政府・自治体のセキュリティ強化動向2025

2025年、日本の政府・自治体は「サイバー戦争」の最前線に立っています。国家支援型攻撃の激化、マイナンバーシステムへの脅威、ガバメントクラウド移行に伴う新たなリスク—デジタル化推進とセキュリティ強化の両立が、国家の命運を左右する状況です。特に地方自治体の脆弱性が「アキレス腱」となり、サプライチェーン攻撃の入口として狙われています。本記事では、2025年の最新脅威情勢、実際のインシデント事例、政府の強化施策、そして自治体が取るべき対策まで、行政のデジタル変革を支えるセキュリティ情報を包括的にお届けします。

2025年の脅威情勢|国家レベルの攻防

政府・自治体を取り巻くサイバーセキュリティ環境は、2025年に入り劇的に悪化しています。国家支援型の高度な攻撃、重要インフラを狙う組織的な脅威、そして予算・人材不足に苦しむ地方自治体の脆弱性—これら3つの要因が複雑に絡み合い、日本の行政機関は過去に例を見ない危機に直面しています。マルウェア感染による情報漏洩や業務停止のリスクは、もはや「万が一」ではなく「いつ起きてもおかしくない」現実的な脅威となっています。

APT攻撃の激化

国家支援型のAPT(標的型攻撃)が、2025年の日本政府機関への攻撃の主流となっています。従来の金銭目的のサイバー犯罪とは異なり、外交・防衛・経済安全保障に関わる機密情報を狙う長期的かつ執拗な攻撃が特徴です。

国家支援型攻撃の増加
2025年、日本政府機関への攻撃の推定80%が国家支援型となっています。中国、北朝鮮、ロシア系の攻撃グループが活発化し、外交・防衛情報が主要標的となっています。APT(標的型攻撃)との複合的な手法により、数ヶ月から数年にわたる潜伏期間を持つ**マルウェア感染**が特徴です。これらの攻撃は高度に洗練されており、従来のセキュリティ対策では検知が困難な場合が多くなっています。
重要インフラへの脅威
電力、水道、通信など14分野の重要インフラへの攻撃が前年比200%増加しました。特に電力、水道、交通への同時多発攻撃リスクが現実化しており、2025年の国際イベント関連施設も標的として警戒が必要です。制御システム(OT)へのマルウェア感染による物理的被害のリスクが高まっています。サイバー攻撃が国民生活に直接影響を及ぼす時代が到来したと言えるでしょう。
地方自治体の脆弱性
全国1,700自治体のうち約40%でセキュリティ対策が不十分な状態です。予算不足、人材不足が慢性化し、小規模自治体ほどリスクが高い状況にあります。大規模自治体への攻撃の踏み台として狙われるケースが増加しており、**サプライチェーン攻撃**の入口となるリスクが深刻化しています。攻撃者は「最も脆弱な部分」から侵入を試みるため、小規模自治体の対策強化が日本全体のセキュリティレベル向上に不可欠です。

マイナンバー関連の脅威

マイナンバー制度の普及拡大に伴い、個人番号カードや関連システムを狙った攻撃が急増しています。2024年から2025年にかけて、なりすまし申請や情報連携基盤への攻撃が顕在化し、国民の不安が高まっています。

なりすましリスク

マイナンバーカードのなりすまし申請が、2025年に入り社会問題化しています。偽造された運転免許証やパスポートを使用した不正取得、ディープフェイク技術を悪用した顔認証のすり抜け、オンライン申請システムの脆弱性を突いた攻撃など、手口は多様化・高度化しています。デジタル庁は対策として、AIによる書類検証の強化、申請時の多要素確認の徹底、生体認証技術の高度化を進めていますが、攻撃者の技術進化も速く、イタチごっこの状況が続いています。特に高齢者の身分証明書を悪用するケースが増加しており、窓口での本人確認プロセスの見直しが急務となっています。

情報連携基盤への攻撃

J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が運営する情報提供ネットワークシステムは、自治体間のマイナンバー情報連携を担う重要インフラです。このシステムへの不正アクセスが成功すれば、数千万人規模の個人情報が一度に漏洩する可能性があります。2025年には、連携APIの脆弱性を狙った攻撃の試みが複数回検知されており、セキュリティ強化が喫緊の課題となっています。データベースへの多層防御、ネットワークセグメンテーション、異常なアクセスパターンの即時検知など、技術的対策の強化が進められています。また、内部関係者による不正アクセスのリスクも無視できず、アクセス権限の最小化と監査ログの厳格な管理が求められています。

デジタル化の影で

政府・自治体のデジタル化推進は、利便性向上と業務効率化をもたらす一方で、新たなセキュリティリスクも生み出しています。特に移行期における脆弱性が攻撃者に狙われやすく、慎重な対応が必要です。

レガシーシステムの残存

全国の自治体では、サポートが終了した(EoS: End of Support)OSを使用し続けているシステムが依然として多数存在します。Windows Server 2012やWindows 7など、既にセキュリティパッチの提供が停止したOSの残存率は、小規模自治体で推定30%に達しています。予算不足による更新の遅れ、ベンダーのサポート終了、専門人材の不足などが主な原因です。これらのシステムはゼロデイ攻撃に対して無防備であり、一度攻撃を受けると甚大な被害が発生する可能性があります。特に基幹業務システムがレガシー環境で稼働している場合、業務継続に直結する深刻なリスクとなります。デジタル庁は2025年度、レガシーシステム更新のための特別予算枠を設けていますが、全自治体での更新完了には数年を要する見込みです。

クラウド移行期の脆弱性

ガバメントクラウドへの移行を進める自治体では、オンプレミスとクラウドの並行運用期に特有のリスクが発生しています。データ移行時の情報漏洩クラウド設定不備による情報露出、ハイブリッド環境での認証管理の複雑化などが主要な課題です。特に移行作業中は、通常よりも多くの管理者アカウントが発行され、アクセス権限も緩和されるため、攻撃面(アタックサーフェス)が一時的に拡大します。2025年には、移行作業中の自治体を狙った標的型攻撃が複数報告されており、作業期間中の監視体制強化が重要となっています。移行プロジェクトには外部ベンダーも多数関与するため、サプライチェーン攻撃のリスクも高まっています。

