インシデント時の広報対応ガイドライン

サイバーインシデント発生時の広報対応は、企業の信頼とブランド価値を守る最後の砦です。技術的な対応が完璧でも、広報対応の失敗により社会的信用を失った企業は数多く存在します。SNS時代において、情報は瞬時に拡散し、初動の遅れや不適切な対応は致命的なダメージとなります。2024年の調査では、適切な広報対応を行った企業の株価回復期間は、不適切な対応企業の半分以下でした。本記事では、インシデント時の広報の基本原則から、初期対応、プレスリリース作成、記者会見の実施、SNS対応まで、信頼回復への道筋を実践的に解説します。「危機を機会に変える」広報戦略を身につけましょう。

広報対応の基本原則|信頼回復への道筋

サイバーインシデントにおける広報対応は、単なる情報発信ではなく、失われた信頼を取り戻すための戦略的コミュニケーションです。マルウェア感染が発生した際、技術的な復旧と並行して、広報対応を適切に実施することが企業の存続を左右します。

迅速性・透明性・誠実性

危機管理広報の三原則は、迅速性、透明性、誠実性です。この3つを欠いた広報は、必ず失敗します。

迅速性の重要性
情報の真空状態は憶測を生み、SNSで誤情報が拡散します。「調査中」という情報でも良いので、インシデントを認識してから24時間以内に第一報を出すことが信頼維持の鍵です。この24時間は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、この期間内に適切な情報発信ができるかどうかで、その後の展開が大きく変わります。遅れれば遅れるほど、憶測や誤情報が独り歩きし、後から訂正することは極めて困難になります。リークやSNS投稿により、企業が発表する前に情報が漏れることもあるため、情報統制と迅速な公式発表の両立が求められます。
透明性の確保
都合の悪い情報も含めて開示することが、長期的な信頼につながります。隠蔽や過小報告は後で必ず発覚し、より大きなダメージとなります。「知らなかった」「気づかなかった」という弁解は通用しません。ただし、捜査機関からの要請により開示できない情報、二次被害につながる技術的詳細(脆弱性の具体的内容、攻撃手法の詳細等)、個人のプライバシーに関わる情報は除外します。開示できない理由も併せて説明することで、透明性の印象を維持します。「調査中で現時点では不明」という正直な説明は、憶測で答えるより遥かに誠実です。
誠実な対応
被害者への謝罪、原因究明への決意、再発防止への取り組みを真摯に伝えます。言い訳、責任転嫁、他者への批判は厳禁です。「システムベンダーの責任」「従業員のミス」等の責任転嫁は、企業の管理責任放棄と受け取られます。最終的な責任は経営者にあることを明確にし、トップが前面に立って謝罪と説明を行うことが重要です。形式的な謝罪ではなく、被害者の立場に立った共感的なメッセージが求められます。ランサムウェア攻撃による顧客データ流出の場合、「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」だけでなく、「お客様の大切な情報をお預かりする責任を果たせず、深くお詫び申し上げます」という具体的で心のこもった表現を使用します。

ステークホルダー別対応

インシデントの影響を受けるステークホルダーは多岐にわたり、それぞれに適した対応が必要です。

顧客・取引先への対応

最も優先すべきステークホルダーは、直接被害を受ける可能性がある顧客と取引先です。

個別通知の優先
影響を受ける可能性がある顧客・取引先には、マスメディアへの発表前に個別通知することが原則です。メール、郵送、電話等の方法で、具体的な影響範囲と取るべき対策を伝えます。データ漏洩の場合、漏洩した情報の項目、二次被害のリスク、パスワード変更等の推奨対策を明確に記載します。数が多い場合でも、可能な限り個別対応を優先し、「一斉配信」の印象を避けます。
専用窓口の設置
問い合わせ対応のため、専用のコールセンターやメール窓口を開設します。通常の問い合わせ窓口では対応しきれないため、インシデント専用の体制を構築します。想定質問とその回答をまとめたFAQを作成し、オペレーターが一貫した回答ができるようにします。営業時間外や休日の対応も考慮し、24時間体制が望ましい場合もあります。問い合わせ件数、内容の傾向を記録し、追加説明の必要性を判断します。
補償・支援策の提示
被害の程度に応じて、具体的な補償策を提示します。クレジットカード情報漏洩の場合はカード再発行費用の負担、信用情報監視サービスの無償提供、見舞金の支給等が考えられます。単なる謝罪だけでなく、具体的な行動で誠意を示すことが重要です。ただし、法的責任を全面的に認めることにならないよう、法務部門と連携して表現を慎重に選びます。

従業員・株主への対応

内部ステークホルダーへの適切な情報共有も、企業の一体感を維持するために重要です。

従業員への迅速な通知
外部への発表前または同時に、従業員に状況を説明します。従業員が外部からの問い合わせに対応する可能性があるため、基本的な情報と対応方針を共有します。社内イントラネット、全社メール、緊急集会等の方法で伝えます。特に、顧客対応部門(コールセンター、営業、店舗スタッフ等)には詳細な説明とQ&Aを提供します。従業員が第二の広報担当として機能するよう、正確な情報を提供します。
株主への説明責任
上場企業の場合、株主は重要なステークホルダーです。適時開示ルールに従った情報開示に加えて、定時株主総会や臨時説明会で詳細を説明します。株価への影響、業績予想への影響を可能な範囲で開示します。経営責任の所在、再発防止策、コーポレートガバナンス体制の強化等を明確にし、株主の信頼回復に努めます。
内部情報の統制
一方で、従業員からの情報漏洩を防ぐための情報統制も必要です。SNSへの投稿禁止、外部への口外禁止を徹底します。ただし、過度な箝口令は不信感を生むため、バランスが重要です。「会社の公式見解以外は発信しない」という原則を明確にし、理由(誤情報拡散の防止、法的リスク回避)を説明します。

