金融業界のマルウェア脅威動向2025

2025年、金融業界はかつてない規模のサイバー脅威に直面しています。暗号資産取引所への攻撃激化、オープンバンキングAPIの脆弱性悪用、AI技術を駆使した巧妙な詐欺など、攻撃手法は日々進化を続けています。金融庁は4月に新ガイドラインを施行し、サイバーレジリエンスの強化を義務付けましたが、攻撃者は常に規制の一歩先を行きます。本記事では、2025年の最新脅威動向、規制対応状況、実際のインシデント事例、そして先進的な技術対策まで、金融機関が今知るべき情報を包括的にお届けします。デジタル金融の発展とセキュリティの両立という難題に、業界全体で立ち向かう時が来ています。

2025年最新の攻撃トレンド|金融機関への脅威

2025年の金融業界におけるサイバー攻撃は、従来の手法を大きく超える複雑さと規模を持つようになっています。特に暗号資産関連サービス、オープンバンキング基盤、そしてAI技術を悪用した新型攻撃が急増しており、金融機関は多層的な防御体制の構築を迫られています。

警察庁の統計によると、2025年1月から10月までの金融機関を標的としたサイバー攻撃の検知件数は前年比で約180%増加しており、特にランサムウェア攻撃とビジネスメール詐欺(BEC)の組み合わせによる被害が顕著です。攻撃者グループは従来の金銭目的だけでなく、市場操作や社会的混乱を目的とした攻撃も仕掛けており、金融インフラ全体への脅威となっています。

暗号資産取引所への集中攻撃

暗号資産取引所は2025年、最も深刻な攻撃対象となっています。デジタル資産の流動性の高さと、規制環境の整備途上という特性が、攻撃者にとって格好の標的を提供しています。

北朝鮮系グループの活発化
2025年1月から10月にかけて、暗号資産取引所への攻撃は前年比300%増加しました。特にLazarusグループを中心とする北朝鮮系の攻撃グループが、新たな攻撃手法「DeFiジャッキング」を開発し、分散型金融(DeFi)プロトコルの脆弱性を突いた攻撃を展開しています。被害総額は既に1,000億円を超え、単一の攻撃で数百億円規模の被害が発生するケースも報告されています。攻撃者は盗んだ暗号資産を即座にミキシングサービスやプライバシーコインに変換し、追跡を困難にする手法を確立しています。
スマートコントラクト脆弱性の悪用
DeFiプロトコルのスマートコントラクトに存在する脆弱性を突いた攻撃が急増しています。特にフラッシュローン攻撃やリエントランシー攻撃といった高度な手法が巧妙化しており、1件あたりの被害額が平均50億円に達しています。攻撃者はコードの監査をすり抜ける巧妙な脆弱性を仕込み、プロトコルの稼働開始直後に大規模な資金流出を引き起こします。セキュリティ監査を受けたプロトコルでさえ、複雑な条件下でのみ発現する脆弱性により被害を受けるケースが相次いでいます。
インサイダー関与の増加
取引所職員が関与した内部犯行が2025年に入って20件以上発覚しており、深刻な問題となっています。秘密鍵の不正取得やホットウォレットへの不正アクセスが主な手口で、内部者だからこそ可能な高度な攻撃が実行されています。一部のケースでは、外部の犯罪組織と内部者が結託し、セキュリティ対策を回避して大規模な資金流出を実現していました。このような攻撃は、技術的な防御だけでは対処できず、人事管理やアクセス権限の厳格な管理が不可欠です。

暗号資産取引所への攻撃は、従来の金融機関への攻撃とは異なる特性を持っています。取引の不可逆性、グローバルな資金移動の容易さ、規制の地域差などが、攻撃者に有利に働いています。投資/暗号資産詐欺との複合的な手口も増加しており、総合的な対策が求められています。

オープンバンキングAPIの標的化

オープンバンキング推進により、金融機関は顧客データをAPI経由で第三者サービスと共有するようになりました。この利便性の向上は、同時に新たな攻撃経路を生み出しています。

API認証の脆弱性

OAuth 2.0やOpenID Connectといった標準的な認証プロトコルの実装上の脆弱性が、2025年に入って数多く発見されています。特にトークンの検証が不十分なケースや、リフレッシュトークンの管理が適切でないケースで、不正アクセスが発生しています。

攻撃者は正規のサービスを装ってユーザーの同意を取得し、広範な権限を持つアクセストークンを取得します。一度トークンを取得すれば、ユーザーの全口座情報へのアクセスや、場合によっては送金指示まで可能になります。2025年上半期だけで、API経由の不正アクセスにより約200億円の被害が報告されています。

