サプライチェーン攻撃に備えるTPRM|第三者リスク管理の体制構築

サプライチェーン攻撃対策を組織的・継続的に行うには、TPRM(Third Party Risk Management:第三者リスク管理)の体制構築が重要です。取引先の評価を一度行って終わりではなく、継続的にリスクを監視・管理することで、サプライチェーン全体のセキュリティを維持できます。この記事では、サプライチェーン攻撃対策としてのTPRMを詳しく解説します。TPRM体制の構築ステップ、リスク評価のプロセス、継続的なモニタリング、ツール・サービスの活用まで、実践的な方法を紹介します。

TPRMとは

TPRM(Third Party Risk Management:第三者リスク管理) とは、サプライヤー、ベンダー、パートナー、委託先など、自社以外の組織(第三者)がもたらすリスクを特定、評価、監視、管理するための包括的なフレームワークです。

TPRMの定義
TPRMは、第三者との関係から生じるリスクを組織的に管理するためのプロセス、ツール、ガバナンス体制の総称です。セキュリティリスクだけでなく、コンプライアンスリスク、事業継続リスク、レピュテーションリスクなど、多面的なリスクを対象とします。
第三者リスク管理の範囲
TPRMの対象となる「第三者」には、直接の取引先(Tier1サプライヤー)だけでなく、IT ベンダー、クラウドサービス事業者、業務委託先、コンサルタント、さらにはTier2・Tier3のサプライヤーも含まれます。
サプライチェーンセキュリティにおける位置づけ
サプライチェーン攻撃対策として、TPRMは中核的な役割を果たします。取引先のセキュリティリスクを継続的に監視・管理することで、サプライチェーン全体のセキュリティレベルを維持・向上させることができます。

取引先管理の基本についてはサプライチェーン攻撃と取引先管理|サプライヤー評価・ベンダー監査の進め方をご覧ください。


サプライチェーン攻撃対策としてのTPRM

TPRMがなぜサプライチェーン攻撃対策として有効なのかを解説します。

単発の評価では不十分
取引開始時に一度評価を行っただけでは、その後のセキュリティ状況の変化(脆弱性の発見、体制の変更、インシデントの発生など)を把握できません。継続的な管理により、常に最新のリスク状況を把握することが重要です。
TPRMがない場合のリスク
TPRMがない場合、取引先のセキュリティ状況が悪化しても気づくことができず、サプライチェーン攻撃のリスクが高まります。2022年のトヨタ・小島プレス事件のように、取引先への攻撃が自社の事業停止につながる可能性があります。
TPRMの効果
TPRMにより、(1)リスクの高い取引先を特定し、優先的に対策できる、(2)取引先のセキュリティ改善を促進できる、(3)インシデント発生時に迅速に対応できる、(4)規制・コンプライアンス要件を満たせる、などの効果が得られます。

TPRM体制の構築ステップ

TPRMを組織的に運用するための体制構築ステップを解説します。

ステップ1:ポリシー・方針の策定
TPRMの目的、範囲、基本方針を定めたポリシーを策定します。経営層の承認を得て、全社的な方針として位置づけます。対象とする第三者の範囲(サプライヤー、ベンダー、委託先など)、評価基準の大枠、リスク許容度などを明記します。
ステップ2:役割・責任の明確化
TPRMに関わる役割と責任を明確にします。TPRM責任者(通常はCISOや調達部門長)、評価担当者、モニタリング担当者などを定め、それぞれの責任範囲を明確にします。情報セキュリティ部門、調達・購買部門、法務部門、事業部門など、複数の部門が連携する体制が必要です。
ステップ3:第三者の棚卸し・分類
現在取引のあるすべての第三者を棚卸しし、リスクレベルに応じて分類します。分類基準には、取引金額、機密情報へのアクセス、システム連携の有無、代替可能性などを用います。高リスク・中リスク・低リスクの3段階程度に分類するのが一般的です。
ステップ4:リスク評価プロセスの設計
第三者のリスクを評価するためのプロセスを設計します。評価項目、評価基準、スコアリング方法、評価頻度などを定めます。質問票、監査、第三者評価サービスなど、複数の評価手法を組み合わせることが効果的です。
ステップ5:モニタリング体制の構築
第三者のリスク状況を継続的に監視する体制を構築します。定期評価のスケジュール、脅威情報の収集方法、アラート対応のプロセスなどを整備します。第三者評価サービス(BitSightなど)を活用することで、効率的なモニタリングが可能です。
ステップ6:改善サイクルの運用
TPRMプログラム自体を継続的に改善するサイクルを運用します。評価プロセスの有効性を定期的にレビューし、新たな脅威や規制への対応、業務効率化などを進めます。KPIを設定し、TPRMの成熟度を測定・向上させていきます。

