サプライチェーン攻撃と取引先管理|サプライヤー評価・ベンダー監査の進め方

サプライチェーン攻撃を防ぐには、取引先のセキュリティ状況を把握し、管理することが不可欠です。しかし、「取引先は何百社もある」「どこから手をつければよいか分からない」という声も多く聞きます。この記事では、サプライチェーン攻撃対策としての取引先管理を詳しく解説します。サプライヤー評価の方法、ベンダー監査の進め方、格付け制度の運用、重要サプライヤーの特定まで、取引先のセキュリティを確認・向上させる実践的な方法を紹介します。

なぜ取引先管理がサプライチェーン攻撃対策になるのか

サプライチェーン攻撃において、取引先は攻撃者にとって格好の侵入経路となります。攻撃者は、セキュリティが強固な大企業を直接攻撃するのではなく、防御が手薄な取引先を経由して最終標的に到達しようとします。

2022年のトヨタ自動車と小島プレス工業の事件では、Tier1サプライヤーがランサムウェア攻撃を受け、部品供給が停止したことでトヨタの国内全14工場が1日操業を停止しました。また、2021年には徳島県の町立半田病院がランサムウェアに感染し、電子カルテが使用不能となりました。この事件でも、VPN機器の脆弱性を突かれたことが侵入経路とされています。

取引先がリスクになる理由
取引先とはシステム連携やデータ共有を行うことが多く、その接続ポイントが攻撃の入口になります。また、取引先が保有する自社の機密情報が漏洩するリスクもあります。
取引先管理の効果
取引先のセキュリティ状況を把握し、リスクの高い取引先を特定することで、対策の優先順位を決め、効率的にリスクを低減できます。

自社のセキュリティをいくら強化しても、取引先を経由した攻撃には対応できません。サプライチェーン全体を守るという視点で、取引先のセキュリティ管理に取り組むことが重要です。詳しい事例についてはサプライチェーン攻撃の国内事例|トヨタ・病院・名古屋港を詳細解説をご覧ください。


サプライヤー評価の方法

取引先のセキュリティ状況を把握するためのサプライヤー評価について、具体的な方法を解説します。評価を標準化することで、多数の取引先を効率的に評価し、比較することが可能になります。

評価項目の設定

サプライヤー評価では、セキュリティに関する複数のカテゴリについて確認を行います。評価項目を事前に設定し、すべての取引先を同じ基準で評価することが重要です。

評価カテゴリ 評価項目 確認方法 重要度
組織体制 CISO・セキュリティ責任者の配置 質問票
組織体制 セキュリティ方針の策定・周知 質問票・文書確認
組織体制 従業員教育の実施状況 質問票
技術対策 ファイアウォール・UTMの導入 質問票・監査
技術対策 EDR・アンチウイルスの導入 質問票
技術対策 パッチ管理・脆弱性対応 質問票・監査
運用管理 アクセス制御・権限管理 質問票・監査
運用管理 ログ管理・監視体制 質問票
運用管理 バックアップ・復旧体制 質問票
認証・規格 ISMS(ISO 27001)認証取得 証明書確認
認証・規格 Pマーク取得 証明書確認
認証・規格 SOC2レポート取得 レポート確認
インシデント対応 対応体制・手順の整備 質問票・文書確認
インシデント対応 報告体制の整備 質問票

評価項目は、取引内容や業種に応じてカスタマイズします。特に機密情報へのアクセスがある取引先システム連携がある取引先については、より詳細な評価が必要です。

評価基準とスコアリング

評価結果を定量化するために、スコアリング方式を採用することが効果的です。各評価項目に対して点数を付け、合計点で取引先を評価します。

点数制の例
各項目を0〜3点で評価(0:未対策、1:部分的、2:概ね対策済み、3:十分な対策)。重要度の高い項目には重み付けを行い、合計点を算出します。
ランク制への変換
合計点をもとに、A〜Dのランクに分類します。Aランクは「セキュリティ優良」、Dランクは「取引見直し検討」などと定義します。
合格ライン・改善要求ライン
例えば、80点以上を合格、60〜79点を要改善、60点未満を取引見直しなど、基準を明確に設定します。