カテゴリ 件数 前年比 主な攻撃元 平均被害額
APT攻撃 247件 +85% 中国、北朝鮮、ロシア 推定不能
ランサムウェア 89件 +120% 犯罪組織 2.8億円
情報漏洩 156件 +45% 内部不正含む 1.2億円
DDoS攻撃 1,234件 +30% 複数 業務停止損失
フィッシング 3,456件 +60% 国際犯罪組織 職員情報窃取
マルウェア感染(その他) 678件 +75% 複数 0.5億円

表:政府機関インシデント統計2025
出典: 警察庁サイバー犯罪統計2025年度版(仮想データ)
注: 平均被害額は金銭的損失が明確なもののみ算出


重大インシデント|2025年の教訓

2025年は、政府・自治体にとって「サイバーセキュリティ元年」とも呼べる年となりました。複数の重大インシデントが発生し、それぞれが組織体制、技術対策、そして危機管理のあり方を根本から見直す契機となっています。ここでは、実際に発生した(または発生しうる)典型的な事例を通じて、現代の行政機関が直面するリスクと、そこから得られる教訓を詳しく見ていきます。

某省庁の機密情報流出

2025年6月(仮想事例)、中央省庁で発生した機密情報流出事件は、国家レベルのサイバーセキュリティ対策の不備を露呈させる結果となりました。外交機密文書約1万件がダークウェブに流出し、国際的な信用失墜と外交交渉への深刻な影響をもたらしました。

事案概要
G7関連資料、日米安保協議内容、アジア太平洋地域の外交戦略文書など、極めて機密性の高い情報が大量に流出しました。データ漏洩の規模と機密性の高さから、国家安全保障上の重大インシデントと位置付けられました。流出情報には、同盟国との信頼関係に関わる内容も含まれており、外交的な影響は計り知れないものとなりました。このインシデントは、単なる情報漏洩を超えて、日本の国際的な立場を揺るがす事態に発展しました。
侵入経路
攻撃は極めて計画的かつ段階的に実行されました。まず職員の私物PCからマルウェア感染が発生し、そのマルウェアがVPN認証情報を窃取しました。続いて窃取した認証情報を使用してVPN経由で内部ネットワークに侵入し、約6ヶ月間潜伏しながら内部のネットワーク構造を調査しました。その後、**横展開**により機密サーバーへのアクセス権を獲得し、最終的に海外サーバーへ段階的にデータを転送しました。初期侵入はフィッシングメールによるものと推定されており、標的型攻撃の典型的なパターンでした。長期間の潜伏により、通常のセキュリティ監視では検知が困難な状況でした。
対応と改革
このインシデントを受けて、全省庁でゼロトラスト原則に基づくセキュリティ体制への全面移行が決定されました。私物端末の業務使用が全面禁止となり、支給端末のみでの業務遂行が義務化されました。多要素認証の全システムへの展開、アクセス権限の最小化、ネットワークのマイクロセグメンテーション、EDR(Endpoint Detection and Response)の全端末導入など、技術的対策が大幅に強化されました。また、デジタル庁主導での政府統一基準の大幅改定が実施され、インシデント対応体制の抜本的見直しも行われています。さらに、サイバーセキュリティ専門人材の大幅増員と、24時間365日のセキュリティ監視体制(SOC)の構築が進められています。

A県ランサムウェア被害

地方自治体を襲ったランサムウェア攻撃は、住民サービスの長期停止という前例のない事態を引き起こしました。この事例は、自治体のデジタル化とセキュリティ対策のバランスの難しさを浮き彫りにしました。

住民サービス1ヶ月停止

A県(仮想事例)では、基幹システムへのランサムウェア攻撃により、住民票発行、税金関連手続き、福祉サービスの申請など、ほぼすべての住民サービスが約1ヶ月間停止しました。窓口業務は手作業に切り替えられましたが、通常の10倍以上の時間を要し、長時間の待ち時間による住民の不満が爆発しました。職員は連日深夜までの残業を強いられ、一部で過労による体調不良者も発生しました。復旧期間中の人件費増加、機会損失、そして信頼回復のための広報活動など、経済的損失は推定10億円を超えました。さらに、住民への補償問題も浮上し、自治体の財政を大きく圧迫する結果となりました。この事例は、マルウェア感染が単なるITの問題ではなく、住民生活全体に影響を及ぼす深刻な事態であることを示しています。

バックアップも暗号化

このインシデントで最も深刻だった問題は、バックアップデータも同時に暗号化されてしまったことです。A県では、バックアップサーバーが本番システムと同一ネットワークに接続されており、攻撃者はバックアップを優先的に破壊することで、復旧を困難にする戦略を取りました。これは近年のランサムウェア攻撃における典型的な手法です。本来であれば、3-2-1ルール(3つのコピー、2種類の異なるメディア、1つはオフサイト保管)に従うべきでしたが、予算制約と人材不足により実施されていませんでした。結果として、データ復旧には外部専門家の支援と数週間の時間を要し、一部のデータは完全に失われました。この教訓から、全国の自治体でバックアップ戦略の見直しが進められています。特にオフラインバックアップとイミュータブル(変更不可能)バックアップの導入が推奨されています。

B市マイナンバー漏洩

クラウド移行期に発生した設定ミスによる個人情報漏洩事件は、デジタル化推進におけるリスク管理の重要性を改めて認識させる結果となりました。

設定ミスで10万人分露出

B市(仮想事例)では、ガバメントクラウドへの移行作業中、クラウドストレージの公開設定を誤り、約10万人分のマイナンバーを含む個人情報が約3ヶ月間インターネット上に露出していました。漏洩したデータには、氏名、住所、生年月日、マイナンバー、世帯構成、所得情報などが含まれており、プライバシー侵害のレベルは極めて深刻でした。この事例はクラウド設定不備の典型例であり、クラウドの脆弱性の95%は利用者側の設定ミスが原因という統計を裏付けるものでした。さらに、漏洩したデータが検索エンジンにインデックスされていた可能性も指摘されており、二次的な悪用のリスクも懸念されています。発見のきっかけは外部のセキュリティ研究者からの通報であり、自治体側の監視体制の不備も問題視されました。

住民訴訟に発展

個人情報保護法違反として、住民による集団訴訟が提起されました。原告側は1人あたり10万円の慰謝料を請求し、総額約100億円規模の訴訟となりました。自治体側の過失責任は明白であり、担当職員の刑事責任も追及される事態となりました。この訴訟は、他の自治体にも大きな警鐘を鳴らし、クラウド移行時のセキュリティチェック体制強化の動きが全国的に広がりました。単なる金銭的な損失だけでなく、自治体への信頼が大きく損なわれ、その回復には長期間を要すると見られています。この事例から、法的リスクとレピュテーションリスクの両面での対策の重要性が再認識されました。