リスク評価のプロセス

第三者のリスクを評価するプロセスについて、詳しく解説します。

リスク識別

第三者がもたらす可能性のあるリスクを識別します。

リスクカテゴリ 具体例 影響
セキュリティリスク 不正アクセス、マルウェア感染、情報漏洩 機密情報流出、システム停止
コンプライアンスリスク 法令違反、規制違反 罰則、訴訟、レピュテーション低下
事業継続リスク サービス停止、供給途絶 事業活動の中断、機会損失
レピュテーションリスク 第三者の不祥事、品質問題 自社のブランドイメージ低下
財務リスク 倒産、支払い遅延 債権回収困難、追加コスト発生

リスク評価・分析

識別したリスクについて、影響度発生可能性を評価します。

影響度の評価
リスクが顕在化した場合の影響の大きさを評価します。財務的影響、事業影響、法的影響、レピュテーション影響などの観点から、「重大」「大」「中」「小」などに分類します。
発生可能性の評価
リスクが顕在化する可能性を評価します。第三者のセキュリティ対策状況、過去のインシデント履歴、業界の脅威動向などを考慮して、「高」「中」「低」などに分類します。
リスクマトリクスの活用
影響度と発生可能性を軸としたマトリクスにリスクをプロットし、優先順位を決定します。影響度・発生可能性ともに高いリスクを最優先で対策します。

リスク対応

評価結果に基づき、リスクへの対応方法を決定します。

回避
リスクを完全に排除するため、取引を行わない、または取引を終了する選択肢です。リスクが許容できないレベルの場合に選択します。
軽減
リスクを許容可能なレベルまで低減するため、対策を実施します。第三者への改善要求、自社での追加対策、契約条項の強化などが含まれます。
移転
リスクを保険やアウトソーシングによって他者に移転します。サイバー保険への加入、第三者への再委託などが例です。
受容
リスクを認識したうえで、対策を行わず受け入れる選択肢です。リスクが小さい場合や、対策コストが見合わない場合に選択しますが、経営層の承認が必要です。

継続的なモニタリング

第三者のリスク状況は時間とともに変化するため、継続的なモニタリングが重要です。

定期評価の実施
年次または四半期ごとに、質問票や監査による再評価を実施します。評価頻度は、第三者のリスクレベルに応じて調整します。高リスクの第三者は四半期ごと、低リスクの第三者は2〜3年ごとなど。
変更管理
取引内容の変更(アクセス権限の拡大、新規システム連携など)や、第三者側の変更(組織体制の変更、買収・合併など)があった場合、臨時の評価を実施します。
脅威情報の活用
第三者に関するセキュリティインシデント情報、脆弱性情報、業界の脅威動向などを収集し、リスク評価に反映します。セキュリティレーティングサービス(BitSight、SecurityScorecardなど)を活用すれば、外部からの継続的な評価が可能です。
インシデント発生時の対応
第三者でセキュリティインシデントが発生した場合、速やかに情報収集を行い、自社への影響を評価します。必要に応じて、取引の一時停止、追加対策の実施、監査の実施などを行います。

