フィッシング詐欺の法的対応|被害届・告訴・民事訴訟の手引き

フィッシング詐欺の被害に遭った場合、「警察に届けても意味がない」「犯人は海外にいるから捕まらない」と諦めてしまう方が少なくありません。しかし、適切な法的対応を取ることで、被害金の一部回復や加害者の処罰につながるケースも確実に存在します。

警察庁の統計によると、サイバー犯罪の検挙件数は年々増加傾向にあり、フィッシング関連の摘発も着実に進んでいます。また、金融機関との交渉や民事訴訟において、被害届の提出は補償を受けるための重要な証拠となります。

本記事では、フィッシング詐欺被害における法的対応の全選択肢を解説します。被害届と告訴・告発の違い、民事訴訟の種類と費用、弁護士への相談タイミング、加害者特定の現実的な可能性、時効の問題まで、法的措置を検討する際に必要な情報を網羅しました。「泣き寝入りしない」ための第一歩として、ぜひ参考にしてください。

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フィッシング詐欺被害における法的対応の全体像

「法的対応」と聞くと難しそうに感じますが、基本的な流れを理解すれば、ご自身で対応できる部分も多くあります。まずは全体像を把握しましょう。

フィッシング詐欺被害に対する法的対応は、大きく分けて刑事手続き民事手続き行政対応の3つの柱があります。それぞれ目的が異なるため、状況に応じて適切な手段を選択することが重要です。

対応の時系列としては、被害発生後、まず証拠保全を即時に行い、次に金融機関への連絡を24時間以内に実施します。その後、1週間以内を目安に警察への相談を行い、状況に応じて弁護士への相談を検討し、最終的に具体的な手続きを選択・実行するという流れになります。

フィッシング詐欺と同様に、ビジネスメール詐欺(BEC)ソーシャルエンジニアリング による被害でも、同様の法的対応が可能です。手口は異なっても、詐欺罪として法的に追及できる点は共通しています。

刑事・民事・行政の3つのアプローチ

項目 刑事手続き 民事手続き 行政対応
目的 加害者の処罰 損害賠償(金銭回復) 再発防止・被害拡大防止
手続き先 警察・検察 裁判所 消費者センター・金融庁等
費用 無料 訴訟費用+弁護士費用 無料
期間 数ヶ月〜数年 6ヶ月〜2年 数週間〜数ヶ月
被害者の負担 証拠提出・聴取対応 訴状作成・出廷 相談・情報提供

それぞれのアプローチには、メリット・デメリットがあります。

刑事手続きは費用がかからない一方で、起訴や有罪の保証はありません。捜査が開始されるかどうかも警察の判断に委ねられます。

民事手続きは金銭回復の可能性がある反面、費用と時間がかかります。また、勝訴しても相手方に資産がなければ回収できないリスクがあります。

行政対応は手軽に相談できますが、直接的な被害回復にはつながりにくいという特徴があります。

どの手続きを選ぶかは、被害額や状況によって判断します。被害額が少額(10万円未満)の場合は行政対応と金融機関交渉が中心となり、中程度(10〜100万円)の場合は被害届の提出と民事訴訟の検討、高額(100万円以上)の場合は告訴と弁護士相談、民事訴訟を組み合わせることが一般的です。

法的対応を取るべき被害額・状況の目安

被害額 推奨対応 弁護士の必要性
1万円未満 消費者センター相談+金融機関連絡 不要
1〜10万円 被害届提出+金融機関交渉 原則不要
10〜50万円 被害届+少額訴訟検討 相談推奨
50〜100万円 告訴検討+民事訴訟検討 相談推奨
100万円以上 告訴+民事訴訟 必須

被害額以外にも、法的対応を検討すべき判断要素があります。精神的被害の程度(脅迫を受けた、個人情報が拡散された等)、再発リスク(同一犯による継続的な攻撃の可能性)、社会的影響(企業としての信用毀損、顧客への影響)、証拠の充実度(加害者特定につながる情報の有無)などを総合的に考慮してください。

法人として被害に遭った場合は、株主・取引先への説明責任、個人情報保護法に基づく報告義務、レピュテーションリスクなど、個人被害とは異なる考慮事項があります。詳しくは「フィッシング被害の公表対応」をご参照ください。