多要素認証バイパスの技術と組み合わせた攻撃も確認されており、従来のパスワード認証だけでなく、API認証基盤全体のセキュリティ強化が急務となっています。

データスクレイピング攻撃

正規のAPI利用を装いながら、大量の顧客データを不正に収集するデータスクレイピング攻撃が問題化しています。攻撃者は複数のアカウントを使い分け、レート制限を回避しながら、膨大な個人情報や取引履歴を収集します。

収集されたデータは、標的型攻撃の準備や、より高度なソーシャルエンジニアリング攻撃に利用されます。特に富裕層の取引パターンや資産状況が特定されると、精巧なビジネスメール詐欺(BEC)の材料となります。金融機関は、正常なAPI利用と異常なデータアクセスパターンを識別する高度な監視体制を構築する必要があります。

AI活用型の新たな脅威

生成AIの急速な進化により、従来は高度な技術を必要とした攻撃が、誰でも実行可能になりつつあります。特に音声合成と自然言語処理の技術向上により、人間の判断を欺く攻撃の成功率が飛躍的に向上しています。

ディープフェイク音声での送金指示

2025年に入り、経営層や財務責任者の音声を精巧に模倣したディープフェイク音声による不正送金指示が、少なくとも15件報告されています。攻撃者は公開されている動画やポッドキャストから音声サンプルを収集し、わずか数分の音声から本人そっくりの合成音声を生成します。

ある大手銀行のケースでは、CEO本人の音声と信じて担当者が50億円の緊急送金を実行し、事後的に詐欺であることが判明しました。電話やビデオ会議での指示であっても、複数の確認手段を組み合わせない限り、真正性を保証できない時代になっています。

ディープフェイク詐欺の手口は日々進化しており、音声だけでなく動画も含めた多角的な偽装が可能になっています。金融機関は、人の感覚だけに頼らない検証プロセスの確立が不可欠です。

機械学習による口座乗っ取り

攻撃者は機械学習技術を使い、大規模なクレデンシャルデータベースから有効な認証情報を効率的に抽出しています。従来のブルートフォース攻撃とは異なり、ユーザーの行動パターンや一般的なパスワード選択傾向を学習したAIが、高確率で成功する認証試行を自動生成します。

さらに、ユーザーの普段の取引パターンや行動履歴をAIが分析し、異常検知システムに引っかからないタイミングと金額で不正取引を実行する手法も確認されています。これにより、従来の異常検知システムでは発見が困難な、「正常に見える不正取引」が増加しています。

アカウント乗っ取り(ATO)への対策として、金融機関側もAIを活用した高度な検知システムの導入を急いでいますが、攻撃者との技術競争は激化の一途をたどっています。


規制強化と対応状況|金融庁の新ガイドライン

金融業界におけるサイバー攻撃の深刻化を受け、金融庁は2025年4月に「金融機関等におけるサイバーセキュリティ対策に関するガイドライン」を大幅に改定し、より厳格な要件を課すようになりました。これにより、金融機関はサイバーレジリエンスの抜本的な強化を迫られています。

2025年4月施行の新基準

新ガイドラインでは、従来の予防重視の考え方から、侵害を前提とした対応力(レジリエンス)の強化へと方針が転換されています。

サイバーレジリエンス強化要件
金融機関には、重大なサイバー攻撃を受けた場合でも、24時間以内に主要業務を復旧できる体制の確立が義務付けられました。これには、年2回以上の実践的な復旧訓練の実施が含まれ、単なる机上演習ではなく、実際のシステム停止を伴うシナリオベースの訓練が求められます。また、第三者による定期的な侵入テスト(ペネトレーションテスト)も必須となり、外部の専門家が実際の攻撃者の視点から脆弱性を評価します。これらの要件を満たすためには、技術的な準備だけでなく、組織横断的な対応体制の構築と、経営層を含めた全社的な意識改革が必要です。
インシデント報告の厳格化
サイバーインシデントの報告要件が大幅に厳格化されました。重大なインシデント(顧客情報の大規模漏洩、システム停止、不正送金など)については、認知から1時間以内に金融庁への第一報が義務付けられています。軽微な事案であっても48時間以内の報告が必要となり、報告内容の正確性も厳しく求められます。虚偽報告や隠蔽が発覚した場合には、業務改善命令や業務停止命令といった厳罰が適用される可能性があります。これにより、金融機関はインシデントを迅速に検知・判断する体制と、24時間365日対応可能な報告窓口の整備が求められています。
サプライチェーンリスク管理
システム開発や運用を外部に委託している場合、委託先のセキュリティ体制についても管理責任が明確化されました。委託先企業に対する定期的なセキュリティ監査の実施が義務となり、リスク評価に基づく継続的な管理が求められます。特にクラウドサービスを利用する場合には、データの所在地、アクセス権限、インシデント時の責任分界などを明確に定義し、年次での評価と必要に応じた是正勧告を実施する必要があります。サプライチェーン攻撃のリスクが高まる中、自社だけでなくエコシステム全体でのセキュリティ水準向上が求められています。

