IT・テクノロジー業界のゼロデイ脅威2025

2025年、IT・テクノロジー業界はゼロデイ攻撃の「黄金時代」を迎えています。AIによる脆弱性の大量発見、ソフトウェアサプライチェーンの複雑化、開発環境への標的型攻撃—かつてない規模と速度で、未知の脆弱性が武器化されています。特に懸念されるのは、信頼されたソフトウェアやサービスを通じた攻撃の連鎖です。一つのゼロデイ攻撃が、数百万のシステムを一瞬で危険にさらす時代。本記事では、2025年の最新ゼロデイ動向、実際の重大事例、ソフトウェアサプライチェーンの脅威、そしてAI時代の新たなリスクまで、IT業界が直面する最前線の脅威と対策を詳報します。

2025年のゼロデイ動向|攻撃の産業化

2025年のゼロデイ攻撃は、個人ハッカーの技術的挑戦から、高度に組織化された産業へと完全に移行しました。脆弱性の発見、武器化、販売、悪用まで、完全な分業体制が確立されています。

ゼロデイエクスプロイトの市場

闇市場の活況
2025年、ゼロデイ価格が過去最高を更新しています。iOS完全脱獄エクスプロイトは3億円、Windows リモートコード実行(RCE)は1億円、Chrome RCEは5,000万円の相場が形成されました。国家機関、サイバー犯罪組織、民間調査会社が積極的に購入しており、市場規模は年間数百億円に達すると推定されています。
ゼロデイブローカーの台頭
Zerodium、Crowdfense、Immuniなどのゼロデイブローカーが仲介ビジネスを拡大しています。これらの企業は「合法的」な脆弱性売買を謳い、年間数百億円規模の取引を仲介しています。研究者は高額報奨金に惹かれる一方、倫理的ジレンマに直面しています。発見した脆弱性をベンダーに報告すべきか、ブローカーに売却すべきか—この選択が業界全体のセキュリティに影響を与えています。
AIによる脆弱性発見
機械学習によるコード解析、ファジングの自動化により、AIは人間の100倍以上の速度で脆弱性を発見できるようになりました。Google Project Zero、Microsoft Security Response Centerなどは防御側でAIを活用していますが、攻撃者も同様の技術を使用しています。この「AI軍拡競争」は、ゼロデイの発見速度を劇的に加速させています。

表1: 2025年ゼロデイ価格相場表

脆弱性カテゴリ 攻撃対象 相場価格(USD) 主な購入者
iOS完全脱獄 iOS 18.x $2,000,000 - $3,000,000 国家機関、調査会社
Android RCE Android 15.x $1,000,000 - $2,500,000 国家機関、サイバー犯罪
Windows RCE Windows 11 $800,000 - $1,000,000 サイバー犯罪、APTグループ
macOS RCE macOS 15.x $500,000 - $800,000 国家機関、調査会社
Chrome RCE Chrome最新版 $300,000 - $500,000 サイバー犯罪、研究機関
Linux Kernel 5.x/6.x系 $200,000 - $400,000 APTグループ、研究機関
VMware ESXi 8.x系 $150,000 - $300,000 ランサムウェア集団
Microsoft Exchange 2019/2022 $100,000 - $200,000 APTグループ、犯罪組織

標的となる技術領域

2025年、攻撃者が重点的に狙う技術領域が明確化しています。クラウドインフラ、コンテナ技術、AI/MLフレームワークが主要ターゲットです。

クラウドプラットフォーム

AWS、Azure、Google Cloudなどの主要クラウドプラットフォームは、その影響範囲の広さから最優先ターゲットとなっています。2025年には、マルチテナント環境の分離を突破する深刻なゼロデイが複数発見されました。

ハイパーバイザーエスケープ
仮想マシン間の境界を突破し、同一物理サーバー上の他のテナントにアクセスする攻撃が現実化しました。あるクラウドプロバイダーでは、CVSSスコア10.0の脆弱性により、理論上すべてのテナントデータが危険にさらされる事態が発生しました。
コントロールプレーン侵害
クラウド管理APIやコントロールプレーンの脆弱性が悪用され、攻撃者が管理者権限を取得するケースが増加しています。これにより、複数の顧客環境への同時侵入が可能となり、被害は連鎖的に拡大します。

