フィッシング被害の公表対応|企業の危機管理とステークホルダー対応【テンプレート付】

フィッシング詐欺の被害が発覚したとき、企業は重大な決断を迫られます。公表するのか、しないのか。公表するならいつ、誰に、どのように伝えるのか。この判断を誤れば、被害そのものより大きな信頼失墜を招く可能性があります。

個人情報保護法の2022年改正により、一定の漏洩等は個人情報保護委員会への報告と本人通知が義務化されました。上場企業であれば適時開示の判断も必要です。しかし法的義務の有無にかかわらず、適切な公表対応は企業価値を守る危機管理の要となります。

本記事では、危機管理広報の専門的視点から、公表判断の基準、ステークホルダー別の対応戦略、プレスリリーステンプレート、記者会見対応、信頼回復プロセスまで、実務で即使える情報を網羅的に解説します。

フィッシング被害公表の判断基準と法的義務

フィッシング詐欺による被害が発生した場合、企業は公表の要否を迅速に判断する必要があります。この判断は法的義務と任意対応の両面から検討しなければなりません。判断を誤ると、法的対応が必要となるケースに発展することもあります。

法的に公表が義務付けられるケース

フィッシング被害による情報漏洩が発生した場合、以下の法令に基づく報告・公表義務が生じる可能性があります。

個人情報保護法に基づく報告義務

2022年4月施行の改正個人情報保護法により、一定の個人データ漏洩等が発生した場合、個人情報保護委員会への報告本人への通知が義務化されました。

個人情報保護法第26条:個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失、毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該事態が生じた旨を個人情報保護委員会に報告しなければならない。

報告対象となる4類型は以下のとおりです。

  1. 要配慮個人情報が含まれる個人データの漏洩等
  2. 不正アクセス等による漏洩等
  3. 財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏洩等
  4. 1,000人超の個人データの漏洩等
個人情報保護委員会への報告対象
上記4類型のいずれかに該当する漏洩等が発生した場合。フィッシング詐欺による情報漏洩は、多くの場合「不正アクセス等による漏洩等」に該当します。
速報と確報の違い
速報は事態を知った日から3〜5日以内に概要を報告。確報は30日以内(不正アクセスの場合は60日以内)に詳細な調査結果を報告します。
本人通知が不要となる例外事由
本人への通知が困難な場合で、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置を講じているとき。ただし、この例外適用は極めて限定的です。
適時開示の軽微基準
東京証券取引所の有価証券上場規程では、投資判断に重要な影響を与えない軽微な事項は開示不要とされますが、サイバーセキュリティインシデントは原則として軽微とは判断されにくい傾向にあります。

上場企業の適時開示義務

上場企業の場合、金融商品取引法および証券取引所の規則に基づき、投資判断に重要な影響を与える事実について適時開示義務があります。フィッシング被害による個人情報漏洩や金銭被害は、規模によっては適時開示の対象となります。

業界別の報告義務

業界 報告先 根拠法令・ガイドライン 報告期限
金融機関 金融庁 金融機関における個人情報保護に関するガイドライン 直ちに
医療機関 厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 速やかに
通信事業者 総務省 電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン 速やかに
クレジットカード会社 経済産業省 割賦販売法 直ちに

任意公表を検討すべき状況

法的義務がない場合でも、以下の状況では任意での公表を積極的に検討すべきです。

  • 被害者数が多い場合:数百人以上の顧客情報が漏洩した可能性がある
  • 二次被害防止の必要性:パスワード変更等の注意喚起が必要
  • 社会的影響が大きい場合:著名企業、公共性の高いサービス
  • 報道される可能性が高い場合:先手を打った公表で情報コントロールを維持
  • 業界全体への注意喚起:同様の手口による被害拡大を防止
被害規模\社会的影響
(〜100人) 非公表・個別対応 限定公表(HP掲載) 限定公表(プレスリリース)
(100〜1,000人) 限定公表(HP掲載) 完全公表(プレスリリース) 完全公表(記者会見検討)
(1,000人〜) 完全公表(プレスリリース) 完全公表(記者会見) 完全公表(記者会見必須)

