ランサムウェア被害の費用内訳
ランサムウェア被害が発生した場合、企業が負担する費用は大きく「直接費用」「間接費用」「第三者への費用」の3つに分類されます。被害の全体像を把握するためには、これらすべてを考慮する必要があります。
直接費用
ランサムウェア被害への対応に直接かかる費用です。
- フォレンジック調査費用
- サイバー攻撃の侵入経路、被害範囲、漏洩データの特定を行う専門調査の費用です。法的報告や保険金請求に必要な証拠収集も含まれます。調査規模や緊急度により、数百万円から数千万円に達することがあります。
- システム復旧費用
- 暗号化されたシステムの復旧にかかる費用です。バックアップからの復元、クリーンインストール、場合によってはシステム全体の再構築が必要になります。ハードウェア交換、ソフトウェア再購入、復旧作業の人件費が含まれます。
- データ復旧費用
- 暗号化されたデータの復旧を試みる費用です。バックアップがない場合、専門業者によるデータ復旧サービスを利用することがありますが、成功率は保証されません。
- セキュリティ強化費用
- 再発防止のためのセキュリティ対策強化費用です。脆弱性の修正、セキュリティツールの導入、監視体制の強化などが含まれます。
間接費用
被害対応に付随して発生する費用です。
- 事業中断による機会損失
- システム停止期間中に得られなかった売上や利益です。ランサムウェア被害の復旧には平均で数週間から数ヶ月を要することがあり、その間の逸失利益は直接費用を上回ることも珍しくありません。
- 残業・人件費増加
- インシデント対応のための従業員の残業、外部専門家の雇用、臨時スタッフの採用にかかる費用です。通常業務に加えて復旧作業が発生するため、人件費が大幅に増加します。
- 広報・危機管理対応費用
- メディア対応、プレスリリース作成、顧客・取引先への説明、コールセンター設置などの費用です。企業の信用を維持するための危機管理コンサルティング費用も含まれます。
- 法務費用
- 弁護士相談、契約書確認、法的責任への対応にかかる費用です。訴訟に発展した場合は、訴訟対応費用も加わります。
第三者への費用
情報漏洩が発生した場合に、被害を受けた第三者に対して支払う費用です。
- 損害賠償金
- 個人情報漏洩により被害を受けた顧客や取引先への賠償金です。訴訟に発展した場合、判決または和解により賠償金額が決定されます。
- 個人情報漏洩時のお詫び対応
- 漏洩した個人情報の本人への通知、お詫び状の送付、お詫びの品(金券等)の送付にかかる費用です。被害者数が多いほど費用は膨らみます。
- 取引先への補償
- 取引先のデータ漏洩や、サービス停止により取引先に損害を与えた場合の補償費用です。契約上の損害賠償条項に基づく支払いが発生することがあります。
フォレンジック調査の費用相場
フォレンジック調査とは
フォレンジック調査は、サイバー攻撃の侵入経路、被害範囲、漏洩データの特定を行う専門的な調査です。法的な報告義務への対応、保険金請求、再発防止策の策定に不可欠な証拠を収集します。
調査の主な目的は以下のとおりです。
| 調査目的 | 内容 |
|---|---|
| 侵入経路の特定 | どこから、どのように侵入されたかを解明 |
| 被害範囲の確定 | どのシステム・データが影響を受けたかを特定 |
| 漏洩データの特定 | 外部に流出した可能性のあるデータを特定 |
| 証拠保全 | 法的対応に必要な証拠を保全 |
| タイムライン作成 | 攻撃の時系列を再構築 |
| 攻撃者の特定 | 可能な範囲で攻撃者の手口・所属を推定 |
フォレンジック調査の詳細については、フォレンジック調査ガイドをご参照ください。
費用相場
フォレンジック調査の費用は、調査対象の規模や緊急度によって大きく異なります。以下は一般的な目安であり、実際の費用は業者や案件により変動します。
| 調査規模 | 対象範囲 | 費用目安 | 期間目安 |
|---|---|---|---|
| 小規模 | 端末数台程度 | 100万円〜300万円 | 1〜2週間 |
| 中規模 | サーバー数台を含む | 300万円〜1,000万円 | 2〜4週間 |
| 大規模 | 全社システム | 1,000万円〜5,000万円以上 | 1〜3ヶ月 |
費用を左右する要因
- 調査対象の範囲