メディア・社会への対応

マスメディアと一般社会に対しては、公平かつ包括的な情報発信が求められます。

メディアへの公平な情報提供
特定のメディアを優遇せず、全てのメディアに同時に情報を提供します。プレスリリースの同時配信、記者会見への平等な参加機会等が基本です。ただし、業界専門誌や影響力の大きいメディアには、背景説明のための個別ブリーフィングを実施することもあります。
社会的責任の表明
企業は社会の一員として、インシデントが社会に与える影響を最小化する責任があります。特に、重要インフラ事業者や、多数の顧客を抱える企業は、社会的影響を考慮した広報が必要です。単なる企業防衛ではなく、「社会全体のセキュリティ向上に貢献する」という姿勢を示すことで、批判を和らげることができます。

タイミングの見極め

広報のタイミングは、信頼回復の成否を左右する重要な要素です。

法的要件との調整

法的な報告義務と広報のタイミングを調整します。

法定期限の遵守
個人情報保護法、業界規制、海外規制等で定められた報告期限を必ず守ります。これらの法的要件については、法規制とコンプライアンス対応で詳述されています。法定期限が広報のタイミングの最低ラインとなります。法的報告と同時、または直後に一般向け広報を行うことが一般的です。
捜査への影響配慮
警察や関係当局が捜査を開始している場合、捜査に支障をきたす情報は開示を控えます。攻撃者の特定につながる情報、攻撃手法の詳細、脆弱性の具体的内容等です。ただし、「捜査中のため詳細は控える」と説明することで、隠蔽ではないことを明確にします。捜査当局と連携し、開示可能な範囲を確認します。
株式市場への配慮
上場企業の場合、市場が開いている時間帯の発表は株価に直接影響します。重大な情報は、取引時間終了後や取引開始前に発表することが一般的です。ただし、緊急性が高い場合や、情報漏洩のリスクがある場合は、取引時間中でも発表します。証券取引所とも事前に連絡を取り、適時開示のタイミングを調整します。

調査進捗との兼ね合い

完全な調査結果を待つべきか、暫定情報で発表すべきかのバランスを取ります。

暫定発表の重要性
完全な調査には数週間から数ヶ月かかる場合があります。それまで沈黙することは、隠蔽の印象を与えます。「現時点で判明している事実」と「調査中の事項」を明確に区別して発表します。「影響を受けた可能性がある顧客数:最大10万人(調査中)」というように、最悪ケースを前提とした暫定発表が安全です。
段階的な情報開示
第一報(24時間以内)、中間報告(1週間後)、最終報告(1ヶ月後)というように、段階的に情報を開示します。進捗がない場合でも、定期的に「引き続き調査中」と報告することで、放置していない姿勢を示します。新たな事実が判明するたびに追加発表を行い、情報をアップデートします。
訂正の覚悟
暫定発表の内容が後に訂正される可能性を受け入れます。「現時点の情報では」「暫定的に」という表現を使用し、確定情報ではないことを明示します。訂正が必要になった場合は、速やかに訂正し、理由を説明します。初期の過小評価より、後の下方修正の方がダメージは小さいです。

初期対応(ゴールデンタイム)|最初の24時間

インシデント発生から24時間は、その後の展開を決定づける「ゴールデンタイム」です。この期間の対応が、信頼回復の成否を左右します。

広報体制の確立

初期対応と並行して、広報体制を迅速に立ち上げます。

対策本部との連携
技術チーム、法務、経営層との情報共有ルートを確立します。広報担当者を対策本部に常駐させ、リアルタイムで状況を把握します。技術的な詳細、法的リスク、経営判断を総合的に理解した上で、広報戦略を立案します。対策本部からの情報は、広報部門で一旦整理し、一般にわかりやすい言葉に翻訳します。専門用語を避け、顧客視点での説明を心がけます。
スポークスパーソンの選定
対外的な窓口となるスポークスパーソン(報道官)を選定します。技術に詳しく、メディア対応経験があり、信頼感を与えられる役員クラスが理想的です。CIO、CISO、広報担当役員、場合によってはCEO自身が務めます。事前にメディアトレーニングを受けていることが望ましいですが、緊急の場合は簡易トレーニングを実施します。複数のスポークスパーソンを用意し、役割分担(技術説明担当、経営方針説明担当等)を明確にします。
想定問答集(Q&A)の準備
メディアや顧客から想定される質問と、その回答を事前に準備します。最低50-100個の質問を用意します。カテゴリ別に整理:①事実確認(いつ、どこで、何が、どのように)、②影響範囲(誰が、どれだけ)、③原因(なぜ)、④対応(何をしているか、今後の予定)、⑤責任(誰の責任か、補償は)、⑥再発防止(どう防ぐか)。回答は統一見解として、全ての対応者が同じ内容を答えられるようにします。「答えられない」質問についても、その理由(捜査中、プライバシー、調査中等)を準備します。

広報体制の役割分担

役割 担当者 主な責務 必要スキル
対策本部長 CEO/CIO 全体統括、最終意思決定 リーダーシップ、危機管理経験
広報責任者 広報部長 広報戦略立案、メディア対応 広報経験、メディアネットワーク
スポークスパーソン 役員 記者会見、メディア取材対応 プレゼン能力、技術理解
技術説明担当 CISO/技術責任者 技術的詳細の説明 技術知識、平易な説明能力
法務担当 法務部長/顧問弁護士 法的リスク評価、表現チェック 法律知識、危機管理法務
顧客対応担当 カスタマーサポート責任者 問い合わせ対応、FAQ作成 顧客対応経験、共感力
SNS監視担当 デジタルマーケティング SNS監視、炎上対応 SNS運用経験、危機察知能力