以下の表は、新ガイドラインにおける主要な規制要件をまとめたものです。

要件カテゴリ 具体的義務 期限・頻度 違反時の措置
サイバーレジリエンス 24時間以内の復旧体制確立 2025年10月まで 業務改善命令
復旧訓練 実践的シナリオベース訓練 年2回以上 是正勧告
侵入テスト 第三者による評価 年1回以上 是正勧告
重大インシデント報告 金融庁への第一報 認知後1時間以内 業務停止命令の可能性
軽微インシデント報告 詳細報告書提出 認知後48時間以内 業務改善命令
委託先監査 セキュリティ監査実施 年1回以上 是正勧告
クラウド管理 責任分界の明確化 契約時・年次評価 業務改善命令
役員報告 経営層への定期報告 四半期ごと 経営責任の追及

国際連携の強化

サイバー攻撃は国境を越えて発生するため、国際的な協力体制の構築が不可欠です。日本の金融機関も、グローバルな情報共有と協調対応の枠組みに積極的に参加しています。

SWIFT CSPの更新

国際銀行間通信協会(SWIFT)は、2025年にCustomer Security Programme(CSP)を大幅に更新しました。新バージョンでは、ゼロトラスト原則に基づくアクセス制御、AIを活用した異常検知、量子耐性暗号への移行準備などが新たに要求事項として追加されています。

日本の金融機関は、SWIFT CSPの必須コントロールだけでなく、推奨コントロールについても実装を進めており、国際的な信頼性確保に努めています。特にクロスボーダー送金における不正送金の防止は、グローバル金融システムの信頼性の根幹に関わる問題として重視されています。

G7サイバー演習への参加

G7各国の金融当局と主要金融機関が参加する大規模なサイバー演習が、2025年6月に実施されました。この演習では、複数国にまたがる同時多発的なサイバー攻撃のシナリオが用意され、国際的な情報共有と協調対応の実効性が検証されました。

日本からは金融庁、日本銀行、メガバンク、主要証券会社が参加し、リアルタイムでの情報共有、共同での脅威分析、協調的な対応措置の実施などを訓練しました。この演習を通じて、言語の壁やタイムゾーンの違いといった実務的な課題も明らかになり、今後の改善につながっています。

業界団体の取り組み

個別の金融機関だけでは対応が困難な脅威に対しては、業界全体での協力体制が構築されています。

金融ISACの活動強化

金融ISAC(Information Sharing and Analysis Center)は、2025年に会員数を前年比40%増やし、情報共有の範囲と深度を大幅に拡大しました。リアルタイムでの脅威情報共有、攻撃指標(IoC)の自動配信、共同でのマルウェア解析などが実施されています。

特に注目すべきは、匿名化された被害情報の共有により、同様の攻撃を未然に防ぐ仕組みが確立されたことです。ある金融機関が受けた攻撃の手口が、数時間以内に他の会員機関に共有され、防御策が展開される体制が整いました。

情報共有プラットフォーム

金融庁主導で、金融機関間のセキュアな情報共有プラットフォームが2025年7月に本格稼働しました。このプラットフォームでは、攻撃の早期警戒情報、既知の脅威アクター情報、有効だった対策事例などが共有されています。

プラットフォームには、地方銀行や信用金庫なども参加しており、規模の大小に関わらず、最新の脅威情報にアクセスできる環境が整備されました。これにより、リソースが限られる中小金融機関でも、業界全体の知見を活用した防御が可能になっています。


主要インシデント事例|2025年の重大事案

2025年には、国内外で複数の重大なサイバーインシデントが発生し、金融業界全体に大きな衝撃を与えました。ここでは、特に影響が大きかった3つの事例を詳しく解説します。

メガバンクA行のランサムウェア被害

攻撃の経緯と手口

2025年3月、国内メガバンクの一つが、高度なランサムウェア攻撃を受け、一部のシステムが72時間にわたって停止する事態が発生しました。攻撃グループは、数ヶ月前から周到な準備を行っていたことが後の調査で判明しています。

攻撃の起点は、銀行が利用していたクラウドサービス事業者の従業員アカウントが侵害されたことでした。攻撃者はソーシャルエンジニアリングの手法を使い、クラウド事業者の従業員から認証情報を窃取しました。その後、正規のアクセス権限を悪用して銀行のクラウド環境に侵入し、約2ヶ月間にわたって内部偵察を実施しました。