刑事手続きの流れ|被害届・告訴・告発の違いと手続き

刑事手続きは、加害者に対する処罰を求める手続きです。フィッシング詐欺の場合、詐欺罪(刑法246条)、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)、不正アクセス禁止法違反などが適用される可能性があります。

刑事手続きには、被害届告訴告発の3つの方法があります。それぞれ法的な効果が異なるため、違いを理解しておくことが重要です。

被害届
犯罪被害の事実を警察に申告する届出です。捜査開始の「端緒」となりますが、警察に捜査義務は生じません。受理は警察の裁量に委ねられます。
告訴
被害者が捜査機関に対し、犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示です。刑事訴訟法230条に基づき、警察は告訴状を受理する義務があり、受理後は検察への送致義務が生じます。
告発
被害者以外の第三者が、犯罪事実を申告し処罰を求めることです。刑事訴訟法239条に基づき、告訴と同様の効果があります。

警察が動きやすいケースとしては、被害額が大きい、証拠が明確、同種被害が多発している、加害者が特定可能といった条件が挙げられます。一方、少額被害、証拠不十分、加害者が海外にいる、単発的な被害などの場合は、捜査の優先度が下がる傾向があります。

不正アクセス を伴うフィッシング詐欺の場合、不正アクセス禁止法違反も併せて適用される可能性があります。

被害届の提出方法と注意点

被害届は、捜査開始のきっかけとなる申告であり、金融機関への補償請求時の証拠としても有効です。

提出先は、最寄りの警察署(生活安全課)、都道府県警察サイバー犯罪相談窓口、または警察相談専用電話(#9110)です。警察庁では「サイバー事案に関する通報等のオンライン受付窓口」も開設しています。

被害届提出時の持ち物チェックリスト

  • [ ] 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
  • [ ] 被害の経緯をまとめたメモ(時系列)
  • [ ] フィッシングメール・SMSのスクリーンショット
  • [ ] 偽サイトのURL・スクリーンショット
  • [ ] 銀行口座の取引明細
  • [ ] クレジットカードの利用明細
  • [ ] 振込先口座の情報(判明している場合)

受理されやすい被害届を作成するポイントは、事実を時系列で整理すること、感情的な表現を避けて客観的に記載すること、証拠との対応関係を明確にすることです。

被害届が受理されない場合は、上位機関(都道府県警察本部)への相談、弁護士同行での再提出、公安委員会への苦情申出といった対処法があります。

証拠の具体的な保全方法については「フィッシング詐欺の証拠保全」で詳しく解説しています。

被害届提出時に必要な証拠リスト

分類 証拠の種類 取得方法
必須 フィッシングメール/SMS原本 スクリーンショット保存
必須 偽サイトのURL・画面 ブラウザのアドレスバー含めてスクリーンショット
必須 被害金額の証明 銀行・カード明細の取得
推奨 メールヘッダー情報 メールソフトの「ソースを表示」機能
推奨 通信ログ プロバイダへの開示請求
推奨 被害経緯のメモ 時系列で詳細に記録

警察での聴取で聞かれる質問と回答のポイント

警察での聴取では、以下のような質問が想定されます。

  1. いつ被害に気づきましたか?
  2. どのような経緯でフィッシングサイトにアクセスしましたか?
  3. どのような情報を入力しましたか?
  4. いつ、いくら引き出されましたか?
  5. 不審なメールやSMSは保存していますか?
  6. 偽サイトのURLは分かりますか?
  7. 他に心当たりのある被害はありますか?
  8. パスワードは他のサービスでも使い回していましたか?
  9. セキュリティソフトは使用していましたか?
  10. 金融機関には連絡しましたか?