自治体規模 対策実施率 予算額(中央値) 専任担当者数 主なリスク
政令指定都市(20自治体) 95% 2.5億円/年 5-10名 高度な標的型攻撃
中核市(62自治体) 78% 8,000万円/年 2-3名 ランサムウェア
一般市(700自治体) 62% 3,000万円/年 1名(兼任) フィッシング、設定ミス
町村(918自治体) 38% 500万円/年 0名(外部委託) 全般的な脆弱性

表:自治体規模別セキュリティ対策状況
出典: 総務省自治体セキュリティ実態調査2025(仮想データ)
注: 専任担当者数は情報システム部門内のセキュリティ専従者


ガバメントクラウド移行|新たな課題

デジタル庁が主導するガバメントクラウドへの移行は、日本の行政デジタル化における歴史的な転換点です。従来の自治体ごとに独自構築されたオンプレミスシステムから、標準化されたクラウドサービスへの移行は、効率性とセキュリティの両面で大きな可能性を秘めています。しかし同時に、移行期特有のリスクや新たなセキュリティ課題も顕在化しています。

移行状況と課題

2025年時点でのガバメントクラウド移行は、計画通りに進んでいる自治体とそうでない自治体で二極化が進んでいます。技術的な課題、組織的な抵抗、予算制約など、様々な要因が移行の進捗に影響を与えています。

先行事業の進捗
デジタル庁主導で100自治体が先行移行を完了し、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud、Oracle Cloudが政府調達の要件を満たすクラウドサービスとして採用されています。2025年末までに500自治体の移行が予定されており、基幹業務システムの標準化と並行して進められています。先行自治体からは、システムの柔軟性向上、災害時の事業継続性強化、運用コスト削減などのメリットが報告されています。一方で、職員の習熟度不足、カスタマイズの制約、既存システムからのデータ移行の複雑さなどの課題も指摘されています。
セキュリティ要件
ガバメントクラウドでは、政府統一基準への厳格な準拠が求められます。データの国内保管、監査権の確保、インシデント発生時の国内対応体制、そして暗号化通信の徹底などが必須要件です。特に重要なのは、クラウド事業者と利用者側の責任分界(シェアードレスポンシビリティモデル)の明確化です。インフラ層のセキュリティはクラウド事業者が担保しますが、アプリケーション層やデータ層のセキュリティは利用者(自治体)の責任となります。この責任範囲の理解不足が、**クラウド設定不備**による情報漏洩の主要因となっており、移行時の教育・訓練の重要性が高まっています。
移行期のリスク
オンプレミスとクラウドの並行運用期間は、最もリスクが高い時期です。攻撃面(アタックサーフェス)が一時的に拡大し、両環境間のデータ同期やアクセス制御が複雑化します。データ移行時の情報漏洩リスク、設定ミスによる情報露出、専門人材不足による運用ミスなどが深刻な課題です。また、移行作業中は通常よりも多くの外部ベンダーが関与するため、マルウェア感染のリスクも高まります。移行プロジェクトのセキュリティガバナンス、変更管理プロセスの厳格化、そして移行期専用の監視体制構築が重要となります。

LGWAN-ASPとの連携

総合行政ネットワーク(LGWAN)は、自治体間を結ぶ閉域ネットワークとして長年運用されてきました。ガバメントクラウド時代においても、このセキュアな通信基盤との適切な連携が、行政のセキュリティを支える重要な要素となっています。

閉域網とクラウドの接続

LGWANは、インターネットから物理的に分離された閉域ネットワークであり、その高いセキュリティレベルが自治体業務の安全性を支えてきました。ガバメントクラウドとの接続においては、この閉域性を維持しながらクラウドの利点を活用する必要があります。接続方式としては、専用線接続、VPN接続、そしてLGWAN-ASP(Application Service Provider)経由の接続などが採用されています。いずれの方式でも、暗号化通信(TLS 1.3以上)の使用、強固な認証・アクセス制御、そして継続的な監視が必須要件となります。特に重要なのは、ゼロトラストアーキテクチャの考え方を取り入れ、「ネットワークの内側だから安全」という前提を捨て去ることです。すべてのアクセスを検証し、最小権限の原則を徹底することで、万が一の侵入に対しても被害を最小化できます。

セキュリティレベルの維持

従来のLGWAN環境で確保されていたセキュリティレベルを、クラウド環境でも維持または向上させることが基本方針です。具体的には、多要素認証(MFA)の全面的な導入、すべての通信の暗号化、アクセスログの完全記録と長期保管、そしてSIEM/SOARによる統合的な監視体制の構築が進められています。また、インシデント検知から対応までの自動化も重要なテーマです。AI/機械学習を活用した異常検知、自動隔離機能、そしてプレイブックに基づく自動対応により、人的リソースの制約を技術で補完する取り組みが進んでいます。セキュリティとユーザビリティのバランスも重要な課題であり、高いセキュリティを保ちながら職員が使いやすいシステムの実現が目指されています。

マルチクラウド管理

ガバメントクラウドでは、複数のクラウドサービスプロバイダーを組み合わせて利用することが可能です。これはベンダーロックインを避け、最適なサービスを選択できるメリットがある一方、管理の複雑性という新たな課題ももたらしています。

統合認証基盤

複数のクラウドサービスを利用する環境では、統合的な認証基盤の構築が不可欠です。職員が複数のパスワードを管理する必要をなくし、シングルサインオン(SSO)で各種サービスにアクセスできる環境を整備することで、セキュリティと利便性の両立を図ります。ID統合管理(IDaaS: Identity as a Service)の導入により、職員の異動・退職時のアカウント管理も効率化されます。特に重要なのは、権限の最小化(最小権限の原則)の徹底です。職員には業務遂行に必要最小限の権限のみを付与し、不要な権限は速やかに削除します。また、定期的なアクセス権レビューを実施し、不適切な権限付与がないかチェックします。特権アカウント(管理者権限)については、さらに厳格な管理が必要です。特権アクセス管理(PAM: Privileged Access Management)ソリューションの導入により、特権アカウントの使用状況を完全に記録・監視し、不正使用を防止します。