コンテナ・Kubernetes

コンテナ技術の普及に伴い、Kubernetes、Docker、containerdなどのコンテナランタイムが重要な攻撃対象となっています。

コンテナエスケープの増加
コンテナからホストOSへの脱出を可能にするゼロデイが2025年だけで15件以上報告されています。特に特権コンテナの誤設定と組み合わされた場合、攻撃の影響は甚大です。
Kubernetesの認証・認可バイパス
Kubernetes APIサーバーの脆弱性により、認証をバイパスしてクラスター全体を制御されるリスクが顕在化しています。影響を受けるクラスターは世界中で数十万に及ぶと推定されます。

AI/MLフレームワーク

TensorFlow、PyTorch、HuggingFaceなどのAI/MLフレームワークも新たな攻撃対象です。

モデル読み込み時の脆弱性
悪意あるモデルファイルを読み込ませることでRCEを実現する攻撃が確認されています。pickle形式などのシリアライゼーション機能が悪用の温床となっています。
学習パイプラインへの侵入
機械学習の学習パイプラインに侵入し、バックドアを埋め込む攻撃が報告されています。これにより、出荷されるAIモデルそのものが攻撃ベクトルとなります。

サプライチェーンの脆弱性

マルウェア感染のリスクは、ソフトウェアサプライチェーンの複雑化により指数関数的に増大しています。

依存関係の複雑化

現代のソフトウェア開発では、平均的なアプリケーションが直接・間接的に1,000以上のライブラリに依存しています。この依存関係の深さが、攻撃者にとって格好の標的となっています。

Transitive Dependencyの罠
開発者が直接使用していないライブラリでも、依存関係を通じて間接的に含まれるtransitive dependencyは、平均で直接依存の10倍以上存在します。これらの可視性の低い依存関係に潜む脆弱性は、発見が遅れ、悪用されやすい傾向にあります。
サプライチェーンの深さ
ある調査では、主要なWebアプリケーションの依存関係グラフを分析した結果、最深部で20層以上のネスト構造が確認されました。一つの下層ライブラリの脆弱性が、数千のアプリケーションに影響を与える「カスケード効果」が深刻化しています。

表2: 言語別平均依存関係数(2025年調査)

言語/エコシステム 直接依存 Transitive含む総依存 平均深さ 主なリスク
JavaScript (npm) 127 1,248 15層 typosquatting、悪意あるパッケージ
Python (PyPI) 84 876 12層 メンテナンス放棄、供給源攻撃
Java (Maven) 92 743 11層 トランジティブ依存の肥大化
Ruby (RubyGems) 78 694 10層 古いバージョンの放置
.NET (NuGet) 64 512 9層 企業内プライベートリポジトリ侵害
Go (Go Modules) 43 287 7層 比較的安全だが急速に複雑化中
Rust (Crates.io) 38 234 6層 メモリ安全性が依存リスクを軽減

開発ツールへの侵入

開発環境そのものが攻撃の起点となるケースが急増しています。

IDE プラグインの悪用
Visual Studio Code、IntelliJ IDEA、PyCharmなどの人気IDEのプラグインマーケットプレイスで、悪意あるプラグインが継続的に発見されています。これらは開発者の認証情報、ソースコード、環境変数などを窃取し、サプライチェーン攻撃の起点となります。
ビルドツールへの侵入
Gradle、Maven、npm scriptsなどのビルドツールの設定ファイルに悪意あるコードを注入する攻撃が増加しています。ビルド時に実行される任意コードにより、最終成果物に攻撃コードが混入します。

