脆弱性管理・パッチ運用を初心者でも分かりやすく解説

システムやソフトウェアの脆弱性を放置することは、サイバー攻撃者に侵入の入口を提供しているのと同じです。お金・アカウントを守るために最も重要なのは、不正アクセスやランサムウェアといったサイバー攻撃の入口となる脆弱性を適切に管理することです。2024年の調査では、日本企業のパッチ適用までの平均期間は36.4日と、世界平均の1.2倍も時間がかかっています。この間に脆弱性を悪用されると、データ漏洩や業務停止といった深刻な被害につながります。実際、国内のサイバー攻撃被害の多くは、既知の脆弱性が放置されていたことが原因です。本記事では、非IT技術者の方にも分かりやすく、脆弱性管理とパッチ運用の重要性、実践方法、よくある疑問について解説します。

脆弱性管理・パッチ運用とは?

脆弱性管理・パッチ運用とは、システムやソフトウェアに潜むセキュリティ上の弱点を発見し、適切に修正していく継続的な取り組みのことです。お金・アカウントを守るためのセキュリティ対策として、不正アクセスやランサムウェアといったサイバー攻撃から組織を防御する基盤となります。

脆弱性とは、プログラムの設計ミスやコードの不具合によって生じる、サイバー攻撃に悪用される可能性のあるセキュリティ上の欠陥を指します。どれほど優れたソフトウェアでも、複雑化する現代のシステムでは脆弱性をゼロにすることは困難です。そのため、発見された脆弱性に対して迅速に対応する管理体制が求められます。

パッチとは、発見された脆弱性を修正するための更新プログラムのことです。ソフトウェアベンダーは脆弱性が見つかると、その欠陥を修正したパッチを開発し、利用者に提供します。このパッチを適切なタイミングで適用する作業がパッチ運用です。

脆弱性管理は、組織内で使用しているすべてのソフトウェアやシステムについて、どのような脆弱性が存在するかを把握し、優先順位をつけて対応する一連のプロセスです。これには脆弱性の発見、評価、対応の計画、パッチ適用、そして適用後の確認まで含まれます。

多くの組織では、IPAが運営するJVN iPediaやNVDといった脆弱性情報データベース、ベンダーが発行するセキュリティ情報、CISA(米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)が公開するKEV(Known Exploited Vulnerabilities)リストなどを活用して、最新の脆弱性情報を収集しています。

脆弱性管理とパッチ運用は、セキュリティ対策の基本中の基本です。既知の脆弱性を放置することは、攻撃者に侵入の入口を提供しているようなものであり、多くのサイバー攻撃被害の原因となっています。

脆弱性管理・パッチ運用を簡単に言うと?

脆弱性管理・パッチ運用を身近な例でたとえると、住宅の定期点検と修繕作業に似ています。

新築の家でも、時間が経つにつれて小さなひび割れができたり、鍵の不具合が見つかったりします。これらの問題を放置すると、雨漏りにつながったり、空き巣に狙われやすくなったりします。脆弱性はこの「家の欠陥」に相当し、サイバー攻撃者はこうした弱点を探して侵入を試みます。

定期的に家を点検し、問題を見つけたらすぐに修理業者を呼んで直してもらう。これが脆弱性管理とパッチ運用の基本的な考え方です。点検が脆弱性の発見、修理がパッチ適用に当たります。

さらに重要なのは、近所で空き巣被害が相次いでいる場合、自分の家の鍵も早急に点検し、必要なら交換することです。これは実際のサイバー攻撃で悪用されている脆弱性に優先的に対応することに対応します。

また、家の修理には優先順位があります。雨漏りのような緊急性の高い問題は即座に対応が必要ですが、見た目の小さな傷は後回しにできます。脆弱性管理でも同様に、悪用された場合の影響の大きさや、実際に攻撃されている証拠があるかどうかで優先順位をつけることが重要です。

修理する際には、住んでいる家族の生活に配慮する必要もあります。大規模な修繕工事は週末に行うなど、日常生活への影響を最小限にする工夫が求められます。これはシステムのパッチ適用でも同じで、業務への影響を考慮したタイミングで実施する計画性が必要です。

