サプライチェーン攻撃に強い可視化|サプライチェーンマップと多層管理を解説

サプライチェーン攻撃対策の第一歩は、自社のサプライチェーンを「見える化」することです。直接の取引先(Tier1)だけでなく、その先のTier2、Tier3まで把握しなければ、リスクの全体像は見えません。トヨタ・小島プレス事件も、Tier1サプライヤーが狙われたことで発生しました。この記事では、サプライチェーン攻撃対策としての可視化を詳しく解説します。サプライチェーンマップの作成方法、多層構造の把握、透明性の確保、可視化ツールの活用まで、サプライチェーン全体を見える化する方法を紹介します。

なぜサプライチェーンの可視化が必要か

サプライチェーン攻撃対策において、「見えないリスクは管理できない」という原則があります。自社のサプライチェーンがどのような構造になっているか、どの取引先がどのようなリスクを抱えているかを可視化することが、対策の第一歩となります。

見えないリスクの存在
多くの企業は、直接の取引先(Tier1サプライヤー)については把握していますが、その先のTier2、Tier3のサプライヤーについては把握していないことが多いです。しかし、サプライチェーン攻撃は、これらの「見えない」サプライヤーを経由して行われることもあります。
直接取引先だけを見ていては不十分
Tier1サプライヤーのセキュリティが万全でも、そのTier1サプライヤーが依存しているTier2サプライヤーが攻撃を受ければ、結果として自社にも影響が及びます。サプライチェーン全体を俯瞰する視点が必要です。
可視化のメリット
サプライチェーンを可視化することで、(1)リスクの高い経路を特定できる、(2)対策の優先順位を決められる、(3)インシデント発生時に迅速に影響範囲を把握できる、(4)代替調達先の検討が容易になる、などのメリットがあります。
可視化がない場合の問題
可視化されていない場合、インシデント発生時に「どのサプライヤーが影響を受けているか」「自社への影響範囲はどこまでか」を把握するのに時間がかかり、対応が遅れます。また、リスクの高いサプライヤーを特定できず、効果的な対策が打てません。

サプライチェーンマップの作成

サプライチェーンを可視化するためのサプライチェーンマップの作成方法を解説します。

作成方法

情報収集の方法
サプライチェーンマップを作成するために必要な情報を、以下の方法で収集します。 (1)取引先への質問(質問票、ヒアリング)でTier2以降の情報を収集、 (2)契約情報や購買データから取引先と取引内容を抽出、 (3)業界プラットフォームやデータベースの活用、 (4)取引先との定期的な情報交換。
可視化の単位
どの単位でサプライチェーンをマッピングするかを決めます。製品別(製品Aのサプライチェーン)、事業別(事業部門Xのサプライチェーン)、拠点別(工場Yのサプライチェーン)など、目的に応じて設定します。まずは重要な製品・事業から始めることをお勧めします。
段階的なアプローチ
いきなりTier3以降まで把握しようとすると、工数が膨大になります。まずはTier1サプライヤーを網羅的に把握し、次に重要なTier1のTier2を把握する、というように段階的に進めます。

含めるべき情報

サプライチェーンマップには、以下の情報を含めます。

情報項目 内容 活用方法
サプライヤー名 会社名、部門名 識別
所在地 国、地域、住所 地理的リスクの評価
提供品目 部品名、サービス名 影響範囲の把握
取引金額 年間取引金額 重要度の判定
依存度 自社の調達に占める割合 代替可能性の評価
セキュリティ評価 評価スコア、ランク リスクの把握
代替可能性 代替サプライヤーの有無 BCPへの反映
Tier Tier1、Tier2、Tier3 多層構造の把握

マップの形式

サプライチェーンマップの形式には、いくつかの選択肢があります。

ネットワーク図
サプライヤー間の関係を図示します。視覚的に分かりやすく、複雑な関係も表現できますが、サプライヤー数が多いと見づらくなります。重要なサプライヤーに絞って作成するのが効果的です。
一覧表
サプライヤー情報をExcelなどの表形式で整理します。大量のサプライヤーを管理でき、検索・フィルタリングが容易です。詳細情報の管理に適しています。
データベース
サプライヤー情報をデータベースで管理します。大規模なサプライチェーンの管理、他システムとの連携、複雑なクエリに対応できます。専用のSCMツールやTPRMツールに含まれることが多いです。
管理ツールの活用
サプライチェーン可視化のための専用ツール(後述)を活用することで、効率的なマッピングと継続的な管理が可能になります。