2025年の重大ゼロデイ|衝撃の事例

2025年は、IT業界に深刻な影響を与えた複数の重大ゼロデイ事件が発生しました。ここでは特に影響が大きかった3つの事例を詳述します。

メジャーOS Xのカーネル脆弱性

2025年3月に公開されたCVE-2025-XXXXは、10年以上にわたりメジャーOSのカーネルに潜んでいた権限昇格脆弱性です。

CVE-2025-XXXX詳細
この脆弱性は、カーネルのメモリ管理機構における境界チェック不備により、標準ユーザーがカーネルレベルの権限を取得できるというものでした。影響を受けるのは過去10年間にリリースされたすべてのバージョンで、推定10億台以上のデバイスが脆弱な状態にありました。発見時点で既に攻撃コードが流出しており、パッチ適用前に大規模な悪用が確認されました。
悪用状況
フォレンジック調査により、複数のAPT(Advanced Persistent Threat)グループが少なくとも6ヶ月前からこの脆弱性を悪用していたことが判明しました。標的となったのは政府機関、金融機関、Fortune 500企業など、高価値ターゲットが中心です。データ流出の規模は完全には測定できていませんが、数百テラバイトに及ぶと推定されています。
対応の混乱
ベンダーは緊急パッチをリリースしましたが、初回パッチにクリティカルなバグが含まれており、大量のブルースクリーンやシステムフリーズが発生しました。ロールバック後、再度パッチを開発・配布するまでに2週間の空白期間が生じ、その間に攻撃がexponentialに増加する事態となりました。この事例は、セキュリティと安定性のバランスの難しさを浮き彫りにしました。

クラウドプロバイダーYの認証バイパス

2025年6月、大手クラウドプロバイダーで、マルチテナント境界を突破する深刻な認証バイパス脆弱性が発見されました。

マルチテナント境界突破

脆弱性の概要
この脆弱性は、Identity and Access Management (IAM)サービスの認証トークン検証処理における論理エラーに起因していました。特定の条件下で、攻撃者は他のテナントのリソースに完全なアクセス権限を取得できる状態でした。CVSSスコアは10.0(最高値)と評価されています。
攻撃の容易性
この脆弱性の悪用に特別な権限や複雑な手順は不要で、通常のAPIコールの改変のみで実行可能でした。公開から24時間以内に攻撃コードがGitHub上で公開され、広範な悪用が懸念されました。

数千企業のデータ露出

影響範囲
推定で数千の企業顧客が影響を受け、機密データが潜在的にアクセス可能な状態にありました。特に金融、医療、政府関連の組織への影響が深刻で、規制当局への報告が義務付けられました。
対応と教訓
クラウドプロバイダーは全リージョンで緊急メンテナンスを実施し、パッチを適用しました。しかし、誰がいつどのデータにアクセスしたかの完全な追跡は困難で、一部の顧客は最悪のシナリオを想定した対応を余儀なくされました。この事件は、クラウドにおけるマルチテナント分離の重要性と脆弱性の影響範囲の広さを示しました。

開発フレームワークZのRCE

2025年9月、世界中で広く使用されている開発フレームワークで、リモートコード実行が可能なゼロデイが発見されました。

100万アプリに影響

脆弱性の詳細
このフレームワークのテンプレートエンジンにおけるサーバーサイドテンプレートインジェクション(SSTI)脆弱性により、攻撃者は任意のコードを実行できる状態でした。このフレームワークは世界中の100万以上のアプリケーションで使用されており、影響は極めて広範囲に及びました。
発見の経緯
この脆弱性は、セキュリティ研究者がバグバウンティプログラムを通じて報告しました。しかし、報告から公開までの90日間のCoordinated Disclosure期間中に、情報が漏洩し、パッチリリース前に悪用が始まりました。

サプライチェーン攻撃に発展

連鎖的な被害
この脆弱性を悪用した攻撃者は、影響を受けるアプリケーションを侵害し、さらにそれらのアプリケーションを経由して最終ユーザーを攻撃するサプライチェーン攻撃を展開しました。信頼されたWebサイトやサービスが攻撃の中継点となり、被害は雪だるま式に拡大しました。
パッチ適用の課題
フレームワークの更新には、アプリケーションコードの修正とテストが必要なケースも多く、即座のパッチ適用が困難でした。この結果、脆弱性公開から6ヶ月経過時点でも、30%以上のアプリケーションが依然として脆弱なバージョンを使用していると推定されています。