偵察期間中、攻撃者は重要なサーバーの特定、バックアップシステムの構成把握、セキュリティツールの回避方法の研究などを行いました。そして、大型連休の直前という最も対応が困難なタイミングで、ランサムウェアを一斉展開しました。

このランサムウェアは、二重脅迫型と呼ばれる手法を採用しており、データの暗号化だけでなく、事前に大量の機密データを窃取していました。攻撃者は、身代金を支払わなければ窃取したデータを公開すると脅迫し、復号だけでなく情報漏洩の防止も交渉材料としました。

対応と復旧プロセス

A行は、インシデント検知から30分以内にインシデント対応チームを招集し、感染の拡大防止を最優先に行動しました。具体的には、感染が確認されたシステムの即座のネットワーク隔離、全社的なパスワード変更、外部からのアクセス制限などを実施しました。

並行して、複数のセキュリティベンダーとフォレンジック専門家を緊急招集し、感染経路の特定と攻撃者の痕跡分析を開始しました。幸いなことに、A行は新ガイドラインの要件を先取りする形で、隔離されたバックアップシステムを構築していたため、データの復旧自体は比較的スムーズに進みました。

しかし、単なるバックアップからの復旧ではなく、攻撃者が残した可能性のあるバックドアやマルウェアの完全な除去が必要であったため、システムの全面的な再構築に約72時間を要しました。この間、一部の取引サービスが制限され、顧客に不便をかける結果となりました。

A行は、身代金の支払いは行わないという方針を堅持し、窃取されたデータについては、該当する顧客への個別通知と信用情報機関への報告を実施しました。また、金融庁への報告も規定どおり1時間以内に完了し、透明性の高い対応が評価されました。

得られた教訓

この事例から、金融業界全体が学ぶべき教訓は多岐にわたります。まず、サプライチェーンのセキュリティは自社の防御と同等以上に重要であるということです。A行自身のセキュリティは堅固でしたが、クラウド事業者経由で侵入を許しました。

次に、攻撃者の滞留時間(Dwell Time)の長期化です。侵入から攻撃実行まで2ヶ月という期間があったにもかかわらず、その存在に気づけなかったことは、異常検知能力の限界を示しています。EDR(Endpoint Detection and Response)などの高度な検知ツールの導入が不可欠です。

また、バックアップの隔離保管の重要性が再確認されました。多くのランサムウェア攻撃では、バックアップシステムも標的とされますが、適切に隔離されたバックアップがあれば、復旧時間を大幅に短縮できます。

地方銀行B行の不正送金事案

攻撃の概要と手口

2025年7月、中堅の地方銀行であるB行において、法人顧客約100社から総額30億円が不正に送金される事案が発生しました。この攻撃は、フィッシングとマルウェアを巧妙に組み合わせた複合攻撃でした。

事案概要
2025年7月中旬、B行の法人向けインターネットバンキングシステムを利用している顧客企業100社において、不正な海外送金が実行されました。送金先は東南アジアの複数の国に分散されており、犯人グループは国際的なネットワークを持つ組織的犯罪集団であることが判明しました。不正送金の総額は約30億円に達し、地方銀行としては過去最大規模の被害となりました。被害企業の多くは中小企業であり、資金繰りに深刻な影響が出たケースもありました。
攻撃手法
攻撃は、B行を装った精巧なフィッシングメールから始まりました。メールには「セキュリティ強化のための緊急アップデート」という件名で、偽のログインページへのリンクが含まれていました。ユーザーが認証情報を入力すると、バックグラウンドでトロイの木馬型のマルウェアがダウンロードされ、端末に感染しました。このマルウェアは、ユーザーのキーボード入力を記録し、ワンタイムパスワードも含めた認証情報をすべて窃取する機能を持っていました。さらに、正規の送金画面を改ざんし、ユーザーが意図しない送金先や金額に書き換える機能も実装されていました。攻撃者は窃取した情報を使い、深夜や週末といった監視の目が緩むタイミングで不正送金を実行しました。
対策強化
B行は、この事案を受けて、多層的なセキュリティ対策を緊急導入しました。まず、高額送金には取引上限額を設定し、一定金額以上の送金は事前登録制としました。次に、AIを活用した異常検知システムを導入し、通常と異なる送金パターンや時間帯、送金先を自動検知する仕組みを構築しました。さらに、重要な取引については、電話によるコールバック確認を必須化し、複数のチャネルでの本人確認を徹底しました。顧客企業に対しても、セキュリティソフトウェアの導入支援や、従業員向けのセキュリティ教育を無償で提供するなど、エコシステム全体でのセキュリティ向上に取り組んでいます。