- 調査対象となる端末・サーバーの台数、ログの量、ネットワーク構成の複雑さによって費用は変動します。全社規模の調査は小規模調査の数倍から数十倍のコストがかかります。
- 緊急度
- 通常対応と緊急対応(24時間以内の着手など)では、費用が大きく異なります。緊急対応の場合、通常費用の1.5〜2倍程度になることがあります。
- 報告書の詳細度
- 経営報告用の概要版、規制当局への報告用、訴訟対応用など、求められる報告書の詳細度によって費用が変わります。法的証拠として使用する場合は、より詳細な報告書が必要です。
- 業者の専門性
- ランサムウェア対応の実績が豊富な業者、国際的な案件に対応できる業者は、費用が高くなる傾向があります。
システム復旧費用の目安
復旧アプローチ別の費用
ランサムウェア被害からのシステム復旧には、複数のアプローチがあります。それぞれの費用と期間の目安を示します。
| 復旧方法 | 概要 | 費用目安 | 期間目安 | 前提条件 |
|---|---|---|---|---|
| バックアップからの復元 | 事前に取得したバックアップからシステムを復元 | 数十万円〜数百万円 | 数日〜2週間 | 有効なバックアップの存在 |
| クリーンインストール | OSを再インストールし、設定・データを再構築 | 数百万円〜数千万円 | 2週間〜1ヶ月 | 設定情報の記録 |
| 新規システム構築 | システムを一から再設計・構築 | 数千万円〜数億円 | 数ヶ月 | 既存システムが復旧不能な場合 |
- バックアップからの復元
- 最も費用と時間を抑えられる方法です。ただし、バックアップ自体が暗号化されていないこと、バックアップが最新であること、復旧手順が整備されていることが前提となります。バックアップ戦略の重要性がここで問われます。
- クリーンインストール
- バックアップが使用できない場合、OSを再インストールし、アプリケーションや設定を再構築します。設定情報が文書化されていない場合、再構築に多大な時間と費用がかかります。
- 新規システム構築
- 既存システムが完全に復旧不能な場合や、これを機にシステム全体を刷新する場合の選択肢です。費用は最も高くなりますが、セキュリティを強化したシステムを構築できる機会でもあります。
警察庁統計にみる復旧費用
警察庁「令和6年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢」によると、ランサムウェア被害からの復旧費用の実態は以下のとおりです。
| 復旧費用 | 割合 |
|---|---|
| 100万円未満 | 約20% |
| 100万円〜500万円未満 | 約25% |
| 500万円〜1,000万円未満 | 約18% |
| 1,000万円〜5,000万円未満 | 約25% |
| 5,000万円以上 | 約12% |
復旧に1,000万円以上を要した企業は全体の約37% にのぼり、ランサムウェア被害が企業に与える経済的インパクトの大きさを示しています。
また、復旧期間については以下のような統計があります。
| 復旧期間 | 割合 |
|---|---|
| 即時〜1週間未満 | 約23% |
| 1週間〜1ヶ月未満 | 約27% |
| 1ヶ月〜2ヶ月未満 | 約18% |
| 2ヶ月以上 | 約23% |
| 復旧中 | 約9% |
復旧に1週間以上を要した企業は約77% であり、長期間にわたる事業への影響が避けられない実態が明らかになっています。
事業停止による損失
事業中断損失の算出
ランサムウェア被害による事業中断損失は、直接費用を上回ることも珍しくありません。損失の算出方法と考慮すべき要素を整理します。
- 基本的な算出式
- 事業中断損失 = 1日あたりの売上高(または利益) × 停止日数
- 固定費の継続支出
- 事業が停止していても、人件費、賃料、リース料などの固定費は発生し続けます。これらは停止期間中も支払いが必要な費用として損失に加算されます。
- 復旧後の売上回復遅延
- システムが復旧しても、売上が即座に元の水準に戻るとは限りません。顧客離れ、信用低下による受注減少など、復旧後も一定期間は売上減少が続くことがあります。
業界別の影響度
業界によって、ランサムウェア被害による事業中断の影響度は大きく異なります。
| 業界 | 影響の特徴 | 想定される損失 |