公表しない場合のリスク

公表を見送った場合、以下のリスクが顕在化する可能性があります。

  • 後日発覚時の信頼失墜:隠蔽と受け取られ、当初公表した場合より深刻なダメージ
  • 内部告発・リーク:従業員や関係者からの情報流出により情報コントロール喪失
  • 被害者からの訴訟:通知義務違反を理由とした損害賠償請求
  • 規制当局からの行政処分:報告義務違反による勧告・命令
  • 取引先からの契約解除:セキュリティ要件違反を理由とした取引停止

【匿名事例】 ある中堅EC企業では、フィッシング攻撃により約500人分の顧客情報が漏洩しましたが、「影響が軽微」と判断して公表を見送りました。しかし3ヶ月後、被害者の一人がSNSで被害を公表したことで事態が発覚。「隠蔽体質」との批判を浴び、株価は公表直後より大幅に下落、複数の取引先から契約解除を通告されました。


ステークホルダー別の対応戦略

フィッシング被害の公表対応では、ステークホルダーごとに異なるアプローチが求められます。緊急対応の30分を経た後、各ステークホルダーへの対応を並行して進める必要があります。

顧客・被害者への対応【最優先】

顧客・被害者への対応は最優先事項です。対応の遅れは二次被害の拡大と信頼の決定的な毀損につながります。

第一報の発信タイミングと内容

発覚後24時間以内に第一報を発信することが望ましいとされています。完全な調査結果を待つのではなく、現時点で判明している事実を速やかに伝えることが重要です。

第一報に含めるべき5要素:

  1. 事実の概要(5W1H):いつ、どこで、何が起きたか
  2. 現時点で判明している影響範囲:対象となる顧客の範囲、漏洩した情報の種類
  3. 被害拡大防止のための顧客側のアクション:パスワード変更、不審メールへの注意等
  4. 問い合わせ窓口:専用ダイヤル、受付時間、メールアドレス
  5. 今後の情報提供予定:次回報告の時期、方法

「分からないこと」については、正直に「調査中」と伝えることが信頼維持の鍵となります。推測や希望的観測を事実として伝えることは、後に訂正が必要となった場合に信頼を大きく損ないます。

被害者への個別通知

個人情報漏洩が発生した場合、被害者への個別通知が必要となります。

通知方法の優先順位:

  1. 書面(郵送):最も確実で記録が残る
  2. 電子メール:迅速だが到達確認が困難
  3. 電話:緊急性が高い場合、高齢者対応
冒頭のお詫び
簡潔かつ誠実な謝罪の言葉。責任回避と受け取られる表現は避ける。
事実の概要
発生日時、発覚日時、漏洩した情報の種類を具体的に記載。
影響範囲
当該顧客に関してどの情報が漏洩したか個別に明記。
対応状況
既に講じた対策と今後の予定を時系列で説明。
お客様へのお願い
パスワード変更、不審連絡への注意など具体的なアクション。
補償内容
該当する場合は補償の内容と申請方法を明記。
問い合わせ先
専用窓口の電話番号、受付時間、メールアドレス。

株主・投資家への対応

上場企業の場合、適時開示のタイミング判断が極めて重要です。開示の遅れはインサイダー取引規制との関係で問題となる可能性があります。

  • 適時開示のタイミング:事実確認ができ次第、速やかに開示
  • IR資料への影響反映:業績予想への影響がある場合は修正開示
  • 決算説明会でのQ&A対応:想定質問と回答を事前準備
  • 機関投資家への個別説明:フェア・ディスクロージャー規則に留意