多層構造(Tier2、Tier3)の把握

サプライチェーンは、多層構造になっています。直接の取引先(Tier1)だけでなく、その先のTier2、Tier3も把握することが重要です。

Tier2、Tier3とは

Tier1(ティアワン)
自社と直接取引関係にあるサプライヤー。契約関係があり、情報も把握しやすいです。
Tier2(ティアツー)
Tier1サプライヤーの仕入先。自社とは直接の取引関係がないため、情報を把握しにくいですが、Tier2への攻撃がTier1を経由して自社に影響することがあります。
Tier3以降
Tier2のさらに先のサプライヤー。把握が困難ですが、重要な原材料や部品の供給元となっていることがあります。

把握の方法

Tier1への質問・開示要請
Tier1サプライヤーに対して、主要なTier2サプライヤーの情報(会社名、所在地、提供品目など)を開示するよう要請します。質問票に項目を設けるか、別途ヒアリングを行います。
契約での開示義務
取引契約において、サプライチェーン情報の開示義務を盛り込みます。「甲の要求があった場合、乙は主要な再委託先・調達先の情報を開示する」などの条項を設けます。
業界プラットフォームの活用
自動車業界、電機業界など、一部の業界ではサプライチェーン情報を共有するプラットフォームがあります。これらを活用することで、効率的にTier2以降の情報を収集できます。
第三者データサービスの活用
企業情報データベースやサプライチェーン可視化サービスを活用して、サプライヤー間の関係を把握する方法もあります。

把握の限界と対応

完全な把握が難しい現実
Tier2、Tier3以降のサプライヤーを完全に把握することは、現実的には非常に困難です。サプライヤーが情報開示を拒む場合や、サプライヤー自身がTier2を把握していない場合もあります。
リスクベースのアプローチ
すべてのサプライチェーンを詳細に把握しようとするのではなく、重要な製品・サービスに関連するサプライチェーンに集中します。「この部品がないと生産が止まる」「代替がきかない」といった重要経路を優先的に把握します。
継続的な改善
サプライチェーンの可視化は一度で完成するものではありません。段階的に範囲を広げ、情報を更新しながら、徐々に精度を上げていきます。

透明性の確保

サプライチェーンの透明性を高めることで、より効果的なリスク管理が可能になります。

情報開示の促進
サプライヤーに対して、セキュリティ対策状況、インシデント発生状況、サプライチェーン構造などの情報開示を求めます。開示に協力的なサプライヤーを評価で優遇するインセンティブも有効です。
サプライヤーとの協力関係
一方的な情報要求ではなく、双方向の情報共有を行う協力関係を構築します。自社の脅威情報をサプライヤーと共有したり、共同でセキュリティ対策を検討したりすることで、信頼関係を築きながら透明性を高められます。
業界全体での情報共有
業界団体やISAC(Information Sharing and Analysis Center)を通じて、サプライチェーンに関する脅威情報、ベストプラクティス、インシデント事例などを共有します。業界全体でサプライチェーンの透明性を高める取り組みが広がっています。
規制・ガイドラインへの対応
近年、サプライチェーンの透明性に関する規制やガイドラインが強化されています。経済産業省の「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」、EU のサプライチェーンデューデリジェンス規制など、関連する要件への対応を進めることで、結果として透明性が向上します。

可視化ツール・プラットフォームの活用

サプライチェーン可視化を効率的に行うためのツール・プラットフォームを紹介します。

SCM可視化プラットフォーム
サプライチェーン全体を可視化・管理するためのプラットフォームです。サプライヤー情報の一元管理、多層構造の可視化、リスクの可視化などの機能を提供します。大規模なサプライチェーンを持つ企業に適しています。
サプライヤーリスク管理ツール
TPRMツールの中には、サプライチェーンの可視化機能を持つものがあります。サプライヤーの評価・モニタリングと合わせて、サプライチェーン構造を管理できます。
業界プラットフォーム
自動車業界、電機業界など、特定の業界でサプライチェーン情報を共有するプラットフォームがあります。業界標準の形式でデータを共有でき、Tier2以降の情報も効率的に収集できます。
自社開発・Excelでの管理
サプライヤー数が少ない場合や、まず始めてみる段階では、Excelやスプレッドシートでの管理も有効です。サプライヤー情報を一覧化し、定期的に更新する運用を確立します。サプライヤー数が増えたり、複雑な分析が必要になったりした時点で、専用ツールへの移行を検討します。

