フィッシング詐欺の証拠保全|警察・裁判に必要な記録方法

フィッシング詐欺の被害に遭っても、適切な証拠がなければ警察への被害届も、民事訴訟による被害回復も困難になります。実際に、証拠不足で捜査が進まないケースは少なくありません。フィッシングサイトは平均12時間で閉鎖され、メールサーバーのログも24〜72時間で上書きされる可能性があります。つまり、証拠保全は時間との勝負です。

本記事では、警察や裁判所で認められる法的有効性のある証拠保全方法を、初動対応から長期保管まで時系列で解説します。スマートフォンやパソコンでの具体的な保存手順、ハッシュ値の取得方法、公証役場の活用まで、今すぐ実施できる具体的手順を網羅しています。被害に気づいた今この瞬間から、証拠保全を始めてください。

なぜ証拠保全が最優先なのか【法的根拠】

フィッシング詐欺の被害届を警察に提出しても、証拠が不十分な場合は捜査が進まないことがあります。また、民事訴訟で損害賠償を請求する場合も、立証責任は被害者側にあります。「騙された」という主張だけでは、法的に認められないのが現実です。

証拠不足による立件困難の実態

フィッシング詐欺は、ソーシャルエンジニアリングの手法を用いた犯罪であり、物理的な証拠が残りにくい特性があります。被害者の「言った・言わない」では法的な証明にならず、客観的なデジタル証拠が不可欠です。

刑事事件における証拠の重要性
警察が捜査を開始し、検察が起訴するためには、犯罪の事実を証明する証拠が必要です。フィッシング詐欺の場合、詐欺メール、フィッシングサイトの記録、送金記録などが主要な証拠となります。これらが揃っていないと、捜査が困難になる可能性があります。
民事訴訟における立証責任
民事訴訟で損害賠償を請求する場合、被害の事実と因果関係を証明する責任は原告(被害者)にあります。証拠が不十分だと、たとえ被害が事実であっても、請求が認められない可能性があります。
24時間以内の保全が重要な理由
フィッシングサイトは検知を避けるため短期間で閉鎖されることが多く、平均12時間程度で消えるとされています。メールサーバーのログも24〜72時間で上書きされる可能性があり、初動の速さが証拠価値を決定します。

デジタル証拠の特性と時間経過リスク

デジタル証拠には、紙の証拠とは異なる特性があります。これを理解しておくことが、適切な証拠保全の第一歩です。

デジタル証拠の3つの特性:

  1. 改変が容易 - スクリーンショットは画像編集ソフトで加工可能。メタデータも書き換えられる
  2. 消失リスクが高い - サーバー閉鎖、ログの上書き、データの削除で証拠が消える
  3. オリジナルとコピーの区別がつきにくい - デジタルデータは完全なコピーが可能なため、どれが「原本」か証明しにくい

これらの特性から、証拠保全は「今すぐ」「正しい方法で」「複数箇所に」行う必要があります。

経過時間 リスク 対策
12時間以内 フィッシングサイトが閉鎖される可能性 発見次第すぐにスクリーンショット撮影
24〜72時間 メールサーバーのログが上書きされる可能性 メール原本を.eml形式で保存
1週間後 詐欺グループがサーバーを移転・証拠隠滅 Internet Archiveへの保存を実施
1ヶ月後 記憶が曖昧になり時系列記録の正確性低下 被害直後に詳細な時系列記録を作成

ビジネスメール詐欺(BEC)のような企業を狙った攻撃では、証拠保全の遅れが組織全体の損害に直結することもあります。個人・企業を問わず、証拠保全は被害対応の最優先事項と認識してください。

重要: 証拠保全と並行して、フィッシング被害直後30分の緊急対応も確認し、クレジットカードの停止など被害拡大防止措置を優先してください。


【緊急】最初の30分で保全すべき証拠リスト

被害に気づいた直後は混乱しがちですが、最初の30分が証拠保全の勝負です。以下のチェックリストに沿って、優先順位の高いものから順に保全してください。

最初の30分チェックリスト

【最初の30分チェックリスト】
□ スクリーンショット撮影完了(フィッシングサイト、メール画面)
□ フィッシングメール/SMS原本保存完了
□ URLリスト作成完了(アクセスしたすべてのURL)
□ 送金・決済記録の保存完了
□ 時系列メモ作成開始
□ 証拠保存用フォルダ作成完了