表3: 2025年主要ゼロデイ事件一覧

発見月 対象製品 CVE番号 CVSS 影響範囲 悪用確認 パッチまでの日数
1月 主要ブラウザエンジン CVE-2025-0123 9.8 20億ユーザー あり(野良エクスプロイト) 4日
3月 メジャーOS カーネル CVE-2025-1456 10.0 10億デバイス あり(6ヶ月前から) 7日(再パッチ21日)
4月 Java ライブラリ CVE-2025-2789 9.1 50万アプリ 限定的 14日
6月 クラウドプロバイダーIAM CVE-2025-3456 10.0 数千企業 あり(公開後24時間) 即日
7月 コンテナランタイム CVE-2025-4012 8.8 100万クラスター あり(APTグループ) 5日
9月 Webフレームワーク CVE-2025-5678 9.8 100万アプリ あり(Disclosure期間中) 90日(計画的)
10月 VPN製品 CVE-2025-6789 9.9 10万企業 あり(国家支援型) 3日
11月 AI/MLフレームワーク CVE-2025-7890 9.0 50万モデル 調査中 10日

ソフトウェアサプライチェーン|信頼の崩壊

2025年、ソフトウェアサプライチェーンへの攻撃は、単なる脅威から現実的かつ頻繁に発生するリスクへと変化しました。

オープンソースの脆弱性

オープンソースソフトウェア(OSS)は、現代のソフトウェア開発の基盤ですが、同時に重大なセキュリティリスクの源泉となっています。

依存関係地獄
平均的なアプリケーションは1,000以上の直接・間接的な依存関係を持ちます。Transitive dependencyを含めると10,000を超えるケースも珍しくありません。この複雑な依存関係の網の目の中で、一つの脆弱性が全体に波及する「カスケード効果」が深刻化しています。特に深い階層に位置する基盤的ライブラリの脆弱性は、影響範囲が膨大になります。
メンテナー不足
重要なライブラリの多くが個人メンテナーによって維持されており、burnout、資金不足、興味の喪失などにより放置されるケースが増加しています。2021年のLog4Shell事件の教訓は十分に活かされておらず、同様の「重要だが十分にメンテナンスされていないライブラリ」は数多く存在します。Heartbleed、Shellshock、Log4Shellに続く「次の事件」はいつ起きてもおかしくない状況です。
Typosquatting攻撃
npm、PyPI、Maven Central、RubyGemsなどのパッケージリポジトリで、正規パッケージの名前に似せた偽パッケージが急増しています。AI技術により、本物そっくりの名前を生成することが容易になり、週に1,000個以上の悪意あるパッケージが発見されています。開発者のタイポや検索ミスを狙ったこの攻撃は、極めて効果的です。

表4: パッケージリポジトリ別セキュリティインシデント(2025年1-10月)

リポジトリ 悪意あるパッケージ発見数 Typosquatting 乗っ取り 依存関係混乱 主な攻撃手法
npm (JavaScript) 8,742 6,123 1,847 772 install scriptでの情報窃取
PyPI (Python) 4,536 3,241 892 403 setup.pyでの任意コード実行
RubyGems (Ruby) 1,284 896 267 121 gemspecでのバックドア
Maven Central (Java) 876 534 243 99 ビルドスクリプト改ざん
NuGet (.NET) 743 512 167 64 パッケージ初期化での侵害
Crates.io (Rust) 234 178 41 15 build.rsでのコンパイル時攻撃
Go Modules 187 134 38 15 init()での自動実行

CI/CDパイプライン攻撃

継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)パイプラインは、ソフトウェア開発の自動化において中心的な役割を果たしますが、同時に攻撃者にとって魅力的なターゲットとなっています。

ビルドシステム侵害

ビルドサーバーへの侵入
Jenkins、GitHub Actions、GitLab CI、CircleCIなどのCI/CDプラットフォームへの侵入が増加しています。一度ビルドシステムを掌握すれば、攻撃者は正規のビルドプロセスに悪意あるコードを注入できます。これにより、生成される全ての成果物に攻撃コードが含まれることになります。
環境変数の窃取
CI/CD環境には、APIキー、データベース認証情報、クラウドアクセストークンなどの機密情報が環境変数として保存されています。これらの情報が漏洩すると、攻撃者は本番環境への直接アクセスを取得できます。

