータス
オンライン状態と最終ログイン時刻を非表示にすることで、ソーシャルエンジニアリング攻撃を防げます。
タグとメンションの管理
- タグ付けは手動承認制
- メンションはフォロワーのみ許可
- 不適切なタグは即座に削除
LINEの乗っ取り対策
LINE特有の脅威
LINEは日本で最も利用されているメッセージアプリであり、独特の脅威が存在します。
QRコード乗っ取り
最も危険な手口が「QRコードを使った乗っ取り」です。
攻撃者は「スマホが壊れたので、代わりにQRコードを読んで確認してほしい」などと依頼してきます。被害者が送られたQRコードをスキャンすると、攻撃者のPCやタブレットでLINEにログインされ、アカウントが完全に乗っ取られます。
対策の鉄則
- 他人のQRコードは絶対に読まない
- PC版LINEを使わない場合はログイン許可をOFF
- Letter Sealing(エンドツーエンド暗号化)を必ず有効化
電話番号流出リスク
LINEは電話番号ベースのサービスのため、番号が流出すると様々なリスクが生じます。ID検索による特定、電話帳アップロードからの漏洩、グループチャットからの収集など、多様な経路で番号が収集される可能性があります。
セキュリティ設定の強化
アカウント引き継ぎ設定
「設定」→「アカウント」→「アカウント引き継ぎ」から設定します。
通常時は必ずOFFにしておき、機種変更時のみONにします。ONにした場合も36時間で自動的にOFFになりますが、引き継ぎ完了後は即座に手動でOFFにしてください。
ログイン許可設定
「設定」→「アカウント」→「ログイン許可」で管理します。
PC版LINEを使用しない場合は、必ずOFFに設定してください。これによりQRコード乗っ取りのリスクを根本的に排除できます。
パスコードロック
「設定」→「プライバシー管理」→「パスコードロック」で設定します。
- Touch IDやFace IDとの併用を推奨
- 4桁より6桁のパスコードがより安全
- 起動時に毎回要求する設定を推奨
Letter Sealing(暗号化)
「設定」→「プライバシー管理」→「Letter Sealing」を必ずONにします。
これによりメッセージがエンドツーエンド暗号化され、LINE社でも内容を読むことができなくなります。
不正ログインの確認方法
ログイン中の端末確認
「設定」→「アカウント」→「ログイン中の端末」で現在ログインしているすべての端末を確認できます。
見覚えのない端末名や場所が表示されている場合は、即座に「ログアウト」ボタンをタップして強制終了させます。特に海外からのアクセスや、使用していないデバイス名には要注意です。
ログイン通知の活用
PC版やiPad版でログインすると、スマートフォンに通知が届きます。身に覚えのないログイン通知が来た場合は、すぐにパスワード変更とログイン許可の無効化を行ってください。
X(旧Twitter)の乗っ取り対策
アプリ連携の危険性
Xで最も多い乗っ取り経路が「悪意のあるアプリ連携」です。
危険なアプリの見分け方
アプリが要求する権限で危険度を判断します:
危険度:高
- アカウント情報の変更権限
- ダイレクトメッセージの送信権限
- ツイートの投稿と削除権限
これらの権限を要求するアプリは、アカウントを完全にコントロールできるため、極めて危険です。
危険度:中
- フォロー・フォロワー情報の取得
- リストの作成と編集
- プロフィール情報の閲覧
個人情報の収集に使われる可能性があります。
危険度:低
- 公開情報の読み取りのみ
- タイムラインの閲覧のみ
基本的に害はありませんが、不要なら連携解除を推奨します。
連携アプリの確認と解除
「設定とプライバシー」→「セキュリティとアカウントアクセス」→「アプリとセッション」→「連携しているアプリ」から確認できます。
使用していないアプリ、覚えのないアプリ、怪しい名前のアプリは「アクセス権を取り消す」ボタンで即座に連携を解除してください。特に「Get Free Followers」のような怪しいアプリは要注意です。
セキュリティ設定の強化
二要素認証の設定
Xの二要素認証は3種類から選択できます:
認証アプリ(推奨)
最も安全な方法です。「設定とプライバシー」→「セキュリティとアカウントアクセス」→「セキュリティ」→「二要素認証」から設定します。
セキュリティキー(最強)