第一報の作成

最初の公式発表は、その後の全ての広報の基礎となります。

含めるべき要素

第一報には、以下の要素を必ず含めます。

インシデントの事実
何が起こったのかを簡潔に記載します。「当社のシステムが不正アクセスを受けた」「ランサムウェアによる攻撃を受けた」等、事実のみを述べます。憶測や推測は避けます。発生日時(または認知日時)も記載します。
影響範囲(暫定)
現時点で判明している影響範囲を記載します。「最大で○○件の個人情報が流出した可能性」というように、最大値を示します。確定していない場合は、「調査中」と明記します。影響を受ける可能性があるサービス、顧客の範囲も記載します。
実施中の対応
現在取っている対策を具体的に記載します。「システムを隔離し、被害拡大を防止」「外部専門家による調査を開始」「警察に相談」等です。何もしていない印象を与えないよう、実施中の全ての対策を列挙します。
今後の予定
調査の完了予定、次回報告の時期を示します。「詳細が判明次第、改めてご報告いたします」だけでなく、「○月○日までに中間報告を行う予定です」と具体的な日付を示すことが望ましいです。
問い合わせ先
顧客やメディアからの問い合わせ窓口を明記します。専用電話番号、メールアドレス、Webサイトの特設ページURLを記載します。営業時間も明記し、24時間対応の場合はその旨を強調します。
謝罪
影響を受けた方々への謝罪を冒頭または末尾に記載します。「お客様に多大なご心配とご迷惑をおかけしておりますことを、深くお詫び申し上げます」というように、具体的で誠実な表現を使用します。

避けるべき表現

第一報で使用してはいけない表現があります。

断定的な表現
「流出は絶対にない」「完全に復旧した」「二度と起こらない」等の断定表現は避けます。後で覆される可能性があり、信頼を失います。「現時点では確認されていない」「復旧作業を完了した」「再発防止に全力で取り組む」というように、留保を含む表現を使用します。
責任転嫁の表現
「ベンダーの責任」「従業員のミス」「攻撃者が悪い」等の責任転嫁は厳禁です。最終的な管理責任は企業にあります。「システムベンダーと協力して調査中」「従業員教育を強化する」という、前向きな表現を使用します。
過小評価の表現
「大したことはない」「影響は限定的」「心配ない」等の過小評価は、後で拡大が判明した際に大きな批判を受けます。最悪ケースを前提とした説明が安全です。
専門用語の多用
「マルウェアによるインシデント」「APT攻撃」「フォレンジック調査」等の専門用語は、一般には理解されません。「コンピュータウイルスによる被害」「専門家による詳細調査」というように、平易な言葉で説明します。やむを得ず専門用語を使う場合は、カッコ書きで説明を付記します。

情報収集と整理

正確で一貫した情報発信のため、情報を体系的に整理します。

ファクトブックの作成

全ての事実情報を一元管理するファクトブック(事実記録集)を作成します。

時系列の整理
インシデントの発生から現在までの全ての出来事を時系列で整理します。「○月○日○時:不審なアクセスを検知」「○時:対策本部設置」「○時:外部専門家に連絡」等、分単位で記録します。この時系列は、記者会見や報告書の基礎資料となります。後から追加・修正が必要になる場合もあるため、バージョン管理を行います。
影響範囲の把握
影響を受けたシステム、データ、顧客の範囲を詳細に記録します。システム構成図、データフロー図等の図表も用意します。技術チームから定期的に最新情報を入手し、更新します。「確定情報」と「暫定情報」を明確に区別します。
対応履歴の記録
実施した全ての対策とその結果を記録します。「システム隔離により拡散防止に成功」「バックアップから一部データを復旧」等、対応の進捗を可視化します。失敗した対策も含めて記録し、誠実な説明の基礎とします。
ステークホルダーリストの作成
影響を受ける、または情報提供が必要なステークホルダーをリストアップします。顧客、取引先、従業員、株主、規制当局、メディア等です。各ステークホルダーへの連絡方法、担当者、連絡済み/未連絡のステータスを管理します。

タイムラインの可視化

情報をビジュアル化することで、理解を促進します。

インシデントタイムライン
発生から現在までの主要な出来事を、時間軸上に配置した図を作成します。記者会見資料や、Webサイトでの説明に使用します。一目で全体像を把握できるため、複雑な経緯の説明に有効です。
対応アクションリスト
実施した対策、実施中の対策、今後の予定を一覧表にします。チェックリスト形式で進捗を管理し、対外的にも「これだけの対策を講じている」ことをアピールします。

プレスリリースの作成|効果的な情報発信

プレスリリースは、公式な情報発信の基本ツールです。メディアだけでなく、顧客や取引先も閲覧するため、正確で分かりやすい内容が求められます。

構成と内容

効果的なプレスリリースには、一定の型があります。

タイトルの付け方

タイトルで内容が明確に伝わるようにします。

事実を端的に表現
「当社システムへの不正アクセスに関するお詫びとお知らせ」「個人情報漏洩に関する調査結果のご報告」等、内容が一目で分かるタイトルをつけます。「お知らせ」だけでは内容が不明瞭です。「不正アクセス」「個人情報漏洩」「システム障害」等のキーワードを含めます。
段階に応じた表現
第一報は「~に関するお詫びとお知らせ」、中間報告は「~に関する調査状況のご報告」、最終報告は「~に関する調査結果と再発防止策のご報告」というように、段階を明示します。これにより、読者は報告の位置付けを理解できます。
日付の明記
タイトルまたはサブタイトルに、発表日を明記します。「2025年○月○日 第一報」「2025年○月○日 最終報告」というように、時系列が分かるようにします。