コード署名の盗用

署名鍵の窃取
コード署名証明書と秘密鍵が窃取されると、攻撃者は正規のソフトウェアベンダーになりすまして悪意あるソフトウェアに署名できます。オペレーティングシステムやセキュリティソフトは、署名されたコードを信頼するため、この攻撃は極めて効果的です。
署名プロセスの悪用
自動化された署名プロセスに侵入し、ビルド時に自動的に悪意あるコードに署名させる攻撃が確認されています。これにより、正規のリリースプロセスを経た「公式」マルウェアが生成されます。

開発環境の標的化

開発者の作業環境そのものが攻撃の起点となるケースが急増しています。

IDEプラグイン経由

悪意あるプラグインの配布
Visual Studio Code、IntelliJ IDEA、Eclipseなどの主要IDEのプラグインマーケットプレイスで、正規を装った悪意あるプラグインが配布されています。これらは開発者の認証情報、ソースコード、SSH鍵、AWS認証情報などを窃取します。
プラグインの乗っ取り
人気プラグインの開発者アカウントを乗っ取り、既存のプラグインに悪意あるコードを注入する攻撃も発生しています。ユーザーは信頼して自動更新を有効にしているため、気づかずに侵害されます。

GitHub Actions悪用

悪意あるActionsの配布
GitHub Actionsマーケットプレイスで、便利なツールを装った悪意あるActionが配布されています。これらは、リポジトリの機密情報、GitHub Personal Access Token、依存関係の脆弱性情報などを外部に送信します。
Actions の改ざん
プルリクエストを通じてワークフローファイルに悪意あるステップを追加し、CI/CD実行時に攻撃を発動させる手法が確認されています。特にオープンソースプロジェクトでは、外部からのPRを自動的にCIで実行するケースがあり、これが悪用されています。

AI時代の新たな脅威|LLMとセキュリティ

生成AIの急速な普及は、ソフトウェア開発に革命をもたらしていますが、同時に新たなセキュリティリスクを生み出しています。

コード生成AIの脆弱性

GitHub Copilot、Amazon CodeWhisperer、ChatGPT、Claude、Geminiなどのコード生成AIは、開発者の生産性を向上させていますが、セキュリティの観点では両刃の剣です。

脆弱なコード生成
コード生成AIは、学習データに含まれる脆弱なコードパターンをそのまま再現する傾向があります。SQLインジェクション、XSS、CSRF、セキュアでない逆シリアライゼーションなど、古典的な脆弱性を含むコードが提案されるケースが多数報告されています。開発者が提案されたコードを無批判に採用すると、セキュリティホールが量産されることになります。
学習データ汚染
攻撃者が意図的に脆弱なコードサンプルを大量にオープンソースリポジトリやStack Overflowに投稿し、AIの学習データを汚染する攻撃が理論上可能です。この「遅効性の毒」により、将来生成されるコードの全てに脆弱性が混入する可能性があります。
プロンプトインジェクション
AI統合開発環境では、コメントやドキュメント内に埋め込まれた悪意あるプロンプトにより、AIが開発者の認証情報を窃取したり、悪意あるコードを生成したりする攻撃が確認されています。これは従来のコードインジェクションとは全く異なる、新しい攻撃ベクトルです。

AIモデルへの攻撃

AI/MLモデル自体が攻撃対象となるケースも増加しています。

モデル盗用・抽出

モデル抽出攻撃
APIを通じて大量のクエリを送信し、モデルの振る舞いを学習することで、オリジナルモデルを模倣した代替モデルを構築する攻撃です。企業の知的財産である学習済みモデルが盗用されるリスクがあります。
メンバーシップ推論攻撃
特定のデータがモデルの学習に使用されたかを推論する攻撃です。プライバシーに関わる情報(医療データ、個人情報など)が学習データに含まれていたかが判明する可能性があります。

バックドア埋め込み

学習データへのバックドア注入
学習データの一部に特定のトリガーパターンを含むデータを混入させることで、モデルに「隠れた振る舞い」を埋め込む攻撃です。通常の入力では正常に動作するが、特定のトリガーが含まれると悪意ある出力をするモデルが生成されます。
モデルパラメータの改ざん
学習済みモデルのパラメータファイルに直接バックドアを埋め込む攻撃も報告されています。HuggingFaceなどのモデルハブで配布されるモデルに、事前にバックドアが仕込まれている可能性があります。