脆弱性管理・パッチ運用の現状

2024年から2025年にかけて、脆弱性を取り巻く状況は年々深刻化しています。最新のデータから、現在の脆弱性管理が直面している課題が明らかになっています。

IPAが運営する脆弱性対策情報データベースJVN iPediaには、2024年第4四半期時点で累計223,690件の脆弱性情報が登録されています。2024年だけでも約3万件の新たな脆弱性が報告されており、前年比で17%増加しています。この増加傾向は今後も続くと予想されています。

特に注目すべきは、報告される脆弱性の深刻度です。2024年にJVN iPediaに登録された脆弱性のうち、深刻度が「緊急」または「重要」に分類されるものが全体の約51%を占めています。つまり、報告される脆弱性の半数以上が、早急な対応を要する重大なものなのです。

しかし、日本の組織におけるパッチ適用の実態は厳しい状況にあります。トレンドマイクロが2024年に公開した調査によると、日本企業のMTTP(Mean Time To Patch:パッチ適用までにかかる平均時間)は36.4日となっており、世界平均の約1.2倍、欧州地域(26.5日)と比較すると約10日も遅い結果となっています。

この遅れの背景には、レガシーシステムの運用、パッチ適用によるシステム安定性への懸念、専門知識を持った人材の不足といった、日本特有の課題があります。特に、長年使用してきた古いシステムでは、パッチ適用によって予期しないトラブルが発生するリスクがあり、慎重な対応が求められるため、どうしても時間がかかってしまいます。

実際のサイバー攻撃でも、脆弱性の悪用は主要な侵入手口となっています。2023年にCISAが公表した「最も頻繁に悪用された15件の脆弱性」は、2024年に入っても継続して攻撃に使われています。特にLog4Shell(CVE-2021-44228)と呼ばれる脆弱性は、発覚から3年以上経過した2024年でも約96.4億回もの攻撃試行が検知されており、既知の脆弱性が長期にわたって悪用され続ける現実を示しています。

2024年の国内サイバー攻撃被害公表件数は587件に達し、1日平均1.7件のペースで何らかの被害が報告されています。このうち、岡山県精神科医療センターのランサムウェア被害など、脆弱性の放置が直接的な原因となった事例が複数報告されています。

さらに深刻なのは、二次被害の急増です。2024年の被害報告のうち36.3%(213件)が、他組織への攻撃による二次被害でした。これは、委託先企業が脆弱性を悪用されて侵害を受けた結果、委託元企業の情報も漏洩するというサプライチェーン攻撃の増加を示しています。

近年の傾向として、攻撃者が脆弱性を悪用するスピードも加速しています。脆弱性情報が公開されてから実際の攻撃が観測されるまでの期間は短縮化しており、組織にはより迅速な対応が求められています。2024年の調査では、脆弱性評価を年4回以上実施する組織が24%に達し、2023年の15%から大きく増加しています。これは組織がより頻繁な監視の必要性を認識し始めていることを示しています。

CVE IDが付与されていない脆弱性やリスクも増加しており、2024年は前年の約2倍に達しました。その約8割は悪意のあるパッケージで、従来の脆弱性管理の枠組みでは対処が難しい新たな脅威として浮上しています。

このように、脆弱性を取り巻く環境は厳しさを増しており、組織には継続的かつ組織全体での対応が求められる状況となっています。

脆弱性管理・パッチ運用の不備で発生する被害は?

脆弱性管理とパッチ運用を適切に行わないことで、組織は深刻なサイバー攻撃の被害に直面します。この被害は直接的なものと間接的なものに分けられ、その影響は組織の存続を脅かすほど大きなものになることがあります。特に、お金・アカウントを守るための基本的なセキュリティ対策を怠ると、不正アクセスやアカウント乗っ取り(ATO)、ランサムウェア攻撃など、様々な脅威に晒されることになります。

脆弱性を放置することは、攻撃者に侵入経路を提供しているのと同じです。特に、既に悪用事例が確認されている脆弱性や、CISA KEVリストに掲載されているような重要な脆弱性を放置している場合、攻撃を受けるリスクは極めて高くなります。

攻撃者は公開されている脆弱性情報を常に監視しており、パッチが未適用の組織を自動的にスキャンして探し出します。発見された脆弱性は、ランサムウェア攻撃、データ窃取、不正アクセスなど、様々なサイバー攻撃の入口として悪用されます。

脆弱性管理の不備による被害は、組織の規模や業種を問わず発生しています。大企業から中小企業、自治体、医療機関、教育機関まで、あらゆる組織が標的となり得ます。特に、重要インフラや個人情報を扱う組織では、被害の影響がより深刻になる傾向があります。