本文の組み立て

プレスリリース本文は、逆ピラミッド型で構成します。

リード文(第1段落)
最も重要な情報を最初に記載します。いつ、誰が、何を、どうした、という5W1Hを簡潔にまとめます。「株式会社○○(本社:東京都、代表取締役:○○、以下「当社」)は、○月○日、当社が運営する○○サービスにおいて不正アクセスを受け、最大○万件の個人情報が流出した可能性があることが判明いたしました。お客様に多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」というように、概要と謝罪をまとめます。
詳細説明(第2-5段落)
事実関係の詳細を記載します。①発覚の経緯、②影響範囲、③原因(判明している範囲)、④実施した対応、⑤今後の対応予定、の順で説明します。箇条書きや見出しを使用し、読みやすく構成します。数字は具体的に示し、「多数」「大量」等の曖昧な表現は避けます。
再発防止策(最終段落の前)
具体的な再発防止策を記載します。「システムのセキュリティ強化」だけでは不十分で、「多要素認証の導入」「侵入検知システムの強化」「従業員教育の徹底」等、具体的な施策を列挙します。実施時期も明記します(「○月までに完了予定」)。
結びの言葉(最終段落)
改めて謝罪し、信頼回復への決意を述べます。「この度は、お客様に多大なご迷惑とご心配をおかけし、誠に申し訳ございません。当社は、お客様からの信頼回復に向け、全社一丸となって再発防止に取り組んでまいります」というように、前向きなメッセージで締めくくります。

問い合わせ先の明記

プレスリリースの末尾には、必ず問い合わせ先を記載します。

顧客向け窓口
一般顧客からの問い合わせ窓口として、専用電話番号、メールアドレス、Webサイトの特設ページURLを記載します。受付時間も明記します。「○○に関するお問い合わせ窓口」という明確な見出しをつけます。
メディア向け窓口
報道機関からの問い合わせ窓口として、広報部門の連絡先を記載します。担当者名、電話番号、メールアドレスを明記します。メディアは締め切りがあるため、迅速な対応ができる体制を整えます。

段階別リリース戦略

インシデント対応の進捗に応じて、複数回のプレスリリースを発行します。

第一報(認識時)
インシデントを認識してから24時間以内に発行します。内容:①インシデントの発生事実、②現時点で判明している影響範囲(暫定)、③調査開始の事実、④問い合わせ窓口。この段階では詳細が不明でも、「調査中」として発表します。A4用紙1枚以内に収め、簡潔にします。憶測や推測は一切含めず、確認された事実のみを記載します。「○○の可能性があります」という留保を付けた表現を使用します。
中間報告(調査中)
第一報から1週間程度を目安に、調査の進捗を報告します。内容:①新たに判明した事実、②影響範囲の更新、③実施した対策、④今後の調査・対応予定。進捗がない場合でも、「引き続き調査中」として定期報告します。必要に応じて複数回発行します。長期化する場合は、週次または隔週で進捗報告を行い、「放置していない」ことを示します。
最終報告(収束後)
調査が完了し、全容が判明した段階で発行します。内容:①インシデントの全容、②確定した影響範囲、③原因の詳細、④実施した全ての対策、⑤再発防止策、⑥経営責任の所在、⑦関係者への改めての謝罪。A4で3-5枚程度の詳細な報告書とします。添付資料として、技術的な詳細説明、タイムライン図、対策一覧表等を付けます。最終報告で一区切りとしますが、その後も定期的に再発防止策の実施状況を報告することが望ましいです。

プレスリリースチェックリスト

チェック項目 確認内容 担当 完了
タイトル 内容が明確か、誤解を招かないか 広報
リード文 5W1Hが含まれているか 広報
事実確認 全ての記載内容が事実か、憶測が混入していないか 技術/法務
数字の正確性 日付、件数、金額等が正確か 技術/経理
法的リスク 法的責任を過度に認めていないか、誤解を招く表現はないか 法務
専門用語 一般人に理解できる表現か、必要な説明があるか 広報
謝罪表現 誠実で適切な謝罪が含まれているか 経営層
問い合わせ先 連絡先が正確で、対応体制が整っているか カスタマーサポート
添付資料 必要な資料が全て添付されているか 広報
最終承認 経営層の承認を得たか CEO/広報責任者

配信方法とタイミング

プレスリリースを効果的に届けるための方法を選択します。

メディアリストの活用

日頃から関係を構築しているメディアに、優先的に配信します。

メディアデータベースの整備
平時から、主要メディアの連絡先、担当記者名、関心分野をデータベース化しておきます。全国紙、経済紙、業界紙、地方紙、テレビ、ラジオ、Webメディア等を網羅します。インシデント発生時には、このリストに基づいて一斉配信します。
業界メディアへの配慮
自社の業界を専門とするメディアには、背景説明を含めた詳細な情報を提供します。業界への影響、同業他社との比較、業界動向への影響等を説明することで、正確な報道を促します。

同時多発的発信

複数のチャネルで同時に情報を発信し、情報の空白を作らないようにします。

プレスリリース配信サービスの利用
PR TIMESやドリームニュース等のプレスリリース配信サービスを利用し、広範なメディアに一斉配信します。これにより、特定のメディアのみが先行して報道する状況を避けます。
自社Webサイトでの公開
プレスリリースと同時に、自社Webサイトのトップページに目立つ形で掲載します。「重要なお知らせ」として、背景色を変える等の工夫で注目を集めます。PDF版もダウンロード可能にします。
SNSでの告知
公式SNSアカウント(Twitter、Facebook、LinkedIn等)で、プレスリリースへのリンクを投稿します。簡潔な概要と、詳細はWebサイトへの誘導を行います。
顧客への個別通知
影響を受ける顧客には、プレスリリース発表と同時またはそれ以前に、メールや郵送で個別通知します。マスメディアで知る前に、直接企業から連絡を受けることで、顧客の不安を軽減します。

