サプライチェーン攻撃対策の全体像
サプライチェーン攻撃は、自社だけでなく取引先やソフトウェアの供給元を経由して侵入するため、従来の境界防御だけでは対応が困難です。効果的な対策を実施するためには、体系的なアプローチが欠かせません。
自社で実践すべきサプライチェーン攻撃対策は、大きく3つの柱に分類できます。
- 予防(Prevention)
- 攻撃を未然に防ぐための対策です。脆弱性管理による攻撃経路の遮断、ゼロトラストアーキテクチャによるアクセス制御、クラウド・SaaS環境の適切な設定管理などが含まれます。サプライチェーン攻撃の多くは、パッチ未適用の脆弱性や設定不備を突いて侵入するため、予防対策は最も重要な柱です。
- 検知(Detection)
- 攻撃の兆候をいち早く発見するための対策です。ログ監視、EDR(Endpoint Detection and Response)、SIEM(Security Information and Event Management)などの技術を活用し、不審な挙動を検知します。サプライチェーン攻撃は正規の経路を偽装するため、検知が難しい特徴がありますが、適切な監視体制を構築することで被害を最小限に抑えられます。
- 対応(Response)
- 攻撃を受けた際に迅速かつ適切に対処するための対策です。インシデント対応計画の策定、連絡網の整備、取引先との連携体制、演習の実施などが含まれます。サプライチェーン攻撃では、自社だけでなく取引先への影響も考慮した対応が必要です。
このカテゴリでは、これら3つの柱に基づいた具体的な対策を解説します。ガイドラインの活用から始まり、チェックリストによる現状把握、脆弱性管理、検知・監視、ゼロトラスト、クラウド対策、そしてインシデント対応まで、段階的に学べる構成になっています。
対策の優先順位は、企業の規模や業種、現状のセキュリティ成熟度によって異なります。まずは自社の現状を把握し、リスクの高い領域から優先的に取り組むことが重要です。
ガイドラインを活用した対策
サプライチェーン攻撃対策を効率的に進めるには、国や公的機関が公開しているガイドラインを活用することが有効です。ガイドラインを活用することで、何から始めればよいか分からないという状態を脱し、体系的かつ効率的に対策を進められます。
| ガイドライン名 | 発行元 | 特徴 |
|---|---|---|
| 情報セキュリティ10大脅威 | IPA | 毎年発表される脅威ランキング。サプライチェーン攻撃は3年連続2位 |
| サイバーセキュリティ経営ガイドライン | 経済産業省 | 経営者向けの指針。取引先管理の重要性を明記 |
| サイバーセキュリティ戦略 | NISC | 政府全体のセキュリティ方針。重要インフラ対策を含む |
IPAの「情報セキュリティ10大脅威」では、サプライチェーン攻撃が2023年から2025年まで3年連続で2位にランクインしています。この資料には対策のポイントも記載されており、社内研修の教材としても活用できます。
経産省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」では、指示8「ビジネスパートナーや委託先等を含めたサプライチェーン全体の対策」として、取引先管理の重要性が明記されています。経営層への説明材料としても有効です。
ガイドラインを活用するメリットは、監査やコンプライアンス対応にも役立つ点です。第三者からの評価を受ける際に、公的ガイドラインに準拠していることを示せれば、信頼性の向上につながります。
詳しくはサプライチェーン攻撃対策のガイドライン活用|IPA・経産省・NISC指針を解説をご覧ください。
チェックリストによる対策
サプライチェーン攻撃対策の第一歩は、現状の把握です。何ができていて、何ができていないのかを明確にするために、チェックリストを活用しましょう。
チェックリストは、確認する対象や目的によって使い分けることが重要です。
- 個人PC向けチェックリスト
- 一般社員が日常的に確認すべき項目をまとめたものです。OSやソフトウェアの更新状況、パスワードの強度、不審メールへの対応などが含まれます。従業員一人ひとりがセキュリティ意識を持つことで、フィッシング詐欺やマルウェア感染のリスクを軽減できます。
- 組織向けチェックリスト
- 情シス担当やセキュリティ担当が確認すべき項目をまとめたものです。セキュリティポリシーの策定状況、資産管理、脆弱性対応、ログ監視、バックアップなどが含まれます。定期的な点検により、組織全体のセキュリティレベルを維持・向上できます。
- テレワーク環境向けチェックリスト
- リモートワーク特有のリスクに対応するための項目をまとめたものです。VPN接続の利用、自宅ルーターのセキュリティ設定、公共Wi-Fi利用時の注意点などが含まれます。テレワーク環境は攻撃者にとって狙いやすい経路となるため、重点的な対策が必要です。