適時開示の文面構成

構成要素 記載のポイント
件名 事実を端的に表現(例:「不正アクセスによる情報漏洩に関するお知らせ」)
発生事実 5W1H形式で客観的に記載
業績への影響 現時点での見通し、影響額の試算(判明している場合)
対応状況 既に講じた対策と今後の予定
再発防止策 具体的な取り組み内容
今後の見通し 次回開示予定、不確実性についての説明

従業員への対応

外部公表前に社内への第一報を行うことが原則です。従業員が報道や SNS で自社の被害を知ることは、士気と信頼を大きく損ないます。

  • 社内第一報のタイミング:外部公表の1〜2時間前が目安
  • 対応指針の周知:顧客や取引先から問い合わせを受けた場合の対応方法
  • SNS投稿に関する注意喚起:私見の発信を控えるよう要請
  • 内部調査への協力依頼:情報提供の呼びかけ
  • メンタルケア:特に原因となった部門へのサポート体制

なお、フィッシング被害の背景に内部不正が関与している可能性も排除せず、調査を進める必要があります。

取引先・パートナーへの対応

サプライチェーン攻撃との複合被害の可能性も考慮し、取引先への迅速な連絡が求められます。

  • サプライチェーンへの影響評価:取引先システムへの波及可能性の確認
  • 主要取引先への個別連絡:公表前または公表と同時に連絡
  • 契約上の通知義務の確認:NDA やセキュリティ条項の確認
  • 共同対応が必要な場合の協議:連名での公表、共同調査の実施
  • 信頼維持のためのコミュニケーション:定期的な進捗報告

監督官庁・業界団体への対応

通報先一覧を参照しつつ、以下の機関への報告を検討します。

報告先 連絡先 報告内容
個人情報保護委員会 報告フォーム(オンライン) 漏洩等報告(速報・確報)
警察(サイバー犯罪相談窓口) 各都道府県警察本部 被害届、相談
IPA(情報処理推進機構) 届出窓口 コンピュータウイルス・不正アクセス届出
JPCERT/CC インシデント報告 技術的な情報共有
業界ISAC 各業界団体 脅威情報の共有
所管官庁 金融庁、総務省等 業法に基づく報告

プレスリリース・公表文の作成【テンプレート付】

公表文の品質は、企業の危機対応能力を外部に示す重要な要素です。証拠保全で収集した情報を基に、正確かつ誠実な公表文を作成します。

公表文の必須構成要素

効果的な公表文には以下の10要素が含まれている必要があります。

  1. 見出し:事実を端的に表現(例:「当社を装ったフィッシングメールによる顧客情報漏洩に関するお詫びとお知らせ」)
  2. 発生日時・発覚日時:時系列を明確に
  3. 被害の概要と影響範囲:漏洩した情報の種類、対象人数
  4. 原因:判明している範囲で具体的に(調査中の場合はその旨)
  5. 対応状況:既に講じた対策を時系列で
  6. 被害拡大防止策:顧客に求めるアクション
  7. 再発防止策:今後の取り組み
  8. 被害者への補償方針:該当する場合
  9. 問い合わせ窓口:専用ダイヤル、受付時間
  10. 今後の情報提供予定:次回報告の時期

公表文テンプレート

以下は公表文の構成テンプレートです。実際の文面は各社の状況に合わせて調整してください。

【タイトル】
〇〇に関するお詫びとお知らせ

【本文構成】

■ 冒頭のお詫び(2〜3行)
このたび、当社において〇〇が発生いたしました。
お客様をはじめ関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしますことを、
深くお詫び申し上げます。

■ 事実の概要
・発生日時:2025年〇月〇日 〇時頃
・発覚日時:2025年〇月〇日 〇時頃
・事象:当社を装ったフィッシングメールにより、お客様のログイン情報が
    第三者に詐取された可能性があることが判明いたしました。
・影響範囲:最大〇〇名のお客様