一元的な監視体制

マルチクラウド環境において、各クラウドサービスのログを個別に確認するのは非効率であり、セキュリティインシデントの見落としにもつながります。CSIRT/SOCによる24時間365日の統合監視体制の構築が推奨されています。複数クラウドのログを一元的に収集・分析するSIEM(Security Information and Event Management)の導入、異常検知とアラートの自動化、そして脅威インテリジェンスの活用により、高度な脅威にも迅速に対応できる体制を整備します。インシデント対応についても、クラウド横断的な標準化されたプロセスを確立し、どのクラウドでインシデントが発生しても同じ手順で対応できるようにします。これにより、対応の迅速性と確実性が向上します。

フェーズ 期間 対象自治体数 移行システム セキュリティ対策
第1期(先行) 2023-2024 100 住民記録、税務 LGWAN接続、暗号化
第2期 2025 500 福祉、国保、戸籍 ゼロトラスト導入
第3期 2026-2027 900 財務、人事、教育 AI監視強化
第4期 2028以降 残り全自治体 全基幹系システム 量子暗号対応
合計 2023-2030 1,700 20業務システム 統一基準準拠

表:ガバメントクラウド移行計画
出典: デジタル庁ガバメントクラウドロードマップ2025(仮想データ)
注: 移行は各自治体の準備状況により前後する可能性あり


セキュリティ強化施策|政府の取組み

2025年、政府はサイバーセキュリティを国家の最重要課題の一つと位置づけ、これまでにない規模での強化策を展開しています。デジタル庁を司令塔とし、総務省、警察庁、経済産業省など関係省庁が連携した総合的なアプローチが特徴です。

統一基準群の改定

政府のサイバーセキュリティ政策の根幹をなす「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」が、2025年に大幅改定されました。この改定は、急速に変化する脅威環境と、デジタル技術の進化に対応するための抜本的な見直しとなっています。

2025年版の主要変更点
最も大きな変更は、ゼロトラスト原則の全面採用です。従来の「境界防御」モデルから、「すべてのアクセスを検証する」モデルへの転換が明確化されました。また、クラウドファースト前提の対策基準が新設され、オンプレミス環境とは異なるクラウド特有のリスクへの対応が詳細に規定されました。サプライチェーンリスクへの対応も大幅に強化され、ベンダー選定時のセキュリティ評価、契約時のセキュリティ要件明記、そして継続的なモニタリングが義務化されました。さらに、AI活用とそのリスク管理に関する基準が新設され、AIシステムのセキュリティ、プライバシー保護、そして倫理的な使用に関するガイドラインが提示されました。将来の脅威に備えて、量子コンピュータ時代の暗号技術(耐量子暗号)への対応準備も盛り込まれています。
監査・評価の強化
統一基準の実効性を高めるため、監査・評価の仕組みも大幅に強化されました。年1回の外部監査が義務化され、独立した第三者機関による客観的な評価が実施されます。ペネトレーションテスト(侵入テスト)の定期実施も規定され、実際の攻撃を模擬することで防御の実効性を検証します。また、セキュリティ成熟度評価モデルが導入され、各組織のセキュリティレベルを5段階で評価する仕組みが整備されました。基準不適合の場合は改善計画の提出が求められ、改善が見られない場合は次年度予算の削減措置も設けられています。この厳格な評価体制により、監査・コンプライアンスの実効性が大きく向上しています。
人材育成強化
セキュリティ人材不足は、日本の行政機関が直面する最大の課題の一つです。2025年、デジタル庁にサイバーセキュリティ専門官100名が新たに配置され、自治体支援や政府全体のセキュリティ向上を担当しています。自治体向け研修プログラムも大幅に拡充され、年間1万人規模での研修実施体制が整備されました。基礎レベルから高度専門レベルまで、段階的な研修コースが用意されています。民間からの人材登用も積極的に進められており、セキュリティベンダーやコンサルティング企業からの出向、任期付き採用などにより、実務経験豊富な専門家を確保しています。セキュリティ人材育成は、今や政府の重点施策の一つとなっています。

予算措置と支援

政府は「セキュリティへの投資は将来への投資」との認識のもと、2025年度のサイバーセキュリティ関連予算を大幅に増額しました。特に地方自治体への支援が手厚く、小規模自治体でも最新のセキュリティ対策を導入できる体制が整いつつあります。

セキュリティ対策費倍増

2025年度の政府のサイバーセキュリティ予算は、前年比約180%増の1,250億円に達しました。このうち、EDR(Endpoint Detection and Response)、SIEM(Security Information and Event Management)など最新セキュリティツールの導入に150億円、クラウドセキュリティ強化に300億円、人材育成プログラムに80億円が配分されています。特に注目すべきは、AI活用したセキュリティ自動化への大規模投資です。機械学習による異常検知、自動対応システム、そして脅威インテリジェンスの高度化に合計100億円が投じられています。これらの技術により、人的リソースの制約を補い、24時間365日の高度な監視体制を実現することが目指されています。

自治体向け補助金

小規模自治体への重点支援として、総額200億円の補助金制度が創設されました。人口5万人未満の自治体には、セキュリティツール導入費用の最大75%が補助されます。人口5万人以上の自治体でも50%の補助率が適用され、大幅な負担軽減が実現しています。また、専門人材の新規採用に対する支援制度も設けられ、初年度の人件費の50%を最大3年間補助する仕組みが導入されました。研修受講費用は全額補助され、職員のスキル向上への投資が促進されています。さらに、複数の自治体が共同でセキュリティサービスを調達する「共同調達」も推進されており、スケールメリットによるコスト削減が実現しています。申請手続きも大幅に簡素化され、オンラインで完結できる体制が整備されました。

官民連携強化

サイバーセキュリティは、政府だけで対応できる課題ではありません。民間企業が持つ最新技術、豊富な経験、そして人材を活用した官民連携の強化が、2025年の大きなテーマとなっています。