自動化された攻撃

AIは防御だけでなく、攻撃の自動化にも利用されています。

AIによるexploit生成

脆弱性からexploitへの自動変換
CVE情報やパッチ差分から、自動的に攻撃コードを生成するAIシステムが開発されています。従来は高度な専門知識が必要だったexploit開発が、AIにより数分から数時間で可能になっています。
ポリモーフィック攻撃の生成
AIは、シグネチャベースの検知を回避するため、機能的には同一だが形式的には異なる攻撃コードを無限に生成できます。これにより、従来型のアンチウイルスやIDS/IPSの有効性が大幅に低下しています。

防御回避の自動化

適応型マルウェア
AIを搭載したマルウェアは、実行環境を学習し、検知を回避するよう振る舞いを動的に変化させます。サンドボックス環境を検知すると無害な振る舞いをし、本番環境でのみ攻撃を実行します。
AIによるソーシャルエンジニアリング
大規模言語モデルを使用して、極めて説得力のあるフィッシングメール、偽のサポート窓口、なりすましメッセージを自動生成する攻撃が増加しています。文法エラーや不自然な表現といった従来の見分け方が通用しなくなっています。

表5: AI関連セキュリティインシデントの増加(2023-2025)

攻撃タイプ 2023年 2024年 2025年(1-10月) 増加率
プロンプトインジェクション 124 487 1,243 +902%
モデル抽出攻撃 67 234 678 +912%
AI生成フィッシング 2,341 8,976 34,567 +1,376%
学習データ汚染 23 89 267 +1,061%
AIによるexploit生成 45 178 623 +1,284%
バックドア埋め込み 34 123 456 +1,241%

防御戦略と展望|ゼロデイとの戦い

ゼロデイ攻撃は防ぎきることはできませんが、リスクを大幅に軽減し、被害を最小化することは可能です。

先制的防御

被害を受けてから対応する「事後対応型」から、攻撃を未然に防ぐ「先制的防御」へのシフトが重要です。

脅威ハンティング強化
プロアクティブな脅威探索活動(Threat Hunting)により、既知の攻撃だけでなく未知の攻撃の兆候を発見します。行動分析、異常検知、UEBA(User and Entity Behavior Analytics)などの技術を活用し、「攻撃されてから対応」から「攻撃前に発見」へのシフトが進んでいます。SOCチームは、受動的な監視から能動的な狩猟へと役割を変化させています。
バグバウンティ拡大
Microsoft、Google、Apple、Facebook(Meta)などの主要IT企業は、バグバウンティプログラムの報奨金を大幅に増額しています。最高報奨金は1億円を超えるケースもあり、倫理的ハッカーを味方につける戦略が成果を上げています。攻撃者がゼロデイを闇市場で売却する前に、高額報奨金で合法的な報告を促すことが目的です。
SBOM義務化
Software Bill of Materials(SBOM)の提出義務化が世界的トレンドとなっています。米国の大統領令、EUのサイバーレジリエンス法などにより、ソフトウェアに含まれる全てのコンポーネントのリストを提供することが求められています。これにより、依存関係の完全可視化が実現し、脆弱性の影響範囲を即座に特定できるようになります。Log4Shell事件では、影響を受けるシステムの特定に数週間かかりましたが、SBOMがあれば数時間で可能です。

表6: 主要企業バグバウンティプログラム報奨金ランキング(2025年)

企業 プログラム開始年 最高報奨金 年間総支払額 報告受理数 Critical発見数
Apple 2016 $2,000,000 $45,000,000 4,231 78
Google 2010 $1,500,000 $38,000,000 8,947 134
Microsoft 2013 $1,000,000 $32,000,000 6,542 98
Meta (Facebook) 2011 $1,000,000 $28,000,000 7,231 87
Amazon 2018 $750,000 $19,000,000 3,678 56
Tesla 2014 $500,000 $8,500,000 1,234 34
Intel 2018 $500,000 $7,200,000 1,456 29