この事例は、地方銀行であっても高度な攻撃の標的となることを示しています。攻撃者は、「大手よりもセキュリティが手薄」と判断し、地方金融機関を意図的に狙う傾向が強まっています。

フィンテック企業C社の情報漏洩

クラウド設定ミスが原因

2025年9月、急成長中のフィンテックスタートアップC社において、クラウドストレージの設定ミスにより、顧客情報約50万件がインターネット上に露出していたことが判明しました。この事案は、技術的な脆弱性ではなく、基本的な設定管理の不備が原因でした。

C社は、新サービスの開発を急ぐあまり、クラウドストレージのアクセス権限設定を「パブリック(全公開)」のままにしてしまいました。開発段階では一時的な設定として許容されることもありますが、本番環境へのデプロイ時にこの設定を変更し忘れたことが根本原因でした。

外部のセキュリティ研究者がこの露出を発見し、C社に報告したことで事態が明らかになりましたが、データがいつから露出していたか、第三者がアクセスしたかどうかは完全には特定できませんでした。

個人情報50万件が流出

露出したデータには、氏名、メールアドレス、電話番号、生年月日、一部の取引履歴などが含まれていました。クレジットカード番号や銀行口座番号といった決済情報は暗号化されており、直接的な金銭被害は報告されていませんが、露出した情報を使った標的型フィッシング攻撃のリスクが高まっています。

C社は、全顧客への個別通知、信用情報機関への報告、金融庁への届出、無償での信用情報モニタリングサービスの提供などを実施しました。また、第三者による徹底的なセキュリティ監査を受け、同様の設定ミスが他にないことを確認しました。

この事例は、クラウド設定不備が依然として深刻な脅威であることを示しています。特に成長期のフィンテック企業では、スピードを重視するあまり、セキュリティの基本が疎かになるリスクがあります。

以下の表は、2025年に発生した主要なインシデントの統計をまとめたものです。

インシデント種別 発生件数(2025年1-10月) 前年比 平均被害額 主な標的
ランサムウェア攻撃 28件 +75% 12億円 全金融機関
不正送金 156件 +120% 1.8億円 地方銀行・信金
情報漏洩 43件 +35% 対応コスト5億円 フィンテック
DDoS攻撃 320件 +90% 機会損失3億円 オンライン証券
ビジネスメール詐欺 89件 +45% 4.2億円 全業態
API悪用 67件 +200% 2.1億円 オープンバンキング
暗号資産窃取 34件 +300% 29億円 暗号資産取引所
内部不正 21件 +15% 8億円 全業態

技術的対策の最新動向|先進的な防御策

2025年の脅威環境に対応するため、金融機関は最新のセキュリティ技術を積極的に導入しています。従来の境界防御モデルからゼロトラスト原則への移行、AIを活用した高度な検知、そして将来の量子コンピュータ脅威への備えなど、多層的な技術投資が進んでいます。

次世代認証技術の導入

パスワードだけに依存した認証方式の限界が明確になる中、金融機関は次世代の認証技術への移行を加速しています。

パスワードレス認証の拡大

FIDO2規格に基づくパスワードレス認証の導入が、2025年に入って急速に進んでいます。生体認証(指紋、顔認証)やセキュリティキーを使った認証により、フィッシングやパスワード窃取のリスクを根本的に排除できます。

メガバンクのうち2行が、個人向けインターネットバンキングでパスワードレス認証を標準オプションとして提供開始しました。利用率は導入から6ヶ月で約40%に達し、ユーザーからも「パスワードを覚える必要がなく、より安全」と好評です。

法人向けサービスでも、セキュリティキーを使った二要素認証が普及しています。物理的なキーを持っていなければログインできないため、リモートからの不正アクセスを効果的に防ぐことができます。

生体認証の高度化

指紋認証や顔認証といった基本的な生体認証に加え、より偽装が困難な認証方式の研究開発が進んでいます。静脈パターン認証、虹彩認証、心拍パターン認証などが実用化されつつあります。

これらの認証方式は、単独で使うのではなく、複数の生体情報を組み合わせるマルチモーダル生体認証として実装されることが多くなっています。たとえば、顔認証と声紋認証を組み合わせることで、ディープフェイクによる偽装を検知できる可能性が高まります。

行動的生体認証の活用

ユーザーの行動パターンを継続的に分析し、本人性を確認する行動的生体認証(Behavioral Biometrics)も注目を集めています。キーストロークのタイミング、マウスの動かし方、画面をスクロールする速度など、個人に固有の行動特性を機械学習で学習します。