記者会見の準備と実施|メディア対応の要諦

重大なインシデントの場合、プレスリリースだけでなく、記者会見を開催して直接説明することが求められます。

開催判断基準

記者会見を開催すべきかの判断は、インシデントの重大性によります。

社会的影響度

社会全体への影響が大きい場合、記者会見が必要です。

大規模な個人情報漏洩
1万人以上の個人情報が漏洩した場合、または要配慮個人情報(医療情報、クレジットカード情報等)が漏洩した場合は、記者会見の開催を検討します。社会的な関心が高く、詳細な説明が求められるためです。
重要インフラへの影響
金融、電力、通信、交通等の重要インフラに影響が出た場合、公共の利益に関わるため、記者会見で詳細を説明します。サービス停止の範囲、復旧見込み、代替手段等を明確に伝えます。
人命・健康への影響
医療機関での電子カルテ停止、緊急通報システムの障害等、人命に関わる可能性がある場合は、最優先で記者会見を開催し、詳細を説明します。

説明責任の必要性

企業の説明責任を果たすため、記者会見が適切な場合があります。

上場企業の重大インシデント
上場企業で、株価に重大な影響を与えるインシデントの場合、投資家や株主に対する説明責任を果たすため、記者会見を開催します。経営トップが直接説明することで、誠意を示します。
繰り返し発生
過去にも同様のインシデントが発生している場合、「また起こった」という批判を受けます。なぜ再発したのか、今回はどう違うのかを詳細に説明するため、記者会見が有効です。
メディアからの強い要請
複数のメディアから記者会見開催の要請がある場合、個別取材で対応するより、一度に全メディアに説明する方が効率的です。また、メディアの要請を無視することは、隠蔽の印象を与えます。

事前準備

記者会見の成功は、事前準備で決まります。

会見資料の作成
プレゼンテーション資料、配布用の詳細資料、補足説明資料を準備します。プレゼン資料は15-20ページ程度が適切で、図表を多用して視覚的に分かりやすくします。技術的な内容も、一般の記者が理解できるレベルに噛み砕きます。配布資料には、プレスリリースの詳細版、タイムライン、用語解説、FAQ等を含めます。記者が後で記事を書く際に参照できる、充実した資料を提供します。
想定問答集の拡充
プレスリリース用のQ&Aを拡充し、100-200個の想定質問と回答を準備します。厳しい質問、技術的な質問、経営責任を問う質問を含めます。「なぜこのような事態になったのか」「経営責任をどう取るのか」「被害者への補償は」「同業他社では起きていないのになぜ御社だけ」等の厳しい質問も想定します。「答えられない」質問については、その理由(捜査中、個人のプライバシー、技術的詳細で二次被害のおそれ等)も準備します。回答は、スポークスパーソン全員で共有し、誰が聞かれても同じ回答ができるようにします。
リハーサルの実施
模擬記者会見を最低2回実施します。社内の他部門のメンバーが記者役を務め、厳しい質問をぶつけます。リハーサルでチェックする項目:①回答内容が適切か、②想定外の質問への対応、③話すスピードとトーン、④ボディランゲージ(視線、姿勢、ジェスチャー)、⑤時間配分(冒頭説明10-15分、質疑応答30-45分が一般的)。リハーサルの様子をビデオ撮影し、後で確認します。言いよどみ、不適切な表現、防御的な態度等があれば修正します。
会場と設備の準備
記者会見場の設営も重要です。本社の会議室または外部の貸会議室を使用します。座席配置:登壇者は正面に並び、記者は対面に座ります。必要な設備:マイク(登壇者用、記者用)、プロジェクター、スクリーン、カメラ(記録用)、照明。配布資料は、予想される参加者数の1.5倍を用意します。会見終了後に記者が個別に質問できる時間を設けることも検討します。
危機管理広報の専門家の活用
重大なインシデントの場合、危機管理広報の専門家(コンサルタント)を活用します。専門家は、想定問答集の作成、リハーサルの実施、会見当日のサポート等を行います。豊富な経験から、陥りやすい失敗を事前に防ぎます。費用はかかりますが、信頼回復への投資として有効です。

記者会見準備項目チェックリスト

準備項目 内容 責任者 期限 完了
会見資料作成 プレゼン資料、配布資料、FAQ 広報部 開催3日前
想定問答集 100-200個のQ&A作成 広報部/法務 開催3日前
リハーサル実施 最低2回の模擬記者会見 全登壇者 開催前日
会場確保 会議室予約、座席配置 総務 開催1週間前
設備準備 マイク、プロジェクター、カメラ 総務/IT 開催前日
メディア案内 開催通知、参加登録受付 広報部 開催2日前
登壇者確定 役割分担の明確化 広報責任者 開催1週間前
専門家支援 危機管理コンサルタント契約 経営層 開催1週間前
記録体制 議事録作成者、撮影担当の配置 広報部 開催当日

会見当日の運営

準備を経て、いよいよ記者会見当日を迎えます。

冒頭説明(10-15分)

会見の最初に、スポークスパーソンが状況を説明します。

謝罪から開始
最初に深々と頭を下げ、関係者への謝罪を述べます。謝罪は形式的ではなく、心からの言葉で伝えます。「この度は、お客様をはじめ、関係者の皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、心より深くお詫び申し上げます」というように、誠実な態度を示します。
事実関係の説明
準備した資料に基づいて、事実関係を説明します。専門用語を避け、図表を使用して視覚的に説明します。「○月○日、当社のシステムが不正アクセスを受け、○万件の個人情報が流出した可能性があることが判明しました」というように、簡潔かつ正確に説明します。
対応と再発防止策の説明
実施した対策と、今後の再発防止策を具体的に説明します。単なる言葉だけでなく、「○月までに完了」という具体的なスケジュールも示します。経営層のコミットメントを明確にします。
質疑応答への移行
冒頭説明を10-15分で完結し、質疑応答に移ります。「それでは、ご質問をお受けいたします」と明確に告げます。