|---|---|---|
| 製造業 | 生産ライン停止による出荷遅延 | 1日あたり数千万円〜数億円 |
| 小売・EC | 販売機会の喪失、顧客離れ | 売上の大幅減少 |
| 医療機関 | 診療停止、患者対応の遅延 | 診療報酬減少、患者流出 |
| 金融機関 | 取引停止、顧客への影響 | 信用低下、規制対応コスト |
| 物流 | 配送遅延、取引先への影響 | 違約金、取引先流出 |
| サービス業 | サービス提供不能 | 契約解除、顧客離れ |
実際の被害事例の損失額
公表されている被害事例における損失額を紹介します。これらは企業が公式に発表した情報に基づいています。
- KADOKAWA(2024年6月)
-
被害概要:BlackSuitによるランサムウェア攻撃。複数のサービスが約2ヶ月間停止。
損失額:特別損失として約23億円を計上(システム復旧費用、売上減少等)。
教訓:大規模なサービス停止による逸失利益の甚大さ。 - 大阪急性期・総合医療センター(2022年10月)
-
被害概要:電子カルテシステムが約2ヶ月間使用不能。
損失額:復旧費用・逸失利益を含め数億円以上と推定。
教訓:医療機関における患者対応への深刻な影響。 - 小島プレス工業(2022年3月)
-
被害概要:サプライヤーへの攻撃によりトヨタ全14工場が1日停止。
影響:約1万3,000台の生産に影響。サプライチェーン全体への波及。
教訓:サプライチェーン攻撃のリスク。
損害賠償リスク
損害賠償が発生するケース
ランサムウェア被害に伴い、第三者への損害賠償責任が発生する可能性があります。
| ケース | 内容 | 賠償請求者 |
|---|---|---|
| 個人情報漏洩 | 顧客・従業員の個人情報が漏洩 | 情報主体(個人) |
| 取引先データ漏洩 | 取引先から預かったデータが漏洩 | 取引先企業 |
| サービス停止 | システム停止により顧客に損害発生 | 顧客企業 |
| 二次被害 | 漏洩情報を悪用された詐欺被害等 | 被害者 |
損害賠償額の考え方
- 個人情報漏洩の場合
- 過去の判例では、個人情報漏洩1件あたり数千円〜数万円程度の慰謝料が認められるケースが多いです。ただし、漏洩した情報の機微性、企業の過失の程度、二次被害の有無によって大きく変動します。大規模な漏洩では、1件あたりの金額が小さくても総額は膨大になります。
- 取引先への賠償
- 契約上の損害賠償条項に基づき、取引先の実損害を賠償することがあります。機密情報の漏洩、サービス停止による損害など、契約内容と損害の因果関係によって賠償額が決定されます。
- 集団訴訟リスク
- 大規模な個人情報漏洩の場合、被害者による集団訴訟に発展するリスクがあります。訴訟対応費用に加え、和解金・賠償金が高額になる可能性があります。
損害賠償責任の詳細については、ランサムウェアと法的責任をご参照ください。
対策投資と被害費用の比較
対策しない場合のコスト
ランサムウェア被害を受けた場合の平均的なコストを整理します。
| 費用項目 | 中小企業 | 中堅企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|
| フォレンジック調査 | 100万円〜500万円 | 300万円〜2,000万円 | 1,000万円〜5,000万円 |
| システム復旧 | 200万円〜1,000万円 | 500万円〜5,000万円 | 2,000万円〜数億円 |
| 事業中断損失 | 数百万円〜数千万円 | 数千万円〜数億円 | 数億円〜数十億円 |
| 損害賠償等 | 数百万円〜 | 数千万円〜 | 数億円〜 |
| 合計目安 | 1,000万円〜 | 5,000万円〜 | 数億円〜 |
※上記は目安であり、被害規模や業種により大きく変動します。
対策にかかるコスト
主なセキュリティ対策と年間コストの目安を示します。
| 対策項目 | 内容 | 年間コスト目安(中小企業) |
|---|---|---|
| EDR導入 | 端末の振る舞い検知・対応 | 50万円〜200万円 |
| バックアップ強化 | 3-2-1ルールに基づく構成 | 30万円〜100万円 |
| MFA導入 | 多要素認証の導入 | 10万円〜50万円 |
| セキュリティ教育 | 従業員向け訓練・教育 | 20万円〜100万円 |