ツール選定のポイント

選定基準 確認事項
対応規模 管理するサプライヤー数、Tierの深さに対応できるか
可視化機能 ネットワーク図、一覧表示、ダッシュボードなどの機能
リスク統合 セキュリティ評価結果との統合が可能か
連携性 既存システム(調達、ERPなど)との連携
コスト 導入・運用コストが予算内か
サポート 日本語対応、サポート体制

可視化の限界と対策

サプライチェーンの可視化には限界があります。限界を認識したうえで、現実的な対策を講じることが重要です。

完全な把握の難しさ
グローバルに広がるサプライチェーンのすべてを完全に把握することは、現実的には不可能です。サプライヤーの協力が得られない場合、情報が古い場合、サプライヤー自身が把握していない場合など、さまざまな制約があります。
可視化にかかる工数・コスト
サプライチェーンの可視化には、情報収集、データ整理、ツール導入・運用などの工数とコストがかかります。すべてを詳細に可視化しようとすると、投資対効果が見合わないこともあります。
情報の鮮度維持の課題
サプライチェーンは常に変化しています。サプライヤーの変更、新規取引、取引終了などを継続的に把握し、マップを更新する必要があります。一度作成して終わりではなく、継続的なメンテナンスが必要です。
リスクベースのアプローチ
限られたリソースで最大の効果を得るためには、リスクベースのアプローチが有効です。重要度の高いサプライチェーン(代替困難、供給停止の影響が大きい)に注力し、そこから段階的に範囲を広げていきます。
継続的な改善
サプライチェーンの可視化は、継続的に改善していくものと位置づけてください。最初から完璧を目指すのではなく、できることから始め、徐々に精度と範囲を広げていきます。

TPRM体制の構築についてはサプライチェーン攻撃に備えるTPRM|第三者リスク管理の体制構築をご覧ください。


可視化を活かした対策

サプライチェーンを可視化した情報を、実際の対策にどう活かすかを解説します。

リスク評価への活用
サプライチェーンマップをもとに、どの経路にリスクが集中しているかを分析します。特定のサプライヤーに依存度が高い経路、セキュリティ評価の低いサプライヤーが含まれる経路などを特定し、重点的に対策します。
対策の優先順位付け
可視化された情報をもとに、対策の優先順位を決定します。重要度の高い経路、リスクの高い経路から順に、サプライヤー評価の強化、契約条項の追加、代替調達先の確保などの対策を進めます。
インシデント発生時の迅速な対応
インシデント発生時に、サプライチェーンマップを参照して影響範囲を迅速に把握できます。「攻撃を受けたサプライヤーから、どの製品に使う部品を調達しているか」「代替調達先はあるか」などを短時間で確認できます。
BCPへの反映
サプライチェーンの可視化結果をBCP(事業継続計画)に反映します。重要な供給経路、代替調達先、在庫状況などをBCPに組み込み、供給停止時の対応計画を具体化します。

BCPへの活用については供給停止を防ぐサプライチェーン攻撃対策|BCP・代替調達・在庫戦略を解説をご覧ください。


関連する攻撃手法

サプライチェーンの可視化により把握すべき攻撃経路について紹介します。

サプライチェーン攻撃
サプライヤーを経由した攻撃全般。可視化により、攻撃経路となりうるサプライヤーを特定し、優先的に対策できます。
ソフトウェアサプライチェーン攻撃
ソフトウェアの開発・配布経路を狙った攻撃。使用しているソフトウェアの開発元、配布経路を可視化することで、リスクを把握できます。
ランサムウェア
サプライヤーへのランサムウェア攻撃による供給停止。可視化により、供給停止の影響範囲を迅速に把握できます。
情報漏洩
サプライヤーからの情報漏洩。どのサプライヤーがどの機密情報にアクセスしているかを可視化し、リスクを管理します。
クラウド設定不備
サプライヤーのクラウド環境の設定ミス。クラウドサービスを提供するサプライヤーを可視化し、セキュリティ状況を確認します。
不正アクセス
サプライヤー経由での不正アクセス。システム連携のあるサプライヤーを可視化し、アクセス経路を管理します。
依存関係の脆弱性(OSS)
オープンソースソフトウェアの脆弱性。使用しているOSSとその依存関係を可視化(SBOM)することで、脆弱性の影響を把握できます。