■ 漏洩した可能性のある情報
・氏名
・メールアドレス
・ログインパスワード
※クレジットカード情報は含まれておりません

■ 原因
現在調査中ですが、当社を装った精巧なフィッシングサイトに
お客様が誘導され、ログイン情報を入力されたものと推定しております。

■ 対応状況
・〇月〇日:異常なアクセスを検知、調査開始
・〇月〇日:フィッシングサイトの閉鎖を要請
・〇月〇日:対象のお客様へ個別連絡を開始
・〇月〇日:警察への相談

■ お客様へのお願い
・当社サービスのパスワードを変更してください
・同じパスワードを使用している他サービスも変更をお願いします
・当社を名乗る不審なメール・電話にご注意ください

■ 再発防止策
・フィッシング対策の強化(DMARC導入等)
・お客様への注意喚起の強化
・従業員教育の徹底

■ 補償について(該当する場合)
二次被害が確認された場合は、個別にご相談させていただきます。

■ お問い合わせ先
専用ダイヤル:0120-XXX-XXX
受付時間:9:00〜21:00(土日祝含む)
メール:security@example.co.jp

■ 今後の情報提供
調査の進捗に応じて、当社Webサイトにて随時お知らせいたします。

■ 結び
お客様には多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、
重ねて深くお詫び申し上げます。
今後このような事態を二度と起こさないよう、
セキュリティ対策の強化に全力で取り組んでまいります。

2025年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇

避けるべき表現と推奨表現

公表文では、以下の表現に注意が必要です。

避けるべき表現 推奨表現 理由
「〜と思われます」「〜かもしれません」 「〜と推定しております」「調査中です」 曖昧さを排除しつつ断定を避ける
「軽微な被害」「大きな影響はない」 「現時点で確認されている被害は〜」 被害の過小評価と受け取られる
「お客様の操作ミスにより」 「巧妙な手口により」 責任転嫁と受け取られる
「セキュリティは万全でした」 「対策を講じておりましたが」 矛盾した印象を与える
「ハッカーによる攻撃」 「第三者による不正アクセス」 専門用語の多用を避ける
「情報が流出した」(受動態) 「当社のシステムから情報が漏洩した」(主語明確) 責任の所在を明確に
「遺憾に思います」 「深くお詫び申し上げます」 他人事の印象を与える

メディア対応と記者会見

フィッシング被害の規模や社会的影響によっては、記者会見の開催が必要となる場合があります。

記者会見の開催判断基準

記者会見が必要なケース:

  • 被害者数が1,000人以上
  • 金銭被害が発生している
  • 社会インフラに関わるサービス
  • 既にメディアで報道されている
  • 著名企業・上場企業で株価への影響が大きい

書面発表のみで済むケース:

  • 被害者数が限定的(数十人程度)
  • 二次被害が確認されていない
  • 迅速に対策が完了している
  • メディアからの問い合わせが少ない

オンライン会見の選択肢:

  • 地理的制約を超えて多くのメディアに対応可能
  • 録画・配信により情報の正確性を担保
  • コロナ禍以降、一般的な選択肢として定着

記者会見の準備チェックリスト

会場設営

  • [ ] 会場予約(収容人数、アクセス、駐車場)
  • [ ] 演台、マイク、プロジェクター
  • [ ] 社名看板、ロゴ入り背景パネル
  • [ ] 記者席の配置(ソーシャルディスタンス考慮)
  • [ ] 受付、記帳台
  • [ ] 配布資料の印刷・準備
  • [ ] 録画・録音機材
  • [ ] 空調、照明の調整
  • [ ] 緊急連絡先の掲示
  • [ ] 飲料水の準備

登壇者の準備

  • [ ] 登壇者の選定(社長、担当役員、技術責任者等)
  • [ ] 役割分担の明確化
  • [ ] 想定Q&Aの読み合わせ
  • [ ] 服装の統一(ダークスーツ推奨)
  • [ ] 表情・態度のトレーニング

想定Q&A

  • [ ] 50問以上の想定質問を準備
  • [ ] 回答の一貫性を確認
  • [ ] 「お答えできません」の範囲を明確化
  • [ ] 数字・日時の正確性を確認