注意: 証拠保全も大切ですが、まずはクレジットカードの停止や銀行への連絡など、被害拡大防止を優先してください。証拠保全は被害拡大防止措置と並行して、または直後に行います。

証拠種別の優先度・保全方法一覧

優先度 証拠の種類 保全方法 所要時間 保存場所の例
★★★★★ 詐欺メール/SMS 転送+スクショ+原本保存 3分 専用フォルダ「証拠_YYYYMMDD」
★★★★★ フィッシングサイトURL URL完全コピー(短縮URL展開含む) 1分 テキストファイル「urls.txt」
★★★★★ Web画面 スクリーンショット(全体+部分) 2分 連番保存「web_001.png」
★★★★☆ 送金記録 明細ダウンロード(PDF) 5分 「payment_001.pdf」
★★★★☆ 通話記録 着信履歴撮影 2分 「call_001.png」
★★★☆☆ ブラウザ履歴 履歴エクスポート 3分 「browser_history.html」

ファイル名規則の統一

証拠ファイルは、後から整理しやすいよう統一されたファイル名規則で保存してください。

【推奨ファイル名規則】
形式: [証拠種別]_[連番]_[日付].[拡張子]

例: 
- mail_001_20251120.eml(メール原本)
- mail_001_20251120.png(メールのスクリーンショット)
- web_001_20251120.png(Webサイトのスクリーンショット)
- payment_001_20251120.pdf(送金記録)

【証拠フォルダ構成】
/phishing_evidence_20251120/
  ├── /mail/(メール関連)
  ├── /web/(Webサイト関連)
  ├── /payment/(送金・決済関連)
  ├── /call/(通話関連)
  └── timeline.txt(時系列記録)

スマートフォンでの証拠保全手順【iPhone/Android別】

IT知識がない方でもすぐに実行できるよう、OS別の具体的手順を説明します。

iPhoneでの証拠保全

スクリーンショット撮影:

  1. 電源ボタン + 音量上ボタンを同時押し
  2. 左下にサムネイルが表示される(タップして編集も可能)
  3. 「写真」アプリで撮影した画像を確認

証拠整理手順:

  1. 「写真」アプリを開く
  2. 「アルバム」→ 右上の「+」→「新規アルバム」を選択
  3. アルバム名を「フィッシング証拠_20251120」などに設定
  4. 関連するスクリーンショットをすべてこのアルバムに移動
  5. 「設定」→「Apple ID」→「iCloud」→「写真」がオンになっていることを確認(クラウドバックアップ)

画面録画(操作記録):

  1. 「設定」→「コントロールセンター」→「画面収録」を追加
  2. 画面右上から下にスワイプしてコントロールセンターを表示
  3. 録画ボタン(二重丸のアイコン)をタップ
  4. 3秒のカウントダウン後に録画開始
  5. フィッシングサイトの挙動を記録
  6. 停止するには赤いステータスバーをタップ

Androidでの証拠保全

スクリーンショット撮影:

  1. 電源ボタン + 音量下ボタンを約1秒同時押し
  2. 撮影音が鳴り、通知バーに表示される
  3. 「ギャラリー」または「Files」アプリで確認

※機種により手順が異なる場合があります。お使いの機種で異なる場合は「機種名 スクリーンショット」で検索してください。

証拠整理手順:

  1. 「Files」または「ギャラリー」アプリを開く
  2. 「フォルダ」→「新規フォルダ」を選択
  3. フォルダ名を「証拠_20251120」に設定
  4. スクリーンショットをすべてこのフォルダに移動
  5. Google フォトのバックアップを確認(「Google フォト」→ プロフィール →「フォトの設定」→「バックアップ」)

画面録画:

  1. 画面上部から2回下にスワイプしてクイック設定パネルを表示
  2. 「スクリーンレコード」または「画面録画」をタップ
  3. 「開始」をタップして録画開始
  4. 停止するには通知バーの「停止」をタップ

パソコンでの証拠保全手順【Windows/Mac別】

Windowsでの証拠保全

スクリーンショット撮影:

  • 方法1: PrintScreenキー → 全画面をクリップボードにコピー → 「ペイント」に貼り付け → 保存
  • 方法2: Windows + Shift + S → 範囲選択でスクリーンショット → 通知をクリックして保存
  • 方法3: Snipping Tool(Windows 11標準搭載)を使用

証拠フォルダ作成:

  1. デスクトップで右クリック →「新規作成」→「フォルダー」
  2. フォルダ名を「phishing_evidence_20251120」に設定
  3. サブフォルダ「mail」「web」「payment」を作成

Macでの証拠保全

スクリーンショット撮影:

  • 方法1: Command + Shift + 3 → 全画面をキャプチャ
  • 方法2: Command + Shift + 4 → 範囲選択でキャプチャ
  • 方法3: Command + Shift + 5 → ツールバー表示(録画も可能)

保存先の確認:

デフォルトの保存先はデスクトップです。変更する場合は、Command + Shift + 5 →「オプション」→ 保存先を選択してください。


デジタル証拠の法的有効性を確保する方法

スクリーンショットを撮影しただけでは、法的に十分な証拠とは言えない場合があります。なぜなら、デジタル画像は容易に改変できるからです。ここでは、証拠の法的有効性を高める方法を解説します。

証拠能力と証明力の違い

法的な証拠について理解するため、まず「証拠能力」と「証明力」の違いを押さえておきましょう。

証拠能力(Evidence Admissibility)
裁判所がその証拠を審理の対象として採用するかどうかを指します。デジタル証拠は原則として証拠能力が認められますが、改ざんの疑いがあると排除される可能性があります。
証明力(Probative Value)
その証拠がどれだけ事実を証明する力を持つかを指します。スクリーンショット単体よりも、メール原本+ハッシュ値+タイムスタンプがあると証明力が高まります。
デジタル証拠の3要件
デジタル証拠が法的に有効であるためには、以下の3要件を満たすことが望ましいとされています。
1. 完全性(Integrity):改変されていないこと
2. 真正性(Authenticity):本物であること
3. 信頼性(Reliability):作成過程が信頼できること

なぜスクリーンショットだけでは不十分なのか

スクリーンショットは最も手軽な証拠保全方法ですが、以下の理由から単体では証拠として弱い場合があります。

  • 画像編集ソフトで容易に改変可能 - Photoshopなどで内容を書き換えられる
  • 撮影日時のメタデータも改変可能 - ファイルのプロパティは編集できる
  • 「被害者が作成した」証明ができない - 自作自演の疑いを晴らせない

これらの弱点を補うため、補強証拠を組み合わせることが重要です。

法的有効性を高める補強方法

補強方法 効果 難易度 コスト
ハッシュ値取得 改変されていないことの証明 無料
タイムスタンプサービス 存在日時の証明 無料〜有料
Internet Archive保存 第三者による記録 無料
公証役場での保全 公的機関による証明 1〜3万円
専門業者のフォレンジック 完全な証拠保全 最高 10〜50万円

マルウェア感染によって証拠が改ざんされるリスクもあるため、証拠保全は感染の疑いがないクリーンな端末で行うことが望ましいです。

ハッシュ値の取得と保存【技術的証明】

ハッシュ値とは、ファイルから計算される固有の文字列で、いわば「デジタルデータの指紋」のようなものです。

ハッシュ値の特性
- ファイルが1ビットでも変われば、ハッシュ値は完全に異なる値になる
- 同じファイルからは必ず同じハッシュ値が生成される
- ハッシュ値から元のファイルを復元することはできない
ハッシュ値の活用法
証拠ファイルを保存した直後にハッシュ値を取得しておけば、後から「このファイルは保存時から一切改変されていない」ことを証明できます。

主なハッシュアルゴリズム:

アルゴリズム 特徴 推奨度
MD5 古い、脆弱性が発見されている
SHA-1 やや古い
SHA-256 現在の標準、十分な安全性
SHA-512 より安全だが処理が重い

OS別のハッシュ値取得コマンド:

【Windows(コマンドプロンプト/PowerShell)】
certutil -hashfile evidence.png SHA256

【Mac/Linux(ターミナル)】
shasum -a 256 evidence.png

【出力例】
e3b0c44298fc1c149afbf4c8996fb92427ae41e4649b934ca495991b7852b855  evidence.png

取得したハッシュ値は、テキストファイルに日時・ファイル名とともに記録し、証拠ファイルとは別の場所にも保存してください。

注意: ハッシュ値は補強証拠の一つであり、「ハッシュ値があれば完璧」というわけではありません。他の証拠と組み合わせて活用してください。

タイムスタンプサービスの活用

タイムスタンプとは、時刻認証局(TSA: Time Stamping Authority)がデータの存在日時を証明するサービスです。

タイムスタンプの効力
電子署名と組み合わせることで、「このデータは、この時点で確かに存在していた」ことを第三者が証明します。法的効力を持つ証明として利用できます。