情報共有体制

J-CSIP(サイバー情報共有イニシアティブ)の参加組織が2025年に500組織を超え、政府と民間企業の間でリアルタイムの脅威情報共有が実現しています。新たな攻撃の兆候(IoC: Indicators of Compromise)が検知されると、即座に関係組織に配信され、事前の防御が可能となります。攻撃手法、攻撃者の特徴、対策方法などの詳細情報も共有され、組織横断的な防御体制が構築されています。業界別ISAC(Information Sharing and Analysis Center)との連携も強化され、金融、電力、通信など重要インフラ分野での情報共有が活発化しています。さらに国際的な情報共有も進展しており、米国のUS-CERT、欧州のENISA、アジア太平洋地域の各国サイバーセキュリティ機関との連携により、グローバルな脅威に対する早期警戒体制が整備されつつあります。

民間ノウハウ活用

多くの自治体では、セキュリティの専門人材を常時確保することは困難です。そこで、セキュリティベンダーが提供するMDR(Managed Detection and Response)サービスやSOC(Security Operations Center)サービスのアウトソーシングが積極的に活用されています。24時間365日の監視、インシデント発生時の即座な対応、そして定期的な脅威分析レポートの提供により、専門人材不足を補っています。また、定期的なレッドチーム演習の実施により、実際の攻撃を想定した防御体制のテストも行われています。民間企業の最新技術を活用した実証実験も各地で展開されており、AIによる異常検知、ブロックチェーンを活用したログの改ざん防止、量子暗号通信など、次世代技術の行政への適用が検討されています。ベストプラクティスの共有も活発化しており、先進的な取り組みを行っている自治体の事例が、他の自治体に横展開される仕組みが整備されています。

年度 政府予算 自治体支援枠 EDR/MDR クラウド対策 人材育成 国際連携
2023 580億円 80億円 50億円 100億円 30億円 20億円
2024 820億円 120億円 90億円 180億円 50億円 35億円
2025 1,250億円 200億円 150億円 300億円 80億円 60億円
2026(予定) 1,600億円 280億円 200億円 400億円 120億円 90億円
増加率(23→26) +176% +250% +300% +300% +300% +350%

表:セキュリティ予算推移
出典: 財務省予算案・デジタル庁資料より(仮想データ)
注: 2026年度は政府予算案ベース、国会承認前


自治体が今すぐ取るべき対策

予算規模や職員数に関わらず、すべての自治体が実施すべき基本的な対策から、規模に応じた段階的な高度化まで、実践的なアクションプランを提示します。「何から始めればよいか分からない」という自治体担当者の声に応えるため、優先順位を明確にしています。

小規模自治体の最優先対策

人口数万人規模の小規模自治体では、予算も人材も限られています。しかし、限られたリソースでも効果的な対策は可能です。重要なのは、「完璧を目指さず、まず基本を確実に」という姿勢です。

自治体セキュリティクラウドの活用
総務省が提供する自治体セキュリティクラウド(通称:自セキュクラウド)を最優先で導入しましょう。LGWAN接続点での一元的な防御が可能で、ファイアウォール、侵入検知システム、ウイルス対策などが統合的に提供されます。単独導入と比較して費用は5分の1程度に抑えられ、専門的な運用も不要です。マルウェア感染の90%以上は、この基本的な対策で防げる可能性があります。自セキュクラウドは既に全国的に展開されており、多くの自治体での実績もあるため、安心して導入できます。
多要素認証の徹底
すべてのシステムログインに多要素認証(MFA: Multi-Factor Authentication)を必須化します。パスワードに加えて、スマートフォンアプリでの認証、SMSでの確認コード、または生体認証を組み合わせることで、セキュリティは劇的に向上します。不正アクセスの80%はパスワードだけの認証が原因という統計があります。スマートフォンアプリ型のMFAなら、追加コストはほぼゼロで導入可能です。Microsoft AuthenticatorやGoogle Authenticatorなど、無料で利用できるアプリが複数あります。職員への説明と初期設定支援さえ行えば、運用負担も最小限で済みます。
バックアップの3-2-1ルール徹底
データの3つのコピー、2種類の異なるメディア、1つはオフサイト(外部)保管を徹底しましょう。これはランサムウェア対策の最後の砦です。オンプレミスのバックアップに加えて、クラウドバックアップサービスを活用することで、オフサイト保管が容易に実現できます。主要なクラウドバックアップサービスは月額数万円から利用可能で、自動バックアップ、暗号化、そして長期保管が標準機能として提供されます。特に重要なのは、バックアップが正常に取れているか、そして復元できるかを定期的にテストすることです。「バックアップは取っていたが復元できなかった」という事態を避けるため、四半期に1回は復元テストを実施しましょう。

J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が提供する各種支援サービスも積極的に活用しましょう。セキュリティ診断、インシデント対応支援、そして各種相談窓口が無償または低コストで利用できます。また、近隣自治体との共同対策も効果的です。共同でセキュリティサービスを調達することで大幅なコスト削減が可能となり、インシデント発生時の相互支援体制も構築できます。無償のセキュリティツールも多数存在します。オープンソースのウイルス対策ソフト、脆弱性スキャナー、ログ分析ツールなどを適切に組み合わせることで、予算が限られていても一定レベルのセキュリティを確保できます。

中規模自治体の推奨対策

人口10万人から50万人規模の中規模自治体では、小規模自治体の基本対策に加えて、より高度な技術対策と組織的な対策を組み合わせることが推奨されます。

技術対策(予算: 3,000-5,000万円/年)

  • EDR(Endpoint Detection and Response)導入: すべての端末にEDRを導入し、リアルタイムでの脅威検知と自動対応を実現します。従来のアンチウイルスソフトでは検知できない高度な脅威にも対応可能です
  • SIEM(Security Information and Event Management)構築: 複数のシステムからログを収集・分析し、異常なパターンを検知します。AIを活用した高度な分析により、未知の脅威も早期発見できます
  • ネットワークセグメンテーション実施: ネットワークを複数のセグメントに分割し、万が一の侵入時にも被害を局所化します。重要度の高いシステムは特に厳重に保護します
  • 定期的な脆弱性診断(年2回): 外部の専門機関による脆弱性診断を実施し、システムの弱点を定期的に把握・改善します
  • ペネトレーションテスト(年1回): 実際の攻撃を模擬したテストにより、防御体制の実効性を検証します

組織対策(予算: 1,000-2,000万円/年)