回答時は、事実を時系列で正確に伝え、推測は推測と明言すること(「おそらく」「〜だと思います」)、分からないことは「分かりません」と正直に答えることが重要です。嘘や誇張は絶対に避けてください。聴取時間の目安は、初回で1〜2時間程度です。

告訴と告発の手続き

告訴は、被害届よりも強い法的効果があります。警察は告訴状を受理する義務があり(刑事訴訟法241条)、受理後は検察への送致義務が生じます。

告訴状の基本構成は以下の通りです(具体的な文面は弁護士にご相談ください)。

1. 表題
「告訴状」と明記
2. 宛先
○○警察署長 殿
3. 告訴人情報
住所、氏名、生年月日、連絡先
4. 被告訴人情報
判明している場合は氏名・住所、不明の場合は「氏名不詳」
5. 告訴の趣旨
「下記の者を詐欺罪で処罰されたく告訴します」等
6. 犯罪事実
5W1Hを明確に(いつ、どこで、誰が、何を、どのように、なぜ)
7. 証拠
添付する証拠の一覧
8. 告訴に至る経緯
被害発覚から告訴に至るまでの経緯

告訴状を弁護士に依頼する場合のメリットは、受理率の向上、法的に正確な記載、精神的負担の軽減などです。費用相場は5〜20万円程度で、案件の複雑さによって異なります。

サイバー犯罪に適用される法律

フィッシング詐欺に適用される主な法律は以下の通りです。

法律名 条文 罰則 適用場面
詐欺罪 刑法246条 10年以下の懲役 偽サイトで金銭を騙し取った場合
電子計算機使用詐欺罪 刑法246条の2 10年以下の懲役 不正送金を行った場合
不正アクセス禁止法違反 同法3条 3年以下の懲役または100万円以下の罰金 他人のID・パスワードを使用した場合
組織的犯罪処罰法 同法3条 1年以上の有期懲役(詐欺の場合) 組織的に行われた場合
犯罪収益移転防止法違反 同法27条 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 マネーロンダリングを行った場合

「電子計算機使用詐欺」とは、簡単に言えばコンピュータを使った詐欺のことです。「不正アクセス」とは、他人のID・パスワードを無断で使用してシステムに侵入することを指します。

フィッシング詐欺では、上記の法律が複合的に適用されることが多く、マルウェア感染 を伴う場合は、不正指令電磁的記録に関する罪(刑法168条の2)も適用される可能性があります。


民事訴訟の選択肢|少額訴訟から通常訴訟まで

民事訴訟は、損害賠償請求による金銭的な被害回復を目的とした手続きです。刑事手続きとは別に、被害者自身が起こす手続きとなります。

民事訴訟を検討する際には、費用対効果の観点が重要です。加害者が特定できている、相手方に支払い能力がある、証拠が十分にあるといった条件が揃っている場合に、訴訟を検討する価値があります。

ただし、勝訴しても回収できないリスクがあることは理解しておく必要があります。相手方が無資力の場合、判決を得ても回収は困難です。「勝訴=回収」ではないことを踏まえて判断してください。

少額訴訟(60万円以下)

少額訴訟は、請求額60万円以下の金銭請求に限定された簡易な訴訟手続きです。

少額訴訟の特徴

  • 原則1回の審理で判決が出る
  • 弁護士なしでも対応可能
  • 費用が安価(印紙代+郵券代で1万円程度)
  • 簡易裁判所の窓口でサポートを受けられる
メリット デメリット
1日で判決が出る 60万円を超える請求はできない
弁護士不要で費用が安い 複雑な事案には不向き
手続きが簡単 相手方が異議を申し立てると通常訴訟に移行
窓口でサポートを受けられる 証人尋問等の詳細な審理ができない

少額訴訟の具体的な手続きステップ

ステップ 内容 所要時間
1 訴状の作成 1〜3日
2 簡易裁判所への訴状提出・印紙納付 1日
3 裁判所から相手方への呼出状送達 2〜4週間
4 口頭弁論期日(審理) 1日(2〜3時間)
5 判決言渡し 当日または後日

簡易裁判所の窓口では、訴状の書き方を教えてもらえる、必要書類のチェックを受けられる、費用の計算をしてもらえるなどのサポートがあります。

支払督促

支払督促は、書類審査のみで発付される手続きです。裁判所に出頭する必要がなく、相手方が2週間以内に異議を申し立てなければ、仮執行宣言を経て強制執行が可能になります。費用も訴訟の半額程度と安価です。