スコアリングにより、取引先間の比較が容易になり、対策の優先順位付けにも活用できます。

評価の実施タイミング

サプライヤー評価は、以下のタイミングで実施することが推奨されます。

新規取引開始時
取引開始前に評価を実施し、基準を満たさない場合は取引開始を保留または条件付きとします。
定期評価(年次)
既存の取引先に対して、年1回の定期評価を実施します。セキュリティ状況の変化を把握し、必要に応じて対策を要求します。
契約更新時・取引内容変更時
契約更新や取引内容の変更(アクセス権限の拡大など)のタイミングで再評価を実施します。
インシデント発生時
取引先でセキュリティインシデントが発生した場合、臨時の評価と対策確認を実施します。

評価頻度は、取引先の重要度やリスクレベルに応じて調整します。重要サプライヤーについては、より頻繁な評価を検討してください。詳しい質問票の作成方法についてはサプライチェーン攻撃対策の質問票|取引先評価テンプレと回答例をご覧ください。


ベンダー監査の進め方

質問票だけでは確認できない実態を把握するために、ベンダー監査を実施します。監査には、書面監査と実地監査があり、リスクベースのアプローチで対象を選定することが重要です。

監査計画の策定

監査を効果的に行うためには、事前の計画策定が重要です。

監査対象の選定(リスクベース)
すべての取引先を監査することは現実的ではありません。取引金額、機密情報へのアクセス有無、システム連携の有無、過去の評価結果などを考慮し、リスクの高い取引先を優先的に監査対象とします。
監査スケジュールの策定
年間の監査計画を策定し、監査対象、実施時期、担当者を明確にします。取引先への事前通知も計画に含めます。
監査チームの編成
情報セキュリティ、IT、調達・購買、必要に応じて法務など、複数の視点を持つチームを編成します。外部の専門家を活用することも有効です。

監査の実施方法

監査の方法には、書面監査実地監査があります。状況に応じて使い分けます。

監査方法 内容 メリット デメリット
書面監査 質問票回答、証拠書類の確認 効率的、多数の取引先に対応可能 実態との乖離を見抜きにくい
実地監査 現地訪問、インタビュー、現物確認 実態を直接確認できる 時間・コストがかかる
リモート監査 オンラインでのインタビュー、画面共有 移動コスト削減、柔軟な日程調整 現物確認に限界がある

実地監査では、以下のポイントを確認します。

  • 物理的セキュリティ:入退室管理、サーバールームの管理状況
  • 技術的対策の運用状況:実際の設定画面、ログの確認
  • 従業員の認識:セキュリティに関するインタビュー
  • 文書・記録の確認:セキュリティポリシー、手順書、インシデント記録

是正フォローアップ

監査で発見された問題点については、是正フォローアップを確実に行います。

監査結果の報告
監査結果を文書化し、取引先に報告します。問題点、リスク評価、是正要求事項を明確に記載します。
是正要求と期限設定
重大な問題点については、是正期限を設定して対応を要求します。期限は問題の深刻度に応じて設定します(例:重大な脆弱性は1週間以内、体制の整備は3か月以内など)。
改善状況のフォローアップ
是正期限後に改善状況を確認します。改善が不十分な場合は、追加の是正要求や取引条件の見直しを検討します。

サプライヤー格付け制度の運用

サプライヤー評価の結果を格付け(ランク) として可視化し、取引条件や管理レベルに反映させる制度を運用することで、取引先管理を効率化できます。

Aランク:セキュリティ優良
セキュリティ対策が十分に整備されている取引先。ISMS認証取得済み、評価スコア90点以上など。通常の取引継続。監査頻度は2〜3年に1回程度。
Bランク:基準クリア
基本的なセキュリティ対策が実施されている取引先。評価スコア70〜89点。通常の取引継続。年次評価を実施。
Cランク:要改善
セキュリティ対策に不足がある取引先。評価スコア50〜69点。改善計画の提出を要求し、期限を設けて改善を確認。新規案件の発注を控えることも検討。
Dランク:取引見直し
重大なセキュリティリスクがある取引先。評価スコア50点未満。取引継続の可否を検討。改善が見られない場合は取引停止も視野に入れる。

