不動産業のランサムウェア対策|顧客・オーナー情報保護とDXセキュリティ

不動産業のDX化が急速に進んでいます。オンライン内見、電子契約、AI査定など、デジタル技術の活用により業務効率化が進む一方で、サイバー攻撃のリスクも高まっています。不動産業は、顧客の個人情報、資産情報、オーナー情報など、センシティブな情報を大量に扱っています。また、契約書、重要事項説明書など、法的に重要な書類も管理しています。ランサムウェア攻撃によりこれらの情報が暗号化・漏洩すれば、顧客・オーナーへの損害、業務停止、信用失墜という深刻な事態を招きます。多店舗展開する不動産会社では、セキュリティ管理の一貫性を保つことも課題です。本記事では、不動産業が実践すべきランサムウェア対策を解説します。顧客・オーナー情報の保護から契約書類の管理、仲介システムのセキュリティ、DXとセキュリティの両立まで、セキュリティ対策の実践的な情報を提供します。


不動産業は、住まいという生活の基盤に関わるサービスを提供しています。顧客の資産形成、オーナーの資産運用、そして日々の暮らしを支える重要な役割を担っています。本章では、不動産業が直面するランサムウェアの脅威と、その対策について包括的に解説します。


不動産業が狙われる理由と被害の影響

不動産業へのランサムウェア攻撃は、顧客・オーナー情報の漏洩や業務停止という深刻な事態を招く可能性があります。なぜ不動産業が攻撃対象となるのか、その背景を理解することが重要です。

標的となる理由

不動産業がランサムウェア攻撃者にとって標的となりやすい理由は複数あります。

第一に、顧客の個人情報・資産情報を保有しています。氏名、住所、連絡先だけでなく、収入情報、資産状況、勤務先など、与信判断に用いる詳細な情報が集中しています。

第二に、契約書・重要書類の価値があります。売買契約書、賃貸借契約書、重要事項説明書など、法的効力を持つ重要な書類を大量に保管しています。

第三に、DX推進によるリスク拡大があります。オンライン内見、電子契約、クラウドシステムの導入が進む中、新たな攻撃対象が生まれています。

第四に、多店舗展開によるセキュリティ管理の複雑さがあります。複数の店舗を展開する不動産会社では、各店舗のセキュリティレベルを均一に保つことが難しく、最も脆弱な店舗が侵入口となる可能性があります。

被害の影響

顧客・オーナー情報の漏洩
顧客の個人情報、資産情報、オーナーの銀行口座情報などが漏洩すれば、二次被害(フィッシング、なりすまし詐欺など)のリスクが生じる。個人情報漏洩として深刻な問題
契約書類の喪失
契約書、重要事項説明書などが喪失すれば、法的トラブル発生時に対応が困難になる。また、電子帳簿保存法への対応にも支障が生じる可能性がある
業務停止
仲介システム、物件管理システムが停止すれば、物件紹介、内見対応、契約手続きなどの業務が困難になる
風評被害
情報漏洩の報道により企業イメージが低下し、顧客・オーナーからの信頼を失う。今後の集客、オーナー獲得にも影響する

顧客・オーナー情報の保護

不動産業が保有する顧客・オーナー情報は、高い機密性を持つ情報資産です。その保護は、事業継続と信頼維持の基盤です。

保護すべき情報

顧客の個人情報
氏名、住所、連絡先、生年月日など基本情報。入居審査のために収集した本人確認書類のコピーも保護対象
資産情報・収入情報
与信判断のために収集した年収、勤務先、勤続年数、預貯金残高などの情報。センシティブ度が高い
物件オーナー情報
賃貸物件オーナーの個人情報、銀行口座情報(家賃振込先)、所有物件情報など
契約情報
売買契約、賃貸借契約の内容、条件、特約事項など

保護対策

アクセス制御
顧客・オーナー情報へのアクセスは、業務上必要な担当者に限定する。担当物件、担当エリアに応じた権限設定を行い、不正アクセスを防止する
暗号化
顧客・オーナー情報を保存するデータベース、ファイルを暗号化する。特に、収入証明、本人確認書類のスキャンデータは重点的に保護する
バックアップ
顧客・オーナー情報を定期的にバックアップし、オフラインで保管する。契約データの喪失は事業継続に直結するため、確実なバックアップ体制を構築する
従業員教育
フィッシング対策、情報の適切な取り扱いについて、全従業員への研修を実施する。ソーシャルエンジニアリングへの警戒も重要