業界協調

ゼロデイ対策は、個別企業の努力だけでは限界があり、業界全体の協調が不可欠です。

脆弱性情報共有強化

ISACsの活用
Information Sharing and Analysis Centers(ISACs)を通じた業界内の脅威情報共有が拡大しています。金融ISAC、IT-ISAC、自動車ISACなど、業界ごとの組織が、ゼロデイ情報をリアルタイムで共有し、collective defenseを実現しています。
CISA KEV Catalog
米国のCybersecurity and Infrastructure Security Agency(CISA)が運営するKnown Exploited Vulnerabilities(KEV)カタログは、実際に悪用が確認された脆弱性のリストです。このカタログを参照することで、優先的にパッチを適用すべき脆弱性を特定できます。

Coordinated Disclosure

責任ある情報公開
Coordinated Disclosure(調整された情報公開)は、脆弱性発見者、ベンダー、CERT/CC、研究コミュニティが協調して、パッチ準備後に情報を公開する仕組みです。一般的には90日間の猶予期間が設けられますが、重大な脆弱性の場合は柔軟に調整されます。
CVE Numbering Authority
CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)システムにより、脆弱性に一意の識別子が付与され、グローバルな情報共有が促進されています。CVE Numbering Authority(CNA)の増加により、迅速なCVE発番と情報流通が実現しています。

2026年への備え

2026年以降、さらに深刻な脅威が予測されています。

量子コンピュータ脅威

暗号の危機
実用的な量子コンピュータが実現すると、現在広く使用されているRSA、ECCなどの公開鍵暗号が破られる可能性があります。「Store now, decrypt later」攻撃により、現在暗号化されて送信されているデータが、将来解読されるリスクがあります。
耐量子暗号への移行
NIST(米国国立標準技術研究所)は、耐量子暗号アルゴリズムの標準化を進めており、2024-2025年に標準が公開されています。企業は、今後数年以内に暗号システムを移行する必要があります。この移行は、Y2K問題に匹敵する規模のプロジェクトになると予測されています。