想定質問と回答例

Q: いつ、どのようにして被害が発覚したのですか?
A: 〇月〇日〇時頃、セキュリティシステムが異常なアクセスパターンを検知し、調査を開始しました。その結果、当社を装ったフィッシングサイトの存在が判明いたしました。
Q: 被害者への補償はどのように行うのですか?
A: 二次被害が確認されたお客様には、個別に状況を確認の上、適切な補償を検討させていただきます。[補償制度](/security/scams/phishing/column/incident-response/compensation/)についての詳細は追ってご案内いたします。
Q: なぜこのような被害を防げなかったのですか?
A: 当社では従来からセキュリティ対策を講じておりましたが、今回の攻撃は非常に巧妙な手口であり、結果として被害を防ぐことができませんでした。この点については深く反省しております。
Q: 再発防止策を具体的に教えてください
A: 技術面では[企業のフィッシング対策](/security/scams/phishing/column/defense/enterprise-security/)を強化し、DMARC の厳格化、フィッシングサイト監視の24時間体制化を実施します。運用面では従業員教育の強化、定期的な訓練を実施してまいります。
Q: 経営責任についてはどうお考えですか?
A: まずは被害に遭われたお客様への対応と再発防止に全力を尽くすことが私どもの責務と考えております。経営責任については、第三者委員会の調査結果を踏まえて検討してまいります。

メディア対応のNG行動

以下の行動は、メディア対応において絶対に避けるべきです。

  • 「ノーコメント」の連発:不誠実な印象を与え、隠蔽を疑われる
  • 怒りや苛立ちの表出:被害者であるはずの顧客より自社の都合を優先していると受け取られる
  • 他社・他者への責任転嫁:「フィッシングサイトを作った犯人が悪い」等の発言は責任回避と見なされる
  • 根拠のない楽観的発言:「二次被害は起きないと確信している」等は後に撤回を迫られる
  • オフレコ発言の多用:記者との信頼関係を損ない、リークの原因となる
  • 特定メディアへの優遇:他メディアからの反発を招く

信頼回復のプロセス【中長期戦略】

フィッシング被害からの信頼回復は長期的な取り組みです。被害対応の初動を終えた後も、継続的なコミュニケーションが求められます。

フェーズ別の信頼回復施策

初期対応フェーズ(発覚〜1ヶ月)

このフェーズでは透明性のある情報開示の継続が最重要です。

  • 進捗報告の定期発信:週1回程度の更新
  • 被害者対応の状況報告:問い合わせ件数、対応状況
  • 再発防止策の具体化:具体的なスケジュールと責任者の明示
  • 第三者委員会設置の検討:客観性・公正性の担保

情報セキュリティインシデントにおいて、企業の信頼回復に最も寄与するのは、初期対応における透明性と誠実さである。(一般社団法人日本情報経済社会推進協会)

回復フェーズ(1〜6ヶ月)

企業のセキュリティ体制強化を進めながら、その取り組みを可視化します。

  • 定期的な進捗報告:月1回程度
  • セキュリティ強化の可視化:具体的な対策内容の公開
  • 外部認証の取得:ISO27001、SOC2等
  • 従業員教育の強化と公表:研修実施状況の報告

定着フェーズ(6ヶ月〜)

  • 年次報告での振り返り:統合報告書、セキュリティレポートでの言及
  • 業界への知見共有:カンファレンスでの発表、ホワイトペーパーの公開
  • セキュリティ文化の醸成:全社的な意識向上活動
  • 継続的な改善サイクル:PDCA サイクルの確立