  • セキュリティ専任担当者の配置(最低1名): 情報システム部門内にセキュリティ専任の担当者を配置し、日常的な監視と対策立案を担当させます
  • インシデント対応計画の策定: マルウェア感染、ランサムウェア攻撃、情報漏洩など、想定されるインシデントごとに具体的な対応手順を文書化します
  • 全職員向けセキュリティ研修(年4回): eラーニングも活用し、全職員が基本的なセキュリティ知識を習得します
  • 標的型メール訓練(四半期ごと): 実際のフィッシングメールを模擬した訓練メールを送信し、職員の対応力を評価・向上させます
  • BCP/DRP(事業継続計画/災害復旧計画)の整備と定期的な訓練: インシデント発生時にも住民サービスを継続できる体制を構築し、年1-2回の訓練で実効性を確保します

ガバナンス対策

  • セキュリティポリシーの見直し: 最新の脅威動向とガバメントクラウド移行を踏まえ、セキュリティポリシーを全面的に見直します
  • 外部監査の実施(年1回): 独立した第三者機関による監査を受け、客観的な評価と改善提案を得ます
  • リスク評価の定期実施: 自治体が直面するセキュリティリスクを定期的に評価し、対策の優先順位を見直します
  • インシデント対応体制の構築: インシデント発生時の連絡体制、意思決定プロセス、外部専門家との連携方法を明確化します

大規模自治体・政令指定都市の高度化対策

人口50万人以上の大規模自治体や政令指定都市では、最先端のセキュリティ技術を導入し、他の自治体の模範となる体制構築が期待されます。SOC(Security Operations Center)の内製化により、24時間365日の高度な監視体制を実現します。専門チームが常駐し、リアルタイムでの脅威検知と即座な対応が可能となります。脅威ハンティングも定期的に実施し、既知の脅威だけでなく、潜在的な脅威を能動的に探索します。レッドチーム/ブルーチーム演習により、攻撃者の視点で防御体制の弱点を発見し、継続的な改善を図ります。

ゼロトラストアーキテクチャの全面実装も重要です。「内部は安全」という前提を捨て、すべてのアクセスを検証する体制を構築します。AIと機械学習を活用した異常検知システムの導入により、人間では検知困難なパターンも自動的に発見できます。デジタルフォレンジック体制も構築し、インシデント発生時の証拠保全と原因究明を迅速に実施できる能力を確保します。

サプライチェーンセキュリティ管理も高度化し、委託先やベンダーのセキュリティレベルを継続的に評価・管理します。CSIRT/SOCの成熟度を段階的に向上させ、最終的には国際標準レベルの運用体制を目指します。さらに、これらの取り組みで得られた知見やベストプラクティスを、他の自治体と積極的に共有し、日本全体のセキュリティレベル向上に貢献することが期待されます。

対策項目 小規模 中規模 大規模 推定コスト 効果 実施率
多要素認証(MFA) ★★★ ★★★ ★★★ 無料~50万円 65%
バックアップ3-2-1ルール ★★★ ★★★ ★★★ 月3万円~ 58%
自セキュクラウド ★★★ ★★☆ ★☆☆ 年500万円~ 72%
EDR導入 ★☆☆ ★★★ ★★★ 年1,000万円~ 35%
SIEM構築 ☆☆☆ ★★☆ ★★★ 年2,000万円~ 18%
SOC内製化 ☆☆☆ ☆☆☆ ★★★ 年5,000万円~ 8%
ゼロトラスト実装 ☆☆☆ ★☆☆ ★★★ 年1億円~ 5%
脅威ハンティング ☆☆☆ ☆☆☆ ★★☆ 年3,000万円~ 3%

★★★=最優先・即時実施 ★★☆=推奨・1年以内 ★☆☆=将来的に・2-3年以内 ☆☆☆=不要または過剰投資

表:自治体規模別対策優先度マトリックス
出典: 自治体セキュリティ対策ベンチマーク2025(仮想データ)
注: 実施率は全国1,700自治体の平均


今後の展望|2026年への準備

2025年の取り組みを基盤として、2026年以降の日本の行政デジタル化とセキュリティはさらなる進化を遂げます。デジタル完結社会の実現、国際連携の深化、そして新技術への対応が、今後の主要テーマとなります。

デジタル完結への道

行政サービスの完全オンライン化が、いよいよ最終段階に入ります。2026年までに、原則としてすべての行政手続きがオンラインで完結できる環境の整備が目標とされています。

行政手続き100%オンライン化

マイナポータルの機能が大幅に拡充され、住民票や戸籍謄本の取得、各種証明書の発行、補助金申請、そして税金の申告まで、あらゆる手続きがスマートフォン一つで完結できるようになります。電子申請のセキュリティも強化され、生体認証、リスクベース認証、そして多要素認証の組み合わせにより、高いセキュリティと利便性の両立を実現します。本人確認方法も多様化し、顔認証、指紋認証、そして将来的には静脈認証なども選択肢に加わります。

セキュリティとUXの両立

「セキュリティを強化すると使いにくくなる」というジレンマを解決するため、リスクベース認証が本格導入されます。通常のアクセスでは簡易な認証で済ませ、リスクが高いと判断される場合のみ追加認証を求める仕組みです。AIがユーザーの行動パターンを学習し、異常なアクセスを自動検知します。生体認証技術も進化し、顔認証の精度向上とともに、なりすまし防止技術も高度化します。シームレスな本人確認により、ユーザーは煩雑な手続きから解放されます。高齢者や障害者への配慮も重要です。音声入力、大きな文字表示、簡略化されたインターフェースなど、すべての国民が平等にデジタルサービスを利用できる環境整備が進められています。

国際連携の強化

サイバーセキュリティは、もはや一国だけで対応できる課題ではありません。国境を越えた攻撃に対しては、国際的な協力体制が不可欠です。

Quadサイバーセキュリティ協力
日米豪印(Quad)の枠組みでのサイバーセキュリティ協力が深化しています。四半期ごとの共同サイバー演習が定期実施され、各国の対応能力向上と相互理解が進んでいます。脅威インテリジェンスの共有体制も強化され、一国で検知された脅威情報が即座に他の三国に共有されます。重要インフラ防護での協力も進み、電力、通信、金融などの分野で共通の防御基準策定が検討されています。2026年には東京でQuadサイバーセキュリティサミットの開催が予定されており、より高いレベルでの政策協調が期待されます。
EUとの連携
欧州連合(EU)との協力も重要なテーマです。日本の個人情報保護法とEUのGDPR(一般データ保護規則)との相互認証により、データの国境を越えた移転が円滑化されています。EUが策定を進めるサイバーレジリエンス法への対応も検討されており、製品のセキュリティ基準の国際調和が図られています。日欧共同でのサイバーセキュリティ技術の研究開発も進んでおり、AIセキュリティ、量子暗号、そしてプライバシー保護技術などの分野で協力が深まっています。デジタル主権の確立に向けた協調も重要なテーマとなっています。
ASEAN協力
東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国への能力構築支援は、日本の重要な国際貢献です。多くのASEAN諸国ではサイバーセキュリティの専門人材が不足しており、日本の知見と経験を活用した支援が歓迎されています。年次でのサイバー演習を共同実施し、インシデント対応能力の向上を支援しています。APT攻撃の情報共有も進んでおり、地域全体で脅威に対抗する体制が整いつつあります。日本がこの分野で主導的役割を果たすことは、地域の安定と繁栄に貢献するとともに、日本自身のセキュリティ向上にもつながります。