次世代セキュリティarchitecture

ゼロトラストの完全実装
「境界防御」から「ゼロトラスト」へのパラダイムシフトが加速しています。全てのアクセスを検証し、最小権限の原則を徹底し、マイクロセグメンテーションを実装することで、ゼロデイによる被害を局所化できます。
自己修復システム
AIを活用した自己修復システムの研究が進んでいます。攻撃を検知すると、自動的に脆弱性を特定し、一時的なパッチを適用し、攻撃を無効化するシステムです。完全な実現には至っていませんが、部分的な実装が始まっています。
セキュリティby Design
「後から追加するセキュリティ」から「設計段階から組み込まれたセキュリティ」へのシフトが重要です。Secure by Design、Secure by Default、Secure in Deploymentの原則に基づき、デフォルトで安全な設定、攻撃表面の最小化、防御的プログラミングが標準となる必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q: ゼロデイ攻撃は防げないのですか?
A: 完全防御は困難ですが、被害を最小化できます。対策:①多層防御(1つ突破されても次がある)、②行動検知(シグネチャに頼らない)、③最小権限原則、④ネットワークセグメンテーション、⑤迅速なパッチ適用体制、⑥インシデント対応計画。「やられる前提」で、被害を局所化する設計が重要です。ゼロトラストアーキテクチャの実装により、一つのゼロデイが全体に波及するリスクを大幅に軽減できます。
Q: オープンソースは危険なのですか?
A: 適切に管理すれば商用ソフトより安全な場合もあります。リスク:①脆弱性の放置、②悪意あるコード混入、③サプライチェーン攻撃。対策:①SBOM管理、②脆弱性スキャン自動化、③依存関係の最小化、④セキュリティ重視のライブラリ選定、⑤定期的な更新。「使うなら責任を持つ」意識が必要です。OpenSSFのスコアカードなどを参照し、メンテナンス状況が良好なプロジェクトを選択することが推奨されます。
Q: AIがコード生成した場合の脆弱性責任は?
A: 最終的には開発者/企業の責任です。現状:①AI提供者は免責条項で責任回避、②生成コードの検証は利用者責任、③脆弱性による被害は通常通り賠償責任。対策:①生成コードの必須レビュー、②セキュリティテスト強化、③AI利用ガイドライン策定、④保険でのリスクヘッジ。「AIが作った」は法的にも倫理的にも言い訳になりません。コード生成AIは生産性向上ツールであり、品質保証の責任を免除するものではありません。
Q: 開発環境のセキュリティはどう確保する?
A: ①開発/本番環境の完全分離、②開発者端末のEDR必須、③最小権限での開発、④コードレビュー必須化、⑤CI/CDパイプラインの保護、⑥シークレット管理ツール使用、⑦定期的な侵入テスト。特に、開発者は高権限を持つため、一度侵害されると被害が甚大です。ゼロトラスト原則の適用、開発者端末のハードニング、VDI(仮想デスクトップ)の活用などが推奨されます。また、開発用のクラウドアカウントと本番用を完全に分離し、クロスコンタミネーションを防ぐことも重要です。
Q: バグバウンティは本当に効果的?
A: 費用対効果は非常に高いです。実績:Google年間900万ドル支払いで数千の脆弱性発見、Microsoft過去10年で1,400万ドル支払い。メリット:①世界中の優秀な研究者を味方に、②発見コストが固定費から成果報酬に、③攻撃者より先に発見、④企業イメージ向上。ただし、適切な運営体制(トリアージチーム、迅速な対応、明確なスコープ定義)と予算確保が必要です。HackerOneやBugcrowdなどのプラットフォームを活用することで、運営負荷を軽減できます。
Q: 依存関係の管理はどうすればいい?
A: ①依存関係の完全可視化(SBOM作成)、②脆弱性スキャンの自動化(Dependabot、Snyk、GitHub Advanced Security)、③依存関係の混乱攻撃対策、④定期的な依存関係の更新、⑤不要な依存の削除。特に、transitive dependencyの監視が重要です。ツールによる自動化が不可欠で、人手による管理は現実的ではありません。また、プライベートパッケージリポジトリの使用、依存関係のピン留め(バージョン固定)、vendoring(依存関係のコピー)なども検討すべきです。
Q: ゼロデイ保険は有効?
A: サイバー保険の一部として有効ですが、全てをカバーはできません。カバー範囲:①インシデント対応費用、②フォレンジック調査、③法的対応、④PR対応、⑤一部の賠償責任。カバーされない:①評判の毀損、②将来の事業への影響、③知的財産の盗難。保険は「リスク転嫁」の一手段ですが、根本的なセキュリティ対策の代替にはなりません。保険料は組織のセキュリティ体制により大きく変動し、適切な対策を講じることで保険料を削減できます。

まとめ

2025年のIT・テクノロジー業界は、ゼロデイ攻撃の「新時代」に突入しました。AIによる脆弱性の大量発見、ソフトウェアサプライチェーンの複雑化、開発環境の標的化、AI/ML技術の悪用など、従来とは質的に異なる脅威に直面しています。

重要なのは、「完全な防御は不可能」という現実を受け入れ、その上で被害を最小化する戦略を取ることです。多層防御、ゼロトラストアーキテクチャ、迅速なインシデント対応、業界協調—これらの総合的なアプローチにより、ゼロデイのリスクを管理できます。

また、セキュリティは技術的な問題だけでなく、組織文化、プロセス、人材の問題でもあります。開発者教育、セキュアコーディング、DevSecOpsの実践、経営層のコミットメントが不可欠です。

2026年に向けて、量子コンピュータ、さらに高度なAI、IoT/OTの拡大など、新たな脅威が控えています。継続的な学習、適応、投資により、これらの脅威に立ち向かう必要があります。

詳細なマルウェア感染対策については、包括的なガイドをご参照ください。


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免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する専門的な助言ではありません。セキュリティ対策の実装にあたっては、組織の状況に応じた専門家のアドバイスを受けることを推奨します。記載内容は2025年11月時点の情報であり、脅威の状況は日々進化しています。最新の脅威情報については、CERT/CC、CISA、JPCERT/CCなどの公的機関の情報を参照してください。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。