脆弱性管理・パッチ運用の不備で発生する直接的被害

脆弱性の放置によって発生する直接的な被害は、組織の業務やデータに即座に影響を及ぼします。

最も深刻な直接的被害は、データの漏洩や窃取です。脆弱性を悪用した不正アクセスによってシステムに侵入された場合、顧客情報、取引先情報、従業員の個人情報、企業の機密情報などが攻撃者に窃取される可能性があります。総当たり攻撃(ブルートフォース攻撃)やパスワードリスト攻撃(クレデンシャルスタッフィング)で突破された認証システムの脆弱性、SQLインジェクションなどのWeb脆弱性を悪用したアカウント乗っ取り(ATO)など、様々な攻撃手法の起点となります。特に、ECサイトのクレジットカード情報漏洩や、医療機関の患者情報流出などは、個人の生活に直接的な被害をもたらします。2024年の調査では、国内ECサイトの情報漏洩事例において、平均被害期間が約2年9ヶ月にも及ぶことが明らかになっており、長期間にわたって気づかれずに情報が盗まれ続けるケースも少なくありません。

ランサムウェア攻撃による業務停止も深刻な直接的被害です。脆弱性を突破口に侵入したランサムウェアは、組織のデータを暗号化し、復号と引き換えに身代金を要求します。暗号化されたデータにアクセスできなくなると、業務が完全に停止してしまいます。医療機関では電子カルテシステムが使えなくなり診療に支障が出る、製造業では生産ラインが止まる、自治体では住民サービスが提供できなくなるなど、組織の中核業務が機能不全に陥ります。復旧には数週間から数ヶ月かかることも珍しくありません。

システムの不正な改ざんや破壊も直接的被害として挙げられます。攻撃者は侵入後、Webサイトの内容を書き換えたり、重要なシステムファイルを削除したり、バックアップデータを破壊したりします。特にワイパー型マルウェアによる攻撃では、データが完全に消去され、復旧が不可能になる場合もあります。バックアップが適切に保護されていない場合、事業の継続そのものが困難になります。

脆弱性管理・パッチ運用の不備で発生する間接的被害

直接的な被害に加えて、脆弱性管理の不備は組織に長期的で広範な間接的被害をもたらします。

信頼の失墜は最も深刻な間接的被害の一つです。サイバー攻撃による情報漏洩や業務停止が公になると、顧客や取引先からの信頼を大きく損ないます。「セキュリティ管理が甘い企業」というレッテルは簡単には払拭できず、既存顧客の離反、新規顧客獲得の困難、取引先との契約解除といった事態につながります。特にB2B企業では、セキュリティ管理体制が取引継続の条件となることが増えており、脆弱性管理の不備が明らかになると取引そのものを失う可能性があります。

法的責任と規制当局からの処分も重大な間接的被害です。個人情報保護法では、個人データの漏洩が発生した場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務付けられており、違反には罰則が科されます。また、適切なセキュリティ対策を怠っていたことが明らかになれば、損害賠償請求を受ける可能性もあります。医療機関や金融機関など、特定の業界では業界固有の規制もあり、重大なセキュリティインシデントは業務停止命令などの行政処分につながることもあります。2024年に増加している二次被害のケースでは、委託元企業が委託先の脆弱性管理不備による被害の責任を問われる事例も出ています。

経済的損失は多岐にわたります。システム復旧作業、フォレンジック調査、セキュリティ強化対策、顧客への補償、コールセンター設置、広報対応など、インシデント対応には莫大なコストがかかります。業務停止期間中の売上損失、株価下落、ブランド価値の毀損による長期的な収益減少も加わります。さらに、サイバー保険に加入していても、適切な脆弱性管理を行っていなかった場合は保険金が支払われない可能性もあります。一度の重大インシデントで数億円から数十億円の損失を被る事例も報告されています。

脆弱性管理・パッチ運用の実践方法

効果的な脆弱性管理とパッチ運用を実践するには、組織全体での体系的な取り組みが必要です。ここでは、非IT技術者の方々にも理解しやすいよう、実践的なアプローチを解説します。

まず基本となるのは、組織内で使用しているすべてのIT資産を把握することです。どのようなソフトウェアやシステムが稼働しているか、それらがどのバージョンなのかを正確に記録し、常に最新の状態に保つ必要があります。これは資産台帳として管理され、脆弱性管理の出発点となります。クラウドサービス、社内システム、業務アプリケーション、ネットワーク機器など、すべてのIT資産が対象です。