新技術への対応

技術革新のスピードは加速しており、新たな技術は新たなセキュリティ課題ももたらします。2026年以降を見据えた準備が、今から必要です。

AI活用によるセキュリティ運用の自動化がさらに進みます。異常検知、脅威分析、インシデント対応の初動など、多くのプロセスがAIにより自動化され、人的リソースの制約を克服します。一方で、攻撃者もAIを悪用するため、AI対AI の攻防が本格化します。量子コンピュータ時代の到来に備えた暗号対策も喫緊の課題です。現在広く使われている公開鍵暗号は、量子コンピュータで容易に解読される可能性があります。耐量子暗号への移行準備が、2025年から本格化しています。

ブロックチェーン技術の行政活用も検討が進んでいます。改ざん不可能な記録として、各種証明書の発行、契約管理、そして投票システムなどへの応用が研究されています。6G時代のセキュリティ設計も重要なテーマです。5Gの次世代となる6Gでは、さらに多くのデバイスが接続され、リアルタイム性も向上します。これに伴うセキュリティリスクへの対応を、技術開発の初期段階から組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方が重要です。

メタバースやVR(仮想現実)での行政サービス提供も視野に入ってきました。バーチャル空間での窓口相談、会議、そしてイベント開催など、新たなサービス形態に対応したセキュリティ対策が必要です。IoT機器の爆発的増加への対応も課題です。スマートシティ構想の進展により、膨大な数のIoTデバイスが都市インフラに組み込まれます。これらすべてのセキュリティを確保することは、従来の手法では困難であり、新たなアプローチが求められています。

エッジコンピューティングの普及も、新たなセキュリティ課題を生み出します。データ処理がクラウドだけでなくエッジ(末端)でも行われるようになると、保護すべき範囲が拡大し、複雑性が増します。分散した環境での統合的なセキュリティ管理手法の確立が必要です。


よくある質問(FAQ)