ただし、金銭の支払いを求める請求に限られること、相手方の住所が判明している必要があること、相手方が異議を申し立てると通常訴訟に移行することが限界として挙げられます。フィッシング詐欺では、相手方が異議を申し立てる可能性が高いため、活用できるケースは限られます。

通常訴訟

通常訴訟は、請求額が60万円を超える場合や、事案が複雑で詳細な審理が必要な場合に選択します。

訴訟の流れは、訴状提出→被告への送達→答弁書提出→口頭弁論(複数回)→証拠調べ→判決という順序で進みます。期間の目安は一般的に6ヶ月〜2年ですが、フィッシング詐欺の場合、相手方が出廷しないケースでは比較的短期間で判決が出ることもあります。

訴訟費用の内訳と相場

費用項目 概要 相場
訴訟費用(印紙代) 請求額に応じて法定 100万円請求で1万円程度
郵券代 裁判所からの送達費用 5,000〜6,000円程度
弁護士着手金 依頼時に支払う費用 10〜30万円(請求額による)
弁護士報酬金 成功時に支払う費用 回収額の10〜20%
実費 交通費、書類取得費用等 数万円程度

被害額別の費用試算例

  • 50万円の被害:弁護士なしで少額訴訟 → 約1万円
  • 100万円の被害:弁護士ありで通常訴訟 → 約20〜40万円
  • 500万円の被害:弁護士ありで通常訴訟 → 約50〜100万円

調停・ADR(裁判外紛争解決)

調停は、裁判官ではなく調停委員が間に入り、当事者の合意による解決を目指す手続きです。非公開で行われ、費用が訴訟より安価というメリットがあります。

ADR機関としては、国民生活センターADR、金融ADR(全国銀行協会相談室、損害保険相談所等)、弁護士会の仲裁センターなどがあります。金融機関との補償交渉で活用できる場合がありますが、加害者との直接交渉は現実的ではありません。

費用は数千円〜数万円、期間は1〜3ヶ月程度が目安です。


弁護士への相談|タイミング・費用・選び方

弁護士に相談すべきタイミングは、被害額が100万円を超える場合、被害届が受理されない場合、民事訴訟を検討する場合、相手方が判明し交渉が必要な場合などです。

弁護士なしで対応可能 弁護士相談推奨 弁護士必須
被害届の提出 告訴状の作成 通常訴訟
消費者センターへの相談 少額訴訟(複雑な場合) 高額被害(100万円以上)
金融機関への連絡 被害届が受理されない場合 法人としての対応

費用に関する不安を和らげる情報として、初回相談無料の事務所も多いこと、法テラスの無料相談・費用立替制度があること、弁護士費用特約(保険)を活用できる場合があることをお伝えします。

弁護士に相談すべきケース

  • 被害額が100万円以上
  • 法人として被害に遭った
  • 加害者が特定できており、交渉・訴訟を検討
  • 被害届が警察に受理されない
  • 金融機関との補償交渉が難航している
  • 複数の被害者がおり、集団訴訟を検討
  • 精神的被害が大きく、損害賠償を請求したい

高額被害の場合は費用対効果が見合い、法人被害の場合は会社法・個人情報保護法等の専門知識が必要です。被害届が受理されない場合は、弁護士同行により受理率が上がる傾向があります。

弁護士費用の相場と支払い方法

相談料
30分5,000〜10,000円が相場。初回無料の事務所も多い。
着手金
依頼時に支払う費用。結果に関わらず返金されない。
報酬金(成功報酬)
成功した場合に支払う費用。回収額に応じて計算。
実費
交通費、書類取得費用、印紙代等。実際にかかった費用を精算。
手続き 着手金 報酬金
告訴状作成 5〜20万円 なし(または起訴時に5〜10万円)
少額訴訟代理 5〜15万円 回収額の10〜15%
通常訴訟代理 10〜30万円 回収額の10〜20%
示談交渉 5〜20万円 回収額の10〜15%

「費用倒れ」にならないためには、被害額と弁護士費用の比較、相手方の支払い能力の見込み、勝訴の可能性を総合的に判断することが重要です。

法テラス(日本司法支援センター)の活用

法テラスは、国が設立した法的支援を行う機関で、経済的に余裕のない方に対して、無料法律相談や弁護士費用の立替を実施しています。

利用条件(収入基準)