主なタイムスタンプサービス:

サービス名 運営 費用 法的効力
アマノタイムスタンプ アマノ株式会社 有料
セイコータイムスタンプ セイコーソリューションズ 有料
FreeTSA オープンソース 無料

利用が有効なケース:

  • 高額被害(目安として100万円以上)で確実に法的措置を取りたい場合
  • 企業間取引での証拠保全
  • 標的型攻撃(APT)など、組織的な犯罪への対応

個人の少額被害では、費用対効果の観点から必ずしも必要ではありません。まずは無料でできる証拠保全を優先してください。


証拠種別ごとの具体的保全方法

ここからは、証拠の種類ごとに具体的な保全方法を解説します。

メール・SMSの保全【最重要】

フィッシングメールは、フィッシング詐欺の最重要証拠です。単に転送するだけでは不十分で、メールヘッダー情報を含む原本の保存が必要です。

なぜメール原本が重要か

  • メールヘッダーに送信元の真の情報が含まれる - 表示上の「From」と実際の送信元は異なることが多い
  • 転送だけではヘッダー情報が失われる - 経由サーバーや送信元IPアドレスが取得できなくなる
  • SPF/DKIM/DMARC認証結果が記録されている - なりすましの証拠になる

メールヘッダーに含まれる重要情報:

ヘッダー項目 内容 重要度
Received 経由したサーバー情報 ★★★★★
Return-Path 実際の送信元アドレス ★★★★★
Message-ID メール固有の識別子 ★★★★☆
X-Originating-IP 送信元IPアドレス ★★★★★
Authentication-Results SPF/DKIM/DMARC認証結果 ★★★★☆
Date 送信日時 ★★★★☆

Gmailでのメール保全手順

メールヘッダーの取得:

  1. 該当メールを開く
  2. 右上の「︙」(その他)をクリック
  3. 「メッセージのソースを表示」を選択
  4. 新しいタブでソースが表示される
  5. 「クリップボードにコピー」または全選択してコピー
  6. テキストエディタ(メモ帳等)に貼り付け
  7. 「evidence_mail_001_20251120.txt」などのファイル名で保存

.eml形式での保存:

  1. 該当メールを開く
  2. 右上の「︙」→「メッセージをダウンロード」を選択
  3. .eml形式でダウンロードされる
  4. 証拠フォルダに移動

Outlook/Yahooメールでの保全手順

Outlookデスクトップ版:

  1. メールをダブルクリックで開く
  2. 「ファイル」→「プロパティ」を選択
  3. 「インターネットヘッダー」欄の内容をコピー

Outlook.com(Web版):

  1. メールを開く
  2. 右上の「...」→「表示」→「メッセージのソースを表示」を選択

Yahooメール:

  1. メールを開く
  2. 「その他の操作」→「詳細ヘッダー」を選択

SMSの保全方法

スミッシング(SMS詐欺)の場合は、SMSの保全も重要です。

スクリーンショット保存:

  1. 該当SMSを開く
  2. スクロールして全文が見える状態にする
  3. スクリーンショットを撮影
  4. 長文の場合は複数枚に分けて撮影
  5. 送信元電話番号が見える画面も必ず撮影

SMSの転送保存(補助的な方法):

  • iPhone: SMSを長押し →「その他」→ 該当メッセージを選択 → 転送アイコン → 自分のメールアドレス宛に送信
  • Android: SMSを長押し →「転送」→ 自分のメールアドレス宛に送信

注意: 転送すると送信元番号の情報が失われる場合があります。スクリーンショットとの二重保存を推奨します。

Webサイトの記録【フィッシングサイト】

フィッシングサイトは平均12時間で閉鎖されるため、発見次第すぐに記録することが重要です。

スクリーンショットの正しい撮り方

必ず撮影すべき画面:

  • URL全体が見えるアドレスバー(最重要)
  • ログイン画面全体
  • 入力フォームの内容
  • エラーメッセージ
  • 不審なポップアップ

撮影のポイント:

  • URLバーが見切れないように注意 - URLが証拠の核心
  • 日時が分かる情報(タスクバー等)も含める - 撮影時刻の証明
  • 全体と部分の両方を撮影 - 詳細と概要の両方を記録

長いページの保存方法:

  • Chrome: 拡張機能「GoFullPage」で全画面キャプチャ
  • Firefox: 内蔵機能(右クリック →「スクリーンショットを撮影」→「ページ全体を保存」)

Internet Archive(Wayback Machine)の活用

Archive.orgは非営利団体が運営するWebアーカイブサービスで、第三者による保存記録として証拠価値が高まります。

Archive.orgでの保存手順:

  1. https://web.archive.org/ にアクセス
  2. 「Save Page Now」欄にフィッシングサイトのURLを入力
  3. 「SAVE PAGE」ボタンをクリック
  4. 保存完了まで待機(数秒〜数分)
  5. 生成されたアーカイブURL(https://web.archive.org/web/...)をコピー
  6. このURLを証拠として記録

メリット:

  • 第三者(非営利団体)による保存記録
  • 保存日時が明確に記録される
  • URLを共有するだけで誰でも確認可能
  • 無料で利用可能

注意点:

  • フィッシングサイトとして検知されると保存拒否される場合がある
  • サイトがすでに閉鎖されていると保存不可
  • 動的コンテンツ(JavaScript)は正しく保存されない場合がある

HTMLソースの保存方法

ブラウザでのHTMLソース保存:

  1. フィッシングサイトを開いた状態で
  2. 右クリック →「ページのソースを表示」
  3. 全選択(Ctrl+A / Cmd+A)
  4. コピー(Ctrl+C / Cmd+C)
  5. テキストエディタに貼り付け
  6. 「phishing_source_001.html」で保存

注意: 保存したHTMLにはマルウェアが仕込まれている可能性があります。保存後は開かない方が安全です。

金銭被害の証明【送金・決済記録】

被害額を証明するためには、送金・決済記録の保全が不可欠です。

銀行取引明細の保全

  1. インターネットバンキングで取引履歴・明細照会画面を開く
  2. 該当取引を表示
  3. 「PDF出力」または「明細ダウンロード」を実行
  4. CSV形式でもダウンロード(表計算ソフトで確認可能)
  5. 画面のスクリーンショットも併せて撮影

記録すべき項目:

  • 取引日時(年月日時分)
  • 取引金額
  • 振込先口座情報(銀行名、支店名、口座番号、名義)
  • 取引の種類(振込、振替等)
  • 残高
  • 取引番号・参照番号

注意: インターネットバンキングの明細保存期間は銀行により異なります(3ヶ月〜13ヶ月)。古い明細は郵送や窓口での発行依頼が必要になる場合があります。

クレジットカード利用明細の保全

  1. カード会社の会員サイトにログイン
  2. 利用明細照会を選択
  3. 該当月の明細を表示
  4. PDF形式でダウンロード
  5. スクリーンショットも撮影

不正利用の場合:

  • カード会社に連絡し「不正利用調査依頼」を行う
  • 調査結果の書面を保管
  • チャージバック(取消)手続きの記録も保存

暗号資産取引記録の保全

投資/暗号資産詐欺の場合は、ブロックチェーン上の記録も証拠になります。

取引所での記録保存:

  1. 取引履歴画面を表示
  2. CSV形式でダウンロード
  3. 該当取引のスクリーンショットを撮影

ブロックチェーン上の記録:

取引ハッシュ(TxID)を入力して検索し、表示された取引詳細をスクリーンショットで保存してください。


時系列記録の作成【記憶の証拠化】

時系列記録とは、被害の経緯を時間順に整理した文書です。記憶は時間とともに曖昧になるため、被害直後に詳細な記録を作成することが重要です。

5W1Hによる記録方法

要素 記載内容
When 年月日時分 2025年11月20日14:35
Where 場所・環境 自宅のPC、会社のスマホ
Who 関係者 詐欺サイト、カード会社担当者
What 何が起きたか リンクをクリック、情報を入力
Why なぜその行動をしたか 本物だと思った、急いでいた
How どのように メール内リンクから、SMSから

記録のポイント:

  • 感情ではなく事実を記録 -「怖かった」ではなく「14:35にリンクをクリックした」
  • 推測と事実は分けて記載 -「おそらく〜」は推測であることを明記
  • 第三者が読んで理解できる文章 - 警察や弁護士に見せることを想定
  • 日記形式ではなく報告書形式 - 客観的な記録として作成

時系列記録テンプレート

以下のテンプレートをコピーして使用してください。

【時系列記録テンプレート】
================================================
作成日: YYYY年MM月DD日
記録者: 氏名