TPRMツール・サービスの活用

TPRM業務を効率化するためのツールやサービスを紹介します。

セキュリティレーティングサービス
BitSight、SecurityScorecard、RiskReconなどのサービスは、第三者のセキュリティ状況を外部から継続的に評価し、スコアとして可視化します。インターネットに露出した情報(オープンポート、脆弱性、マルウェア感染の兆候など)をもとに評価するため、質問票に頼らない客観的な評価が可能です。ただし、内部の対策状況は把握できないため、質問票との併用が推奨されます。
TPRM管理プラットフォーム
OneTrust、ServiceNow、Ariba(SAP)などのプラットフォームは、第三者の棚卸し、リスク評価、モニタリング、報告などを一元管理できます。ワークフローの自動化、ダッシュボードによる可視化、レポート作成機能などにより、TPRM業務を効率化できます。
質問票自動化ツール
質問票の送付、回収、集計を自動化するツールがあります。大量の第三者を管理する場合に有効です。一部のTPRMプラットフォームにはこの機能が含まれています。
リスク情報サービス
ダークウェブモニタリング、脅威インテリジェンスサービスなどを活用すれば、第三者に関する脅威情報(認証情報の漏洩、標的型攻撃の兆候など)を早期に把握できます。

ツール選定のポイント

選定基準 確認事項
対象規模 管理する第三者の数に対応できるか
機能の網羅性 評価、モニタリング、報告など必要な機能があるか
連携性 既存システム(調達システムなど)と連携できるか
コスト 導入・運用コストが予算内か
サポート 日本語対応、サポート体制は十分か

規制・コンプライアンス要件

TPRMに関連する規制・コンプライアンス要件について解説します。

金融業界(FISC安全対策基準、金融庁ガイドライン)
金融機関は、外部委託先の管理について厳格な要件が求められています。FISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準や、金融庁の監督指針では、委託先の選定基準、監査、モニタリングについて詳細な要件が定められています。
個人情報保護法の委託先管理
個人情報の取り扱いを委託する場合、委託先に対する必要かつ適切な監督を行う義務があります。委託先のセキュリティ対策状況の確認、契約による義務付け、定期的な監査などが求められます。
グローバル規制(GDPR、SOX法等)
欧州のGDPR(一般データ保護規則)では、データ処理者(委託先)の管理について厳格な要件があります。米国のSOX法(サーベンス・オクスリー法)では、財務報告に関連するIT統制について、委託先も含めた管理が求められます。
業界ガイドライン
自動車業界(自工会・部工会ガイドライン)、医療業界(厚労省ガイドライン)など、各業界でサプライチェーンセキュリティに関するガイドラインが策定されています。これらへの対応がTPRMの要件となる場合があります。

第三者リスク管理の基礎については第三者リスク管理もご覧ください。


関連する攻撃手法

TPRMで管理すべき攻撃手法について紹介します。

サプライチェーン攻撃
第三者を経由した攻撃全般。TPRMにより、リスクの高い第三者を特定し、優先的に対策することで、攻撃リスクを低減できます。
情報漏洩
第三者からの機密情報・個人情報の漏洩。継続的なモニタリングにより、第三者のセキュリティ状況の変化を把握し、早期に対応できます。
不正アクセス
第三者の認証情報を悪用した攻撃。第三者のアクセス管理状況を評価し、リスクを把握します。
ランサムウェア
第三者へのランサムウェア攻撃による供給停止。第三者のバックアップ体制、復旧計画を評価します。
フィッシング詐欺
第三者の従業員がフィッシングに騙されることによる認証情報漏洩。従業員教育の実施状況を評価します。
内部不正
第三者の従業員による内部不正。第三者の従業員管理、アクセス制御を評価します。
クラウド設定不備
第三者のクラウド環境の設定ミスによる情報漏洩。クラウドセキュリティ対策状況を評価します。