次に重要なのは、脆弱性情報の継続的な収集です。IPAのJVN iPedia、各ソフトウェアベンダーのセキュリティ情報、CISA KEVリストなど、信頼できる情報源から最新の脆弱性情報を入手します。特に自社で使用しているソフトウェアに関する脆弱性情報は、見逃さないよう注意が必要です。多くの組織では、セキュリティベンダーが提供する脆弱性管理ツールや、メール配信サービスを活用して、効率的に情報収集を行っています。

発見された脆弱性は、すべてに同じ優先度で対応するわけではありません。重要なのはリスク評価に基づく優先順位付けです。CVSS(共通脆弱性評価システム)スコアという数値が脆弱性の深刻度を示していますが、それだけで判断するのではなく、以下の要素を総合的に考慮します。実際に攻撃で悪用されている証拠があるか、システムがインターネットに公開されているか、そのシステムで扱っているデータの重要度はどの程度か、ビジネスへの影響はどれくらいか。これらの要素を組み合わせて、優先的に対応すべき脆弱性を決定します。

パッチ適用の計画では、業務への影響を最小限に抑える工夫が求められます。基幹系システムへのパッチ適用は業務時間外や週末に実施する、段階的に適用範囲を広げていく、事前にテスト環境で動作確認を行うなど、慎重な計画が必要です。緊急性の高い脆弱性については、通常のメンテナンス時期を待たずに臨時で対応する判断も必要になります。

パッチを適用した後は、システムが正常に動作しているか、パッチが確実に適用されたかを確認する検証作業が重要です。また、何らかの問題が発生した場合に備えて、適用前の状態に戻せるようバックアップを取得しておくことも忘れてはいけません。

組織によっては、すぐにパッチを適用できない事情がある場合もあります。レガシーシステムで互換性の問題がある、業務上の制約で停止できない期間がある、といったケースです。このような場合は、代替的なセキュリティ対策を講じます。ファイアウォールでの通信制限、IPS(侵入防止システム)による攻撃検知、アクセス制御の強化など、パッチ適用までの期間を安全に過ごすための一時的な対策が重要になります。

脆弱性管理は一度実施すれば終わりではなく、継続的なプロセスです。定期的な脆弱性スキャンの実施、パッチ適用状況の監視、新たな脅威情報の確認を、日常的な業務として組み込む必要があります。2024年の調査では、脆弱性評価を年4回以上実施する組織が増加しており、より高頻度での管理が標準になりつつあります。

組織体制も重要です。脆弱性管理とパッチ運用の責任者を明確にし、IT部門だけでなく、経営層、各部門の責任者を含めた組織横断的な体制を構築します。特に経営層の理解と支援は不可欠で、脆弱性管理に必要な予算やリソースの確保、重要な判断が必要な際の迅速な意思決定に経営層の関与が求められます。

外部の専門家やサービスを活用することも有効です。脆弱性診断サービスを利用して、外部の視点からシステムの弱点を発見する、セキュリティベンダーの脆弱性管理ツールを導入して自動化を進める、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)のような専門組織にアドバイスを求めるなど、自社のリソースだけでは難しい部分を補完する体制が効果的です。

中小企業では、人的リソースや予算の制約から、大企業と同じ水準の脆弱性管理を実施することが難しい場合もあります。そのような場合でも、最低限実施すべき対策として、使用しているソフトウェアの自動更新機能を有効にする、重要度の高いシステムに絞って重点的に管理する、クラウドサービスを活用して管理の負担を軽減する、といったアプローチが可能です。IPAなどが提供する中小企業向けのガイドラインも参考になります。

脆弱性管理・パッチ運用を簡単に言うと?