物理的なUSBキーやNFC対応キーを使用する最も強固な方法です。YubiKeyなどの専用デバイスが必要ですが、フィッシング攻撃を完全に防げます。
SMS(非推奨)
SIMスワップ攻撃のリスクがあるため推奨しません。他の方法が使えない場合の最終手段です。
パスワードリセット保護
「設定」→「セキュリティ」→「パスワードリセットの保護」をONにすると、パスワードリセット時に登録メールアドレスや電話番号の追加確認が必要になります。
ログインの監視
「設定」→「セキュリティとアカウントアクセス」→「アプリとセッション」→「セッション」で、現在有効なすべてのログインセッションを確認できます。
確認すべき項目:
- ログイン場所(不審な国や地域からのアクセス)
- ログイン時刻(自分が使用していない時間帯)
- デバイス情報(見覚えのない端末)
- IPアドレス(VPNや海外IPに注意)
共通の対策
強固なパスワード管理
すべてのSNSで共通する最重要対策が「サービスごとに異なる強力なパスワード」の使用です。
パスワード作成の基本ルール
長さ:最低12文字以上、理想は16文字以上
複雑性:大文字・小文字・数字・記号をすべて含む
独自性:各サービスで完全に異なるパスワード
更新頻度:年1回以上の定期更新
パスワードマネージャーの活用
覚えきれない複雑なパスワードは、パスワードマネージャーで管理します:
- 1Password:高機能で使いやすい(月額$2.99〜)
- Bitwarden:オープンソースで無料版も充実
- LastPass:老舗で安定性が高い
- Keepass:完全無料のローカル管理型
定期的なセキュリティ確認
月に一度は以下のチェックリストで確認を行います:
- ログイン履歴の確認
- 不審なログイン、海外からのアクセス、深夜のログインをチェック
- 連携アプリの見直し
- 使用していないアプリ、怪しいアプリの連携を解除
- プライバシー設定の確認
- 公開範囲、タグ付け許可、メッセージ受信設定を再確認
- 二段階認証の動作確認
- 正常に機能しているか、バックアップコードは保管されているか
- 登録情報の確認
- メールアドレス、電話番号が正しく、自分だけがアクセスできるか
- 不審なフォロワー/友達
- スパムアカウント、なりすましアカウントをブロック
- 不審なDM/メッセージ
- フィッシング、詐欺メッセージを確認し削除
乗っ取られた時の対処
初動対応フロー
アカウント乗っ取りに気づいたら、最初の1時間が勝負です。
ログインできる場合の対応
- 即座にパスワード変更(最優先)
- 二段階認証を有効化(まだの場合)
- すべての連携アプリを解除
- ログインセッションをすべて無効化
- 登録メールアドレスの確認と変更
- 友人・フォロワーへの注意喚起
ログインできない場合の対応
- アカウント回復申請を開始
- 本人確認書類を準備(運転免許証、パスポート等)
- 公式サポートへ連絡
- 別アカウントから注意喚起
- 被害状況を記録(スクリーンショット等)
サービス別サポート連絡先
| サービス | 申請方法 | 対応時間 | 回復期間 |
|---|---|---|---|
| アプリ内「ログインできない場合」 | 24時間受付 | 24-48時間 | |
| LINE | 問い合わせフォーム | 平日9-18時 | 3-5営業日 |
| X | ヘルプセンター | 24時間受付 | 1-7日 |
被害の最小化
時系列での緊急対応
0-10分:即座の対応
- 家族・親しい友人に電話やSMSで通知
- 「なりすましに注意」の警告を別手段で発信
- パスワードを使い回している他サービスを確認
10-30分:被害拡大防止
- 同じパスワードを使用している全サービスで変更
- メールアドレスのパスワードも変更
- クレジットカード会社や銀行に連絡(必要に応じて)
30-60分:証拠保全と対策
- 他のSNSアカウントのセキュリティ確認
- 不正投稿や送信メッセージのスクリーンショット
- 被害金額や影響範囲の記録
1-24時間:公的機関への相談
- 警察のサイバー犯罪相談窓口(#9110)
- 消費生活センター(188)
- 各サービスの公式サポートへ正式申請
よくある質問(FAQ)
- Q: 二段階認証を設定したらスマホを失くした時にログインできなくなりませんか?