チェックリストは一度作成して終わりではありません。定期的な点検(月次、四半期、年次など)を実施し、結果を記録・分析することで、継続的な改善につなげることが重要です。
詳しくはサプライチェーン攻撃対策チェックリスト|個人PC・組織・テレワーク向けをご覧ください。
脆弱性・パッチ管理による対策
サプライチェーン攻撃の多くは、脆弱性を突いて侵入します。VPN機器の脆弱性、古いソフトウェア、パッチ未適用のシステム——これらが攻撃の入口になります。
実際に、国内で発生したサプライチェーン攻撃の多くで、VPN機器の脆弱性が悪用されています。2022年のトヨタ・小島プレス事件や、複数の病院で発生したランサムウェア被害でも、脆弱性が原因でした。
| 対策項目 | 内容 | 優先度 |
|---|---|---|
| パッチ管理 | OSやソフトウェアの更新を計画的に実施 | 必須 |
| 資産管理 | IT資産の棚卸しと可視化 | 必須 |
| 脆弱性情報収集 | JVN、CVE、ベンダー情報の定期確認 | 推奨 |
| 自動更新の活用 | クライアントPCなどでの自動更新設定 | 推奨 |
パッチ管理では、すべてのパッチを即座に適用するのではなく、優先順位を付けて対応することが重要です。CVSS(共通脆弱性評価システム)のスコアや、インターネットに面した機器かどうかなどを考慮して判断します。
資産管理も欠かせません。そもそも何を守るべきか把握していなければ、適切な対策は実施できません。IT資産の棚卸しを行い、管理外の「シャドーIT」を発見することも重要です。
詳しくはサプライチェーン攻撃を防ぐ脆弱性対策|パッチ管理・資産管理・自動化を解説をご覧ください。
検知・監視による対策
サプライチェーン攻撃は、正規の配布経路や信頼された取引先を経由するため、検知が非常に難しい攻撃です。SolarWinds事件では、攻撃の発覚まで約9ヶ月を要しました。
しかし、適切な監視体制を構築すれば、攻撃の兆候をいち早く発見し、被害を最小限に抑えることができます。
- ログ監視
- サーバー、ネットワーク機器、セキュリティ製品などのログを収集・分析します。正規ソフトウェアからの異常な通信や、通常と異なる時間帯のアクティビティなど、サプライチェーン攻撃特有の兆候を検知できます。
- EDR(Endpoint Detection and Response)
- エンドポイント(PC、サーバーなど)の挙動を監視し、不審な動作を検知します。従来のアンチウイルスでは検知できない高度な攻撃にも対応可能です。
- SIEM(Security Information and Event Management)
- 複数のソースからログを収集し、相関分析を行います。単体では見逃してしまう攻撃の兆候も、複数のログを組み合わせることで検知できる場合があります。
中小企業でも、クラウド型セキュリティサービスやマネージドセキュリティサービス(MSS)を活用することで、低コストで監視体制を構築できます。
詳しくはサプライチェーン攻撃の検知と監視|ログ・EDR・SIEM・脅威情報共有を解説をご覧ください。
ゼロトラストによる対策
サプライチェーン攻撃は、信頼された取引先やソフトウェアを経由して侵入するため、従来の「境界防御」では防ぎきれません。そこで注目されているのがゼロトラストという考え方です。
ゼロトラストとは、「信頼しない、常に検証する」という原則に基づくセキュリティモデルです。社内ネットワークであっても無条件に信頼せず、すべてのアクセスを検証します。
| 従来の境界防御 | ゼロトラスト |
|---|---|
| 社内は信頼、社外は不信 | すべてを検証 |
| 境界で防御 | リソースごとに制御 |
| 一度認証すればOK | 継続的に検証 |
サプライチェーン攻撃対策としてゼロトラストが有効な理由は、信頼された経路からの攻撃にも対応できる点にあります。取引先からのアクセスであっても、最小権限の原則に基づいて必要最低限のアクセスのみを許可することで、被害範囲を限定できます。
ゼロトラストの導入は一度にすべてを実施する必要はありません。IAM(ID管理)の強化やネットワーク分離から段階的に進めることで、中小企業でも取り組めます。
詳しくはサプライチェーン攻撃とゼロトラスト|ネットワーク分離・IAM・最小権限を解説をご覧ください。
クラウド・SaaS・MSPの対策
クラウドサービスの利用は、便利な反面、新たなサプライチェーンリスクをもたらします。2021年のKaseya事件では、MSP(マネージドサービスプロバイダー)のリモート管理ツールが悪用され、1,500社以上がランサムウェアに感染しました。
- MSP経由のリスク