  • 単身者:月収約18万円以下、資産180万円以下
  • 2人家族:月収約25万円以下、資産250万円以下
  • ※詳細は法テラスのウェブサイトでご確認ください

無料相談の申込方法

  • 電話:0570-078374
  • 法テラスのウェブサイトから予約
  • 最寄りの法テラス事務所に直接来所

弁護士費用の立替制度では、審査を経て費用を立て替えてもらい、分割で返済(月額5,000〜10,000円程度)します。生活保護受給者は返済免除の可能性もあります。

サイバー犯罪に強い弁護士の選び方

選定基準

  • サイバー犯罪・IT関連事件の取扱実績
  • IT・デジタル技術への理解(証拠の扱い方等)
  • 迅速な対応(初動の重要性を理解しているか)
  • 費用の透明性(見積もりの明確さ)
  • 相性・コミュニケーションの取りやすさ

弁護士検索は、日本弁護士連合会「弁護士紹介制度」、各都道府県弁護士会の法律相談センター、弁護士ドットコム等の検索サイトが利用できます。

初回相談での確認事項

  • [ ] 類似案件の取扱実績
  • [ ] 費用の見積もり(着手金・報酬金・実費)
  • [ ] 想定される期間
  • [ ] 勝訴・回収の見込み
  • [ ] 連絡方法・頻度

加害者特定の可能性と現実

加害者の特定は、IPアドレスからの追跡、送金先口座からの追跡、フィッシングサイトのドメイン登録情報などの方法で試みられます。しかし、特定が困難なケースが多いのが現実です。

VPN・Tor使用時、海外サーバー経由、「出し子」「運び屋」のみが判明するケースでは、主犯にたどり着くことは難しくなります。

特定できた場合は、刑事告訴による処罰、民事訴訟による損害賠償請求、示談交渉といった展開が考えられます。

標的型攻撃(APT) のような組織的な攻撃の場合、国家レベルの支援を受けていることもあり、個人での特定はほぼ不可能です。

IPアドレスからの追跡

IPアドレスはインターネット上の住所のようなもので、プロバイダ(ISP)がIPアドレスと契約者情報を紐づけて管理しています。裁判所の命令や警察の照会により開示される場合があります。

プロバイダへの開示請求(発信者情報開示請求)は、プロバイダ責任制限法に基づく手続きで、裁判所への仮処分申立てが必要な場合もあります。費用は20〜50万円程度、期間は2〜6ヶ月が目安です。

VPN使用時は海外のサーバーを経由するため開示請求が困難であり、Torは複数のサーバーを経由するため追跡がほぼ不可能です。海外サーバー経由の場合は日本の法律が及ばず、国際捜査協力が必要となりますが、対応に時間がかかります。

送金先口座からの追跡

口座凍結により、口座名義人の情報が判明する場合があります。振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結と、金融機関から警察への情報提供により、捜査が進む可能性があります。

ただし、口座名義人が主犯ではないことが多いのが現実です。「出し子」と呼ばれる現金引き出し役や、名義を貸しただけの人物、知らずに利用された人物であることが大半で、主犯グループにたどり着けないケースが多数を占めます。

暗号資産の場合は、ブロックチェーンの透明性により追跡可能な部分もありますが、ミキシングサービス等を使われると追跡困難になり、海外の取引所を利用されると特定は困難です。

国際犯罪の壁

フィッシング詐欺の多くは国際犯罪です。攻撃者の多くは海外に拠点を置き、サーバーも海外に設置されていることが多いのが実態です。

国際捜査協力は、MLAT(刑事共助条約)に基づく捜査協力やINTERPOL(国際刑事警察機構)を通じた情報共有で行われますが、相手国の協力がなければ捜査は進みません。

ランサムウェア 攻撃の背後にいるグループも、フィッシング詐欺と同様に国際的な犯罪組織であることが多いです。

「捕まらない」ことが多い理由として、国境を越えた捜査の困難さ、技術的な匿名化手段の発達、捜査リソースの限界が挙げられます。

それでも被害届を出す意義はあります。統計への反映により被害実態が把握され、同種被害の集積により捜査が進展する可能性が生まれます。また、金融機関への補償請求時の証拠としても活用できます。