質疑応答の対処

記者からの質問に、誠実かつ適切に回答します。

全ての質問に真摯に対応
厳しい質問、批判的な質問にも、真摯に向き合います。防御的な態度や、質問を遮ることは厳禁です。「ご質問ありがとうございます」と前置きし、丁寧に回答します。
分からないことは正直に言う
即答できない質問や、調査中で不明な事項については、「現時点では確認できておりません。調査の上、後日回答いたします」と正直に答えます。憶測で答えることは、後で訂正が必要になり、信頼を失います。
言い訳をしない
「想定外だった」「他社もやられている」「ベンダーが悪い」等の言い訳は、批判を強めます。「当社の対策が不十分だった」「管理責任を果たせなかった」と率直に認めます。
技術的質問への対応
技術的な詳細を問われた場合、技術担当者が回答します。ただし、二次被害につながる詳細(脆弱性の具体的内容、攻撃手法の詳細)は開示を控え、その理由を説明します。「セキュリティ上の理由から詳細は控えさせていただきますが、外部専門家の協力を得て対策を講じております」というように答えます。
時間管理
質疑応答は30-45分程度を目安とします。時間が来たら、司会者が「時間の都合上、最後の質問とさせていただきます」と告げます。ただし、重要な質問が残っている場合は、延長も検討します。

会見後のフォローアップ

記者会見が終わった後も、フォローが必要です。

追加質問への対応
会見中に回答できなかった質問、後から寄せられた追加質問には、速やかに回答します。「後日回答する」と約束した事項は、必ず期限内に回答します。約束を守ることで、信頼を回復します。
会見内容の公開
記者会見の議事録、使用した資料、動画(可能な場合)を、自社Webサイトで公開します。会見に参加できなかったメディアや、一般の人々も内容を確認できるようにします。透明性の確保につながります。
報道内容のモニタリング
会見後の報道内容を監視し、誤報や不正確な報道があれば、速やかに訂正を申し入れます。ただし、批判的な論調自体を訂正させることは避けます。事実の誤りのみを訂正対象とします。

デジタル・SNS対応|拡散の制御と活用

現代の危機管理広報では、デジタルメディアとSNSへの対応が不可欠です。情報は瞬時に拡散し、炎上リスクも高いため、適切な対応が求められます。

公式サイトでの情報発信

自社Webサイトは、公式情報の発信源として最も重要です。

特設ページの開設

インシデント専用の特設ページを開設し、情報を一元化します。

トップページからのリンク
Webサイトのトップページに、特設ページへのリンクを目立つ形で配置します。「重要なお知らせ」として、背景色を変える、バナーを配置する等の工夫で、訪問者が必ず目にするようにします。
特設ページの構成
特設ページには、以下の情報を掲載します。①インシデントの概要、②影響範囲、③経緯・タイムライン、④対応状況、⑤再発防止策、⑥お詫び、⑦FAQ、⑧プレスリリース一覧、⑨問い合わせ先。情報は時系列で整理し、最新情報を上部に配置します。過去の情報も残し、対応の経過が分かるようにします。
多言語対応
海外顧客がいる場合、英語版を必ず用意します。その他の言語も、主要顧客層に応じて対応します。翻訳は専門業者に依頼し、誤訳を防ぎます。各言語版は同時に更新し、情報の時間差が生じないようにします。
アクセシビリティ配慮
視覚障害者等も情報にアクセスできるよう、ウェブアクセシビリティに配慮します。音声読み上げ対応、画像への代替テキスト設定、分かりやすい構造等を確保します。

FAQ(よくある質問)の更新

顧客からの典型的な質問に、事前に回答を用意します。

想定質問の整理
問い合わせ窓口に寄せられた質問を分析し、頻度の高い質問をFAQとして掲載します。①自分の情報は漏洩したか、②今後どうすればよいか、③補償はあるか、④再発は防げるか、等の質問が典型的です。
定期的な更新
新たな質問が寄せられるたびに、FAQを更新します。更新日時を明記し、「○月○日更新」と表示することで、最新情報であることを示します。
検索機能の提供
FAQが多数になった場合、検索機能を提供し、利用者が必要な情報を素早く見つけられるようにします。カテゴリ分け(影響範囲、対応方法、補償等)も有効です。

SNSモニタリングと対応

SNS上での反応を監視し、適切に対応します。

エゴサーチの実施
Twitter(X)、Facebook、Instagram、LinkedIn等で、自社名、製品名、サービス名、関連キーワードを15分間隔で監視します。専用のソーシャルリスニングツール(Brandwatch、Hootsuite等)を活用することで、効率的に監視できます。誤情報、批判的投稿、炎上の兆候を早期に発見し、対応します。ハッシュタグの使用状況も監視し、ネガティブなハッシュタグが拡散していないか確認します。
公式アカウントでの発信
公式SNSアカウントで、定期的に最新情報を発信します。プレスリリースの要約、対応の進捗、お詫びのメッセージ等を投稿します。ただし、SNSはコメントが付きやすく、炎上リスクがあるため、慎重に対応します。必要に応じて、コメント欄を一時的に閉鎖することも検討します。投稿は短く簡潔にし、詳細は特設ページへのリンクで誘導します。
インフルエンサーへの対応
影響力のある発信者(インフルエンサー、業界専門家、ジャーナリスト等)が不正確な情報を発信している場合、個別にコンタクトを取ります。正確な情報を提供し、誤解の拡散を防止します。公開の場で反論するのではなく、DMや個別メール等で丁寧に説明します。協力的な姿勢を示し、敵対関係にならないよう配慮します。
ネガティブコメントへの対応方針
個別の批判コメントには、原則として反応しません。一つ一つに反論すると、「火に油を注ぐ」結果になります。ただし、事実誤認に基づく投稿には、「正確な情報は当社Webサイトをご確認ください」と冷静に返信します。感情的な反応は厳禁です。建設的な意見や、改善提案には、「貴重なご意見ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます」と返信し、真摯な姿勢を示します。
炎上時の対処
炎上が発生した場合、まず事実確認を行います。批判が事実に基づくものであれば、速やかに謝罪と説明を行います。誤解に基づくものであれば、丁寧に訂正します。炎上のピークは24-48時間であることが多いため、この期間を乗り切ることが重要です。過度に反応せず、公式見解を一度発表した後は、静観することも戦略の一つです。ただし、完全に無視することも問題なので、定期的に状況を監視し、必要に応じて追加説明を行います。