- MSPはリモートから顧客のシステムにアクセスできるため、MSPが侵害されると顧客企業にも被害が及びます。MSP選定時のセキュリティ評価や、アクセス権限の最小化が重要です。
- SaaSの設定不備リスク
- SaaSの設定ミス(公開設定、権限設定など)により、情報漏洩や不正アクセスのリスクが生じます。定期的な設定レビューやSSPM(SaaS Security Posture Management)の活用が有効です。
- 共有責任モデルの理解
- クラウドサービスでは、プロバイダーと顧客で責任範囲が分かれています。自社の責任範囲を正しく理解し、適切な対策を実施することが重要です。
クラウド環境特有のリスクを理解し、適切な対策を講じることで、サプライチェーン攻撃のリスクを軽減できます。
詳しくはサプライチェーン攻撃とクラウド|MSP・SaaS・共有責任・設定管理を解説をご覧ください。
インシデント対応・初動対応
サプライチェーン攻撃に遭ってしまった場合、迅速かつ適切な対応が被害の拡大を防ぎます。攻撃の発見から初動対応、関係者への連絡、取引先との連携——これらを事前に計画しておくことが重要です。
| 対応フェーズ | 主な対応内容 |
|---|---|
| 発見・検知 | 異常の検知、状況把握 |
| 初期封じ込め | ネットワーク隔離、証拠保全 |
| エスカレーション | 経営層・関係部署への報告 |
| 調査・分析 | 被害範囲の特定、原因究明 |
| 復旧 | システム復旧、業務再開 |
| 事後対応 | 再発防止策、報告書作成 |
サプライチェーン攻撃では、自社だけでなく取引先との連携も重要です。攻撃元となった取引先との情報共有や、影響を受ける可能性のある取引先への通知など、通常のインシデント対応にはない対応が求められます。
また、平時からインシデント対応演習を実施し、計画の実効性を検証しておくことが重要です。机上演習(テーブルトップ演習)であれば、比較的低コストで実施できます。
詳しくはサプライチェーン攻撃の感染時対応|初動・連絡網・インシデント対応・演習を解説をご覧ください。
対策の優先順位と進め方
サプライチェーン攻撃対策は、すべてを一度に実施することは困難です。自社の状況に応じて優先順位を付けて進めることが重要です。
- まず取り組むべきこと
- 現状把握(チェックリストによる点検)、脆弱性管理(特にVPN機器など外部に面した機器)、基本的なセキュリティ対策(パスワード強化、MFA導入)から始めましょう。これらは比較的低コストで実施でき、効果も高い対策です。
- 次に取り組むべきこと
- 検知・監視体制の構築、従業員教育、インシデント対応計画の策定に取り組みましょう。攻撃を受けた際に迅速に対応できる体制を整えることで、被害を最小限に抑えられます。
- さらに強化するために
- ゼロトラストの段階的導入、取引先管理の強化、定期的な演習の実施に取り組みましょう。これらは長期的な視点で継続的に改善していくことが重要です。
目的や立場によって、次に読むべきページが異なります。
- 取引先管理を強化したい方:サプライチェーン攻撃対策の取引先管理|評価・契約・監査・TPRM
- 経営視点で理解したい方:サプライチェーン攻撃と経営|リスク・ガバナンス・投資判断を解説
- 中小企業として取り組みたい方:中小企業のサプライチェーン攻撃対策|最低限から始める防御
- 技術的な詳細を知りたい方:サプライチェーン攻撃の技術対策|SBOM・CI/CD・OSS・EDIを解説
まとめ
サプライチェーン攻撃から自社を守るための対策について解説しました。要点を整理します。
- サプライチェーン攻撃対策は「予防・検知・対応」の3つの柱で体系的に進める
- ガイドライン(IPA、経産省、NISCなど)を活用することで、効率的に対策を進められる
- チェックリストによる定期点検で、現状把握と継続的な改善を行う
- 脆弱性管理(特にVPN機器)は最優先で取り組むべき対策
- 検知・監視体制を構築し、攻撃の兆候を早期に発見する
- ゼロトラストの考え方を取り入れ、信頼された経路からの攻撃にも対応する
- インシデント対応計画を策定し、平時から演習を実施する
サプライチェーン攻撃は、手口が日々進化しており、一度対策を実施すれば終わりというものではありません。継続的な改善と、最新の脅威情報への対応が求められます。
サプライチェーン攻撃の全体像を理解したい方は、サプライチェーン攻撃とは|仕組み・事例・対策を初心者にもわかりやすく解説をご覧ください。
基礎知識から学びたい方は、サプライチェーン攻撃の基礎知識|定義・種類・仕組みを初心者向けに解説をご覧ください。
サプライチェーン攻撃 完全ガイド ナビゲーション
総合ガイド
目的別に探す
- 基礎知識を学ぶ
- 事例・動向を知る
- 自社の対策を始める(現在のカテゴリ)
- 取引先管理を強化する
役職・立場別に探す
業種別に探す
人気のページ
更新履歴
- 初稿公開