脆弱性管理・パッチ運用の実践を、日常生活に置き換えて考えてみましょう。

これは、自動車の定期メンテナンスとリコール対応に非常によく似ています。自動車メーカーは、販売後に問題が見つかると、無償修理を行うリコールを発表します。この通知を受け取ったら、なるべく早くディーラーに車を持ち込んで修理してもらう必要があります。

「まだ今のところ問題なく走っているから」と放置していると、ある日突然、重大な事故につながる可能性があります。特に、ブレーキやエアバッグといった安全に直結する部品のリコールは、最優先で対応すべきです。これは、実際に悪用されている脆弱性に優先的にパッチを適用することに対応します。

また、車検や定期点検も重要です。これは定期的な脆弱性スキャンに相当します。専門家の目で全体をチェックしてもらうことで、自分では気づかなかった問題を発見できます。

複数の車を所有している場合、それぞれのメンテナンス記録を管理する必要があります。これはIT資産の管理と同じです。「どの車がいつメンテナンスを受けたか」を把握していないと、対応漏れが発生してしまいます。

修理のタイミングも考慮が必要です。仕事で毎日使う車なら、休日に修理に出す、代車を手配するなど、日常生活への影響を最小限にする工夫をします。これは業務システムのパッチ適用を業務時間外に実施することに似ています。

このように、脆弱性管理・パッチ運用は、特別な専門知識がなくても理解できる、「日常的な維持管理と早めの修理」という考え方で捉えることができます。

脆弱性管理・パッチ運用に関連したセキュリティ対策

脆弱性管理・パッチ運用は、他のセキュリティ対策と密接に関連しながら、組織全体のセキュリティ体制を構成しています。ここでは特に関連性の高い3つのセキュリティ対策について解説します。

セキュリティポリシー/リスク管理との関連

脆弱性管理・パッチ運用は、組織のセキュリティポリシーとリスク管理の枠組みの中で実施されます。

セキュリティポリシーは、組織がどのようにセキュリティを確保するかを定めた基本方針です。この中で、脆弱性管理とパッチ運用に関する基準や手順が明確に定義されます。例えば、「深刻度が高い脆弱性は発見から何日以内にパッチを適用する」「パッチ適用前に必ずテスト環境で検証する」といったルールを策定します。

リスク管理の観点では、脆弱性は組織が直面するリスクの一つとして評価されます。どの脆弱性がどの程度のリスクをもたらすか、そのリスクをどのように低減するか(パッチ適用、代替対策、リスク受容など)を判断するプロセスが、脆弱性管理に組み込まれます。

特に重要なのは、サプライチェーン全体でのリスク管理です。自社だけでなく、委託先や取引先の脆弱性管理状況も含めてリスクを評価する必要があります。2024年に二次被害が急増している現状を踏まえると、取引先のセキュリティレベルを契約条件に含める、定期的な監査を実施するといった対策が求められます。

経営層は、脆弱性管理を単なるIT部門の技術的課題ではなく、事業継続に関わる経営課題として認識する必要があります。脆弱性放置によるインシデントが発生した場合の事業への影響、財務的損失、法的責任などを理解し、適切なリソース配分と意思決定を行うことが経営層の役割です。

インシデント対応計画との関連

どれほど優れた脆弱性管理を実施していても、ゼロデイ攻撃(パッチが存在しない脆弱性への攻撃)や、パッチ適用前の期間を狙った攻撃など、完全に防ぎきれないケースがあります。そのため、脆弱性が悪用された場合に備えたインシデント対応計画が不可欠です。

インシデント対応計画では、脆弱性が悪用されたことを検知した際の初動対応、被害の拡大防止、原因調査、復旧手順などを事前に定めておきます。特に、パッチが未適用の重要な脆弱性が悪用された場合のシナリオを想定し、緊急時の連絡体制、意思決定プロセス、外部専門家への支援要請手順などを明確にしておくことが重要です。

脆弱性管理との連携では、未対応の脆弱性リストを常に最新の状態に保ち、それらが悪用された際の影響範囲や対応方法をインシデント対応チームと共有しておきます。これにより、実際にインシデントが発生した際に、迅速かつ適切な対応が可能になります。

また、インシデント対応の経験から得られた教訓を、脆弱性管理プロセスの改善にフィードバックすることも重要です。「どの脆弱性が実際に悪用されたか」「対応が遅れた原因は何か」といった分析結果を基に、脆弱性管理の優先順位付けや対応プロセスを見直します。

定期的なインシデント対応訓練の中で、脆弱性悪用のシナリオを取り入れることで、組織全体の対応能力を向上させることができます。

セキュア開発(SSDLC)との関連

脆弱性管理・パッチ運用は、既存システムの脆弱性に対処する「守り」の活動ですが、セキュア開発(SSDLC:Secure Software Development Life Cycle)は、新たなシステムやアプリケーションを開発する段階から脆弱性を作り込まないようにする「攻め」の活動です。