公表後のモニタリング

信頼回復の進捗を測定するため、以下の項目を継続的にモニタリングします。

モニタリング項目 測定方法 目標値(目安)
SNS・ネット上の評判 ソーシャルリスニングツール ネガティブ言及率 30%以下
問い合わせ件数 コールセンター集計 発生前水準への回復
株価(上場企業) 株価モニタリング 発生前水準への回復
メディア報道の論調 クリッピングサービス 中立〜好意的論調 70%以上
顧客離反率 解約率・退会率の推移 発生前水準+5%以内
NPS(顧客推奨度) 定期調査 発生前水準への回復

公表対応の成功事例と失敗事例

過去の事例から学ぶことで、公表対応の質を高めることができます。なお、ビジネスメール詐欺(BEC)標的型攻撃(APT)との複合事例も増えており、対応はより複雑化しています。

成功事例に学ぶ5つのポイント

1. 迅速な初動と透明性のある情報開示で信頼を維持したケース

大手小売A社は、フィッシング攻撃により約3万人の顧客情報漏洩が発覚した際、発覚後わずか18時間で第一報を公開しました。「現時点で判明していること」「まだ調査中のこと」を明確に区分し、毎日進捗を更新。結果として、批判は限定的にとどまり、株価も1週間で発生前水準に回復しました。

2. 経営トップ自らの謝罪で誠意を示したケース

金融機関B社は、マルウェア感染を伴うフィッシング被害の記者会見に、社長自らが登壇。冒頭で深々と頭を下げ、被害者への謝罪と再発防止への決意を述べました。技術的な質問は CTO が対応しましたが、責任に関する質問には全て社長が答えました。この姿勢が評価され、顧客離反は最小限に抑えられました。

3. 手厚い被害者補償で顧客離反を最小化したケース

EC サイト C 社は、フィッシングによる金銭被害が発生した顧客に対し、被害額の全額補償に加えて、お詫びとして1年間のプレミアム会員権を無償提供しました。金銭被害回復に関する詳細なガイドも公開し、被害者の不安解消に努めました。結果として、被害者の90%以上がサービス利用を継続しました。

4. 再発防止策の具体性と実行力で評価を高めたケース

通信事業者D社は、公表時に具体的な再発防止策と実施スケジュールを明示。その後、予定通りに対策を完了し、四半期ごとに進捗を報告しました。さらに、対策の有効性を第三者機関に検証してもらい、その結果も公開。「言葉だけでなく行動で示す」姿勢が評価されました。

5. 業界への知見共有で社会的評価を得たケース

製造業E社は、自社が受けたフィッシング攻撃の手口と対策を、業界団体のセキュリティカンファレンスで発表。自社の失敗を隠さず共有する姿勢が評価され、「セキュリティ意識の高い企業」としてブランド価値が向上しました。

失敗事例から学ぶ教訓

1. 初期対応の遅れで批判が拡大したケース

サービス業F社は、フィッシング被害の発覚後、「調査が完了してから公表する」方針をとり、第一報まで2週間を要しました。その間に被害者がSNSで被害を公表し、「隠蔽」との批判が殺到。結果として、謝罪会見は炎上し、株価は30%以上下落しました。

2. 情報の小出しで不信感を招いたケース

IT企業G社は、当初「被害者は約100名」と発表しましたが、その後の調査で1,000名、5,000名と上方修正を繰り返しました。そのたびに「まだ隠していることがあるのでは」との不信感が高まり、メディアからの追及が厳しくなりました。

3. 責任回避の姿勢が炎上を招いたケース

小売業H社の経営陣は、記者会見で「お客様が不審なメールを開いたことが原因」と発言。被害者への責任転嫁と受け取られ、SNS で大炎上。「#H社不買運動」がトレンド入りし、売上は前年比30%減となりました。

4. 被害を過小評価して後日批判されたケース

金融機関I社は、当初「重要な情報は漏洩していない」と発表しましたが、後日、口座番号と暗証番号が漏洩していたことが判明。「嘘をついた」との批判を浴び、金融庁から業務改善命令を受けました。