よくある質問

Q: TPRMは大企業だけのものですか?
A: TPRMの考え方は、規模に関わらずすべての企業に適用できます。ただし、大企業と同じレベルの体制を構築することは中小企業には難しい場合があります。中小企業では、まず重要な取引先を特定し、簡易な評価(質問票など)から始めることをお勧めします。Excelでの管理から始め、取引先数が増えたらツールの導入を検討するなど、段階的に成熟度を上げていく方法が現実的です。
Q: TPRM体制の構築にはどのくらいの期間がかかりますか?
A: 組織の規模や複雑さによりますが、基本的な体制を構築するのに6か月〜1年程度かかることが多いです。ポリシー策定、役割分担、評価プロセス設計などの基盤整備に3〜6か月、第三者の棚卸しと初回評価に3〜6か月程度を見込んでください。ただし、TPRMは継続的に成熟させていくものなので、完璧な体制ができてから始めるのではなく、できることから段階的に始めることが重要です。
Q: TPRMツールは必須ですか?
A: 管理する第三者の数が少なければ(50社程度まで)、Excelなどでの管理も可能です。ただし、第三者の数が多い場合や、効率的なモニタリングを行いたい場合は、ツールの導入が有効です。特に、セキュリティレーティングサービスは、継続的な外部評価を効率的に行えるため、導入のメリットが大きいです。ツール導入の前に、まず評価プロセスを整備し、手動での運用を経験してから、必要な機能を見極めてツールを選定することをお勧めします。
Q: 取引先の数が多すぎて管理しきれません。どうすればよいですか?
A: すべての取引先を同じレベルで管理する必要はありません。リスクベースのアプローチで優先順位をつけてください。(1)取引先を棚卸しし、リスクレベルで分類する、(2)高リスクの取引先(上位20%程度)に注力する、(3)低リスクの取引先には簡易な評価(自己申告など)を適用する、(4)第三者評価サービスを活用して効率化する、といった方法で対応できます。段階的に対象を広げていくことで、最終的にはすべての取引先をカバーできます。
Q: TPRMの成功をどう測定すればよいですか?
A: TPRMの有効性を測定するためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。例えば、(1)評価対象カバー率(評価済み第三者の割合)、(2)高リスク第三者の割合と推移、(3)是正完了率、(4)評価サイクルタイム、(5)第三者に起因するインシデント件数、などです。これらの指標を定期的にモニタリングし、経営層に報告することで、TPRMプログラムの価値を示せます。

まとめ

サプライチェーン攻撃対策としてのTPRM(第三者リスク管理) について、要点をまとめます。

  • TPRMの目的:第三者がもたらすリスクを組織的・継続的に管理する
  • 体制構築ステップ:ポリシー策定→役割明確化→棚卸し・分類→評価プロセス設計→モニタリング体制→改善サイクル
  • リスク評価:リスクの識別、影響度・発生可能性の評価、リスクマトリクスによる優先順位付け
  • 継続的モニタリング:定期評価、変更管理、脅威情報の活用で常に最新のリスク状況を把握
  • ツール活用:セキュリティレーティングサービス、TPRMプラットフォームで効率化
  • 規制対応:金融庁ガイドライン、個人情報保護法、GDPRなどの要件を満たす

取引先への教育・支援については、取引先と共同で防ぐサプライチェーン攻撃|教育・研修・支援を解説をご覧ください。

取引先管理カテゴリの全体像については、サプライチェーン攻撃の取引先管理|サプライヤー評価・契約・TPRMを解説をご覧ください。また、サプライチェーン攻撃の総合ガイドはサプライチェーン攻撃とは|仕組み・事例・対策を初心者にもわかりやすく解説【2025年版】をご覧ください。


重要なお知らせ

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言ではありません。
  • 実際にサイバー攻撃の被害に遭われた場合は、警察(#9110)やIPA(03-5978-7509)などの公的機関にご相談ください。
  • 法的な対応が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
  • 記載内容は作成時点の情報であり、攻撃手法は日々進化している可能性があります。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。