| 脆弱性診断 | 定期的な脆弱性チェック | 30万円〜100万円 |
| 合計目安 | 150万円〜550万円 |
ROI(投資対効果)の考え方
セキュリティ投資の費用対効果を経営層に説明する際の考え方を示します。
- 年間予想損失額(ALE)の算出
- ALE = 年間発生確率 × 1回あたりの被害額
例:発生確率5%、被害額3,000万円の場合 → ALE = 150万円 - 対策によるリスク削減効果
- 対策により発生確率または被害額がどの程度低減されるかを推定します。例えば、バックアップ強化により被害額を50%削減できると仮定すると、年間75万円のリスク削減効果があることになります。
- 投資判断
- 対策コスト < リスク削減効果 であれば、投資は合理的と判断できます。ただし、ランサムウェア被害は一度発生すると事業存続に関わる可能性もあるため、確率論だけでは捉えきれないリスクもあります。
セキュリティ投資の提案方法については、経営層を説得するセキュリティ投資提案術で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
- Q: ランサムウェア被害の平均被害額はいくらですか?
- A: 日本国内の統計では、復旧費用だけで1,000万円以上かかった企業が約37%を占めています。これに事業中断損失や損害賠償を加えると、中小企業でも数千万円、大企業では数億円以上の被害になることがあります。ただし、被害額は企業規模、業種、被害の範囲により大きく異なります。
- Q: フォレンジック調査は必ず実施する必要がありますか?
- A: 法的な義務としては、個人情報漏洩が発生した場合に個人情報保護委員会への報告が求められ、その際に被害範囲の特定が必要です。また、サイバー保険の保険金請求にはフォレンジック報告書が必要なケースがほとんどです。再発防止策の策定にも不可欠であり、実務上は実施することが強く推奨されます。
- Q: 身代金を支払えば復旧費用は抑えられますか?
- A: 身代金を支払っても、データが完全に復旧する保証はありません。統計によれば、身代金を支払った企業のうち、全データを復旧できたのは一部にとどまります。また、支払い後も追加の身代金を要求されるケース、再攻撃を受けるケースもあります。身代金支払いとは別に、フォレンジック調査やセキュリティ強化の費用は発生します。
- Q: 中小企業でも数千万円の被害が出ることがありますか?
- A: はい、あります。中小企業であっても、システム全体が暗号化された場合、フォレンジック調査、システム再構築、事業中断損失を合計すると数千万円に達することがあります。特に、バックアップが適切に取得されていない場合や、復旧に長期間を要した場合は被害額が膨らみます。中小企業向け対策ガイドを参考に、事前の備えをお勧めします。
- Q: 被害費用をカバーする方法はありますか?
- A: サイバー保険への加入が選択肢の一つです。フォレンジック調査費用、システム復旧費用、事業中断損失、損害賠償責任などを補償する保険商品があります。ただし、保険はあくまで事後の経済的補填であり、まずは予防対策を優先することが重要です。
まとめ
ランサムウェア被害の費用は、身代金だけでなく、フォレンジック調査、システム復旧、事業中断損失、損害賠償など多岐にわたります。中小企業でも数千万円、大企業では数億円以上の損失が発生し得ることを認識し、適切なリスク評価を行うことが重要です。
一方、予防対策への投資は被害費用と比較して遥かに少額で済みます。フィッシング対策、マルウェア対策、バックアップ戦略を含む包括的なセキュリティ対策を実施し、IT-BCPを策定することで、被害発生時の損失を大幅に軽減することができます。
【ご注意・免責事項】
- 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する専門的助言ではありません
- 記載の費用は目安であり、実際の費用は状況により大きく異なります
- 実際に被害に遭われた場合は、以下の公的機関にご相談ください
- 警察相談専用ダイヤル:#9110
- 消費生活センター:188
- IPA情報セキュリティ安心相談窓口:03-5978-7509
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