SNS対応マニュアル

状況 対応方針 具体的アクション 担当
誤情報の拡散 迅速な訂正 正確な情報を公式アカウントで発信、特設ページへ誘導 SNS担当
批判的コメント 冷静な対応 個別反論は避け、公式見解へ誘導。建設的意見には感謝 SNS担当
炎上の兆候 早期対処 広報責任者に報告、対応方針を協議、必要に応じて声明発表 SNS担当→広報責任者
インフルエンサーの誤情報 個別コンタクト DM/メールで正確な情報提供、訂正依頼 広報責任者
攻撃的投稿 無視または通報 誹謗中傷・名誉毀損は通報。反応しない SNS担当/法務
好意的投稿 感謝表明 いいね/リツイート、丁寧な返信 SNS担当

風評被害対策

誤情報や誇張された情報による風評被害を最小化します。

誤情報の訂正

誤った情報が拡散している場合、速やかに訂正します。

公式声明での訂正
自社Webサイトやプレスリリースで、「○○という情報が拡散していますが、事実ではありません」と明確に訂正します。正確な情報を併せて提供し、誤解を解きます。ただし、訂正自体が新たな注目を集め、かえって誤情報を拡散する可能性もあるため、慎重に判断します。
メディアへの働きかけ
誤報を流したメディアに対して、訂正記事の掲載を依頼します。訂正記事は目立たない場所に小さく掲載されることが多いため、当初の誤報と同じ扱いを要請します。法的手段も視野に入れますが、まずは友好的な協議を試みます。

検索エンジン対策(SEO)

ネガティブな情報が検索結果の上位に表示されることを防ぎます。

ポジティブコンテンツの発信
再発防止策の実施状況、社会貢献活動、顧客からの好意的な声等、ポジティブな情報を継続的に発信します。これにより、検索結果でポジティブな情報が上位に表示されるようにします。
SEO専門家の活用
風評被害が深刻な場合、SEOやオンラインレピュテーション管理の専門家に依頼します。ネガティブな検索結果を下位に押し下げる技術的な対策を実施します。
長期的な信頼回復
一時的な対策だけでなく、実際に信頼を回復する行動を継続します。再発防止策の実施、情報セキュリティの強化、企業文化の改善等に取り組み、その成果を発信し続けます。時間はかかりますが、地道な努力が最終的には実を結びます。

広報対応のKPI設定と評価

広報対応の効果を測定し、継続的に改善します。

危機管理広報のKPI

KPI 測定方法 目標値 評価タイミング
第一報までの時間 インシデント認知から第一報発表まで 24時間以内 インシデント発生時
メディア露出の内容 ポジティブ/ニュートラル/ネガティブの割合 ネガティブ50%以下 週次
SNS言及数 Twitter等での言及回数 ピークから50%減/週 日次
Webサイトアクセス数 特設ページへのアクセス 初日ピーク後漸減 日次
問い合わせ件数 専用窓口への問い合わせ ピークから70%減/週 日次
株価回復率 直前比での株価水準 3ヶ月で90%回復 週次
顧客離反率 解約・取引停止の割合 5%以下 月次
ブランド価値 ブランド好感度調査 6ヶ月で85%回復 月次
KPIの設定理由
危機管理広報の目的は、①正確な情報の迅速な提供、②誤解・誤情報の防止、③ステークホルダーの不安軽減、④ブランド価値の回復です。これらを定量的に測定することで、広報戦略の効果を評価し、改善につなげます。
ベンチマークとの比較
他社の同様のインシデントにおける広報対応と比較することで、自社の対応の妥当性を評価します。業界平均、ベストプラクティス企業との比較により、改善点を特定します。

ステークホルダー別広報対応方針

ステークホルダー 優先順位 コミュニケーション方法 頻度 メッセージの重点
被害者(顧客) 最優先 個別通知(メール/郵送)、専用窓口 即時、随時 謝罪、具体的影響、取るべき行動、補償
取引先 最優先 個別連絡(電話/対面)、文書 即時、週次 謝罪、事業への影響、継続性保証
従業員 社内イントラ、全社集会 即時、日次 状況説明、役割、顧客対応指針
株主・投資家 適時開示、IR説明会 法定期限内、随時 業績影響、経営責任、再発防止
メディア プレスリリース、記者会見 24時間以内、随時 事実、透明性、社会的責任
規制当局 正式報告書、対面説明 法定期限内 正確な報告、対応の妥当性、再発防止
一般社会 Webサイト、SNS 随時 社会的影響の最小化、誠実な対応
業界団体 業界会議、情報共有 随時 業界全体への示唆、協力

よくある質問(FAQ)