ログイン時だけでなく、取引実行時にも継続的に本人性を確認できるため、セッションハイジャックやアカウント乗っ取り後の不正操作を検知できます。ユーザーには追加の手間を求めず、バックグラウンドで動作するため、利便性を損なわないのも利点です。

AIセキュリティの実装

人工知能技術は、攻撃者だけでなく防御側にとっても強力な武器となっています。金融機関は、AIを活用した多層的な防御体制を構築しています。

不正取引検知AI
機械学習モデルを使い、膨大な取引データをリアルタイムで分析する不正取引検知システムが、2025年には多くの金融機関で稼働しています。通常と異なるパターンの取引を0.1秒以内に検知し、自動的にアラートを発報したり、追加の認証を要求したりします。従来のルールベースの検知システムでは誤検知率が高く、正常な取引を止めてしまうことがありましたが、最新のAIシステムでは誤検知率を1%以下に抑えつつ、不正取引の検知率を95%以上に高めることに成功しています。AIは日々進化し、新しい不正パターンを自動的に学習するため、未知の攻撃手法にも対応可能です。
なりすまし検知
ユーザーの行動パターンを詳細に分析することで、アカウントの正当な所有者以外が操作していることを検知するシステムです。キーストロークの速度やリズム、マウスの動かし方、画面の見方、取引の時間帯や頻度など、数百の特徴量をAIが学習します。正規のユーザーと異なる行動パターンが検出されると、追加の本人確認を求めたり、取引を一時停止したりします。さらに、ディープフェイク音声や動画を見破るための画像・音声解析AIも実装されており、ビデオ会議での本人確認においても、合成された映像を高精度で検知できます。
予測型防御
攻撃を受けてから対応するのではなく、攻撃の予兆を事前に検知して先回りで防御する予測型セキュリティが実現しつつあります。ダークウェブの監視により、自社を標的とした攻撃計画や、窃取された認証情報の売買を早期に発見します。外部の脅威インテリジェンスサービスと連携し、世界中で発生している最新の攻撃手法をリアルタイムで把握します。また、ソーシャルメディアの分析により、自社に対する不満や批判が高まっているタイミングを検知し、内部不正やレピュテーションリスクに備えます。これらの情報を統合的に分析することで、攻撃が実行される前に防御態勢を強化できます。

脅威インテリジェンスを活用した予測型防御は、今後ますます重要性を増すと考えられています。

量子暗号通信の試験導入

量子コンピュータが実用化されると、現在の暗号技術の多くが破られる可能性があります。金融機関は、この「Qデー(量子コンピュータが既存暗号を破る日)」に備え、量子耐性のある暗号技術への移行を進めています。

量子鍵配送(QKD)

量子力学の原理を利用した量子鍵配送(Quantum Key Distribution: QKD)の実証実験が、複数の金融機関で行われています。QKDでは、盗聴が試みられると必ず検知できるという物理法則に基づき、理論的に絶対安全な鍵配送が可能になります。

東京-大阪間で、金融機関のデータセンター間を結ぶ量子暗号通信の試験運用が2025年6月から開始されました。まだ商用化には課題がありますが、重要なシステム間の通信から順次、量子暗号への移行が検討されています。

耐量子暗号への移行

量子コンピュータでも解読が困難な「耐量子暗号」(Post-Quantum Cryptography: PQC)への移行も進んでいます。米国国立標準技術研究所(NIST)が2024年に標準化した耐量子暗号アルゴリズムを、金融システムに実装するプロジェクトが複数立ち上がっています。

現在使用されているRSA暗号やECC(楕円曲線暗号)は、量子コンピュータによって破られる可能性があるため、システムの更新サイクルに合わせて、徐々に耐量子暗号への置き換えが進められます。特に長期保存されるデータ(たとえば10年以上保管される契約書や取引記録)については、将来の量子コンピュータで復号されるリスクを考慮し、早期の暗号化強化が推奨されています。

以下の表は、主要な技術対策と投資優先順位を示したものです。

技術対策カテゴリ 具体的ソリューション 導入難易度 効果 投資優先度 2025年導入率
次世代認証 FIDO2パスワードレス 最優先 65%
生体認証 マルチモーダル生体認証 35%
行動的生体認証 継続的本人確認 45%
AI検知 不正取引検知AI 極めて高 最優先 78%
AI検知 なりすまし検知AI 52%
AI防御 予測型防御システム 極めて高 極めて高 28%
ゼロトラスト ネットワークセグメンテーション 最優先 82%
ゼロトラスト マイクロセグメンテーション 極めて高 48%
EDR/XDR 統合脅威検知 極めて高 最優先 88%
量子暗号 QKD試験導入 極めて高 将来的に極めて高 5%
耐量子暗号 PQCアルゴリズム実装 将来的に極めて高 12%