契約書・重要書類の管理

不動産取引に関わる契約書、重要事項説明書などは、法的に重要な書類です。適切な管理と保護が求められます。

重要書類の種類

売買契約書
不動産の売買に関する契約書。売買価格、引渡し条件、特約事項などが記載される
賃貸借契約書
賃貸物件の契約書。賃料、契約期間、更新条件、原状回復などが記載される
重要事項説明書
宅建業法に基づき交付が義務付けられている書類。物件に関する重要な事項が記載される
管理委託契約書
物件オーナーとの管理委託に関する契約書。管理内容、報酬などが記載される

電子化と保護

電子契約の活用
2022年の宅建業法改正により、重要事項説明書の電磁的交付が可能になった。電子契約を活用する場合は、セキュリティが確保されたサービスを選定することが重要
電子帳簿保存法対応
電子取引データの保存要件に対応する。改ざん防止、検索機能の確保などの要件を満たすシステムを導入する
バックアップ体制
電子化された契約書類は、複数の場所にバックアップを保管する。クラウドと自社保管の併用が望ましい。詳細はバックアップ戦略を参照

仲介・管理システムのセキュリティ

不動産業で使用される各種システムは、業務の根幹を担っています。これらのシステムのセキュリティ確保が重要です。

主要システム

仲介管理システム
物件情報の管理、顧客管理、反響管理、契約管理などを行うシステム。レインズ(不動産流通標準情報システム)との連携も含む
物件管理システム
賃貸管理会社が使用する、入居者管理、家賃管理、オーナー報告などを行うシステム
顧客管理システム(CRM)
顧客情報、追客履歴、商談状況などを管理するシステム
会計システム
仲介手数料、管理料、諸経費などの経理処理を行うシステム

保護対策

システム間連携のセキュリティ
複数のシステムがAPI等で連携している場合、その連携部分のセキュリティを確保する。認証、暗号化、アクセス制御を適切に設定する
クラウドサービスの選定
クラウド型のシステムを利用する場合、セキュリティ認証の取得状況、データの保存場所、バックアップ体制などを確認して選定する
アクセス制御
各システムへのアクセス権限を役職、担当業務に応じて設定する。退職者のアカウント削除も速やかに行う

多店舗展開のセキュリティ管理

複数の店舗を展開する不動産会社では、セキュリティ管理の一貫性を保つことが課題となります。

課題

各店舗のセキュリティレベル
店舗によりIT環境、従業員のリテラシー、運用状況が異なり、セキュリティレベルにばらつきが生じやすい
本部と店舗の連携
本部で策定したセキュリティポリシーが店舗で適切に実施されているか、また店舗で発生したインシデントが本部に迅速に報告されるかが課題
FC店舗の管理
フランチャイズ店舗は独立した経営主体であるため、直営店と同等のセキュリティ管理を求めることが困難な場合がある

対策

セキュリティポリシーの統一
全店舗に適用されるセキュリティポリシーを策定し、周知徹底する。具体的なルール、手順書を整備し、店舗スタッフでも理解・実施できる形にする
集中管理ツールの活用
各店舗のPCやセキュリティ機器を本部から一元管理できるツールを導入する。パッチ適用、設定変更、監視を集中的に行う
定期的な監査
店舗のセキュリティ状況を定期的に監査する。セルフチェックシートの活用、本部による巡回監査などの方法がある

DX推進とセキュリティの両立

不動産業のDXは急速に進んでいますが、セキュリティを考慮した推進が重要です。

不動産DXの動向

オンライン内見
VR内見、ビデオ通話による内見など、来店不要で物件を確認できるサービス
電子契約
重要事項説明のIT重説、電子署名による契約締結など、対面不要の契約プロセス
AI査定
AIによる不動産価格の自動査定、市場分析など