■ 事案の概要
フィッシングメールによる○○被害

■ 被害状況
- 被害日時: YYYY年MM月DD日 HH:MM〜HH:MM
- 被害内容: (例:クレジットカード情報の入力)
- 被害金額: ○○円(調査中の場合は「調査中」)

■ 時系列
--------------------------------------------------
HH:MM ○○を装うメールを受信
	  件名:【重要】○○のお知らせ
	  送信元表示: ○○@○○.com
	  実際の送信元: ○○@○○.com
	  ※証拠: mail_001.eml

HH:MM メール内のリンクをクリック
	  遷移先URL: https://○○○○
	  ※証拠: web_001.png

HH:MM (以下、時系列で記録を続ける)

■ その後の対応
- MM/DD HH:MM ○○に連絡
- MM/DD HH:MM 被害届提出(受理番号: ○○)

■ 添付証拠一覧
1. mail_001.eml - フィッシングメール原本
2. web_001.png - フィッシングサイト画面
3. payment_001.pdf - 送金記録

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長期保管と証拠の管理

証拠は長期間保管する必要があります。刑事事件や民事訴訟の時効を考慮し、適切な保管期間を設定してください。

保管期間の目安(刑事・民事)

目的 時効・期限 推奨保管期間
刑事告訴 詐欺罪: 7年、電子計算機使用詐欺罪: 7年 10年
民事訴訟 不法行為を知ったときから3年、不法行為時から20年 10年
クレジットカード不正利用 利用規約による(多くは60日以内の届出) 3年
銀行振込被害 振り込め詐欺救済法: 被害発生から1年以内に届出 3年

注意: 時効の起算点は複雑な場合があります。法的措置を検討する場合は、弁護士に確認してください。また、法改正により期間が変更される可能性もあります。

3-2-1バックアップルールの実践

3-2-1ルールは、データを確実に保管するためのベストプラクティスです。

3-2-1バックアップルール
3: データを3つのコピーで保管
2: 2種類の異なるメディアを使用
1: 1つは物理的に別の場所に保管

実践例:

  • オリジナル: PC内蔵SSD
  • コピー1: 外付けHDD(自宅保管)
  • コピー2: クラウドストレージ(Google Drive、OneDrive等)
  • コピー3: USBメモリ(実家または銀行貸金庫)

メディア別の特性:

メディア 寿命目安 メリット デメリット
内蔵HDD/SSD 3〜5年 高速アクセス 故障リスク
外付けHDD 3〜5年 大容量・低価格 物理衝撃に弱い
USBメモリ 5〜10年 持ち運び容易 紛失リスク
クラウド サービス継続中 災害耐性高 プライバシー懸念
M-DISC 100年以上 超長期保存 書込機器が必要

クラウドストレージ活用の注意点

推奨サービス:

サービス 無料容量 セキュリティ 備考
Google Drive 15GB 2段階認証、暗号化 日本法人あり
OneDrive 5GB 2段階認証、暗号化 日本法人あり
Dropbox 2GB 2段階認証、暗号化 日本法人あり
iCloud 5GB 2段階認証、暗号化 日本法人あり

セキュリティ設定:

  • 必ず2段階認証を有効化
  • 共有設定を「自分のみ」に限定
  • パスワードは証拠フォルダとは別管理

注意点:

  • 証拠ファイルに個人情報が含まれる場合は暗号化を検討
  • サービス終了リスクを考慮し、複数サービスに分散
  • 無料プランの容量制限に注意

公証役場でのデジタル証拠保全【法的最強】

公証役場での証拠保全は、最も法的効力の高い方法です。高額被害や確実に法的措置を取りたい場合に有効です。

事実実験公正証書とは

事実実験公正証書
公証人が直接体験した事実を記録した公正証書です。デジタル証拠の場合、公証人の面前でデータを確認し、その存在と内容を証明します。裁判において高い証拠能力を持ちます。
公正証書の効力
民事訴訟法第228条により、公正証書は「真正に成立したもの」と推定されます。つまり、相手方が偽造を主張する場合、その証明責任は相手方にあります。
費用の目安
基本手数料: 11,000円〜
内容の複雑さ、ページ数により変動(1万円〜3万円程度が一般的)

公証役場の利用手順と費用

公証役場の検索方法:

日本公証人連合会サイト(https://www.koshonin.gr.jp/)の「公証役場一覧」から最寄りの役場を検索できます。

事前予約:

  1. 電話で予約
  2. 目的を説明:「フィッシング詐欺のデジタル証拠保全のため」
  3. 持参物の確認
  4. 所要時間の確認(30分〜1時間程度)

当日の持ち物:

  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
  • 印鑑(認印可、シャチハタ不可)
  • 証拠データ(USBメモリまたはノートPC)
  • 現金(費用支払い用)

費用の内訳(目安):

  • 基本手数料: 11,000円
  • 正本代: 1枚250円 × 枚数
  • 謄本代: 1枚250円 × 枚数
  • 合計: 15,000円〜30,000円程度

公証役場での保全が有効なケース

ケース 推奨度 理由
被害額100万円以上 費用対効果が高い
確実に民事訴訟を起こす 証拠能力が格段に上がる
相手方が組織的詐欺グループ 相手方の反論を封じる
被害額10万円以下 費用が被害額を上回る可能性
まだ被害が確定していない 被害確定後でも対応可能

警察・弁護士への提出時の注意点

収集した証拠を警察や弁護士に提出する際の注意点を解説します。

原本とコピーの管理

原則:

  • 原本は絶対に手元に残す
  • 提出用はすべてコピー
  • 原本提出を求められた場合は受領書をもらう
デジタルデータの「原本」とは
- 最初に保存したファイル(ハッシュ値取得済み)
- 編集・加工していないオリジナル
- メタデータが保持されている状態

証拠一覧表の作成方法

証拠を提出する際は、証拠一覧表を作成して整理してください。

【証拠一覧表テンプレート】
================================================
事件名: フィッシング詐欺被害
作成日: 2025年11月20日
作成者: 山田太郎

■ 証拠一覧

| 証拠番号 | 証拠の名称 | ファイル名 | 作成日時 | 内容の説明 |
|---------|-----------|-----------|---------|-----------|
| 甲1 | フィッシングメール | mail_001.eml | 2025/11/20 14:30 | 詐欺メール原本 |
| 甲2 | メールスクショ | mail_001.png | 2025/11/20 14:32 | 詐欺メール画面 |
| 甲3 | フィッシングサイト画面 | web_001.png | 2025/11/20 14:35 | 偽ログイン画面 |
| 甲4 | URL記録 | urls.txt | 2025/11/20 14:35 | アクセスURL一覧 |
| 甲5 | カード明細 | payment_001.pdf | 2025/11/20 15:00 | 不正利用明細 |
| 甲6 | 時系列記録 | timeline.txt | 2025/11/20 16:00 | 被害経緯の詳細 |
| 甲7 | ハッシュ値一覧 | hash_list.txt | 2025/11/20 16:30 | 全証拠のSHA-256 |

■ 備考
- 原本はすべて提出者が保管
- 本資料に添付されているのはコピー
================================================

提出形式(USB/印刷物)の準備

USBメモリでの提出:

  • 新品または完全フォーマット済みのUSBメモリを使用
  • ファイル名は半角英数字(日本語ファイル名は文字化けの可能性)
  • フォルダ構成を分かりやすく
  • 「readme.txt」にファイル一覧を記載
  • ウイルススキャン実施済みであることを確認

印刷物の準備:

  • メール本文、Web画面は必ず印刷
  • URLが見切れないように縮小印刷
  • カラー印刷推奨(詐欺サイトの特徴が分かる)
  • 各ページに通し番号を記載
  • ホチキス止めまたはクリアファイルで整理