今後の展望と提言|2026年に向けた準備

2025年の脅威動向を踏まえ、2026年に向けて金融機関が取り組むべき課題は明確になっています。技術的な対策だけでなく、組織体制の整備、人材育成、そして業界全体での協力が不可欠です。

予測される脅威

量子コンピュータの脅威

量子コンピュータの実用化は、暗号技術の根本的な転換点となります。専門家の予測では、2030年代前半には、現在の公開鍵暗号を破ることができる量子コンピュータが登場する可能性があります。

特に問題となるのは、「Store Now, Decrypt Later」(今暗号化通信を盗聴しておき、将来の量子コンピュータで復号する)という攻撃シナリオです。現在やり取りされている暗号化データが、将来解読されるリスクがあります。

金融機関は、データの重要度と保管期間を考慮し、長期的な機密性が必要なデータについては、早期に耐量子暗号への移行を検討する必要があります。

サプライチェーン攻撃の増加

金融機関自身のセキュリティが強化される中、攻撃者は脆弱な委託先やサプライヤーを経由した攻撃にシフトしています。2026年には、サプライチェーン攻撃がさらに増加すると予測されています。

特に、クラウドサービスプロバイダー、決済ネットワーク、システム開発会社、コールセンター業務委託先などが、攻撃の標的となるでしょう。金融機関は、自社だけでなく、取引先全体のセキュリティ水準を底上げする必要があります。

標的型攻撃(APT)グループは、長期間にわたって複数の組織に潜伏し、最も効果的なタイミングで攻撃を実行する能力を持っています。

推奨される対策

ゼロトラスト化の加速
従来の境界防御モデルから、ゼロトラストアーキテクチャへの完全移行が急務です。2026年末までに、すべての重要システムをゼロトラストモデルで保護することが推奨されます。具体的には、ネットワークの内部・外部を問わず、すべてのアクセスを検証し、最小権限の原則に基づいてアクセスを許可します。マイクロセグメンテーションにより、システム間の通信も厳格に制御し、横展開による被害拡大を防ぎます。また、継続的な監視と動的なポリシー適用により、異常が検知された時点で即座にアクセスを遮断できる体制を構築します。ゼロトラストは一度実装すれば終わりではなく、継続的な改善と最適化が必要な取り組みです。
レジリエンス強化
サイバー攻撃を完全に防ぐことは不可能であるという前提に立ち、攻撃を受けた後の迅速な復旧と事業継続を可能にする体制の構築が重要です。これには、自動化されたバックアップシステム、代替システムへの即座の切り替え、手作業での業務継続手順の整備などが含まれます。特に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)が導入された場合に備え、新しい決済基盤への対応準備も必要です。また、サイバー保険の活用により、金銭的な被害を軽減することも検討すべきです。レジリエンスの強化は、技術的な対策だけでなく、組織文化として「失敗からの回復力」を重視する姿勢の確立も含まれます。
人材育成の強化
高度化するサイバー脅威に対抗するためには、専門的なセキュリティ人材の確保と育成が不可欠です。業界全体で、セキュリティ人材を2026年末までに現在の2倍に増やすという目標が設定されています。そのために、大学や専門学校との産学連携プログラムの拡充、既存のIT人材へのセキュリティ研修、海外人材の積極的な採用などが進められています。また、若手人材を対象とした実践的なトレーニングプログラム、ホワイトハッカー育成コース、セキュリティ競技会(CTF)の開催なども効果的です。さらに、セキュリティ人材のキャリアパスを明確にし、待遇を改善することで、優秀な人材の定着を図ることも重要です。

以下の表は、国際的なセキュリティ基準との比較を示しています。

基準/規制 発行機関 適用範囲 日本の金融機関の対応状況 主要要件
NIST CSF 米国NIST 任意(実質的に国際標準) 92%が参照 識別・防御・検知・対応・復旧
ISO 27001 ISO 任意(認証取得可能) 78%が認証取得 情報セキュリティマネジメント
PCI DSS PCI SSC カード決済事業者必須 100%(該当機関) カード情報保護
SWIFT CSP SWIFT SWIFT利用機関必須 100%(該当機関) 金融メッセージング保護
GDPR EU EU顧客を持つ企業 85%(該当機関) 個人情報保護
金融庁ガイドライン 金融庁 国内金融機関必須 100% サイバーレジリエンス
SOC 2 AICPA 任意(信頼性証明) 45%が取得 セキュリティ・可用性等
FFIEC CAT 米国金融機関審査協議会 米国金融機関 20%が参照 リスク評価ツール