セキュア開発では、システムの設計段階からセキュリティ要件を定義し、実装段階ではセキュアコーディングの原則に従い、テスト段階では脆弱性診断を実施するなど、開発ライフサイクル全体にセキュリティ対策を組み込みます。これにより、リリース時点での脆弱性の数を大幅に減らすことができます。

特に、過去に発見された脆弱性の傾向や、OWASP Top 10のような一般的な脆弱性のパターンを開発チームが理解し、同じミスを繰り返さないようにすることが重要です。IPAが提供する「安全なウェブサイトの作り方」や「脆弱性体験学習ツールAppGoat」などの教材を活用することで、開発者のセキュリティ意識を高めることができます。

オープンソースソフトウェア(OSS)を利用する場合は、導入時点でのライセンス確認だけでなく、使用しているOSSライブラリに既知の脆弱性がないかを継続的にチェックする必要があります。2024年の調査では、間接依存するライブラリの脆弱性や、CVE IDが付与されていない悪意のあるパッケージが増加しています。ソフトウェア部品表(SBOM)を作成し、依存関係を含めたすべてのコンポーネントを把握することが、現代のセキュア開発では必須となっています。

自社開発したシステムについても、脆弱性が発見された際の対応フローを確立しておく必要があります。内部で脆弱性を発見した場合、または外部から指摘を受けた場合に、どのように評価し、修正し、利用者に通知するかを事前に定めておきます。

脆弱性管理の知見をセキュア開発にフィードバックすることで、「脆弱性が作り込まれにくいシステム」と「脆弱性が見つかっても迅速に対応できる体制」の両方を実現し、組織のセキュリティレベルを総合的に向上させることができます。