中小企業の公表対応【リソース制約下での実践】

専門の広報部門を持たない中小企業でも、適切な公表対応は可能です。

広報部門がない企業の対応

  • 経営者が担うべき役割:公表の最終判断、対外発信の顔として
  • 顧問弁護士との連携:法的リスクの確認、文面のリーガルチェック
  • 外部PR会社の緊急起用:危機管理に強いPR会社への依頼
  • 業界団体のサポート活用:ガイドライン、相談窓口の利用

低コストでできる公表対応

  • 自社Webサイトでの告知:トップページへのお知らせ掲載
  • SNSの活用:Twitter、Facebook等での情報発信(炎上リスクに注意)
  • 取引先への一斉メール:BCC での一斉送信
  • 簡易版プレスリリース:Word 等で作成、PDFで配布

公表対応のアウトソーシング

サービス 費用相場 内容
危機管理PR会社 月額50〜200万円 戦略立案、文面作成、メディア対応
弁護士事務所 時間単価3〜5万円 法的リスク評価、文面レビュー
サイバー保険付帯サービス 保険料に含む 初期対応支援、コールセンター代行

よくある質問(FAQ)

Q: フィッシング被害の公表は法的に義務ですか?
A: 個人データの漏洩等が発生した場合、個人情報保護法に基づく報告義務が生じる可能性があります。特に、不正アクセスによる漏洩、1,000人超の漏洩、財産的被害のおそれがある漏洩は報告対象となります。上場企業の場合は、金融商品取引法に基づく適時開示義務も検討が必要です。義務の有無にかかわらず、二次被害防止のために任意公表を検討することをお勧めします。
Q: 公表のタイミングはいつが適切ですか?
A: 被害の発覚後、可能な限り早く公表することが望ましいです。完全な調査結果を待つ必要はありません。「現時点で判明していること」「まだ調査中のこと」を明確に区分して発表し、進捗に応じて情報を更新する方法が推奨されます。発覚後24〜48時間以内の第一報が目安となります。
Q: 株価への影響を最小化する方法は?
A: 適時開示の遅れは、より大きな株価下落を招きます。迅速かつ正確な情報開示を行い、具体的な再発防止策を示すことが重要です。経営陣が直接説明し、今後の見通しを明確にすることで、投資家の不安を軽減できます。
Q: 被害者への補償は必須ですか?
A: 法的には、企業側の過失が認められる場合に損害賠償責任が生じます。しかし、顧客との信頼関係維持の観点から、法的義務の有無にかかわらず、適切な補償を検討することが望ましいです。補償内容は、金銭被害の有無、二次被害の発生状況等により異なります。
Q: 記者会見は必ず開くべきですか?
A: 記者会見が必要なのは、被害規模が大きい場合、社会的影響が大きい場合、既にメディアで報道されている場合などです。被害者数が限定的で、迅速に対策が完了している場合は、Webサイトでの告知とプレスリリースのみで対応可能な場合もあります。
Q: 公表後の批判にどう対応すべきですか?
A: 批判に対しては、誠実かつ一貫した対応を継続することが重要です。感情的な反論は避け、事実に基づいた説明を行います。SNS等での批判には、公式アカウントからの丁寧な返信が有効な場合もありますが、炎上リスクを考慮して判断します。
Q: 再発防止策はどこまで公表すべきですか?
A: 再発防止策は具体的に公表することが望ましいですが、セキュリティ上の理由から詳細を伏せるべき部分もあります。「何を」「いつまでに」「誰が責任を持って」実施するかを明示しつつ、攻撃者に悪用されうる技術的詳細は控えるバランスが必要です。

重要なお知らせ

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません
  • 実際の公表対応は、顧問弁護士・危機管理専門家と相談の上で決定してください
  • 法令・ガイドラインは改正される場合があります。最新情報は所管官庁にご確認ください
  • 個人情報保護法に基づく報告については、個人情報保護委員会の公式ガイドラインをご参照ください
  • 記載内容は2025年11月時点の情報に基づいています



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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。