よくある質問

Q: 2025年の金融業界で最も警戒すべき脅威は何ですか?
A: 最も警戒すべき脅威は複数ありますが、特に以下の5つが重要です。①暗号資産取引所への大規模攻撃(被害額が巨大化)、②AIを使った音声詐欺(経営層へのなりすまし)、③オープンバンキングAPI経由の不正アクセス、④量子コンピュータによる暗号解読の現実化、⑤内部不正の巧妙化、です。従来の対策では防げない新型攻撃が増加しているため、ゼロトラストアーキテクチャとAI防御システムの導入が急務となっています。また、これらの脅威は単独ではなく、組み合わせて使われることが多いため、多層的な防御体制が必要です。
Q: 金融庁の新ガイドラインへの対応で最も苦労している点は何ですか?
A: 多くの金融機関が苦労している点として、①24時間以内復旧の実現(技術基盤と体制の整備が必要)、②サプライチェーン全体の管理(取引先が多数存在)、③1時間以内の報告義務(迅速な判断体制の構築)、④年2回の復旧訓練実施(通常業務への影響)、⑤第三者監査の実施費用(年間数千万円規模)、が挙げられます。これらの課題に対しては、段階的な対応計画の策定、同業他社との情報共有による効率化、業界団体を通じた共同での取り組み、などにより、実現可能性を高めることが推奨されます。完璧を目指すよりも、継続的な改善を重視する姿勢が重要です。
Q: 地方銀行や信用金庫でも大手と同等の高度な対策は必要ですか?
A: はい、絶対に必要です。むしろ攻撃者は「地方金融機関はセキュリティが手薄」と認識しており、意図的に標的にする傾向があります。実際、2025年の不正送金事案の約60%が地方銀行・信用金庫で発生しています。ただし、単独での対策実施は困難なため、①共同センターの活用による効率化、②金融ISACへの参加による情報共有、③大手セキュリティベンダーのマネージドサービス利用、④地方銀行協会での共同対策プロジェクト、⑤フィンテック企業との技術連携、などにより、コストを抑えながら対策を強化することが可能です。規模が小さくても、基本的なセキュリティ要件は変わりません。
Q: 生成AIは金融セキュリティにとって脅威ですか、それとも味方ですか?
A: 生成AIは両面性を持っています。脅威としては、①フィッシングメールの巧妙化と大量生成、②経営層の音声偽造による不正送金指示、③自動化された攻撃コードの生成、などがあります。一方、味方としては、①異常検知精度の飛躍的向上、②インシデント対応の自動化、③将来の脅威予測、などに活用できます。重要なのは、攻撃者より先に、より高度なAIを防御側が活用することです。2025年は「AI軍拡競争」の年となっており、AI技術への投資を怠ると、致命的な後れを取る可能性があります。ただし、AIへの過度な依存は危険であり、最終的な判断は必ず人間が行うという原則を守る必要があります。AIは強力な補助ツールですが、完璧ではありません。

まとめ

2025年の金融業界は、かつてない規模と複雑さのサイバー脅威に直面しています。暗号資産取引所への攻撃激化、オープンバンキングAPIの脆弱性悪用、AI技術を駆使した巧妙な詐欺など、攻撃手法は日々進化を続けています。

金融庁の新ガイドライン施行により、サイバーレジリエンスの強化が義務付けられましたが、規制への対応だけでは不十分です。ゼロトラストアーキテクチャへの移行、AI活用による高度な検知・防御、量子時代を見据えた暗号技術の強化など、先進的な技術対策への投資が不可欠です。

同時に、セキュリティ人材の育成、業界全体での情報共有、サプライチェーン全体のセキュリティ向上など、技術だけでは解決できない課題にも取り組む必要があります。

デジタル金融の発展とセキュリティの両立という難題に、業界全体が協力して立ち向かうことが、今求められています。2026年に向けて、継続的な改善と進化を続けることが、金融機関の競争力と顧客の信頼を守る鍵となるでしょう。


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【重要なお知らせ】

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する具体的な助言ではありません
  • 実際にサイバー攻撃の被害に遭われた場合は、警察(#9110)、サイバー犯罪相談窓口、または金融庁などの公的機関に速やかにご相談ください
  • 法的な対応が必要な場合は、サイバーセキュリティ法務に詳しい弁護士などの専門家にご相談ください
  • 記載内容は2025年11月時点の情報であり、攻撃手法や脅威は日々進化している可能性があります
  • 具体的な対策の実施にあたっては、自組織の状況に応じた専門家の評価とアドバイスを受けることをお勧めします

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。