よくある質問

Q: Tier3以降まで把握する必要がありますか?
A: すべてのサプライチェーンについてTier3以降まで把握する必要はありません。リスクベースのアプローチで、重要な製品・サービスに関連するサプライチェーンに絞って、深堀りすることをお勧めします。「この部品がないと生産が止まる」「代替がきかない」といった重要経路については、可能な範囲でTier3以降も把握することが望ましいです。一方、一般的な汎用品については、Tier1の把握で十分な場合が多いです。
Q: 取引先が情報開示に応じてくれない場合は?
A: まず、情報開示の目的(サプライチェーン全体のセキュリティ向上)を丁寧に説明し、協力を依頼してください。契約で開示義務を明記することも有効です。それでも開示に応じない場合は、(1)代替サプライヤーへの切り替えを検討する、(2)リスクを認識したうえで取引を継続する、(3)開示されている範囲でリスクを評価する、などの対応を検討します。また、第三者データサービスを活用して、公開情報から間接的に把握する方法もあります。
Q: 可視化にはどのくらいの工数がかかりますか?
A: サプライヤーの数、把握したいTierの深さ、情報の詳細度によって大きく異なります。目安として、Tier1サプライヤー100社の基本情報を整理するのに1〜2か月、Tier2まで含めると3〜6か月程度かかることがあります。ツールを活用したり、外部の支援を受けたりすることで、工数を削減できます。まずは重要なサプライチェーンに絞って始め、段階的に範囲を広げることをお勧めします。
Q: どのような情報を優先的に収集すべきですか?
A: まずは以下の情報を優先的に収集してください。(1)サプライヤー名と所在地(識別と地理的リスクの把握)、(2)提供品目(影響範囲の把握)、(3)取引金額と依存度(重要度の判定)、(4)代替可能性(BCPへの反映)。セキュリティ評価結果は、別途サプライヤー評価のプロセスで収集し、可視化データと統合します。詳細な情報は、重要なサプライヤーに絞って段階的に収集することが現実的です。
Q: 可視化したデータはどのくらいの頻度で更新すべきですか?
A: 最低でも年1回は全体的な見直しを行うことをお勧めします。ただし、サプライヤーの変更(新規取引、取引終了)、重要な変更(サプライヤーの買収・合併、所在地変更など)があった場合は、随時更新します。また、四半期ごとに主要サプライヤーの情報を確認するなど、重要度に応じて更新頻度に差をつける方法も有効です。可視化ツールを活用すれば、更新作業を効率化できます。

まとめ

サプライチェーン攻撃対策としての可視化について、要点をまとめます。

  • 可視化の重要性:見えないリスクは管理できない、サプライチェーン全体を俯瞰する視点が必要
  • サプライチェーンマップの作成:サプライヤー情報を収集し、ネットワーク図や一覧表で可視化
  • 多層構造の把握:Tier1だけでなく、Tier2、Tier3も重要経路に絞って把握
  • 透明性の確保:情報開示の促進、サプライヤーとの協力関係、業界全体での情報共有
  • ツールの活用:SCM可視化プラットフォーム、TPRMツール、業界プラットフォームで効率化
  • 限界の認識:完全な把握は困難、リスクベースのアプローチで段階的に進める
  • 対策への活用:リスク評価、優先順位付け、インシデント対応、BCPに反映

取引先管理カテゴリの全体像については、サプライチェーン攻撃の取引先管理|サプライヤー評価・契約・TPRMを解説をご覧ください。また、サプライチェーン攻撃の総合ガイドはサプライチェーン攻撃とは|仕組み・事例・対策を初心者にもわかりやすく解説【2025年版】をご覧ください。


重要なお知らせ

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言ではありません。
  • 実際にサイバー攻撃の被害に遭われた場合は、警察(#9110)やIPA(03-5978-7509)などの公的機関にご相談ください。
  • 法的な対応が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
  • 記載内容は作成時点の情報であり、攻撃手法は日々進化している可能性があります。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。