時効と証拠保全期間

刑事時効(公訴時効)と民事時効(消滅時効)は、それぞれ異なる期間が定められています。

刑事時効

罪名 公訴時効
詐欺罪(刑法246条) 7年
電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2) 7年
不正アクセス禁止法違反 3年
組織的詐欺(組織的犯罪処罰法) 10年

時効の起算点は、犯罪行為が終了した時点から起算されます。フィッシング詐欺の場合、金銭が詐取された時点が起算点となります。

犯人が国外にいる期間は時効が停止し、起訴により時効が中断します。

民事時効(消滅時効)

不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は以下の通りです。

  • 被害および加害者を知った時から3年
  • 不法行為の時から20年(除斥期間)

時効は自動的に成立するのではなく、相手方が「援用」して初めて効力を発揮します。訴訟提起、調停申立て、催告等により時効が更新(リセット)されます。

時効の完成が近い場合は、内容証明郵便で催告することで6ヶ月の猶予を確保できます。

証拠の保存期間と対策

証拠の種類 保存主体 保存期間目安
メール プロバイダ 3ヶ月〜1年
通信ログ(IPアドレス) プロバイダ 3〜6ヶ月
銀行取引履歴 金融機関 7年以上
クレジットカード明細 カード会社 5〜7年
Webサイトのキャッシュ 各種サービス 数日〜数週間

プロバイダのログは短期間で消去され、偽サイトも短期間で閉鎖されることが多いため、被害発覚後は直ちに証拠を保全することが不可欠です。

具体的な証拠保全の方法は「フィッシング詐欺の証拠保全」を参照してください。


被害者の権利と支援制度

フィッシング詐欺の被害者には、刑事裁判への参加、損害賠償の請求、情報の提供を受ける権利などが認められています。

個人情報漏洩 を伴うフィッシング被害の場合、情報が悪用される不安から精神的なダメージを受けることも多く、専門家のサポートが有効です。

被害者参加制度

被害者参加制度は、一定の犯罪の被害者が刑事裁判に参加できる制度で、2008年12月から開始されました。

参加できる手続きとしては、公判への出席、検察官の訴訟活動に対する意見陳述、被告人への質問、求刑に関する意見陳述があります。被害者の声を直接裁判所に届けられる点や、裁判の当事者として参加する満足感を得られる点が意義として挙げられます。

損害賠償命令制度

損害賠償命令制度は、刑事裁判の有罪判決後、同じ裁判所に損害賠償を申し立てられる制度です。別途民事訴訟を起こす必要がなく、手続きが簡便で、刑事裁判の証拠をそのまま使え、費用も安い(申立手数料2,000円)というメリットがあります。

適用される犯罪には、殺人、傷害、強制わいせつ、逮捕監禁、詐欺等が含まれ、刑事裁判で有罪判決が言い渡された場合に利用可能です。

犯罪被害者支援制度

犯罪被害者等給付金制度は、殺人、傷害等の身体犯の被害者に対する給付金制度です。フィッシング詐欺(財産犯)は原則対象外ですが、詐欺に伴い傷害を受けた場合等は対象となる可能性があります。

被害者支援センター(全国被害者支援ネットワーク、各都道府県の被害者支援センター)では、無料での相談、裁判所への付添い、カウンセリング・心理的サポートなどを受けられます。


よくある質問(FAQ)