格付けは、定期的に更新することが重要です。年次評価の結果を反映し、改善した取引先はランクアップ、悪化した取引先はランクダウンさせます。

格付け結果は、調達・購買部門と共有し、新規発注の判断材料として活用します。また、格付け結果を取引先にフィードバックすることで、セキュリティ改善のインセンティブを与えることができます。


重要サプライヤーの特定

すべての取引先を同じレベルで管理することは現実的ではありません。重要サプライヤーを特定し、重点的に管理することで、効率的にリスクを低減できます。

重要度の判断基準

取引先の重要度は、以下の観点から判断します。

判断基準 内容 重要度への影響
取引金額 年間の取引金額 金額が大きいほど重要度が高い
代替可能性 代替サプライヤーの有無 代替が困難なほど重要度が高い
事業影響度 供給停止時の自社事業への影響 影響が大きいほど重要度が高い
機密情報アクセス 自社の機密情報へのアクセス有無 アクセスがある場合は重要度が高い
システム連携 自社システムとの接続・連携の有無 連携がある場合は重要度が高い

重点管理対象の選定

重要サプライヤーの選定には、パレートの法則(80:20の法則) を参考にするアプローチが有効です。

上位20%に注力
取引金額や重要度の上位20%の取引先が、リスクの80%を占めることが多いです。この上位20%を重要サプライヤーとして重点管理します。
重要サプライヤーリストの作成
重要サプライヤーをリスト化し、担当者、評価状況、契約状況などを一元管理します。
管理レベルの差別化
重要サプライヤーには、より詳細な評価、頻繁な監査、厳格な契約条項を適用します。一方、低リスクの取引先には、効率的な管理方法(質問票のみなど)を適用します。

大企業・中小企業それぞれの視点

取引先管理は、管理する側(大企業)管理される側(中小企業) の双方に関係します。それぞれの視点を理解することで、より効果的な取引先管理が可能になります。

大企業として取引先を管理する視点
取引先のセキュリティリスクを把握し、サプライチェーン全体を守る責任があります。一方的な要求だけでなく、取引先の支援(教育、ツール提供など)も検討すべきです。
中小企業として評価を受ける側の視点
大企業からのセキュリティ要件に対応する必要があります。限られたリソースの中で、優先順位をつけて対策を進めることが重要です。認証取得や体制整備には補助金や支援制度の活用も検討してください。
双方にとって有益な関係構築
取引先管理は、一方的な監視ではなく、サプライチェーン全体のセキュリティ向上を目指す協力関係として位置づけることが重要です。情報共有、共同訓練、技術支援などを通じて、双方にメリットのある関係を構築しましょう。

中小企業としての対応については、中小企業のサプライチェーン攻撃対策|最低限から始める防御をご覧ください。


関連する攻撃手法

取引先管理を適切に行うことで、以下のような攻撃手法への対策となります。各攻撃手法の詳細については、リンク先のページをご覧ください。

サプライチェーン攻撃
取引先を経由して標的企業に侵入する攻撃。取引先のセキュリティ評価と管理が直接的な対策となります。
不正アクセス
取引先の認証情報が漏洩し、それを利用して自社システムに不正アクセスされるリスクがあります。取引先のアクセス管理状況の確認が重要です。
マルウェア感染
取引先のシステムがマルウェアに感染し、連携するシステムを通じて自社に拡散するリスクがあります。
ランサムウェア
取引先がランサムウェアに感染すると、供給停止や情報漏洩につながります。取引先のバックアップ体制の確認が重要です。
情報漏洩
取引先が保有する自社の機密情報が漏洩するリスクがあります。取引先の情報管理体制の評価が必要です。
フィッシング詐欺
取引先の従業員がフィッシングに騙され、認証情報が漏洩するリスクがあります。取引先のセキュリティ教育状況の確認が重要です。
ビジネスメール詐欺(BEC)
取引先を装った詐欺メールにより、金銭的被害が発生するリスクがあります。取引先との連絡体制の確認が対策となります。