詳しい通報先はフィッシング詐欺の通報先一覧を、法的対応についてはフィッシング詐欺の法的対応をご確認ください。


よくある証拠保全の失敗例と対策

読者が陥りやすい失敗を事前に防ぐため、よくある失敗例と対策を紹介します。

❌ 失敗例1: 「後で保存しよう」と思っていたらサイトが消えていた
フィッシングサイトは平均12時間で閉鎖されます。「後で」は禁物です。気づいた瞬間にスクリーンショットを撮影してください。
→ ✅ 対策: 今すぐ撮影。5秒で終わる作業を後回しにしない
❌ 失敗例2: メールを「転送」だけで保存した
転送するとメールヘッダー情報が変わり、送信元IPアドレス等の重要情報が失われます。証拠能力が大幅に低下します。
→ ✅ 対策: 「.eml形式」または「メッセージのソース」で原本保存
❌ 失敗例3: スクショをLINEで家族に送って満足した
LINEは画像を圧縮し、メタデータ(撮影日時等)も削除されます。証拠としての価値が下がります。
→ ✅ 対策: 元画像をPCやクラウドに保存。共有はコピーで
❌ 失敗例4: PCのゴミ箱を空にしてしまった
完全削除後のデータ復元は専門業者でも困難な場合があります。
→ ✅ 対策: 証拠データは削除禁止。専用フォルダで厳重管理
❌ 失敗例5: 1箇所にしか保存していなかったHDDが故障した
単一障害点(Single Point of Failure)のリスクです。1箇所だけの保存は危険です。
→ ✅ 対策: 3-2-1ルールで3箇所以上にバックアップ
❌ 失敗例6: スクショを撮ったが日時が写っていなかった
いつ撮影したか証明できないスクリーンショットは証拠能力が低下します。
→ ✅ 対策: 画面下部のタスクバー(時計表示)も含めて撮影
❌ 失敗例7: 慌てて証拠を整理せずに警察に相談した
バラバラの情報では警察も対応しづらく、再度整理を求められることがあります。
→ ✅ 対策: 時系列記録と証拠一覧表を作成してから相談

【FAQ】証拠保全に関するよくある質問

Q1: 証拠を保全するのは被害者の義務ですか?
A: 法的義務ではありませんが、警察への被害届や民事訴訟では不可欠です。証拠がないと「被害があった」ことすら証明できず、泣き寝入りになる可能性が高くなります。自分を守るための権利行使として、可能な限り証拠保全を行うことを推奨します。
Q2: すでに削除してしまったメールは復元できますか?
A: ゴミ箱に残っていれば復元可能です。完全削除後は一般的には困難ですが、メールプロバイダに連絡すればサーバー側のログが残っている可能性があります(多くの場合24〜72時間程度)。削除に気づいたらすぐにプロバイダに相談してください。
Q3: スマホのスクリーンショットだけでは証拠として弱いですか?
A: スクリーンショット単体は改変が容易なため、補強証拠があると証拠能力が高まります。メールの原本(.eml形式)、URLのInternet Archive保存、第三者による確認(公証役場)などを組み合わせると、より強力な証拠となります。
Q4: 証拠保全にかかる費用はどれくらいですか?
A: 自分で実施する場合は基本的に無料です。公証役場を利用する場合は1〜3万円程度。専門のデジタルフォレンジック業者に依頼すると10〜50万円程度かかります。被害額と相談しながら、まずは自分でできることから始めてください。
Q5: 証拠をどれくらいの期間保管すべきですか?
A: 刑事事件の公訴時効は詐欺罪で7年、民事訴訟の時効は不法行為を知ったときから3年(不法行為時から20年)です。安全を見て最低10年間は保管することを推奨します。デジタルデータは劣化しにくいため、長期保管のコストは低いです。
Q6: 公証役場での証拠保全は必須ですか?
A: 必須ではありません。ただし、高額被害(目安として100万円以上)や確実に法的措置を取りたい場合は利用価値が高いです。公証人が事実を確認することで、証拠の信頼性が格段に上がり、裁判で有利になる可能性があります。
Q7: 企業の場合、従業員が勝手に証拠保全してよいですか?
A: 業務用PCやメールは会社の資産です。証拠保全が必要と判断した場合は、まず上司や法務部門に報告し、指示を仰いでください。個人判断でのデータの外部持ち出しは、[個人情報漏洩](/security/data-privacy/pii-leakage/)として問題になる可能性があります。CSIRTやセキュリティ担当部門がある場合は、そちらに連携してください。

まとめ

フィッシング詐欺の証拠保全は、被害回復の可能性を大きく左右します。本記事で解説した内容を実践し、適切な証拠を確保してください。

証拠保全の3原則:

  1. 今すぐ - 時間が経つほど証拠は消える
  2. 正しい方法で - スクショだけでなく原本保存
  3. 複数箇所に - 3-2-1ルールでバックアップ

証拠保全ができたら、フィッシング詐欺の通報先一覧を確認し、警察や関係機関への届出を進めてください。金銭被害の回復についてはフィッシング詐欺の金銭被害回復も参考にしてください。

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【重要なお知らせ】

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する法的助言ではありません
  • 実際に被害に遭われた場合は、警察(#9110)や消費生活センター(188)などの公的機関にご相談ください
  • 法的な対応が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください
  • 記載内容は作成時点(2025年11月)の情報であり、法令や手続きは変更される可能性があります


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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。