Q: インシデントをどこまで公表すべきか判断基準は?
A: 公表判断の基準は以下の通りです。①法的義務がある場合(個人情報保護法、業界規制等)は必ず公表、②顧客・取引先に直接影響がある場合は公表、③社会的影響が大きい場合(重要インフラ、大規模被害等)は公表、④影響が限定的でも、後から発覚するリスク(内部告発、メディアリーク)を考慮し、公表を検討。公表範囲については、技術的詳細は最小限とし、影響と対策を重点的に説明します。調査中の事項は「調査中」と明記し、憶測を避けます。基本原則は「迷ったら公表」です。隠蔽しようとして後から発覚する方が、はるかに大きなダメージとなります。過去の事例では、初期に限定的と思われたインシデントでも、後に拡大が判明し、初動の隠蔽体質が批判された例が多数あります。
Q: SNSで炎上した場合の対処法は?
A: SNS炎上時の対処手順:①まず事実確認(批判が事実に基づくのか、誤解なのか)、②事実に基づく批判なら迅速に謝罪と説明を発表、③誤解に基づく批判なら丁寧に訂正情報を提供、④個別の攻撃的コメントには原則反応しない(「荒らし」には餌を与えない)、⑤建設的な批判や改善提案には真摯に受け止める姿勢を示す、⑥必要に応じてコメント欄を一時的に閉鎖。重要なのは、火に油を注がないことです。感情的な反応、言い訳、反論は炎上を悪化させます。炎上のピークは通常24-48時間なので、この期間を冷静に乗り切ることが重要です。対応は広報責任者の判断の下、一貫した方針で行います。深刻な炎上の場合は、プロの危機管理コンサルタントの支援を受けることも有効です。過去の炎上事例を研究し、失敗パターンを避けることも重要です。
Q: 記者会見を開くべきかの判断基準は?
A: 記者会見の開催判断基準:【開催推奨】①大規模な個人情報漏洩(1万人以上、または要配慮個人情報)、②重要インフラ・社会インフラへの影響、③人命・健康への影響の可能性、④上場企業の重大インシデント、⑤過去の同様インシデントの再発、⑥複数メディアからの開催要請。【開催不要】①影響が限定的で少数、②プレスリリースと個別取材で十分説明可能、③捜査への悪影響が懸念される場合。グレーゾーンの場合は、透明性確保と説明責任の観点から、開催する方が無難です。記者会見を開かないことで「隠している」と疑われるリスクを避けます。オンライン記者会見の選択肢も検討し、地方メディアや海外メディアも参加しやすい環境を提供します。会見開催の判断は、広報責任者だけでなく、経営層、法務と協議して決定します。
Q: 技術担当者が記者会見で話す際の注意点は?
A: 技術担当者が記者会見で説明する際の重要ポイント:①専門用語を避け、一般人に理解できる平易な言葉を使う(「マルウェア」→「コンピュータウイルス」)、②「絶対」「完全」「100%」等の断定表現は避ける(後で覆される可能性)、③分からないことや確認が必要なことは、正直に「確認して後日回答します」と答える、④責任論や犯人探しより、対策と再発防止を中心に説明、⑤数字は正確に(概数でも可だが、根拠を持つ)、⑥図表、イラスト、アニメーション等を活用して視覚的に説明、⑦専門家としての誠実さを前面に出す。事前のメディアトレーニングが必須です。技術者は正直で誠実な説明をする傾向があり、これは信頼回復に大きく寄与します。ただし、専門用語の多用や、技術的優越感を示すような態度は避けます。「私たちも被害者だ」という姿勢ではなく、「お客様をお守りできなかった」という責任感を持って臨みます。
Q: 海外メディアへの対応は?
A: グローバル展開企業の海外メディア対応:①英文プレスリリースを日本語版と同時発信(翻訳の時間差を最小化)、②海外現地法人・支社と連携し、現地での問い合わせに対応、③時差を考慮した発表タイミング(主要市場の営業時間内が理想)、④文化的配慮(謝罪の仕方は国により異なる。日本式の深い謝罪は欧米では過剰責任の自認と受け取られる可能性)、⑤必要に応じて現地PR会社や危機管理コンサルタントを活用、⑥現地規制への対応(GDPRの72時間ルール等)。特に、GDPR違反や重大なデータ漏洩は欧州メディアが注目するため、EU基準での対応が必要です。翻訳は専門業者(できればネイティブチェック付き)に依頼し、微妙なニュアンスの違いや誤訳を防ぎます。機械翻訳だけに頼ることは避けます。現地の法律、文化、メディア環境を理解した上で、適切な広報戦略を立案します。海外在住の日本人駐在員だけでなく、現地採用のPR専門家の知見も活用します。

まとめ

マルウェアインシデント時の広報対応は、技術的復旧と並んで、企業の存続を左右する重要な要素です。本記事で解説した原則と手法を実践することで、以下を達成できます。

重要なポイント:

  • 三原則の徹底:迅速性、透明性、誠実性を全ての広報活動の基礎とする
  • ゴールデンタイム:最初の24時間で信頼回復の道筋をつける
  • ステークホルダー別対応:顧客、取引先、従業員、株主、メディア、社会それぞれに適した対応
  • 段階的情報開示:第一報、中間報告、最終報告の戦略的な使い分け
  • 記者会見の成功:徹底した準備、リハーサル、誠実な対応
  • デジタル・SNS対応:監視、迅速な対応、炎上の制御
  • 長期的視点:単なる対症療法ではなく、信頼回復への継続的取り組み

危機は、組織の真価が問われる瞬間です。適切な広報対応により、危機を乗り越え、かえって信頼を強化することも可能です。平時からの準備、訓練、そして有事の冷静な実行が、信頼回復への鍵となります。


関連リソース

本記事に関連する詳細情報は、以下のページでご確認ください。

インシデント対応関連:

組織・体制:

脅威への理解:

総合ガイド:


【重要なお知らせ】

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する専門的助言ではありません。実際にマルウェアインシデントが発生し、広報対応が必要な場合は、危機管理広報の専門家(コンサルタント)、弁護士、そして業界に精通したPR会社にご相談ください。記載内容は作成時点の情報であり、メディア環境やSNS状況は急速に変化しています。最新のトレンドとベストプラクティスを常に把握してください。本記事の情報に基づく行動により生じた損害について、筆者および運営者は一切の責任を負いません。広報対応は企業の信頼に直結する重要な活動であり、慎重かつ戦略的に実施してください。

更新履歴

初稿公開

京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。