- A: バックアップコードを必ず保管してください。各サービスで**5〜10個のバックアップコード**が発行されます。これを紙に印刷して金庫に保管、クラウドストレージの暗号化フォルダに保存、家族に預けるなど、複数の方法で保管します。また、認証アプリも複数デバイスで使えるものを選ぶと安心です。最悪の場合も、本人確認書類でアカウント回復は可能です。
- Q: 友人から怪しいDMが来ましたが、本人か確認する方法は?
- A: SNS以外の方法で確認してください。**電話が最も確実**です。「さっきLINEで送ったメッセージの件だけど」と聞いてみて、相手が知らないと言えば乗っ取りです。共通の友人に確認する、別のSNSで聞く、過去の思い出について質問するなども有効です。絶対にDM内のリンクはクリックしないでください。
- Q: パスワードを覚えきれません。メモしても大丈夫ですか?
- A: 紙のメモはデジタルより安全な場合があります。ただし、「Instagram: abc123」のように明記せず、自分だけが分かる暗号化をしてください。例:「写真アプリ:母の旧姓+生まれた病院の郵便番号」など。理想はパスワードマネージャーですが、紙のメモも付箋でPCに貼るような真似をしなければ、十分実用的です。
- Q: アカウントを作り直した方が安全ですか?
- A: 状況によります。**フォロワーが少ない場合**は作り直しも選択肢です。ただし、同じユーザー名は攻撃者に取られている可能性があり、友人があなたを見つけられない問題もあります。**適切なセキュリティ設定**をすれば、既存アカウントでも十分安全に使用できます。ビジネス利用の場合は、ブランド価値を考慮して慎重に判断してください。
- Q: 有名人じゃないのに狙われることはありますか?
- A: 一般人こそ狙われやすいのが現実です。有名人はセキュリティ意識が高く対策も万全ですが、一般人は無防備なことが多いためです。また、あなたのアカウントは友人への詐欺の踏み台として価値があります。フォロワー数に関係なく、全員が対策すべきです。
まとめ:SNSセキュリティの鉄則
SNSアカウントの安全を守るための7つの鉄則を守れば、乗っ取りリスクを99%削減できます:
- 二段階認証は必須:すべてのSNSで有効化する
- パスワードは使い回さない:各サービスで異なる強力なパスワード
- 不審なDMは無視:リンクをクリックしない、情報を入力しない
- QRコードは慎重に:他人のQRコードは絶対に読まない
- アプリ連携は最小限:不要な連携は即座に解除
- 定期的な設定確認:月1回はセキュリティチェック
- 緊急時の連絡先準備:サポート窓口と警察相談番号を控えておく
不正アクセスやアカウント乗っ取りは、適切な対策により確実に防げます。
あなたのSNSアカウントは、あなた自身のデジタルアイデンティティです。今すぐセキュリティ設定を見直し、大切な情報とつながりを守りましょう。
【重要なお知らせ】
- 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言ではありません
- 各SNSの仕様は頻繁に変更されるため、最新の設定画面を確認してください
- 被害に遭った場合は、速やかに警察や公式サポートに相談してください
- 記載内容は2025年11月時点の情報です
更新履歴
- 初稿公開