Q1: 被害届を出しても警察は動いてくれますか?
A1: 被害届の提出により、必ずしも捜査が開始されるとは限りません。被害届は捜査の「端緒」であり、警察に捜査義務は生じないためです。ただし、被害届を出すことで統計に反映され、同種被害が多発している場合に捜査が進む可能性が高まります。また、金融機関への補償請求時に被害届の受理番号が必要となることもあります。受理されにくい場合は、弁護士に同行してもらう、告訴状を作成するなどの方法を検討してください。
Q2: 弁護士費用は被害額より高くなりませんか?
A2: 被害額や訴訟の種類によっては、弁護士費用が被害額を上回る「費用倒れ」になる可能性があります。一般的に、被害額が50万円未満の場合は費用対効果の面で弁護士への依頼が難しいケースが多いです。ただし、初回相談無料の事務所も多く、法テラスを利用すれば費用の立替制度もあります。まずは無料相談で見通しを確認することをお勧めします。
Q3: 犯人が海外にいる場合、どうすればいいですか?
A3: 加害者が海外に拠点を置いている場合、国際捜査協力が必要となり、捜査・訴訟のハードルは高くなります。日本の警察は国際刑事警察機構(INTERPOL)や各国の捜査機関と連携していますが、相手国の協力が得られないと捜査が進まないこともあります。それでも被害届を提出することで、被害実態が統計に反映され、同様の被害を防ぐ取り組みにつながる可能性があります。
Q4: 被害届と告訴、どちらを選ぶべきですか?
A4: 「処罰を強く求める」場合は告訴、「まずは被害を届け出る」場合は被害届が適しています。告訴は警察に受理義務があり、検察への送致も義務付けられるため、より強い法的効果があります。ただし、告訴状の作成には法的知識が必要で、弁護士に依頼することが一般的です。迷う場合は、まず被害届を提出し、状況に応じて告訴を検討する方法もあります。
Q5: 被害から何年経っても訴えられますか?
A5: 刑事・民事それぞれに時効があります。刑事では、詐欺罪の公訴時効は7年、不正アクセス禁止法違反は3年です。民事では、被害および加害者を知った時から3年、不法行為時から20年です。時効が近い場合は、内容証明郵便で催告することで6ヶ月の猶予を確保できます。いずれにせよ、早めの行動が重要です。
Q6: 会社として被害に遭った場合の対応は?
A6: 法人被害の場合、個人とは異なる対応が必要です。まず、社内での報告体制を確立し、経営層・法務部門・IT部門が連携して対応します。個人情報漏洩を伴う場合は、個人情報保護委員会への報告義務(速報は速やかに、確報は30日以内)があります。また、取引先・株主への説明、プレスリリースの検討も必要です。弁護士を含む専門家チームでの対応をお勧めします。
Q7: 勝訴しても相手にお金がなければ回収できない?
A7: その通りです。民事訴訟で勝訴判決を得ても、相手方に資産がなければ回収は困難です。これを「執行不能」といいます。フィッシング詐欺の場合、口座名義人が「出し子」で無資力であることも多く、この点は訴訟を検討する際の重要な判断要素となります。訴訟前に相手方の資力を調査することも検討すべきです。
Q8: 少額被害でも警察は受け付けてくれますか?
A8: 被害額が少額でも、被害届の提出は可能です。ただし、現実的には少額被害の場合、捜査の優先度が低くなることがあります。少額被害でも、同種被害が多発している場合は捜査が進む可能性があります。被害届を出すことで統計に反映され、社会全体での対策強化につながるという意義もあります。
Q9: 弁護士なしで裁判はできますか?
A9: 法律上、弁護士なしで裁判を行う「本人訴訟」は認められています。特に少額訴訟は弁護士なしでも対応しやすい設計になっており、簡易裁判所の窓口で手続きのサポートを受けることもできます。ただし、通常訴訟や複雑な案件では専門知識が必要となるため、弁護士への依頼をお勧めします。
Q10: 被害届を出すと会社にバレますか?
A10: 被害届の内容は秘密として扱われ、警察から勤務先に連絡が行くことは通常ありません。ただし、会社の端末やメールアドレスを使用していた場合、社内調査の過程で発覚する可能性はあります。プライバシーに配慮した対応を希望する場合は、警察に相談時にその旨を伝えてください。

重要なお知らせ

  • 本記事は一般的な法的情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません
  • 具体的な法的対応については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください
  • 記載内容は2025年11月時点の情報であり、法改正等により変更される可能性があります
  • 実際の手続きや費用は個々のケースにより異なります
  • 実際に被害に遭われた場合は、警察(#9110)や消費生活センター(188)などの公的機関にもご相談ください

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システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。