よくある質問

Q: すべての取引先を評価する必要がありますか?
A: すべての取引先を同じレベルで評価することは現実的ではありません。取引金額、機密情報へのアクセス、システム連携の有無などを考慮し、リスクベースのアプローチで優先順位をつけることが重要です。まずは重要サプライヤー(上位20%程度)に注力し、段階的に対象を広げていく方法が効率的です。低リスクの取引先には、簡易な質問票や自己申告での対応も検討してください。
Q: 取引先が評価に応じてくれない場合は?
A: まず、評価の目的(サプライチェーン全体のセキュリティ向上)を丁寧に説明し、協力を依頼してください。契約書にセキュリティ評価への協力義務を盛り込むことも有効です。それでも応じない場合は、取引条件の見直し(新規発注の抑制など)を検討するか、代替サプライヤーへの切り替えを検討する必要があるかもしれません。ただし、一方的な要求ではなく、支援の姿勢も示すことが重要です。
Q: セキュリティ認証を持っていれば評価は不要ですか?
A: ISMS(ISO 27001)やSOC2などの認証は、一定のセキュリティレベルを示す重要な指標ですが、認証があれば評価不要というわけではありません。認証の範囲(全社か一部か)、認証の更新状況、自社との取引内容に関連する対策の有無など、追加の確認が必要です。認証を持つ取引先は評価を簡略化できますが、完全に省略することはお勧めしません。
Q: 評価にかかる工数を削減する方法はありますか?
A: いくつかの方法で工数を削減できます。まず、質問票を標準化し、回答の自動集計・分析を行うツールを活用します。次に、業界標準の質問票(SIG、CAIQなど)を活用することで、取引先も回答を再利用しやすくなります。また、第三者評価サービス(BitSight、SecurityScorecardなど)を活用することで、外部からの継続的な評価が可能になります。さらに、評価対象を重要サプライヤーに絞り込むことで、効率的な管理が可能です。
Q: 評価結果はどのくらいの期間有効ですか?
A: 一般的に、評価結果は1年間有効とすることが多いです。ただし、取引先でセキュリティインシデントが発生した場合や、取引内容が大きく変更された場合は、臨時の再評価を実施すべきです。また、重要サプライヤーについては、評価の間隔を短くする(半年ごとなど)ことも検討してください。継続的なモニタリングを行うことで、評価の間隔を適切に判断できます。

まとめ

サプライチェーン攻撃対策としての取引先管理について、要点をまとめます。

  • 取引先はサプライチェーン攻撃の入口になる:自社のセキュリティだけでなく、取引先のセキュリティ状況を把握・管理することが重要
  • 評価項目の標準化:組織体制、技術対策、運用管理、認証取得、インシデント対応など、複数のカテゴリで評価
  • スコアリングと格付け:評価結果を定量化し、取引先をランク分けすることで管理を効率化
  • ベンダー監査の実施:質問票だけでなく、リスクの高い取引先には実地監査を実施
  • 重要サプライヤーへの注力:すべての取引先を同じレベルで管理するのではなく、リスクベースで優先順位をつける
  • 大企業・中小企業双方の視点:一方的な要求ではなく、協力関係として取引先管理を位置づける

取引先管理を契約でどのように担保するかについては、サプライチェーン攻撃対策の契約実務|セキュリティ条項・SLA・契約テンプレを解説をご覧ください。

取引先管理カテゴリの全体像については、サプライチェーン攻撃の取引先管理|サプライヤー評価・契約・TPRMを解説をご覧ください。また、サプライチェーン攻撃の総合的な解説はサプライチェーン攻撃とは|仕組み・事例・対策を初心者にもわかりやすく解説【2025年版】をご覧ください。


重要なお知らせ

  • 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言ではありません。
  • 実際にサイバー攻撃の被害に遭われた場合は、警察(#9110)やIPA(03-5978-7509)などの公的機関にご相談ください。
  • 法的な対応が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
  • 記載内容は作成時点の情報であり、攻撃手法は日々進化している可能性があります。

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京都開発研究所

システム開発/サーバ構築・保守/技術研究

CMSの独自開発および各業務管理システム開発を行っており、 10年以上にわたり自社開発CMSにて作成してきた70,000以上のサイトを 自社で管理するサーバに保守管理する。