セキュリティを考慮したDX

セキュリティ・バイ・デザイン
新しいシステムやサービスを導入する際、企画段階からセキュリティを考慮する。後付けでセキュリティを追加するよりも効果的かつ効率的
クラウドサービスの評価
DXツールの多くはクラウドサービスとして提供される。導入前にセキュリティ認証、データ保護方針、SLA(サービスレベル契約)などを評価する
従業員のリテラシー向上
DXツールを安全に利用するための教育を実施する。便利さと引き換えにセキュリティが疎かにならないよう注意喚起する

よくある質問(FAQ)

Q: 中小の不動産会社でも対策は必要ですか?
A: はい、規模に関係なく対策は必要です。中小の不動産会社であっても、顧客・オーナーの重要な情報を扱っており、ランサムウェア被害を受ければ事業継続に深刻な影響が生じます。また、情報漏洩が発生すれば、会社の規模に関係なく法的責任を問われます。予算に制約がある場合は、バックアップのオフライン化、パスワード管理の強化、従業員教育など、費用対効果の高い対策から着手することをお勧めします。詳細は中小企業向けランサムウェア対策も参照してください。
Q: クラウドの仲介システムは安全ですか?
A: クラウドサービスそのものの安全性は、サービス事業者のセキュリティ対策に依存します。一般的に、実績のあるクラウドサービスは、中小企業が自前でシステムを構築・運用するよりも高いセキュリティを提供している場合が多いです。ただし、サービス選定時には、セキュリティ認証(ISO 27001、SOC 2など)の取得状況、データの暗号化、バックアップ体制、障害時の対応などを確認することが重要です。また、自社側のアクセス管理(パスワード、多要素認証など)も適切に行う必要があります。
Q: 顧客情報が漏洩した場合の報告義務は?
A: 個人情報保護法に基づき、一定の要件を満たす場合には個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務付けられています。ランサムウェア被害により顧客情報が漏洩した(または漏洩の可能性がある)場合は、この義務の対象となる可能性が高いです。報告は速報と確報の2段階で行い、本人への通知も速やかに行う必要があります。詳細は法的責任と報告義務を参照してください。
Q: FC加盟店のセキュリティは本部が管理すべきですか?
A: フランチャイズ契約の内容によりますが、一般的には本部がセキュリティ基準を示し、加盟店がそれに従う形となります。本部としては、最低限守るべきセキュリティ基準を契約やマニュアルで明示し、加盟店への教育・研修を提供することが重要です。顧客情報の取り扱いについては、本部と加盟店の責任分界を明確にしておく必要があります。加盟店でインシデントが発生した場合にブランド全体に影響が及ぶことを考慮し、定期的なセキュリティチェックの実施も検討すべきです。
Q: 電子契約に移行すればセキュリティは向上しますか?
A: 一概には言えません。電子契約サービス自体は、物理的な書類よりも紛失・盗難のリスクが低く、アクセスログが残るという利点があります。しかし、電子契約への移行により、サイバー攻撃の対象となる情報が増えることも事実です。電子契約のセキュリティは、利用するサービスの信頼性、自社のアクセス管理、従業員の運用に依存します。セキュリティが確保された電子契約サービスを選定し、適切に運用すれば、紙の契約よりもセキュリティを向上させることは可能です。

まとめ

不動産業へのランサムウェア攻撃は、顧客・オーナー情報の漏洩、契約書類の喪失、業務停止という深刻な事態を招きます。DX化が進む中、これらのリスクへの対応はますます重要になっています。

対策の第一歩は、自社の情報資産を把握することです。どのような顧客・オーナー情報を保有しているか、契約書類はどこに保管されているか、どのようなシステムを利用しているか——これらの基本的な確認から始めてください。

多店舗展開する場合は、セキュリティ管理の一貫性を保つことが重要です。セキュリティポリシーの統一、集中管理ツールの活用、定期的な監査を通じて、全店舗のセキュリティレベルを向上させてください。

DXの推進においては、セキュリティ・バイ・デザインの考え方を取り入れ、便利さとセキュリティのバランスを取ることが重要です。

ランサムウェアの基礎知識に立ち返りながら、予防対策を計画的に進めていくことが重要です。


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    • 消費生活センター:188
    • IPA情報セキュリティ安心相談窓口:03-5978-7509
  • 法的な対応が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください
  • セキュリティ対策の導入は、専門家やベンダーと相談の上ご判断ください
  • 記載内容は作成時点の情報であり、攻撃手口は日々進化している可能性があります

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。