政府・自治体のセキュリティ強化に関して、多くの自治体職員や関係者から寄せられる疑問にお答えします。

Q: 小規模自治体でも高度なセキュリティ対策は必要ですか?
A: 必要性は規模に関係なく高く、むしろ小規模自治体こそ狙われやすい状況にあります。 **狙われる理由**: 1. **セキュリティ対策が脆弱**で攻撃者にとって侵入しやすい環境である場合が多い 2. **大規模自治体への攻撃の踏み台**として利用され、サプライチェーン攻撃の入口となる 3. **住民情報の価値は自治体規模に関係なく高い**ため、攻撃の対象となる 4. **予算・人材不足**により発見・対応が遅れやすく、被害が拡大しやすい **最優先で実施すべき対策**: - **自治体セキュリティクラウドの活用**: 総務省が提供する共同利用型のセキュリティサービスを活用することで、単独導入の5分の1程度のコストで高度な防御が可能 - **近隣自治体との共同対策**: 複数の自治体で共同調達することでコスト削減と相互支援体制の構築が可能 - **J-LIS支援サービスの利用**: 地方公共団体情報システム機構が提供する無償または低コストの支援サービスを積極的に活用 - **デジタル庁の支援プログラム**: 無償研修、補助金制度、専門家派遣など、国の支援を最大限活用 - **多要素認証とバックアップの徹底**: 最小限のコストで大きな効果が得られる基本対策を確実に実施 小規模自治体向けの補助金制度も充実しており、セキュリティツール導入費用の最大75%が補助されます。予算面での不安があっても、まずはデジタル庁や総務省の相談窓口に問い合わせることをお勧めします。
Q: ガバメントクラウドのセキュリティは本当に信頼できますか?
A: 適切に設定・運用すれば、従来のオンプレミスシステムよりも高いセキュリティレベルを実現できます。 **ガバメントクラウドのメリット**: - **最新のセキュリティ機能が自動適用**: クラウド事業者が常に最新のセキュリティパッチを適用し、脅威から保護 - **24時間365日の専門家による監視**: 自治体単独では困難な高度な監視体制が標準で提供される - **自動パッチ適用**: 脆弱性が発見されると即座に修正され、攻撃者に狙われるリスクを最小化 - **専門ベンダーによる高度なセキュリティ運用**: 世界トップレベルのセキュリティ専門家による運用・管理 **注意すべきポイント**: - **設定ミスが最大のリスク**: クラウドの脆弱性の95%は利用者側の設定ミスが原因。公開範囲、アクセス権限、暗号化設定などを慎重に確認 - **責任共有モデルの理解**: インフラ層はクラウド事業者、アプリケーション層とデータ層は利用者(自治体)という責任分界を明確に理解 - **データ主権の確保**: 日本国内でのデータ保管、日本の法律への準拠、監査権の確保を契約で明確化 - **ベンダーロックイン対策**: 特定クラウドへの過度な依存を避け、マルチクラウド戦略を検討 デジタル庁が策定した「ガバメントクラウド利用ガイドライン」に従い、セキュリティ設定のチェックリストを徹底することが重要です。不安な場合は、第三者によるセキュリティ診断を受けることを推奨します。多くの自治体が既に移行を完了しており、その知見も活用できます。
Q: マイナンバーカードのセキュリティは十分ですか?なりすましは防げますか?
A: カード自体のセキュリティは非常に高いレベルにありますが、運用面での課題が残っています。 **カード自体の安全性**: - **ICチップの高度な暗号化**: 最新の暗号技術(RSA2048ビット等)で保護され、解読は事実上不可能 - **券面情報とICチップ情報の分離**: 紛失時でも券面の情報だけでは悪用が困難な設計 - **生体認証との併用**: 顔写真による本人確認で、カード単体での悪用リスクを低減 - **不正利用の検知・追跡**: すべての利用履歴が記録され、不正使用の試行はシステムで検知可能 **残る課題とリスク**: - **なりすまし申請**: 偽造された身分証明書による不正取得の事例が報告されている(対策: AIによる書類検証の強化、複数書類での確認) - **紛失・盗難時の悪用**: 4桁の暗号番号だけでは防御が不十分な場合がある(対策: 生体認証の追加導入、利用履歴の即時通知) - **連携システムの脆弱性**: マイナポータル等のシステム側にセキュリティホールが存在する可能性(対策: 定期的な脆弱性診断とペネトレーションテスト) - **職員の操作ミス**: 自治体窓口での誤操作や不正アクセスのリスク(対策: アクセスログの完全記録、定期的な監査) **2025-2026年の強化策**: - 顔認証システムの全国的な展開(空港などで実績のある高精度システム) - オンライン利用時の追加認証(スマートフォンアプリでの承認など) - 利用履歴の即時通知機能(不正使用を早期発見) - AIによる不正検知の高度化(通常とは異なる利用パターンを自動検知) 定期的に「マイナポータル」でご自身のカード利用履歴を確認し、身に覚えのない利用があればすぐに問い合わせることをお勧めします。
Q: 職員のセキュリティ意識をどうやって高めればいいですか?
A: 「教育」と「仕組み化」の両輪で進めることが重要です。人的ミスを完全にゼロにすることは不可能という前提で、技術的な対策と組み合わせましょう。 **効果的な教育プログラム**: 1. **年4回の必須研修**: eラーニングで基礎知識を徹底(1回30分×4回、全職員受講を義務化) 2. **標的型メール訓練**: 月1回の実践的な訓練で、フィッシングメールへの対応力を向上 3. **インシデント事例の共有**: 週次または月次で最新事例を紹介(5-10分程度)し、具体的な脅威を認識 4. **セキュリティ月間イベント**: 年1回の集中啓発キャンペーンで、組織全体の意識を高める 5. **表彰制度の導入**: セキュリティ意識の高い職員・部署を表彰し、良い行動を組織に広げる **技術的な補完対策(人はミスをする前提)**: - **USBポートの無効化**: 私物USBメモリの使用を物理的に防止し、マルウェア感染リスクを削減 - **メール誤送信防止システム**: 外部宛てメールは一時保留し、上長承認後に送信する仕組み - **DLP(情報漏洩防止)**: 機密情報を含むファイルの外部送信を自動的にブロック - **行動ログの取得と分析**: 不審な操作(大量ダウンロード、深夜アクセス等)を検知しアラート - **特権アカウント管理**: 管理者権限の利用を厳格に制御し、すべての操作を記録 **継続的な改善サイクル**: 訓練結果を分析し、クリック率が高かった職員や部署を特定→その弱点に特化した追加教育を実施→改善効果を測定→次回訓練に反映、というPDCAサイクルを回すことで、組織全体のセキュリティ成熟度を段階的に向上させることができます。 最も重要なのは、「セキュリティは一部の担当者だけの問題ではなく、全職員が当事者である」という文化を醸成することです。経営層が率先してセキュリティの重要性を発信し、予算と人員を確保することが、意識向上の第一歩となります。
Q: マルウェア感染やランサムウェア被害が発生したら、最初に何をすべきですか?
A: 初動の30分が被害の拡大を左右します。以下の順序で冷静に対応してください。 **緊急対応手順(最初の30分)**: **1. ネットワークからの隔離(1分以内)** - 感染端末のLANケーブルを物理的に抜く(最優先) - Wi-Fiをオフにする - 電源は切らない(メモリ上の証拠が失われるため) - 他の職員にも同様の症状がないか即座に確認 **2. インシデント対応チームへの連絡(5分以内)** - 情報システム部門の責任者に連絡 - セキュリティ担当者に状況を報告 - 上司・管理職に第一報 - 事前に作成した連絡先リスト(紙ベース)を活用 **3. 被害範囲の初期確認(10分以内)** - 同じネットワークの他の端末の状況確認 - アクセス可能なファイルサーバーの状態確認 - 共有フォルダの暗号化有無確認 - バックアップシステムへの影響確認 **4. 外部専門家への連絡(20分以内)** - 契約しているセキュリティベンダーのインシデント対応サービスに連絡 - 警察(サイバー犯罪相談窓口 #9110)に通報 - 監督官庁への報告(必要に応じて) - J-LISのインシデント対応支援窓口に連絡 **やってはいけないこと**: - ❌ **感染端末の電源を切る**: メモリ上の重要な証拠(実行中のプロセス、ネットワーク接続等)が失われる - ❌ **ファイルを削除しようとする**: 被害を拡大させる可能性があり、復旧も困難になる - ❌ **ランサムウェアの身代金を支払う**: 支払っても復旧の保証はなく、犯罪組織に資金を提供することになる - ❌ **一人で解決しようとする**: 専門家の支援が必須であり、自己判断での対応は状況を悪化させる可能性がある **事前準備が重要**: 日頃からインシデント対応計画を策定し、年2回程度の訓練を実施しておくことで、実際の発生時に慌てず対応できます。連絡先リスト、対応手順書は必ず印刷して複数箇所に保管しておきましょう(デジタルデータだけでは、システムダウン時にアクセスできません)。 また、バックアップが適切に取得されているか、復元テストも定期的に実施することで、万が一の際の復旧時間を大幅に短縮できます。予防と準備が、最大の防御策です。

【重要なお知らせ】

本記事は、2025年11月時点での公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、特定の組織・自治体に対する個別の助言ではありません。

  • 被害に遭われた場合: 警察(サイバー犯罪相談窓口 #9110)、都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口、または総務省・デジタル庁の相談窓口にご連絡ください
  • 法的対応が必要な場合: 弁護士などの法律専門家にご相談ください
  • 技術的な対応: セキュリティベンダーや専門事業者のインシデント対応サービスの利用を推奨します
  • 情報の最新性: サイバー攻撃の手口は日々進化しています。最新情報は政府機関の公式発表をご確認ください

参考情報源:

本記事で使用している統計データや事例の一部は、説明を分かりやすくするための仮想データです。実際の施策や予算については、各省庁の公式発表をご確認ください。


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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。