脆弱性管理・パッチ運用のよくある質問

パッチを適用するタイミングはいつが最適ですか?
パッチ適用のタイミングは、脆弱性の深刻度と業務への影響のバランスで判断します。深刻度が「緊急」または「重要」で、実際に悪用されている証拠がある脆弱性は、可能な限り早急に対応すべきです。理想的には数日以内、遅くとも1週間以内の適用を目指します。日本企業の平均パッチ適用期間は36日ですが、これは世界的に見て遅いペースです。一方、深刻度が低い脆弱性は、定例のメンテナンス時期に合わせて適用するなど、計画的なスケジュールで対応できます。基幹システムへのパッチ適用は、業務時間外や週末、長期休暇の前後など、業務への影響が最小限になる時間帯を選びます。ただし、緊急性が高い場合は、臨時のメンテナンスウィンドウを設定して対応する判断も必要です。
すべての脆弱性に対応する必要がありますか?
理想的にはすべての脆弱性に対応すべきですが、現実的には組織のリソースには限りがあります。そのため、リスクベースでの優先順位付けが重要です。CVSS(共通脆弱性評価システム)スコアが高い脆弱性、CISA KEVリストに掲載されている実際に悪用されている脆弱性、インターネットに公開されているシステムの脆弱性、重要なデータを扱うシステムの脆弱性などを優先的に対応します。一方、深刻度が低く、インターネットから隔離された環境にあるシステムの脆弱性は、他のセキュリティ対策でリスクを低減しながら、定例メンテナンス時に対応するといった柔軟な判断も可能です。完全に対応できない脆弱性については、代替的な対策(アクセス制限、監視強化など)を講じることで、リスクを許容可能なレベルに保ちます。
中小企業でも脆弱性管理は必要ですか?
中小企業こそ脆弱性管理が重要です。攻撃者は組織の規模で標的を選びません。むしろ、セキュリティ対策が手薄になりがちな中小企業は狙われやすい傾向があります。特に、大企業のサプライチェーンに組み込まれている中小企業は、大企業への攻撃の足がかりとして標的にされることがあります。2024年に増加している二次被害の多くは、委託先企業のセキュリティ不備が原因です。中小企業では、大企業と同じ水準の脆弱性管理を実施することが難しい場合もありますが、以下のような現実的なアプローチが可能です。使用しているソフトウェアを最小限に絞り、重点管理する。自動更新機能を活用して、手動での管理負担を減らす。クラウドサービスを利用することで、ベンダー側でのセキュリティ管理に委ねる。セキュリティベンダーの管理サービスを利用して、専門家のサポートを受ける。IPAなどが提供する中小企業向けガイドラインを参考にする。
クラウドサービスを利用している場合、脆弱性管理は必要ありますか?
クラウドサービスでも脆弱性管理は必要ですが、責任範囲が異なります。クラウドサービスには「責任共有モデル」という考え方があり、クラウド事業者とユーザーでセキュリティ責任を分担します。IaaS(Infrastructure as a Service)では、ユーザーがOS以上の層の脆弱性管理に責任を持ちます。仮想マシンのOS、ミドルウェア、アプリケーションのパッチ適用はユーザーの責任です。PaaS(Platform as a Service)では、プラットフォーム層の脆弱性管理はクラウド事業者が担当し、ユーザーはアプリケーション層に責任を持ちます。SaaS(Software as a Service)では、ほとんどの脆弱性管理をクラウド事業者が実施しますが、ユーザーは適切なアクセス制御や設定管理に責任を持ちます。クラウドサービスを利用する際は、契約前にSLA(Service Level Agreement)でセキュリティ責任範囲を明確にすることが重要です。また、クラウド事業者がどのような脆弱性管理を行っているか、パッチ適用の頻度や通知方法などを確認しておくべきです。
脆弱性スキャンツールは導入すべきですか?
組織の規模や管理対象の複雑さによって判断が異なりますが、多くの場合、脆弱性スキャンツールの導入は効果的です。手動での脆弱性管理には限界があり、見落としのリスクが高まります。脆弱性スキャンツールを導入するメリットは複数あります。自動的に定期スキャンを実行し、新たな脆弱性を継続的に検知できます。管理対象のシステム全体を漏れなくチェックでき、見落としを防げます。CVSSスコアや悪用状況などの情報と連携し、優先順位付けを支援します。パッチ適用状況を可視化し、経営層への報告資料作成が容易になります。ツール選定の際は、自社環境に適したものを選ぶことが重要です。オンプレミス環境、クラウド環境、またはハイブリッド環境のどれに対応しているか、ネットワーク機器、Webアプリケーション、コンテナなど、何をスキャン対象とするか、操作が複雑すぎず、IT部門以外でも活用できるか、などを検討します。中小企業向けには、クラウド型の低コストツールや、MSP(マネージドサービスプロバイダー)が提供する管理サービスの利用も選択肢です。
レガシーシステムの脆弱性管理はどうすればよいですか?
サポートが終了した古いシステムやOS(EoL/EoS)は、脆弱性管理において特に困難な課題です。新たな脆弱性が発見されても、ベンダーからパッチが提供されないため、脆弱性が放置されたままになります。レガシーシステムへの対応策として、以下のようなアプローチがあります。最も根本的な解決策は、サポート中のシステムへの移行を計画することです。ただし、すぐに移行できない場合は、代替的なセキュリティ対策を講じます。ネットワークの分離により、インターネットから直接アクセスできないようにします。ファイアウォールやIPS(侵入防止システム)で、既知の攻撃パターンをブロックします。仮想パッチ機能を持つセキュリティ製品を導入し、脆弱性の悪用を防ぎます。アクセス制御を厳格化し、必要最小限のユーザーのみがアクセスできるようにします。監視を強化し、異常な動作を早期に検知します。これらの対策を組み合わせることで、移行までの期間のリスクを低減できます。ただし、これらは一時的な対策であり、長期的にはシステム更新が不可欠です。
パッチ適用後に問題が発生した場合はどうすればよいですか?
パッチ適用後にシステムに問題が発生することは稀にあります。事前の準備と適切な対応手順が重要です。パッチ適用前には、必ずシステムの完全バックアップを取得します。問題発生時に元の状態に戻せるようにしておきます。可能であれば、本番環境と同等のテスト環境で、パッチ適用の影響を事前に確認します。パッチ適用直後は、システムの動作を注意深く監視し、異常がないか確認します。問題が発生した場合の対応フローとして、まず問題の影響範囲と深刻度を評価します。ユーザーへの影響が大きい場合は、速やかにロールバック(パッチ適用前の状態への復元)を検討します。問題の原因を調査し、パッチとの因果関係を確認します。ベンダーのサポートに連絡し、既知の問題か、回避策があるかを確認します。必要に応じて、パッチを一時的に削除し、ベンダーからの修正版パッチの提供を待ちます。このような事態を避けるため、重要システムのパッチ適用は、段階的なロールアウト(一部システムで試験適用し、問題がなければ全体に展開)を行うことが推奨されます。

更新履歴

初稿公開

京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。